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第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第六十三話:魔法使いではない女
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サニィは世界を満たすマナを直接感じ取っている。
それは魔法の使い方でも同じだった。
サニィは死の山でこう言った。
「普段私たちが使っているマナが正のマナと言うのなら、この山には負のマナが充満してる感じがします。ここにも少ないですが正のマナはあるので魔法は使えますけど」
これは言い換えればマナタンクからマナを消費していないと言うこと。
サニィ本人は一切意識をしていなかったが、一切意識をしていなかったが故に出てしまった言葉だ。
レインがそこをつついて、自分の体内を探ってみると、やはりマナタンクそのものが存在していないのかもしれないと言うことが分かった。
「そんなことないですよー」などと言いながらみるみる青く変化していく顔色は面白かったが、やはり彼女は少しばかりのショックを受けている様だった。
自分の体内のマナタンクからマナを絞り出して魔法を使うのが魔法使いだ。
それはそもそも、それまでの魔法の概念を根底から覆す存在。
言い換えれば、サニィは魔法使いではない。
「でも、大丈夫です。これって考え方によっては、私次第で――」
「ああ、お前の使う魔法の規模に上限は無いのかもしれない」
「そういうことなら、傷つく必要は、ないですもんね」
サニィは魔法使いである両親に憧れていた。
自分自身も魔法使いであると言うことに誇りを持っていた。
突然それよりも上位の存在ではないかと言われて、それは良かったと納得できるものではない。
いくらレインが人外の人外で、それを目指して訓練をしていたとしても、サニィの心の本質は魔法使いだ。
死の山でマナのもう一つの顔を感じることで普段感じていたマナまでをも意識できるようになったと言うことは、今までのサニィの中の常識を覆す結果へとつながった。
結果的に、自分の可能性が広がったことに対する喜びと自分が魔法使いではないという悲しみが彼女を混乱させた。
それを見たレインは久しぶりの邪悪な微笑みを浮かべると、こう言った。
「良し、お前の魔法はこれより魔法ではない。お前のそれは奇跡と呼ぶ。そしてお前は魔法使いではなく聖女だ」
少しは落ち込んでいるサニィに何を言うかと思えばこれだ。
「ええええ!? 全然良しじゃないですよ!!?」
一体何が良しなのだろう。
というより、何を言っているのだろう。
「良いだろう。魔王殺しの勇者と並ぶならただの魔法使いでは物足りないと思わないか?」
「えー……。砂漠からの発想ですか? 自分でそう名乗るとか有り得ないんですけど」
「どうせ都に帰る頃には噂は広がってるさ」
「…………え?」
「奇跡を起こす美少女が居るってな」
「……」
――。
グレーズ王国の首都、王都マダーグレーズはある話題で賑わっていた。
2ヶ月ほど前、砂漠でオークの群れをたった一撃で葬った有り得ない魔法を使う聖女様が現れたらしい。
その美少女は即座に姿を消しており、同伴していた青年も悪魔の如き迫力を持っていたと言う。
その二人は恐らく人間ではない。勇者や魔法使いの守備隊や冒険者達が、その魔法も、兵を下がらせた拳の一撃も人間には不可能な威力だと証言したらしい。
彼女達は突然現れ、強敵である魔物を倒してオアシスを守ると消え去った。
よってその二人は聖人、または神の使いである天使か何かだろう。
そうでないならあの青年を見る限り、悪魔のいたずらかもしれない。
ともかく金髪碧眼の超絶美少女は聖女か天使と呼びたい。いっそ女神でも良い。
と言うよりその蔦に縛られたい。
そんな噂だった。
「……」
サニィはその思わぬ噂の広がり方に思わず赤面してしまう。レインは呆れ顔だ。
噂は噂を呼ぶ。伝言ゲームはなかなか正確には伝わらない。都市を超えれば尚更だ。
ディエゴはそれを聞くと、レインとサニィを見てにやりとするとぽんっと肩を叩く。
「二人共、その、……あの力なら仕方ない」
「おいマイケル、何も思いついていないなら何も言うな」
「あの、…………呼びたいとかってなんですかね……と言うか、っ!?」
サニィが反応した周囲を見ると、露店には銅板に描かれたイコンが売っていた。神を表す偶像化された絵画。
この国には神を敬う概念はあるものの、そこまで宗教に厳しいという事はない。魔王を倒すのはいつでも勇者だからだ。
その為神の像はそれぞれ思い思いに描かれ、男女すらも曖昧。神に共通する点としては後ろに光輪が描かれていることのみ。
そのイコンに描かれた神は女神。金髪碧眼で白樺にルビーの杖を持っていた。そして値札には『砂漠に現れた女神像』と書いてある。それが、何枚も。
レイン達が火山地帯を含む遠征に出ていた期間は2ヶ月強。
最初に王都にたどり着くまでに3週間程かかったとは言え、その噂の広がり方は異常だった。
「しかし確かに、歴史に名を残すのはレインよりもサニィ君の方が上になりそうだ。ハッハッハ」
