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第四章:三人の旅
第百一話:力
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休憩を終え再び歩き出した一行は、村へ向けて順調に歩き出していた。
流石に疲れの色を隠せないサラに、先に転移できるだけの人数を連れて村へ戻って休んだらどうかと提案したところ、それはいくつかの理由から却下された。
「私転移苦手なんだよね。一人二人ならいけるんだけど、三人以上となると少し難しい。幸い衰弱してる人もいないし、子ども達も元気。ちょうどここが森だし、タマリンに力を借りれば皆の体調管理の魔法も使えるからさ。
だからと言って二人ずつ転移してくと合計5時間はかかっちゃう。それじゃ結局歩くのとあんまり変わらないし。
それに私が先に行っちゃうと、残った人達が衰弱しちゃうかもしれない。
……んー、修行をサボってたツケが来ちゃったな……」
歩こうと提案したのがサラだったのはそういう理由があったのかと、クラウスは改めて納得する。
そうしてサラは説明を行った後、皆に向けて「ごめんね、大変かもだけど頑張って」と付け加えた。
クラウスは適度な睡眠さえ取れれば無尽蔵と言っていい体力がある為、その辺りの感覚には鈍感だ。それに対してサラはタンバリンの再生能力があるとはいえ本来の体力的には一般人と変わらない。
確かにそう考えれば、サラがいてくれた方が心強い。
女性達の中にも勇者や魔法使いはいるものの、聖者の加護のおかげか平和な時代が続いていた為両者とも一般人に毛が生えた程度。
旅人の片方である魔法使いのソシエも、傷を癒すことは得意にしているが一緒に居たのが勇者のマヤだったおかげで最悪おぶって貰えば良いという考えで行動していたらしく、体力管理には疎い様だった。
その言葉通り、現在は三人の少女のうち二人をマヤが肩に乗せていた。
一人は歩くと言うのでともかく、特別大柄でもないマヤの方に10歳位の少女が二人乗っているというアンバランスな状態となっている。
本来はクラウスがその役割を果たそうとしたのだが、村での恐怖があったのだろう、誰一人近付くことは無かった。
どちらにせよもしもの時にはクラウスが守らないといけないので一人しか背負うことは出来ない。
でも一人ならマナで慣れているから、と言ったところでそれに関心を持つ者も現れなかった。
一人を除いては。
「あれ、お二人は初々しい感じでしたけどもうお子さま居るのですか。手が早いですね……ん?」
女勇者マヤは、朝方サラに身をもって忠告を受けたことを既に忘れているのかそう言うと、途中で首を傾げる。
その視線の先にはサラが顔を赤くしているが、どうやらそれが理由では無いらしい。
「僕達の子どもではないです。まあ、娘だと思って可愛がることにはしてますけど。どうしました?」
「へ? いや、自分で言っててなんか違和感があったんで」
何やら一人で首を傾げているマヤは、「んー? お子さまってのが違うのかなぁ?」と何やらぶつぶつと呟いている。
その意味が全く分からないので、考えうるのは一つだ。
「マヤさんの力って何なんですか?」
勇者の力は時に自分では制御出来ない。
ミラの村で生まれた英雄エリーも、自然と心を読めてしまうが故に村で気味悪がられていた言うし、英雄アリエル・エリーゼも自身の力に振り回されたと聞いている。
それと同じ様な類のものなのなら、一人で不意に疑問を持ち始めるのもおかしなことではない。
まあ、そもそもこのマヤという女勇者は少々残念な感じもするので考えすぎという可能性もあるのだけれど、と考えたところで、マヤは後頭部を掻きながら恥ずかしそうにはにかむ。
「いやー、お恥ずかしい。私自分の力がなんなのか全く分からないんですよ。ねえソシエ、私の力ってなんだと思う?」
はにかみながら、背後のソシエを振り返る。
質問を受けたソシエから返って来た言葉は、興味も無いとでも言いたげな素っ気ないものだった。
「……知らない」
ソシエは随分と大人しい印象の魔法使いだ。
出会ってからこれまで眠そうな顔を変えることも無く、表情を余り表に出さない。
ある意味ではマヤと真逆の印象だが、それはそれで相性は良いのかもしれない。
今も「考えてよー」「じゃあ、鬱陶しいのが力」などと言い合っている。
レインと聖女が好きだと言いながら、随分と対局にある二人だなと思いつつ、クラウスもその会話に入ることにする。
せっかくマヤが打ち解けてくれたのだから、いつまでも怖がれているのももどかしい。
マヤの両肩に乗った少女二人もちらちらと見ているのが何処か気まずいものはあるけれど、流石にそんな視線そのものにはもう慣れている。
「マヤさんは僕と一緒なんですね。僕も自分の力が分からなくて、いつも膂力と技術だけで戦ってますよ」
ここから展開される会話は、例えば英雄の子どもでもそんなことあるんだ、だとか、もしかして時雨流? だとか、力無しで戦う技術はどこで教わったのか、だとか、へえ一緒ですね、だとか。
そんな極々ありふれたものだと考えていた。
時雨流の質問は下半身的に危ないのかもしれないが、それ以外は問題ない会話だろう。
しかし、マヤから返って来た返答は、全くもって予想外の言葉だった。
思えばこの女勇者は、最初の会話からしてクラウスの想定を悉く打ち破って来た奇想天外な勇者なのだということを、まだ誰も知らなかった。
いや、彼女は奇想天外ではなく単純にストレートな、そんな力を持っていることをまだ誰も知ることが無かったのだ。
