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第九章:英雄たち
第九十六話:過酷な環境から解放され過去を思い出す
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かまくらを作ってから数日、しばらくはその場で寒さに体を慣らすことにした。
暖かいかまくらの中でなら火や温度操作の魔法も容易。そこで、しばらくは外に出たり戻ったりしながら寒い所で温度調整する魔法のイメージを固めることにしたのだった。
そんなことをするくらいなら永久凍土はパスして他に向かえば良いと言う考えも浮かぶものの、二人共ドラゴンを倒しているのに環境に負けるのは嫌だと言う精神理論によって、このような作業をするに至る。更に言えば、永久凍土に暮らす僅かな生き物や魔物に負けるのは我慢ならない。
二人共、妙な方向に負けず嫌いだった。
「だいぶ慣れてきましたよレインさん。明日発ちましょう」
サニィのそんな意見に、レインは「ああ。今回の旅はお前に任せる」と返す。
レインはこの数日間サニィと同じように何度も外で修行を繰り返してみてみたものの、寒さに慣れることが出来なかった。
「ま、レインさんも弱点位はありますね。氷の魔法は効かない癖に永久凍土はダメって」
「……生死をかけた戦いと一方的に殺される環境は違うということかもしれない」
かまくらの中で寝袋に包まれながらブルブルと震えつつそんなことを言うレイン。
それを見て、サニィは何故だか嬉しくなる。
普通ならば心配するところなのかもしれない。しかし、目の前の青年が初めて、自分を頼ってくれている。
日に日に弱っていくレインを見て、サニィはむしろやる気に燃えていた。
「さて、取り敢えずそんな風に震えてるレインさんを温めてあげます。20℃くらい」
「あ、ああ、頼む」
ゆったりと気温の上がっていくかまくらの中で、レインの顔色も少しずつ良くなっていく。
レインが今まで育ってきた死の山は基本的には高温多湿が常だった。寒さとは無縁の、その特殊な環境で育ってきたレインはは常に寒いということに慣れていない。幼少の頃は親に連れられて様々な所を旅して来たものの、母親が死んでからはずっと死の山での生活だ。自分が生まれた時の環境も、暖かい場所だったと聞いている。
「ん?」
「どうしました? レインさん」
「俺ってなんで狛の力を持ってるんだ?」
「え? 狛の村で生まれたからじゃないんですか?」
「それがだな、よく考えれば俺が生まれたのは狛の村ではない。母が死んで、親父が必死に逃げ込んだのが死の山だ。そこで運良く村人に助けられたわけだが、親父もその時に村に入ったのが初めてだと言っていた」
「そういえばレインさんは気づいたら出来てた子なんでしたっけ……」
「ああ。フグ関連の話から、その間は聞いたことがないが、気づいたら俺が出来ていた。俺が生まれた所はジャングルに近い小さな村だったと言うことだ」
「それなら確かに不思議ですね」
狛の村ではその濃度の高い陰のマナに包まれた環境で受精し、それを体内に取り込みながら成長するために特殊な身体能力を有する。その際陽のマナを取り込んでしまったとしても相殺されてしまう為に、彼らは超常的な力は持たず特殊な身体的特徴を持つだけ。レインであれば空間把握能力と瞬発力。レインの母親なら毒耐性。
逆に、死の山以外では陽のマナを取り込み、魔法使いや勇者が生まれる。彼らは超常的な現象を引き起こす魔法を使ったり、超常的な能力を有する。レインであれば隙が見える。他にも心が読める、剣が必中する、2秒後が見える。絶対回避、様々あるが、身体的な特徴では説明つかない能力を得る。
そちらも、陰のマナを少量取り込んだとしても相殺してしまうために両方の特徴を持った者は生まれない。
「うーん、何かレインさんのお母さんにあった特徴とか、お父さんの特徴とか、そういうのって無いんですか?」
