雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
77 / 592
第八章:新たな国の霊峰へ

第七十七話:武器を名付ける習慣はこの日始まる

しおりを挟む
「次に向かう場所なんですけど、霊峰はどうですか? オリヴィアに聞いたんですけど」
「ほう、それはどんなところだ?」

 二人は襲いかかってくるグリフォンをなんなく倒しながら次の目的地について話し合っていた。
 隣の国とは言え、今までの人生、基本的には引きこもり気味だったレインとサニィは隣の国については永久凍土が有名だと言う事しか知らなかった。
 どんな人物が住んでいるのかも殆ど知らない。
 冒険者だったレインの親は自分で見てみろと言って教えてくれなかったし、それ以上は聞くつもりもなかった。
 そしてサニィは箱入り娘だ。別の国に興味を持たれたら可愛いサニィに家を出られてしまうかもしれない。親バカの父親の、そんな思いからそれは阻止されていた。

「何やら、こちらの国の方が魔法に関して発展しているようなんです。とは言え魔法に関する知識や技術ではなくて、マナタンクの絶対量。それが優秀な者が多いと言うんです」
「なるほど、その理由が霊峰と言うわけか」
「はい。恐らく死の山とは逆に、陽のマナが濃い場所ではないのかと」
「それだけ聞くとそこでは優秀な勇者も生まれそうだが」
「気になりません?」

 そんな単純な理由で、次の目的地が決定した。
 北のヴェラトゥーラ共和国。そこの南西にある霊峰。どんなところなのかは分からないが、この国で生まれた魔法使いの殆どはここで修行をする。そうすると、飛躍的にマナタンクの絶対量が伸びると言うことだった。しかし、ここには勇者は入らないらしい。
 その理由は実際にサニィが入ってみなければ分からないが、今のところは死の山の逆なのではと予想される。
 死の山で子どもを作れば無条件に高い身体能力を持った子どもが生まれる。ただし、そこで産むのは難しい。では霊峰で産めば無条件に勇者や魔法使いが生まれるのでは、そんなことを思うが、勇者の質は現状グレーズ王国とは誤差程度らしい。

「それにしても、オリヴィアは『心太』も良い名前だって言ってましたよー。ネーミングセンスが悪いのは実はレインさんなんじゃないんですか?」
「まだ言うか……。じゃあ次は俺が名付けようじゃないか」
「ぬふふ、レインさんのことだから赤い剣には『火竜の口づけ』とかつけるんでしょ? どーせ、ぶふっ」
「…………。あ、そうだ。よし、それじゃあエリーの武器の名前を二人で考えて手紙で送る。次にエリーに会った時にどちらを採用するかで勝敗を決める」

  エリーの為に造らせた武器は短剣、片手剣、盾、両手剣、大剣、槍、弓、メイスの8種類。これらの全てに名前を付けて、それをエリーに手紙で送る。エリーがどの武器を使うかを分からないが、ともかくどちらが付けた名前を採用しているかで決着とする。もしもエリーがどちらも選ばなかった場合、二人共が同レベルと言うわけだ。

「ちょうど武器のデザイン画も狛の村で貰ってきましたしね。あ、決まりました。短剣は『刺さる君』」
「……」
「片手剣は2尺だから、えーと『ふらんすぱん』」
「…………」

 この世界にフランスがないことはさておき、その後もサニィは奇怪な名前を出し続け。

「盾は『だいふく丸』、両手剣は『つよい剣』、大剣は『うちわちゃん』、槍は『ほそくてながくてつくぼ――」
「ええいうるせえ!!!! 妙な呪文を唱えるんじゃない! 黙って考えろ!! なんだ最後のは! 欲求不満なのかお前は!」
「ひいいいい!!」

 遂にレインが切れた。
 その余りの迫力に周囲を飛んでいたグリフォンがぼとぼとと落ちていく。
 レインがここまで声を上げて怒ることはまずない。いや、怒ったと言うよりキレたと言った感じだろうか。別にサニィが傷ついたわけでもないので本当はそこまで怒ってはいない。
 単純に本気で名前を考えていた所に入ってきた奇怪な呪文がレインの脳を侵蝕し、短剣の名前を『つんつんさん』にしようかと思ってしまっただけだ。

「あああああ!!! 課題だ! 夜に考えろ! とにかく今考えるな!!」
「ど、どうしたんですか、レインさん?」
「お前が魔法のイメージを言葉に出すのは全く問題ない。しかしそれは名付ける時にだけは禁止だ!」
「え? え?」
「お前の壊滅的ネーミングセンスは俺にとって有害極まりない! 無理やり口を塞がれたくなければ考えるのは夜にしろ!!」
「え、あの、無理やりってどうするんですか……?」
「お前の想像通りだ。分かったらさっさと進むぞ」
「は、はぃぃ……」

 一体何を想像したのだろうか。サニィは顔を真っ赤にして黙ってしまう。
 サニィはそういった男女の知識に乏しい。しかし興味がないわけではない。
 オリヴィアとの接触によって、彼女は知識を増やしていた。
 言わば現在、彼女はむっつりサニィだ。

「よし、俺はエリー8つの武器の名前を決めた」
「ほう、どれが『天使の口づけ』ですか?」
「……お前口づけ好きだな」
「え? な、何言ってるんですか? レインさんは変態ですか?」

 こんな様子である。とは言えレインも奥手だ。
 そこで一発やってしまえば良いのに。オリヴィア達が居たならばそんなことを言っていただろう。
 しかし、二人になったからこそのサニィのこの状態、二人の関係はもうしばらく停滞することだろう。

 残り【1583日→1569日】 次の魔王出現まで【340日】
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

竜人の溺愛

クロウ
ファンタジー
フロムナード王国の第2王子であるイディオスが 番を見つけ、溺愛する話。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...