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第四章:生の楽園を突き進む
第二十八話:衝撃で芽生え始める
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ジャングルに入って二日目。二人は順調に旅をしていた。
出てくる魔物はサニィ一人でも何の問題もなく対処できるし、レインがいる限り迷うこともない。
相変わらず修行も順調に進んでいるし、蛇口も徐々に広くなっている。
未だマナタンクの底は見えないものの、魔法を使い続けられることにデメリットなどあるわけがない。
ただ一点を除いて、まったくもって順調な旅だった。
「ねえレインさん、ドラゴンは、ドラゴン来てませんか?」
「安心しろ。飛ぶのがギリギリ程度の傷を追わせてある。流石にすぐには来ないだろう」
「でも、ドラゴン魔法使えますよ? 治癒の魔法とか出来るはずですよ?」
「魔法がまともに使えなくなるまで引かなかったからな。そんなすぐには来ないだろう」
「でも、ドラゴンですよ? 人知の外ですよ?」
サニィがとにかくドラゴンを怖がっていると言う一点を除いて、だ。
ドラゴンはレインがかすり傷で倒せる相手だと、何度言っても怖がり続けている。
確かにドラゴンは強い。ただ、隣にいる青年はもっと強い。
それにも関わらず、だ。
「なんでお前はそんなにドラゴンを怖がるんだ?」
「だって、マ、お母さんが早く寝ないとドラゴンが攻めてくるぞって……。悪いことしたらドラゴンに食べられちゃうぞって、ドラゴンのママが、ド、ドラゴンが、ママが」
「お前の母親はドラゴンだったのか」
何やら原因は母親が幼少期にドラゴンネタで躾をした為らしい。
純粋なサニィのことだ。当時は思いっきり間に受けていたのだろう。
その記憶が未だに彼女の恐怖心を煽っているようだ。
「い、いや、違いますけどでも、お母さんでも勝てないから知らないぞって」
「落ち着け。俺なら勝てる」
「で、でも、私も巻き込まれるじゃないですか! 怖いです!」
「大丈夫だ。お前も確実に強くなってる。余波では死なん」
「うそ! うそ! だって、騎士団長さんより遥かに強いって!」
これはどうしたものか。
レインは悩む。根本的な解決方法は実際にドラゴンに会って、意外と大丈夫だと思わせるしかないだろう。しかし、実際のところ、今のサニィでは近くにいれば余波でもギリギリなのは確かだ。
その為にはやはり彼女を強くするしかないが、一先ずの安心方法として、自分の本気を見せておくしかないとの結論に達した。未だ彼女相手に青年は一切の本気を見せていない。
騎士団長は少なくとも、レインの今まで見せた行動より少しだけ弱いレベルだったと言うのがサニィに中でのイメージだった。レインは地面を30m切り裂いたが、騎士団長もほぼ同等だったと記憶している。そしてそれよりも遥かに強いのがドラゴンだと言うのだ。
ならば、それよりも圧倒的に強いことを見せてやればいい。
しかし、それで今度は自分に対する恐怖心を持たれないかは心配だ。それがレインの唯一の心配事だった。
「じゃあ、俺がお前を守れると言う事を見せてやろう。本気を見せてやる」
レインはそう言うと、久しくサニィの前では抜いていなかった黒い刀身に金のダマスカス文様の剣を抜く。
決して壊れない。ただそれだけの剣。『狛の村』の勇者が全力を振るえる唯一の剣。
それを無造作に構えると、次の瞬間、その刀身は消え去った。いや、既に振り抜かれていた。
通り抜けるのは爽やかなそよ風。
我流の剣術ではあるが、騎士団長に匹敵する技術。そして、それを遥かに上回る身体能力。
そんなレインから繰り出される一撃は、ジャングルの中に一本の道を作り出した。
茶色の地面が露出し、木々は消失し、平に均された、歩きやすそうな一本道。ちょうどその幅はいつもサニィが咲かせている花の道と同じ位で、先は見えないところまで続いている。
延々続くその歩きやすそうな道に生えていた障害物等は、恐らく消失したことすら気づいていないだろう。なんの衝撃すらもサニィには伝わらず、それは開けていた。
「え……えーと。幻?」
