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第二章:美少女魔法使いを育てる
第十六話:光は遥か未来を照らす
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「次の街はどのくらいなのでしょうか」
「明後日には到着するだろうな」
「少し、買いたいものがあるんですけど良いですか?」
「構わない。何が欲しいんだ?」
「紙とペンです」
レインは村で稼いできた金も十分に持っていたが、旅を始めてからは主に狩った動物の毛皮や、薬草となる草などを道すがら採取して町に入ったタイミングで売って小遣いを稼いでいた。最も、それは大した金額になるわけではないので、サニィが成長するまでは赤字覚悟で付きっきりの修業をするつもりだった。
この世界では未だ紙は高価なものだ。お嬢様だったサニィはそれをいまいち知らなかったのでそんなことを言ってしまう。大量に購入することになれば、一時的にとは言え資金を準備する期間を旅の途中で作らなければならなくなる可能性もある。
「大体予想は付くものの、一応理由を聞こう」
「恐らくレインさんの行っている私の訓練は、新しい魔法体系です。この新しい発想を魔法使いである私が纏めることは、10年後、20年後の魔法の発展に大きく繋がると思うんです」
サニィの真面目な雰囲気に、しばしレインは見蕩れる。金髪碧眼の少女、その横顔が見つめているのは遥か遠く。まるで世界の果てを見つめているかの様だ。
陽の光の様に遥か遠くを、決してその命では届かない先を、なんの陰りもなく見つめている。
「未来の為というわけか」
「はい。魔法でみんなの役に立つ。それは私の夢でした」
「……許可しよう」
その振り向きざま、僅かな微笑みを湛えて振り返られてしまえば、それをレインに拒否する術などは存在しなかった。惚れた女が照らす未来は、確実に彼女の思い通り、発展した魔法で溢れているだろう。そんな風に、疑いようもなく信じられてしまう。
「何やらレインさん赤くないですか?」
「……夕陽が眩しいからな」
「地平線に沈む夕陽と言うものは良いものですね。……旅をしているみたい」
そんな抜けた発言すら、眩しく輝いている。
そんな夕日に染まるサニィを見つめていると、しかしそこに一つの隙が見える。
【未だ彼女には自覚がないのかもしれない】
トラウマというものは起こってすぐ表れる場合もあれば、そうでない場合もある。
彼女の場合はまだ事件が起こって数日。未だにそれを脳が受け入れられていない。
そんな可能性が見える。
これから1ヶ月後、もしくは数年後、彼女の中でそれが整理されてしまえば、町が壊滅したトラウマは、何度も死んだトラウマは、彼女を襲い始めるかもしれない。
そんなサニィの心の隙を、見つめていたレインは見逃さなかった。
何せ、自分たちが罹っている病は『死の恐怖が増大する病』。
やはり、今はまだ様子を見るべきだ。
「サニィ、明日は俺が直々に戦い方を教えてやる。狩りよりもよっぽど役に立つだろう」
「ホントですか? ボコボコにさせてくれます?」
「ああ、ただし、俺もいつも通り雷を落とされるだけじゃない。出来るものならやってみろって所だ」
「動く的ですね! 望むところです!」
何故かサニィは花をより青くしてから攻撃的だが、それは良いだろう。
ともかく彼女が何も気づいていなくて助かった。
レインは少しほっとすると、その日のキャンプ場所を見つける。
少し小高い丘の上。特にだからと言って何かが変わるわけではないが、見晴らしは良い。
そもそもレインが居るというだけで野生動物は寄って来ない。
魔物の存在しないこの平原ではどこであってもレインが居る以上は安全なのだ。
――。
「今日は防御の魔法を見てみようか」
食事を終えた後、レインは提案する。
防御の魔法といえば魔法使いの中では個性が分かれるもの。