「俺の母親はそうだな、毒耐性に加え、狛の村では一番弱い。デーモンに勝てない。フグが好物で致死性の毒ですらピリピリと痺れる程度。毒へびだろうがサソリだろうが関係ないからか、どんなところでも寝られる体質だったらしい」
「なんか強さ以外はレインさんに似てますね」
「なんだそれは……」
「お父さんはどうなんですか?」
「親父は勇者。少し先が見える。とは言えグレーズ王とは違って、少し先の展開が何パターンか見えるって言う曖昧なものだが、2秒ではなく30分位先までは見えるらしい。初めて二人が会った時は、それで母が死ぬパターンが複数に、自分が殴られて気絶しているというパターンが1種類、要するに、驚いて母が捌いていたフグを捨てた結果、殴られて気絶したというところだな」
「……」
「親父もデーモンは倒せない。二人の力は同程度だった様だが、少し親父が強かったらしい」
「うーん、分かりません」
「俺の中には本当に両方が混在するのか?」
「はい。両方が同じ位。しかも、濃度も凄いです。陽のマナだけでオリヴィアと同じ位、ディエゴさんより大分上ですね。まあ、勇者が取り込むマナ量は生まれた場所や、運が関係してるみたいなので、それはレインさんの運が良かったのでしょうね」
「王妃は普通の人間なんだって言ってたよな」
「はい。それに王様もディエゴさんと同等以下と言ったところです」
二人は極寒の地でありながら程よい気温になったかまくらの中で、そんな会話をする。
久しぶりに思い出してみれば、エリーの内包するマナ量は確かにオリヴィアと同じ位。少しだけオリヴィアの方が上かもしれない。ジョン達ルーカス魔法学校の問題児4人組は、みんなマナタンク同じ位だったなぁ。そんな、今まで出会った人達のことを思い出しながら。
レインの謎はサニィにとって深まるばかりだったが、それは、村の歴史を見ても過去最弱であるレインの母親が関係していた。狛の村最弱の女性が最強の子を産む。彼女が旅に出た以上、それは必然のことだった。
いつか生まれるとされた狛の勇者は、最弱の彼女が生まれたことによって、産まれることが確定したのだった。
最後の魔王が滅んで100年以上、これも、世界の意思の一つの形だったのかもしれない。
暖かいかまくらの中でなら火や温度操作の魔法も容易。そこで、しばらくは外に出たり戻ったりしながら寒い所で温度調整する魔法のイメージを固めることにしたのだった。
そんなことをするくらいなら永久凍土はパスして他に向かえば良いと言う考えも浮かぶものの、二人共ドラゴンを倒しているのに環境に負けるのは嫌だと言う精神理論によって、このような作業をするに至る。更に言えば、永久凍土に暮らす僅かな生き物や魔物に負けるのは我慢ならない。
二人共、妙な方向に負けず嫌いだった。
「だいぶ慣れてきましたよレインさん。明日発ちましょう」
サニィのそんな意見に、レインは「ああ。今回の旅はお前に任せる」と返す。
レインはこの数日間サニィと同じように何度も外で修行を繰り返してみてみたものの、寒さに慣れることが出来なかった。
「ま、レインさんも弱点位はありますね。氷の魔法は効かない癖に永久凍土はダメって」
「……生死をかけた戦いと一方的に殺される環境は違うということかもしれない」
かまくらの中で寝袋に包まれながらブルブルと震えつつそんなことを言うレイン。
それを見て、サニィは何故だか嬉しくなる。
普通ならば心配するところなのかもしれない。しかし、目の前の青年が初めて、自分を頼ってくれている。
日に日に弱っていくレインを見て、サニィはむしろやる気に燃えていた。
「さて、取り敢えずそんな風に震えてるレインさんを温めてあげます。20℃くらい」
「あ、ああ、頼む」
ゆったりと気温の上がっていくかまくらの中で、レインの顔色も少しずつ良くなっていく。
レインが今まで育ってきた死の山は基本的には高温多湿が常だった。寒さとは無縁の、その特殊な環境で育ってきたレインはは常に寒いということに慣れていない。幼少の頃は親に連れられて様々な所を旅して来たものの、母親が死んでからはずっと死の山での生活だ。自分が生まれた時の環境も、暖かい場所だったと聞いている。
