雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第六章:青と橙の砂漠を旅する

第五十二話:誰しも出来るが意識するのは難しい

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 「うーん。意識してみると、やっぱり自分の体内のマナが減る感覚も、流れ込んでくる感覚も無いですね」

 砂漠を抜け、次は氷雪地帯へと向かう二人。
 砂漠は10日程度で抜けたが、その道中デザートオークの集落を3つ程壊滅させた。
 彼らは壊滅させても増える為、しないよりはマシと言った程度だが、出来るなら壊滅させた方が良い。
 その道中も常にマナの流れは意識し続けていたが、暑さもありなかなかそれをしっかりと認識するのは難しいものだった。
 ましてや彼女はいままでマナが減る感覚すら覚えたことがない人生を送ってきていた。
 とは言えマナタンクを介さずに魔法を使っている。その事実を受け入れる為には今までの彼女の価値観の一部を否定しなければならない。
 それがなかなかに難しいこと。

 「そうだな。俺が思うに、お前の身体強化の魔法が一番外のマナを使っているのではないかと思うんだが、どうだ?」
 「うーん……、うーん」

 分からない。
 思えば今まで身体強化の魔法を使った覚えはあまりなかった。
 確かに丸一日動いていても全然疲れないし、移動速度も尋常の域にないことは分かってはいる。分かってはいるものの、レインの隣にいれば何が普通なのかが分からなくなる。
 砂漠でのお祭り騒ぎも、レインと共に過ごしてきた日々を思い返せば、特段変わったことをしたわけではない。そんな風に思っていた。
 もちろん今までで一番の出力を発揮できたことは嬉しかったし、無傷でオアシスを守れたことも過去をやり直せた感覚もあって、嬉しかった。過去をやり直せないことは分かってはいるのものの、そんな感覚だった。

 「やっぱりレインさんのせいで普通が分からなくなります」
 「よし、ならばお前は特別だ。世界で唯一の聖女であり世界を魔法で変える。お前は俺をも超える可能性を持つ逸材であって、とても美しい。まさに魔王を倒す勇者である俺のパートナーに相応しい唯一無二の存在だ」
 「う、うそくさっ……」
 「まあ、事実はこのくらいにして……」

 冗談じゃないのかよっ。心の中でそうツッコミを入れるものの、つっこんだら負けだ。そう考えたサニィはレインの言葉の続きを待つ。
 そのまま何もない時間に耐えられず、レインほ口を開いてしまう。
 今回ばかりはレインの負けだ。
 何が勝ちなのかは全く分からないが。

 「杖を一旦俺が預かるってのはどうだ?」
 「杖なしで魔法が使えるかどうか、ってことですか」
 「そういうことだ。杖なしで魔法が使えるってのはあり得ないんだろう?」

 今まで杖なしで魔法を使うことなど試したことすらなかった。想いのこもった道具を介さなければ魔法は使えない。それが常識だったからだ。
 常識を破れば魔法は使えなくなる。そんな深層意識は魔法のイメージを阻害するのに十分な物ともなる為、試す必要すらない。今までではそう思っていた。

 「分かりました。やってみますね」

 サニィはフラワー2号をレインに渡すと、最早ほぼ意識しなくとも使える開花を使ってみる。
すると、ぽんっと花が咲く。
 足元に一本だけ。

 「ん? 全力か?」
 「え、はい。いつもと同じです。もう一回」

 ぽんっ。やはり一本だけ。
 次は先ほどよりも力強くイメージしてみたものの、それは変わらなかった。

 「ん? どういうことだ?」
 「あれ、分からないんですか?」
 「俺には全く分からん。お前から感じるのは杖を持った時と何も変わらん」
 「でも、魔法使えてますよ! ほら!」

 ぽんっ。
 三度一輪だけの花を咲かせるサニィ。
 それは間違いなく杖を介してはいない。
 しかし、出力が弱すぎる。
 その理由が分からない。

 「ちょっと杖を持て」
 「はい。行きますね」

 ぶわあっ。

 「……」
 「どう言うことか分かりました?」
 「すまない、全く分からない」

 予想では、杖を持たない場合は持った場合よりも少し弱い程度の出力に抑えられるのだと考えていた。しかし、出力が抑えられると言うレベルではない。
 それは手品と変わらないレベルだ。
 超常の力と言うには余りに非力。

 ぶわあっ。
 考えているレインをよそに、サニィは再び開花していた。そして、また杖を預けてくる。
 ぽんっ。
 変わらない。しかし、それで何が原因なのか検討もつかないレインに対して、サニィは少し思いあたることがあったようだった。

 「これ、マナを感じられないレインさんには分からないですね」
 「どう言うことだ?」
 「多分、誰でも道具を使わずに魔法が使えます。でも、みんな出力が弱過ぎて気付かないだけ」
 「ほう?」
 「道具を蛇口のハンドルだと見立てるって以前言いましたけど、それがそもそも間違っているのかもしれません」

 曰く、道具はハンドルでは無く増幅器である。
 殆どの人は魔法の出力を、その間違った意識に気を取られて使い切れていないだけ。恐らくレインが見たドラゴンすらも。
 ほんの微かな魔法を蛇口のハンドルを捻る様に道具を介してイメージすれば、大量のマナを犠牲に魔法が使える。簡単に。
 しかし、道具を増幅器だと見立てて、出ているかも分からない魔法を増やそうとするのは難しい。しかし、それが上手く出来ればマナの使用量は極少なく強大な魔法を行使出来る。
 サニィが言いたいことはそんなことだった。

 「と言うことは、お前は普段から道具をハンドルだと意識していなかったということか?」
 「だと思います」

 そう言うと、サニィは再び開花の魔法を使った。
 すると、それまでよりも更に多くの花が咲く。

 「ほら。増えました」
 「なるほど、しかし、俺の感じていた違和感とはまた少し違うな」
 「うーん。それは分かりませんね」
 「ただ、今言ったことは書いておけよ。次に何かあった時に試してみよう」
 「そうですね」

 更に出力を増したサニィの魔法と、更に重なるもう一つの違和感。
 サニィの魔法の謎はまだ解けないままに物語は進む。

 次に二人が目指す土地は極寒の大地。
 その地に生きる者はみな巨大だ。
 砂漠と同等に、場合によっては砂漠以上に険しい大地に向かって二人は更に歩みを進める。

 この大陸は南北に長い。
 それを二つの大国と十六の小国が治めている。
 サニィが最初にジャングルを指名した理由の一つにそれがあった。いきなり北に行くと言うのは、いきなり未知の国に足を踏み入れると言うことだ。
 もちろん戦争のないこの世界では隣の国に入ったから危険という事はなく、むしろ観光や冒険は推奨されていた。
 しかし、まずはよく知る自分の国の、知らないところを知っておきたい。そう思ってのことでもあった。
 とは言え、ここからいくつかの町を越えれば北の国だ。最後に国境沿い西側にある首都に寄ってから北に入ろう。
 二人は国境沿いをのんびりと歩いて首都へと向かった。

 もちろん、彼らの進む先にトラブルは付きまとう。結局首都を出られたのは入ってから5ヶ月も後だった。

 残り【1758→1583日】
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