サニィが受け入れられないのも無理はない。
勇者だったはずの魔法使いの斬撃が20m、騎士団長が30m地面を切り裂ける。
その魔法使いの得意な魔法は斬撃ではなかったことを考えても、これは無理だ。
それなら幻覚を見せられているという方が余程納得がいく。
何せ、衝撃の一つもなかったのだ。優しいそよ風が吹いただけ。刀身がワープしたかと思えば道は出来ていた。
これならば確かに、騎士団長よりも遥かに上、いや、比べること自体が間違っている。
「これが俺の全力だ。このジャングルの向こうまで道は出来ているはずだ」
「え? おかしいでしょそれ! おかしいでしょそれ!!」
「おかしくなどないだろう。魔王は全世界に呪いを撒き散らす程の力を持っているんだ。ならばそれを倒す為に修行してきた勇者の俺はこの位は出来る」
言われてみれば確かに。
サニィは最早そう納得するしかなかった。
普通は魔王の討伐も、勇者一人で倒すんじゃなく、勇者のパーティで倒すはずだ。
魔王がまだ居た時代は今よりも勇者は多かったらしいけれど、今の勇者よりも質は上だったらしいけれど、少なくともどの魔王も5人~8人の勇者が集まって倒したと伝説には書いてある。
ただ、確かに今まで『狛の村』出身の勇者が居たという記録はないけれど。
結局のところ、それを見たサニィの結論は簡単だった。
「なんか、あの、全然分かりません」
「ん?」
「レインさんの凄さも、ドラゴンの強さも、全然分かりません」
「恐怖感は?」
「無力感に変わりました」
それは良いのか悪いのか。
ともかく、新しくできた道に再び花を咲かせ始めるサニィを見る限り、完全にダメというわけでもなさそうだ。ただ、「はは、はははは」と死んだ目で笑っているのが不安ではあるものの……。
しかしながらこの衝撃によって、サニィの中で不可能のレベルがぐんと上がったことは事実だった。
出来ないことなどもしかしたらないのかもしれない。そんな風に、心の片隅で思い始めるきっかけとなったのがこのレインの無茶苦茶な能力を見たことだったことは、後にサニィも認めるところであった。
……この少女は将来世界を変えることになるのだが、今の段階ではそれを一番信じられないのはほかならぬ少女自身だっただろうけれど。
出てくる魔物はサニィ一人でも何の問題もなく対処できるし、レインがいる限り迷うこともない。
相変わらず修行も順調に進んでいるし、蛇口も徐々に広くなっている。
未だマナタンクの底は見えないものの、魔法を使い続けられることにデメリットなどあるわけがない。
ただ一点を除いて、まったくもって順調な旅だった。
「ねえレインさん、ドラゴンは、ドラゴン来てませんか?」
「安心しろ。飛ぶのがギリギリ程度の傷を追わせてある。流石にすぐには来ないだろう」
「でも、ドラゴン魔法使えますよ? 治癒の魔法とか出来るはずですよ?」
「魔法がまともに使えなくなるまで引かなかったからな。そんなすぐには来ないだろう」
「でも、ドラゴンですよ? 人知の外ですよ?」
サニィがとにかくドラゴンを怖がっていると言う一点を除いて、だ。
ドラゴンはレインがかすり傷で倒せる相手だと、何度言っても怖がり続けている。
確かにドラゴンは強い。ただ、隣にいる青年はもっと強い。
それにも関わらず、だ。
「なんでお前はそんなにドラゴンを怖がるんだ?」
「だって、マ、お母さんが早く寝ないとドラゴンが攻めてくるぞって……。悪いことしたらドラゴンに食べられちゃうぞって、ドラゴンのママが、ド、ドラゴンが、ママが」
「お前の母親はドラゴンだったのか」
何やら原因は母親が幼少期にドラゴンネタで躾をした為らしい。
純粋なサニィのことだ。当時は思いっきり間に受けていたのだろう。
その記憶が未だに彼女の恐怖心を煽っているようだ。
「い、いや、違いますけどでも、お母さんでも勝てないから知らないぞって」
「落ち着け。俺なら勝てる」
「で、でも、私も巻き込まれるじゃないですか! 怖いです!」
「大丈夫だ。お前も確実に強くなってる。余波では死なん」
「うそ! うそ! だって、騎士団長さんより遥かに強いって!」
これはどうしたものか。