「ん?」
「どうしました? レインさん」
「俺ってなんで狛の力を持ってるんだ?」
「え? 狛の村で生まれたからじゃないんですか?」
「それがだな、よく考えれば俺が生まれたのは狛の村ではない。母が死んで、親父が必死に逃げ込んだのが死の山だ。そこで運良く村人に助けられたわけだが、親父もその時に村に入ったのが初めてだと言っていた」
「そういえばレインさんは気づいたら出来てた子なんでしたっけ……」
「ああ。フグ関連の話から、その間は聞いたことがないが、気づいたら俺が出来ていた。俺が生まれた所はジャングルに近い小さな村だったと言うことだ」
「それなら確かに不思議ですね」
狛の村ではその濃度の高い陰のマナに包まれた環境で受精し、それを体内に取り込みながら成長するために特殊な身体能力を有する。その際陽のマナを取り込んでしまったとしても相殺されてしまう為に、彼らは超常的な力は持たず特殊な身体的特徴を持つだけ。レインであれば空間把握能力と瞬発力。レインの母親なら毒耐性。
逆に、死の山以外では陽のマナを取り込み、魔法使いや勇者が生まれる。彼らは超常的な現象を引き起こす魔法を使ったり、超常的な能力を有する。レインであれば隙が見える。他にも心が読める、剣が必中する、2秒後が見える。絶対回避、様々あるが、身体的な特徴では説明つかない能力を得る。
そちらも、陰のマナを少量取り込んだとしても相殺してしまうために両方の特徴を持った者は生まれない。
「うーん、何かレインさんのお母さんにあった特徴とか、お父さんの特徴とか、そういうのって無いんですか?」
「俺の母親はそうだな、毒耐性に加え、狛の村では一番弱い。デーモンに勝てない。フグが好物で致死性の毒ですらピリピリと痺れる程度。毒へびだろうがサソリだろうが関係ないからか、どんなところでも寝られる体質だったらしい」
「なんか強さ以外はレインさんに似てますね」
「なんだそれは……」
「お父さんはどうなんですか?」
「親父は勇者。少し先が見える。とは言えグレーズ王とは違って、少し先の展開が何パターンか見えるって言う曖昧なものだが、2秒ではなく30分位先までは見えるらしい。初めて二人が会った時は、それで母が死ぬパターンが複数に、自分が殴られて気絶しているというパターンが1種類、要するに、驚いて母が捌いていたフグを捨てた結果、殴られて気絶したというところだな」
「……」
「親父もデーモンは倒せない。二人の力は同程度だった様だが、少し親父が強かったらしい」
「うーん、分かりません」
「俺の中には本当に両方が混在するのか?」
「はい。両方が同じ位。しかも、濃度も凄いです。陽のマナだけでオリヴィアと同じ位、ディエゴさんより大分上ですね。まあ、勇者が取り込むマナ量は生まれた場所や、運が関係してるみたいなので、それはレインさんの運が良かったのでしょうね」
「王妃は普通の人間なんだって言ってたよな」
「はい。それに王様もディエゴさんと同等以下と言ったところです」
二人は極寒の地でありながら程よい気温になったかまくらの中で、そんな会話をする。
久しぶりに思い出してみれば、エリーの内包するマナ量は確かにオリヴィアと同じ位。少しだけオリヴィアの方が上かもしれない。ジョン達ルーカス魔法学校の問題児4人組は、みんなマナタンク同じ位だったなぁ。そんな、今まで出会った人達のことを思い出しながら。
レインの謎はサニィにとって深まるばかりだったが、それは、村の歴史を見ても過去最弱であるレインの母親が関係していた。狛の村最弱の女性が最強の子を産む。彼女が旅に出た以上、それは必然のことだった。
いつか生まれるとされた狛の勇者は、最弱の彼女が生まれたことによって、産まれることが確定したのだった。
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