560 / 592
第五章:最古の宝剣
始まりの四話
しおりを挟む
そうだ、死ねば良いのだ。
いつしか剣は、そんなことを考えるようになっていた。
別に死にたくなったわけではない。
生死に対する感情はあくまで親や人から影響を受けたものでしかなく、とても希薄なものだった。
それでもそう考えることには理由があった。
剣の能力は人々が願い、勇者が生まれ、ドラゴンが生まれ、それらの能力が時間をかけて剣自身への力へと還元される内に、未来視にも近しい力を得ることになってしまった。
自身がこれから与えることになる勇者の力を、少なくとも300年程度は予測することが出来る。
どんな魔物が生まれるのかなど、700年程度は予測を立てられる。
魔物と人々がこれからどの様にぶつかってどの様に死んでいくのかを、まるで見てきたかの様に知ることが出来てしまう様になったのだ。
もしも魔王のシステムを停止した場合、人々が再び争い始めるまでは約110年。
魔物の排出を止めた場合には、僅か17年程度で再び何処かで戦禍が上がる様になる。
そんな、どうしようもない未来を見てしまったのだ。
人々が争わない為には魔物が必要で、しかしその魔物達は人々を殺す。
遂に人を殺すことと平和は共存しないと分かってしまったばかりに、そもそもの根本的な矛盾に気づいてしまった。
その矛盾は次第に剣の希薄な精神にも深く刻みつけられ、思考は何度も何度も巡っては矛盾を解決出来ずに自身を傷つける刃の様に鋭くなっていく。
とりあえず続けている大量殺戮である魔王のシステムもまた、知らない内に大きな負荷になっていたらしい。
剣は知らぬ間に随分と、疲れてしまっていた。
そんな時だった。
剣は最初の勇者のことを思い出す。
当時は勇者どころか異人という言葉すらなく、気づけば力を与えていた、一人の男。
その男に剣がかけた願いは持ち主の殺害。
男は湧き上がる殺人衝動に身を任せ、剣の持ち主だった男を原型をとどめない程の肉塊に変えてしまった。
それ以来男は、一切外に出ることがなくなった。
人を見ると殺してしまいたいという欲求が湧き上がってしまうらしく、誰とも会うことなく一人で布にくるまり、頭を掻き毟りながら貧乏ゆすりで衝動を紛らわす毎日。
遂には、男は崖から身を投げることによって自身の命を絶ち、自分以外の誰も殺すことなくその生涯を終えることになった。
つまり、男は死ぬことに大きなメリットがあったのだ。
人を殺したくなくなってしまった剣の、本質的な存在意義。それはあくまで人を殺すこと。
しかし人を殺せば殺すだけ、剣の中の矛盾は剣自身を傷つけていく。
それはちょうど、初めての勇者と同じなのだ。
ならば、剣が死ねばどうなるか。
予測通りに行くのなら17年程で再び小競り合いが始まり、人々は再び争いの中に身を投じていく。
しかしそれでも、それでもだ。
自分の様な剣さえ生まれなければ、死者は今よりも少ないのだ。
人と人とが争わなくなった結果、犠牲者は人と人が争っていた時代よりも格段に増えている。
かつては一国を滅ぼした価値があったと考えていたそれも、実は平和とは程遠いものだったことを、ようやくとはいえ、学習してしまったのだから。
ならば、答えは簡単だった。
死ぬことの方がメリットが大きいのならば、死ねばいいのだ。
剣が世界に与える影響は結果的に悪影響と呼ぶものならば、剣は殺すことしか出来ないのならば、それで解決してしまうのだ。
例え、人々が再び争う世界になってしまったとしても。
そう考えてからの剣の判断は早かった。
ちょうど、不老不死の勇者が生まれたのがその時。
彼を上手く利用すれば、ベルナール以来の死者の少なさで魔王の討伐を成せるだろう。
それを最後に魔王を廃止し、念の為に作っていた魔人達を利用して魔物と勇者の数を減らして行き、最後には自らに止めを刺そう。
そうすれば、最終的には魔王を使うよりも少ない犠牲者で人々は争うことになる。
親が望んだ平和は実現出来なかったけれど、歴史に魔物がある限り、人々が手を取り合った時代もまた、確実に歴史に残るのだ。
そうなれば、いつかは更に知能を発達させた人類は、本当の平和に辿り着くだろう。
きっと、二千年だとか、その程度はかかるのだろうけれど。
そんな風に、剣が覚悟を決めた時だった。
まるで予想だにしていなかった、存在するだけで有害な、一本の化物が生まれてしまったのは。