土を操って壁を作る者も居れば、突風で防ごうとする者もいる。
「私は基本的に杖に硬化魔法をかけて、こんな風に」
サニィは言いながら目の前で6尺もある杖を高速回転させる。手を離しても回転するそれは、一見すると巨大な盾だが……。
「これは俺には効かないな。ほら」
言うとレインは回転する盾に手を突っ込み、サニィの額にタッチする。レインにとってはただ回転の隙間に腕を差し入れ、当たるまでの間に抜くだけで良い。
「ひゃっ!」額に触れられたサニィは思わずそんな声を出すと、レインはそれが面白くなって何度もタッチする。するとその度に「ひゃ」と言う声がする。そしてそれを見たレインは楽しそうに笑う。
「さて、どんな防御魔法が良い?」
「こう!」
レインに遊ばれて屈辱なサニィは雷を落とす。最早恒例となっているが……。
「確かに電気で筋肉を硬直させるのは防御にもなるが……」
「ぎゃあああああ!!!! あぁあぁぁ……うあぁう……」
レインが雷が落ちる直前サニィに触れると、当然ながらサニィも感電する。
雨は当然電気を通す。いや、そうではなく、離れていなければこうなる可能性もあるということだ。
「楽しいな」
「最低!」
そう言って使う魔法は急速に木を生やし、レインを捕える。
「おっ、良い調子じゃないか」そう言いながらそれを引きちぎろうとするレインに合わせて硬化魔法を使う。
今までひたすら開花をし続けてきたこともあって、それは相性の良い方法だった様だ。
ちぎられた分は即座に再生し、次々にレインを覆い尽くしていく。
「よし。お前の防御魔法はこれにしよう」
そう言いながら何事もなかったかの様に出てくるレインに恐怖を覚えて「ひぃっ」といつも通りの反応をしてしまったものの、ちょうど昔に森を作って出られなくなった恐怖も今回はプラスに作用したようだ。中々良かったとの評価を受ける。
結局レインには何も効かなかったことはさておいて、彼女の防御魔法はこれに決まった。
その日は宝剣をいじったりして硬さのイメージを強化しながら、防御魔法をしばらく訓練した後、程よい疲労を覚えて眠りについた。
残り【1815→1814日】
「明後日には到着するだろうな」
「少し、買いたいものがあるんですけど良いですか?」
「構わない。何が欲しいんだ?」
「紙とペンです」
レインは村で稼いできた金も十分に持っていたが、旅を始めてからは主に狩った動物の毛皮や、薬草となる草などを道すがら採取して町に入ったタイミングで売って小遣いを稼いでいた。最も、それは大した金額になるわけではないので、サニィが成長するまでは赤字覚悟で付きっきりの修業をするつもりだった。
この世界では未だ紙は高価なものだ。お嬢様だったサニィはそれをいまいち知らなかったのでそんなことを言ってしまう。大量に購入することになれば、一時的にとは言え資金を準備する期間を旅の途中で作らなければならなくなる可能性もある。
「大体予想は付くものの、一応理由を聞こう」
「恐らくレインさんの行っている私の訓練は、新しい魔法体系です。この新しい発想を魔法使いである私が纏めることは、10年後、20年後の魔法の発展に大きく繋がると思うんです」
サニィの真面目な雰囲気に、しばしレインは見蕩れる。金髪碧眼の少女、その横顔が見つめているのは遥か遠く。まるで世界の果てを見つめているかの様だ。
陽の光の様に遥か遠くを、決してその命では届かない先を、なんの陰りもなく見つめている。
「未来の為というわけか」
「はい。魔法でみんなの役に立つ。それは私の夢でした」
「……許可しよう」
その振り向きざま、僅かな微笑みを湛えて振り返られてしまえば、それをレインに拒否する術などは存在しなかった。惚れた女が照らす未来は、確実に彼女の思い通り、発展した魔法で溢れているだろう。そんな風に、疑いようもなく信じられてしまう。
「何やらレインさん赤くないですか?」
「……夕陽が眩しいからな」
「地平線に沈む夕陽と言うものは良いものですね。……旅をしているみたい」
そんな抜けた発言すら、眩しく輝いている。
そんな夕日に染まるサニィを見つめていると、しかしそこに一つの隙が見える。
【未だ彼女には自覚がないのかもしれない】
トラウマというものは起こってすぐ表れる場合もあれば、そうでない場合もある。
彼女の場合はまだ事件が起こって数日。未だにそれを脳が受け入れられていない。
そんな可能性が見える。
これから1ヶ月後、もしくは数年後、彼女の中でそれが整理されてしまえば、町が壊滅したトラウマは、何度も死んだトラウマは、彼女を襲い始めるかもしれない。
そんなサニィの心の隙を、見つめていたレインは見逃さなかった。
何せ、自分たちが罹っている病は『死の恐怖が増大する病』。
やはり、今はまだ様子を見るべきだ。
「サニィ、明日は俺が直々に戦い方を教えてやる。狩りよりもよっぽど役に立つだろう」
「ホントですか? ボコボコにさせてくれます?」
「ああ、ただし、俺もいつも通り雷を落とされるだけじゃない。出来るものならやってみろって所だ」
「動く的ですね! 望むところです!」
何故かサニィは花をより青くしてから攻撃的だが、それは良いだろう。
ともかく彼女が何も気づいていなくて助かった。
レインは少しほっとすると、その日のキャンプ場所を見つける。
少し小高い丘の上。特にだからと言って何かが変わるわけではないが、見晴らしは良い。
そもそもレインが居るというだけで野生動物は寄って来ない。
魔物の存在しないこの平原ではどこであってもレインが居る以上は安全なのだ。
――。
「今日は防御の魔法を見てみようか」
食事を終えた後、レインは提案する。
防御の魔法といえば魔法使いの中では個性が分かれるもの。
土を操って壁を作る者も居れば、突風で防ごうとする者もいる。
「私は基本的に杖に硬化魔法をかけて、こんな風に」
サニィは言いながら目の前で6尺もある杖を高速回転させる。手を離しても回転するそれは、一見すると巨大な盾だが……。
「これは俺には効かないな。ほら」
言うとレインは回転する盾に手を突っ込み、サニィの額にタッチする。レインにとってはただ回転の隙間に腕を差し入れ、当たるまでの間に抜くだけで良い。
「ひゃっ!」額に触れられたサニィは思わずそんな声を出すと、レインはそれが面白くなって何度もタッチする。するとその度に「ひゃ」と言う声がする。そしてそれを見たレインは楽しそうに笑う。
「さて、どんな防御魔法が良い?」
「こう!」
レインに遊ばれて屈辱なサニィは雷を落とす。最早恒例となっているが……。
「確かに電気で筋肉を硬直させるのは防御にもなるが……」
「ぎゃあああああ!!!! あぁあぁぁ……うあぁう……」
レインが雷が落ちる直前サニィに触れると、当然ながらサニィも感電する。
雨は当然電気を通す。いや、そうではなく、離れていなければこうなる可能性もあるということだ。
「楽しいな」
「最低!」
そう言って使う魔法は急速に木を生やし、レインを捕える。
「おっ、良い調子じゃないか」そう言いながらそれを引きちぎろうとするレインに合わせて硬化魔法を使う。
今までひたすら開花をし続けてきたこともあって、それは相性の良い方法だった様だ。
ちぎられた分は即座に再生し、次々にレインを覆い尽くしていく。
「よし。お前の防御魔法はこれにしよう」
そう言いながら何事もなかったかの様に出てくるレインに恐怖を覚えて「ひぃっ」といつも通りの反応をしてしまったものの、ちょうど昔に森を作って出られなくなった恐怖も今回はプラスに作用したようだ。中々良かったとの評価を受ける。
結局レインには何も効かなかったことはさておいて、彼女の防御魔法はこれに決まった。
その日は宝剣をいじったりして硬さのイメージを強化しながら、防御魔法をしばらく訓練した後、程よい疲労を覚えて眠りについた。
残り【1815→1814日】
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