レインは悩む。根本的な解決方法は実際にドラゴンに会って、意外と大丈夫だと思わせるしかないだろう。しかし、実際のところ、今のサニィでは近くにいれば余波でもギリギリなのは確かだ。
その為にはやはり彼女を強くするしかないが、一先ずの安心方法として、自分の本気を見せておくしかないとの結論に達した。未だ彼女相手に青年は一切の本気を見せていない。
騎士団長は少なくとも、レインの今まで見せた行動より少しだけ弱いレベルだったと言うのがサニィに中でのイメージだった。レインは地面を30m切り裂いたが、騎士団長もほぼ同等だったと記憶している。そしてそれよりも遥かに強いのがドラゴンだと言うのだ。
ならば、それよりも圧倒的に強いことを見せてやればいい。
しかし、それで今度は自分に対する恐怖心を持たれないかは心配だ。それがレインの唯一の心配事だった。
「じゃあ、俺がお前を守れると言う事を見せてやろう。本気を見せてやる」
レインはそう言うと、久しくサニィの前では抜いていなかった黒い刀身に金のダマスカス文様の剣を抜く。
決して壊れない。ただそれだけの剣。『狛の村』の勇者が全力を振るえる唯一の剣。
それを無造作に構えると、次の瞬間、その刀身は消え去った。いや、既に振り抜かれていた。
通り抜けるのは爽やかなそよ風。
我流の剣術ではあるが、騎士団長に匹敵する技術。そして、それを遥かに上回る身体能力。
そんなレインから繰り出される一撃は、ジャングルの中に一本の道を作り出した。
茶色の地面が露出し、木々は消失し、平に均された、歩きやすそうな一本道。ちょうどその幅はいつもサニィが咲かせている花の道と同じ位で、先は見えないところまで続いている。
延々続くその歩きやすそうな道に生えていた障害物等は、恐らく消失したことすら気づいていないだろう。なんの衝撃すらもサニィには伝わらず、それは開けていた。
「え……えーと。幻?」
サニィが受け入れられないのも無理はない。
勇者だったはずの魔法使いの斬撃が20m、騎士団長が30m地面を切り裂ける。
その魔法使いの得意な魔法は斬撃ではなかったことを考えても、これは無理だ。
それなら幻覚を見せられているという方が余程納得がいく。
何せ、衝撃の一つもなかったのだ。優しいそよ風が吹いただけ。刀身がワープしたかと思えば道は出来ていた。
これならば確かに、騎士団長よりも遥かに上、いや、比べること自体が間違っている。
「これが俺の全力だ。このジャングルの向こうまで道は出来ているはずだ」
「え? おかしいでしょそれ! おかしいでしょそれ!!」
「おかしくなどないだろう。魔王は全世界に呪いを撒き散らす程の力を持っているんだ。ならばそれを倒す為に修行してきた勇者の俺はこの位は出来る」
言われてみれば確かに。
サニィは最早そう納得するしかなかった。
普通は魔王の討伐も、勇者一人で倒すんじゃなく、勇者のパーティで倒すはずだ。
魔王がまだ居た時代は今よりも勇者は多かったらしいけれど、今の勇者よりも質は上だったらしいけれど、少なくともどの魔王も5人~8人の勇者が集まって倒したと伝説には書いてある。
ただ、確かに今まで『狛の村』出身の勇者が居たという記録はないけれど。
結局のところ、それを見たサニィの結論は簡単だった。
「なんか、あの、全然分かりません」
「ん?」
「レインさんの凄さも、ドラゴンの強さも、全然分かりません」
「恐怖感は?」
「無力感に変わりました」
それは良いのか悪いのか。
ともかく、新しくできた道に再び花を咲かせ始めるサニィを見る限り、完全にダメというわけでもなさそうだ。ただ、「はは、はははは」と死んだ目で笑っているのが不安ではあるものの……。
しかしながらこの衝撃によって、サニィの中で不可能のレベルがぐんと上がったことは事実だった。
出来ないことなどもしかしたらないのかもしれない。そんな風に、心の片隅で思い始めるきっかけとなったのがこのレインの無茶苦茶な能力を見たことだったことは、後にサニィも認めるところであった。
……この少女は将来世界を変えることになるのだが、今の段階ではそれを一番信じられないのはほかならぬ少女自身だっただろうけれど。
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