マヤは驚いた顔で言った。
「え? クラウス様の力って勇者を食べることなんじゃないんですか?」
流石に疲れの色を隠せないサラに、先に転移できるだけの人数を連れて村へ戻って休んだらどうかと提案したところ、それはいくつかの理由から却下された。
「私転移苦手なんだよね。一人二人ならいけるんだけど、三人以上となると少し難しい。幸い衰弱してる人もいないし、子ども達も元気。ちょうどここが森だし、タマリンに力を借りれば皆の体調管理の魔法も使えるからさ。
だからと言って二人ずつ転移してくと合計5時間はかかっちゃう。それじゃ結局歩くのとあんまり変わらないし。
それに私が先に行っちゃうと、残った人達が衰弱しちゃうかもしれない。
……んー、修行をサボってたツケが来ちゃったな……」
歩こうと提案したのがサラだったのはそういう理由があったのかと、クラウスは改めて納得する。
そうしてサラは説明を行った後、皆に向けて「ごめんね、大変かもだけど頑張って」と付け加えた。
クラウスは適度な睡眠さえ取れれば無尽蔵と言っていい体力がある為、その辺りの感覚には鈍感だ。それに対してサラはタンバリンの再生能力があるとはいえ本来の体力的には一般人と変わらない。
確かにそう考えれば、サラがいてくれた方が心強い。
女性達の中にも勇者や魔法使いはいるものの、聖者の加護のおかげか平和な時代が続いていた為両者とも一般人に毛が生えた程度。
旅人の片方である魔法使いのソシエも、傷を癒すことは得意にしているが一緒に居たのが勇者のマヤだったおかげで最悪おぶって貰えば良いという考えで行動していたらしく、体力管理には疎い様だった。
その言葉通り、現在は三人の少女のうち二人をマヤが肩に乗せていた。
一人は歩くと言うのでともかく、特別大柄でもないマヤの方に10歳位の少女が二人乗っているというアンバランスな状態となっている。
本来はクラウスがその役割を果たそうとしたのだが、村での恐怖があったのだろう、誰一人近付くことは無かった。
どちらにせよもしもの時にはクラウスが守らないといけないので一人しか背負うことは出来ない。
でも一人ならマナで慣れているから、と言ったところでそれに関心を持つ者も現れなかった。
一人を除いては。
「あれ、お二人は初々しい感じでしたけどもうお子さま居るのですか。手が早いですね……ん?」
女勇者マヤは、朝方サラに身をもって忠告を受けたことを既に忘れているのかそう言うと、途中で首を傾げる。
その視線の先にはサラが顔を赤くしているが、どうやらそれが理由では無いらしい。
「僕達の子どもではないです。まあ、娘だと思って可愛がることにはしてますけど。どうしました?」
「へ? いや、自分で言っててなんか違和感があったんで」
何やら一人で首を傾げているマヤは、「んー? お子さまってのが違うのかなぁ?」と何やらぶつぶつと呟いている。
その意味が全く分からないので、考えうるのは一つだ。
「マヤさんの力って何なんですか?」
勇者の力は時に自分では制御出来ない。
ミラの村で生まれた英雄エリーも、自然と心を読めてしまうが故に村で気味悪がられていた言うし、英雄アリエル・エリーゼも自身の力に振り回されたと聞いている。
それと同じ様な類のものなのなら、一人で不意に疑問を持ち始めるのもおかしなことではない。
まあ、そもそもこのマヤという女勇者は少々残念な感じもするので考えすぎという可能性もあるのだけれど、と考えたところで、マヤは後頭部を掻きながら恥ずかしそうにはにかむ。
「いやー、お恥ずかしい。私自分の力がなんなのか全く分からないんですよ。ねえソシエ、私の力ってなんだと思う?」
はにかみながら、背後のソシエを振り返る。
質問を受けたソシエから返って来た言葉は、興味も無いとでも言いたげな素っ気ないものだった。
「……知らない」
ソシエは随分と大人しい印象の魔法使いだ。
出会ってからこれまで眠そうな顔を変えることも無く、表情を余り表に出さない。
ある意味ではマヤと真逆の印象だが、それはそれで相性は良いのかもしれない。
今も「考えてよー」「じゃあ、鬱陶しいのが力」などと言い合っている。
レインと聖女が好きだと言いながら、随分と対局にある二人だなと思いつつ、クラウスもその会話に入ることにする。
せっかくマヤが打ち解けてくれたのだから、いつまでも怖がれているのももどかしい。
マヤの両肩に乗った少女二人もちらちらと見ているのが何処か気まずいものはあるけれど、流石にそんな視線そのものにはもう慣れている。
「マヤさんは僕と一緒なんですね。僕も自分の力が分からなくて、いつも膂力と技術だけで戦ってますよ」
ここから展開される会話は、例えば英雄の子どもでもそんなことあるんだ、だとか、もしかして時雨流? だとか、力無しで戦う技術はどこで教わったのか、だとか、へえ一緒ですね、だとか。
そんな極々ありふれたものだと考えていた。
時雨流の質問は下半身的に危ないのかもしれないが、それ以外は問題ない会話だろう。
しかし、マヤから返って来た返答は、全くもって予想外の言葉だった。
思えばこの女勇者は、最初の会話からしてクラウスの想定を悉く打ち破って来た奇想天外な勇者なのだということを、まだ誰も知らなかった。
いや、彼女は奇想天外ではなく単純にストレートな、そんな力を持っていることをまだ誰も知ることが無かったのだ。
マヤは驚いた顔で言った。
「え? クラウス様の力って勇者を食べることなんじゃないんですか?」
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