いつしか剣は、そんなことを考えるようになっていた。
別に死にたくなったわけではない。
生死に対する感情はあくまで親や人から影響を受けたものでしかなく、とても希薄なものだった。
それでもそう考えることには理由があった。
剣の能力は人々が願い、勇者が生まれ、ドラゴンが生まれ、それらの能力が時間をかけて剣自身への力へと還元される内に、未来視にも近しい力を得ることになってしまった。
自身がこれから与えることになる勇者の力を、少なくとも300年程度は予測することが出来る。
どんな魔物が生まれるのかなど、700年程度は予測を立てられる。
魔物と人々がこれからどの様にぶつかってどの様に死んでいくのかを、まるで見てきたかの様に知ることが出来てしまう様になったのだ。
もしも魔王のシステムを停止した場合、人々が再び争い始めるまでは約110年。
魔物の排出を止めた場合には、僅か17年程度で再び何処かで戦禍が上がる様になる。
そんな、どうしようもない未来を見てしまったのだ。
人々が争わない為には魔物が必要で、しかしその魔物達は人々を殺す。
遂に人を殺すことと平和は共存しないと分かってしまったばかりに、そもそもの根本的な矛盾に気づいてしまった。
その矛盾は次第に剣の希薄な精神にも深く刻みつけられ、思考は何度も何度も巡っては矛盾を解決出来ずに自身を傷つける刃の様に鋭くなっていく。
とりあえず続けている大量殺戮である魔王のシステムもまた、知らない内に大きな負荷になっていたらしい。
剣は知らぬ間に随分と、疲れてしまっていた。
そんな時だった。
剣は最初の勇者のことを思い出す。
当時は勇者どころか異人という言葉すらなく、気づけば力を与えていた、一人の男。
その男に剣がかけた願いは持ち主の殺害。
男は湧き上がる殺人衝動に身を任せ、剣の持ち主だった男を原型をとどめない程の肉塊に変えてしまった。
それ以来男は、一切外に出ることがなくなった。
人を見ると殺してしまいたいという欲求が湧き上がってしまうらしく、誰とも会うことなく一人で布にくるまり、頭を掻き毟りながら貧乏ゆすりで衝動を紛らわす毎日。
遂には、男は崖から身を投げることによって自身の命を絶ち、自分以外の誰も殺すことなくその生涯を終えることになった。
つまり、男は死ぬことに大きなメリットがあったのだ。
人を殺したくなくなってしまった剣の、本質的な存在意義。それはあくまで人を殺すこと。
しかし人を殺せば殺すだけ、剣の中の矛盾は剣自身を傷つけていく。
それはちょうど、初めての勇者と同じなのだ。
ならば、剣が死ねばどうなるか。
予測通りに行くのなら17年程で再び小競り合いが始まり、人々は再び争いの中に身を投じていく。
しかしそれでも、それでもだ。
自分の様な剣さえ生まれなければ、死者は今よりも少ないのだ。
人と人とが争わなくなった結果、犠牲者は人と人が争っていた時代よりも格段に増えている。
かつては一国を滅ぼした価値があったと考えていたそれも、実は平和とは程遠いものだったことを、ようやくとはいえ、学習してしまったのだから。
ならば、答えは簡単だった。
死ぬことの方がメリットが大きいのならば、死ねばいいのだ。
剣が世界に与える影響は結果的に悪影響と呼ぶものならば、剣は殺すことしか出来ないのならば、それで解決してしまうのだ。
例え、人々が再び争う世界になってしまったとしても。
そう考えてからの剣の判断は早かった。
ちょうど、不老不死の勇者が生まれたのがその時。
彼を上手く利用すれば、ベルナール以来の死者の少なさで魔王の討伐を成せるだろう。
それを最後に魔王を廃止し、念の為に作っていた魔人達を利用して魔物と勇者の数を減らして行き、最後には自らに止めを刺そう。
そうすれば、最終的には魔王を使うよりも少ない犠牲者で人々は争うことになる。
親が望んだ平和は実現出来なかったけれど、歴史に魔物がある限り、人々が手を取り合った時代もまた、確実に歴史に残るのだ。
そうなれば、いつかは更に知能を発達させた人類は、本当の平和に辿り着くだろう。
きっと、二千年だとか、その程度はかかるのだろうけれど。
そんな風に、剣が覚悟を決めた時だった。
まるで予想だにしていなかった、存在するだけで有害な、一本の化物が生まれてしまったのは。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる