雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
9 / 592
第二章:美少女魔法使いを育てる

第九話:少女は初めて決意する

しおりを挟む
「レインさん、私一つ気になったことがあるんです」

 朝、支度を終え再び南へと歩き出すと、サニィはそんなことを言う。毎日朝になると気になることが出来るらしい。

「色々なことが気になるものだな。まあ、生きている証拠だ。それで?」
「私のマナタンク、おかしくないですか?」
「すまないがマナ関係はさっぱり分からん……」

 通常魔法使いが扱うマナは、常に世界に満ちているマナの海から体に流れ込んでくる。
 人によって大きさはかなり違うものの、それを貯めるタンクが魔法使いの体内には備わっている。
 魔法というものはそれを蛇口を捻るように放出しながらイメージと混ぜ合わせることによって超常の現象を引き起こすわけである。想いを込めた道具はそのイメージを助けると共に、蛇口のハンドルの役割を果たす。
 ただ、通常は世界に満ちるマナの海からタンクに入るマナの水道管の様なものよりも、放出する為の蛇口の方が径が大きい。
 その蛇口の径が、使える魔法の規模を表しているのである。
よって、連続して魔法を使っていればいつかタンクは空になり、少しの間マナ切れを起こすことになるはず。

「でも、私昨日はあれだけ魔法を連発したのにマナ切れは全く無かったんですよ」

 今までサニィは限界まで魔法を使ったことなど無かった。両親の指導は決して彼女に危険が及ぶ様なことはしない、言わば温室的な育て方だったからだ。
 蛇口の大きさも、実際には試したことなどない。今まで使っていた最大級の魔法を勝手に限界に近いと思い込んではいたが。

「ほう。マナ量ってのは俺は一回に使える魔法の規模の話だけかと思ってた」
「え……? もし私のマナが切れたらとかは……?」
「大丈夫だ。守っていた」
「んもう!」

 ちょっと嬉しいのを認めたら負けだ。
 サニィはそんな風に感情を殺すと、それを誤魔化す様に話題を変える。

「じゃあ、もし魔法使いと戦う時はどうするつもりだったんですか?」
「それは当然魔法を使い続けられる前提だったが……」
「……」

 戦闘に関してレインの考えていることは全く分からない。きっと今回も昨日みたいに自分を虐めた様なお茶目や、ただ知識が足らないだけなんだろう。

「あの、イメージは?」
「もちろん死の直前であっても完璧なものが使える前提だ」
「……それは魔法使いじゃなくて、化け物って言うんですよ?」

 ダメだこの男……。
 サニィは最早説得を諦めていたが、一応のツッコミは入れておく。
 魔法使いを倒すにはマナ切れを起こすまで耐えること、または平常でいられない状況を作り出すことが勝利の鍵というのが常識である。それ故に両親もあっさりとオーガの群れに負けたのだろう。しかし人外の中の人外には人間の常識は通用しないらしい。

「まあ、もちろん魔王を倒す為に修行してきたからな」
「魔王はもう100年以上も前に全員倒されましたよ……」
「ああ、祖父からそれを聞いた時には驚いたものだ」
「いつ知ったんですか?」
「……6日前」

 それって出発した頃だよね……。
 サニィは思った。もしかしてこの人外は私のことを虐めて遊んでたわけじゃなくて、本気で鍛えてただけなのかもしれない。
 というか、天然だこの人。

 少し……か……。
 いや。それはない。

 出かかった思考を抑える為そんな風に自分言い聞かせると、サニィは話を戻す。

「まあ、レインさんがおかしいのは今は置いておいて、私のマナタンクの容量ってどの位あるんでしょうかって思って。
 お父さんとお母さんは2人とも昨日の規模の魔法だと、大体連続10発位でマナ切れを起こすって話だったんです。切れたら再び1発使える様になるまでに2、3分はかかるって。
 でも、私の場合魔法が使えないタイミングがあったにしても50発近く使いましたよね。昨日は必死過ぎて全然気付きませんでしたけど」

「なるほど。お前は才能があるのだろう」
「え? 感想はそれだけですか?」

 必死に説明してみたが、レインの反応はあまりに素っ気ない。まるで、そのくらいは当然だと言わんばかり。それ程に、気にすらしていない様な反応だった。

「はっきり言って魔法のことはまだ今一分かっていないからな。お前の両親の能力がどの位かも分からん」

「えーと、お父さんはこの辺りで1番、お母さんは宮廷魔法使いだったことがあります」

「それならば別に特別なことじゃあないだろう。小規模で1番なんてのは何処にでもいる。お前の才能はそれよりも遥かに上。それだけだ」
「……」

 レインの物言いにサニィはムッと押し黙る。
 少なくとも彼女にとって両親は誇りだった。それを猿山の大将みたいな言い方をして……。
 レインを睨み付けてみても、青年は一切動じず、こう告げる。

「良いか。お前の才能は両親よりも上だ。両親が誇りであるならばそれは良い。素晴らしいことだ。
だが、自分の限界をそこに持っていくことは許さない。能力は正しく行使することが持って生まれた者の義務だ」
「……」

 サニィは何も言えなかった。
 言い方こそ悪いものの、青年は両親を馬鹿にしているわけではない。
 ただ、今まで温室で燻っていた私の本質を見抜いていただけ。
 確かにサニィは今までずっと、両親を追いかけてきた。超えない様に、超えない様に。

 その結果が、町の壊滅だ。

「どうする? お前は必ず俺が守ってやる。それだけは約束だ。それに、そもそもこれは俺が自身に課したルール。お前にまで強制するつもりは毛頭無い」

 青年は諭すように少女に尋ねる。
 そんなことを言われてしまえば、少女の答えは決まっていた。
 少なくとも、目の前の男は、超えない様になんてことを考える必要すらない。本気で追いかけても届かないだろう高みにいる。
 それなら。

「強くなりたいです」

 今まで温室で育ってきた少女は、幾度もの死を経験して、途方も無い才能を目の前にして、生まれて初めて決意を固めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...