雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
500 / 592
第四章:三人の旅

第百一話:力

しおりを挟む
 休憩を終え再び歩き出した一行は、村へ向けて順調に歩き出していた。
 流石に疲れの色を隠せないサラに、先に転移できるだけの人数を連れて村へ戻って休んだらどうかと提案したところ、それはいくつかの理由から却下された。

「私転移苦手なんだよね。一人二人ならいけるんだけど、三人以上となると少し難しい。幸い衰弱してる人もいないし、子ども達も元気。ちょうどここが森だし、タマリンに力を借りれば皆の体調管理の魔法も使えるからさ。
 だからと言って二人ずつ転移してくと合計5時間はかかっちゃう。それじゃ結局歩くのとあんまり変わらないし。
 それに私が先に行っちゃうと、残った人達が衰弱しちゃうかもしれない。
 ……んー、修行をサボってたツケが来ちゃったな……」

 歩こうと提案したのがサラだったのはそういう理由があったのかと、クラウスは改めて納得する。
 そうしてサラは説明を行った後、皆に向けて「ごめんね、大変かもだけど頑張って」と付け加えた。
 クラウスは適度な睡眠さえ取れれば無尽蔵と言っていい体力がある為、その辺りの感覚には鈍感だ。それに対してサラはタンバリンの再生能力があるとはいえ本来の体力的には一般人と変わらない。
 確かにそう考えれば、サラがいてくれた方が心強い。
 女性達の中にも勇者や魔法使いはいるものの、聖者の加護のおかげか平和な時代が続いていた為両者とも一般人に毛が生えた程度。
 旅人の片方である魔法使いのソシエも、傷を癒すことは得意にしているが一緒に居たのが勇者のマヤだったおかげで最悪おぶって貰えば良いという考えで行動していたらしく、体力管理には疎い様だった。
 その言葉通り、現在は三人の少女のうち二人をマヤが肩に乗せていた。
 一人は歩くと言うのでともかく、特別大柄でもないマヤの方に10歳位の少女が二人乗っているというアンバランスな状態となっている。
 本来はクラウスがその役割を果たそうとしたのだが、村での恐怖があったのだろう、誰一人近付くことは無かった。
 どちらにせよもしもの時にはクラウスが守らないといけないので一人しか背負うことは出来ない。
 でも一人ならマナで慣れているから、と言ったところでそれに関心を持つ者も現れなかった。
 一人を除いては。

「あれ、お二人は初々しい感じでしたけどもうお子さま居るのですか。手が早いですね……ん?」

 女勇者マヤは、朝方サラに身をもって忠告を受けたことを既に忘れているのかそう言うと、途中で首を傾げる。
 その視線の先にはサラが顔を赤くしているが、どうやらそれが理由では無いらしい。

「僕達の子どもではないです。まあ、娘だと思って可愛がることにはしてますけど。どうしました?」
「へ? いや、自分で言っててなんか違和感があったんで」

 何やら一人で首を傾げているマヤは、「んー? お子さまってのが違うのかなぁ?」と何やらぶつぶつと呟いている。
 その意味が全く分からないので、考えうるのは一つだ。

「マヤさんの力って何なんですか?」

 勇者の力は時に自分では制御出来ない。
 ミラの村で生まれた英雄エリーも、自然と心を読めてしまうが故に村で気味悪がられていた言うし、英雄アリエル・エリーゼも自身の力に振り回されたと聞いている。
 それと同じ様な類のものなのなら、一人で不意に疑問を持ち始めるのもおかしなことではない。
 まあ、そもそもこのマヤという女勇者は少々残念な感じもするので考えすぎという可能性もあるのだけれど、と考えたところで、マヤは後頭部を掻きながら恥ずかしそうにはにかむ。

「いやー、お恥ずかしい。私自分の力がなんなのか全く分からないんですよ。ねえソシエ、私の力ってなんだと思う?」

 はにかみながら、背後のソシエを振り返る。
 質問を受けたソシエから返って来た言葉は、興味も無いとでも言いたげな素っ気ないものだった。

「……知らない」

 ソシエは随分と大人しい印象の魔法使いだ。
 出会ってからこれまで眠そうな顔を変えることも無く、表情を余り表に出さない。
 ある意味ではマヤと真逆の印象だが、それはそれで相性は良いのかもしれない。
 今も「考えてよー」「じゃあ、鬱陶しいのが力」などと言い合っている。
 レインと聖女が好きだと言いながら、随分と対局にある二人だなと思いつつ、クラウスもその会話に入ることにする。
 せっかくマヤが打ち解けてくれたのだから、いつまでも怖がれているのももどかしい。
 マヤの両肩に乗った少女二人もちらちらと見ているのが何処か気まずいものはあるけれど、流石にそんな視線そのものにはもう慣れている。

「マヤさんは僕と一緒なんですね。僕も自分の力が分からなくて、いつも膂力と技術だけで戦ってますよ」

 ここから展開される会話は、例えば英雄の子どもでもそんなことあるんだ、だとか、もしかして時雨流? だとか、力無しで戦う技術はどこで教わったのか、だとか、へえ一緒ですね、だとか。
 そんな極々ありふれたものだと考えていた。
 時雨流の質問は下半身的に危ないのかもしれないが、それ以外は問題ない会話だろう。
 しかし、マヤから返って来た返答は、全くもって予想外の言葉だった。
 思えばこの女勇者は、最初の会話からしてクラウスの想定を悉く打ち破って来た奇想天外な勇者なのだということを、まだ誰も知らなかった。
 いや、彼女は奇想天外ではなく単純にストレートな、そんな力を持っていることをまだ誰も知ることが無かったのだ。

 マヤは驚いた顔で言った。

「え? クラウス様の力って勇者を食べることなんじゃないんですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...