そう笑うディエゴに真っ赤なサニィは恨みがましい目を向けるものの、「聖女様にそっくり!」と駆け寄ってきた民衆に囲まれ再び動けなくなるのだった。
それは魔法の使い方でも同じだった。
サニィは死の山でこう言った。
「普段私たちが使っているマナが正のマナと言うのなら、この山には負のマナが充満してる感じがします。ここにも少ないですが正のマナはあるので魔法は使えますけど」
これは言い換えればマナタンクからマナを消費していないと言うこと。
サニィ本人は一切意識をしていなかったが、一切意識をしていなかったが故に出てしまった言葉だ。
レインがそこをつついて、自分の体内を探ってみると、やはりマナタンクそのものが存在していないのかもしれないと言うことが分かった。
「そんなことないですよー」などと言いながらみるみる青く変化していく顔色は面白かったが、やはり彼女は少しばかりのショックを受けている様だった。
自分の体内のマナタンクからマナを絞り出して魔法を使うのが魔法使いだ。
それはそもそも、それまでの魔法の概念を根底から覆す存在。
言い換えれば、サニィは魔法使いではない。
「でも、大丈夫です。これって考え方によっては、私次第で――」
「ああ、お前の使う魔法の規模に上限は無いのかもしれない」
「そういうことなら、傷つく必要は、ないですもんね」
サニィは魔法使いである両親に憧れていた。
自分自身も魔法使いであると言うことに誇りを持っていた。
突然それよりも上位の存在ではないかと言われて、それは良かったと納得できるものではない。
いくらレインが人外の人外で、それを目指して訓練をしていたとしても、サニィの心の本質は魔法使いだ。
死の山でマナのもう一つの顔を感じることで普段感じていたマナまでをも意識できるようになったと言うことは、今までのサニィの中の常識を覆す結果へとつながった。
結果的に、自分の可能性が広がったことに対する喜びと自分が魔法使いではないという悲しみが彼女を混乱させた。
それを見たレインは久しぶりの邪悪な微笑みを浮かべると、こう言った。
「良し、お前の魔法はこれより魔法ではない。お前のそれは奇跡と呼ぶ。そしてお前は魔法使いではなく聖女だ」
少しは落ち込んでいるサニィに何を言うかと思えばこれだ。
「ええええ!? 全然良しじゃないですよ!!?」
一体何が良しなのだろう。
というより、何を言っているのだろう。
「良いだろう。魔王殺しの勇者と並ぶならただの魔法使いでは物足りないと思わないか?」
「えー……。砂漠からの発想ですか? 自分でそう名乗るとか有り得ないんですけど」
「どうせ都に帰る頃には噂は広がってるさ」
「…………え?」
「奇跡を起こす美少女が居るってな」
「……」
――。
グレーズ王国の首都、王都マダーグレーズはある話題で賑わっていた。
2ヶ月ほど前、砂漠でオークの群れをたった一撃で葬った有り得ない魔法を使う聖女様が現れたらしい。
その美少女は即座に姿を消しており、同伴していた青年も悪魔の如き迫力を持っていたと言う。
その二人は恐らく人間ではない。勇者や魔法使いの守備隊や冒険者達が、その魔法も、兵を下がらせた拳の一撃も人間には不可能な威力だと証言したらしい。
彼女達は突然現れ、強敵である魔物を倒してオアシスを守ると消え去った。
よってその二人は聖人、または神の使いである天使か何かだろう。
そうでないならあの青年を見る限り、悪魔のいたずらかもしれない。
ともかく金髪碧眼の超絶美少女は聖女か天使と呼びたい。いっそ女神でも良い。
と言うよりその蔦に縛られたい。
そんな噂だった。
「……」
サニィはその思わぬ噂の広がり方に思わず赤面してしまう。レインは呆れ顔だ。
噂は噂を呼ぶ。伝言ゲームはなかなか正確には伝わらない。都市を超えれば尚更だ。
ディエゴはそれを聞くと、レインとサニィを見てにやりとするとぽんっと肩を叩く。
「二人共、その、……あの力なら仕方ない」
「おいマイケル、何も思いついていないなら何も言うな」
「あの、…………呼びたいとかってなんですかね……と言うか、っ!?」
サニィが反応した周囲を見ると、露店には銅板に描かれたイコンが売っていた。神を表す偶像化された絵画。
この国には神を敬う概念はあるものの、そこまで宗教に厳しいという事はない。魔王を倒すのはいつでも勇者だからだ。
その為神の像はそれぞれ思い思いに描かれ、男女すらも曖昧。神に共通する点としては後ろに光輪が描かれていることのみ。
そのイコンに描かれた神は女神。金髪碧眼で白樺にルビーの杖を持っていた。そして値札には『砂漠に現れた女神像』と書いてある。それが、何枚も。
レイン達が火山地帯を含む遠征に出ていた期間は2ヶ月強。
最初に王都にたどり着くまでに3週間程かかったとは言え、その噂の広がり方は異常だった。
「しかし確かに、歴史に名を残すのはレインよりもサニィ君の方が上になりそうだ。ハッハッハ」
そう笑うディエゴに真っ赤なサニィは恨みがましい目を向けるものの、「聖女様にそっくり!」と駆け寄ってきた民衆に囲まれ再び動けなくなるのだった。
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