雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第六章:魔物と勇者と、魔法使い

幕間:もう手が届く位置に

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 ふう、と息を吐いて青年はティーカップをテーブルに置く。

 ただそれだけの動作にも関わらず、青年の動作は流れるように隙がない。

 それは吐息以外一切の音が出ないことからも明らかで、テーブルに置かれたばかりの紅茶が微かにも揺れていないことからもまた、明らかだった。

 少しでも剣術を嗜んでいれば、それだけで青年は驚異的な技術を持っていることが理解出来るだろう。



 青年は頰を軽く押さえると、一言。



「あぁ、いてえ」



 そう呟いた。

 見たところ、青年の頰は全く異常が無い。

 それは事実で、あの時に負った怪我は10分後には魔法によって完治している。

 それでも、鮮烈に記憶に刻まれたあの拳の痛みは今でもはっきりと覚えていた。



 青年は過去を振り返る。



 当時既に国内では敵無しで、外交があった南の大陸の強者との試合も経験していた。

 大会でベスト8に残ったこともある実力者を相手に一度は敗北を喫したものの、二度目は完勝。

 そのまま国内に生まれたデーモンロードクラスの亜竜であるワームにも一度の敗北後単独勝利を収め、国内では大会でのダークホースとなるだろうと期待されたのは当然のことだろう。

 デーモンロードクラスと言えば、ほんの20年前までは単独勝利など不可能とされていた化け物の中の化け物。それは未だに英雄以外には破ることの出来ない記録として残っていて、同時に大会でベスト4に残ることはほとんど不可能に近いことを示していたからだ。



 つまり青年は、英雄と同等の力を持って初めて大会に参加したことになる。

 いや、なった、はずだった。



 国内の誰もが青年のベスト4入りを期待していたし、青年自身もまたベスト4に残る自信があったのだ。

 当然の様に一回戦では準英雄クラスと名高いグレーズ王妃エリスを圧倒したし、次ぐ二回戦は更に余裕を持って望むことが出来た。



 そして問題だったのが、迎えた三回戦。

 最強の勇者にして魔王を容認する最悪の国家の守護神であるエリザベート・ストームハートとの闘いだった。

 対峙して、一目で分かる。

 強いことは当然としても、明らかに自分を格下に見ていると言う事実。

 負ける訳がないという慢心と、腰に装着した剣の留め金を外す素ぶりすら見せない余裕。

 いや、今まで全ての試合を素手で行なって来たことは理解していた。だから剣はただの飾りで、ストームハートの本領は拳にあるのだと誰しもが思っていただろう。しかしそれもまた、実際に対峙する直前までのことだったことを、青年ははっきりと覚えている。



 いざ対峙してみると、どうしようも無く理解してしまったのだ。

 ストームハートの本気は剣で、拳は明らかに手を抜く為の方法なのだと。

 今まで命懸けで訓練をしてきた自分に対してこの不遜な女は、手加減して相手をしてやろう、などと考えていることを。



 しかしその怒りは長くは持たなかった。

 開始の合図とほぼ同時、頰から今まで感じたことも無いほどの衝撃が頭の反対まで突き抜けたのを感じた時には、既に青年の体は地面に横たわっていた。

 瞬間移動が出来るエリスにも対応してみせた瞬発力を持つ青年が全く対応出来ない異常な格闘術。

 それだけで、ストームハートの強さがワームなど足元にすら及ばないものだと理解する。

 咄嗟に立ち上がるも、目の前には再び避けられるわけも無い拳。吸い寄せられるかの様に、その拳は再び青年の顔面へとめり込むのだった。



「本当に、英雄って連中は化け物だ」



 青年は呟く。

 あの時はたまたま最強のストームハートと当たったものの、他の誰に当たっても似た様な結果になっていたことは、その後の大会を見届けてすぐに理解出来た。



「しかしストームハートに当たったのは僥倖だったな」



 当たったのが他の英雄だったなら、もっと手順を踏まなければならなかった。

 忌々しいが、いきなり最強に当たったのはむしろ運が良いと考えるべきだろう。

 青年はそう考え直すことにする。



 最強の座はすぐそこに見えていた。



「次はあの女の化けの皮を剥いでやる。フッ、検討は付いてるがな」



 青年は、クラウスと変わらない年齢で玉座に座るアランは、そう不敵に微笑むのだった。
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みんなの感想(9件)

haru
2020.03.02 haru

かなりの間更新されてないのですが、気に入っている作品なので出来れば続きを読んでみたいです。
もちろん僕も小説は書いたことがあるので、書けないなど苦労も理解してる上で無茶なことを言っています。
もし一年後でも書けそうだと思ったら更新していただけたら本当に嬉しいです。

解除
たぬき
2018.01.31 たぬき

第2部お疲れ様でした&有難うございました!!

ネタバレしないよう、深くは触れませんが、楽しい話を有難うございました。

近況報告内のアレをアレする話…気になります笑
第3部もとても楽しみに待っていますので、よろしくお願いします!!
もちろん無理はなさらないように、お身体に気をつけて下さいね。

更新お待ちしてます!

七つ目の子
2018.01.31 七つ目の子

感想ありがとうございます!

二部は結構重い話もありましたが楽しんでいただけたようで幸いです。
実は【月光】の能力って適当に決めたのですが、それがたまたま二部をつくるきっかけになったんです。
こんなこともあるので適当に能力を決めるのはやめられません(笑)

三部は新主人公ヒロインに加え一部以来のあの人なんかも登場しますのでお楽しみに!

解除
Kantata
2018.01.22 Kantata

なろうもカクヨムもよく読んでるのにこんなに面白い作品を見つけられなかった自分を叱りたいorz
80話現在、これほど魅力的な作品は本当に少ないので楽しみです。

七つ目の子
2018.01.22 七つ目の子

コメントありがとうございます!
一部二部三部共にエンディングに向けて書いてますのでお楽しみください!

解除

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