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始まりの門

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「になやましろ あなたは死にました」少女は僕を哀れむような目をして話しかけてくる。
そりゃ、そうだ、ミノタウロスに食われたんだもん。 死なない方がおかしい。 でも、僕はこの言葉を聞いた瞬間、夢の続きを見ていることを確信していた。
なぜならば、そんなことないはずだからだ。 僕が本当に死んだ? ないない だって、夢だよ。 確かに夢の中なら死んだけど、現実では生きているし。 怖いエンディング? まだ終わっていないからエンディングではないか。 で、死んだけど夢なら何度死んでもOKのはずだし。 そんなことを考えていると少女が話し出した。
「だから、あなたは死にました」少女はもう一度言葉を発する。 次の言葉は最初の言葉よりも大きな声ではっきりと。
「またまた、夢である死後の世界の話って感じかな 今回の夢は初めての体験がいっぱいで楽しいな」僕は少女の話を無視し、独り言を言う。
少女はやれやれという顔でこちらを見てくる。 少し考え事をしているように、手を口に当て静止している。僕はやることがなく暇だから、とりあえず少女の胸に手を伸ばす。 先ほどの少女Bとは違い、豊満ボディーではなく貧乳ボディーであったが触るときはドキドキする。 そして僕は少女の後ろに回り、胸を両腕で揉みだした。「ヒャンッ」かわいらしい声が周囲にこだまする。
僕は、「かわええのぉ、かわええのぉ」と変態親父のように執拗に胸を揉みしだく。
少女はかわいらしく「いやぁ、やめて うぅ やめて そこは さわらないでぇ」そしていやらしく僕にあえいでくる。
その光景に僕は興奮を覚えてしまい「ここが気持ちいの? こことかどうかなぁ ここはぁ」といやらしく呟きかける。
少女は泣きそうな声で「なぁ、なんで、うぅ そんなぁこと、するんですかぁ」僕に質問する。僕はこの質問に興奮してより一層、胸を揉みだした。
いい加減、少女もこの状況から離れたかったらしく、腕を振り払い「いいかげんにぃ……しなさい!!」と僕の腕を振り払った。 
少女は「はぁ、はぁ」と僕をにらみながら胸を腕で隠している。 少女の目は最初の方とは違い、僕を気持ち悪い何かを見るような目になっている。 まあ、僕のした行動を考えたら当然だが、夢の中までこういう反応をされると、正直ショックだ。僕のイメージでは「やめて、やめてよぉ 胸を揉まないでよぉ そんなことをするお姉ちゃんなんて嫌い フーンだ」レベルの会話になると思っていたのだが、そんなことなかった。 今回の夢は本当につんつんしている。 まあ楽しいからいいけど。

少女は僕から少し離れたところからまた説明を始めた。
「になやましろ あなたは死にました」威厳のようなものを取り戻したいのか、再度最初と全く同じよな説明を開始する。 僕はいい加減この状況をどうにかしないとと考え次のような質問をした。
「じゃあ、万が一死んでいたとしたらさ その証拠を見せてよ」これはどうしても答えられない質問のはずだ。 だって僕死んでないしね。 
その質問を聞いた瞬間、少女は軽くガッツポーズのようなものをし「わかりました 二つほどあるので証拠を見せましょう」と答えた。 これは想定通りの返し、どうせ整合性が全くない謎の死にざまが出るんでしょ。
少女は空中に指で四角を描き出した。 少女が線を描いた軌道には、光の線のようなものが残り、最終的には巨大モニターのようなものが作られた。 そこにはまず一つ目の光景。 
僕の家だ。家には二人の人間がいる。僕の両親だ。 二人とも下をうつむきながら泣いている。 なぜこの二人は泣いているのか理解できずにいたが、奥の写真のようなものを見つけ、僕は驚愕した。 これは、僕の写真……。 そう、お父さんと、お母さんは僕の写真を仏壇に飾っていたのだ。 悪趣味な夢だ。 いくら夢だからと言ってこれほど悪趣味な夢はない。 家族が悲しんでいるのを再現するなんて。 それも夢の主が死んだことによってなんて、あまりにもひどい。 
僕の表情を見て、少女は悲しげに「本当に死んだもう一つの証拠です」と先ほど作った空中モニターを切り替えた。 そこには一人の少女が、よくわからない液体から半分だけ出ている状態を映し出していた。 見覚えのある髪の毛、黒髪のポニーテル。 見覚えのある顔だち。 毎日鏡を見て確認した顔。 見覚えのある服。 行くのが億劫でしかなかった学校の制服。 これらすべて僕を形づくっていた要素だ。 僕は半笑いになりながら、確認をする。 
「これ、僕だよね」少女は当然と言わんばかりにうなずいてくる。
そして、僕はたまたま、見てはいけないものを見てしまった。 それは液体に沈んでいる体の半分、正確には右胸から下の部分。 本来あるはずのものがなくなっていた。 簡単に言うと、いろいろなものが溶けていた。皮膚はどろどろの液体のようになっている部分と、そうでない部分が混在し、人体模型や健康番組でしか見たことのないようなものが少しずつ見えている。 少しづつ、と言うか完全に見えている。 場所によっては、完全に溶け、骨だけの場所になっている箇所まであった。 僕はそんなグロ画像を見たことがない。 ましてや自分の体が溶けている画像なんてそうそう見れない。 そんなショッキングなことがあり、僕は「おえぇ」と嘔吐をしてしまった。
そして、叫び出す。
「なんだよ、この夢、おかしいよぉ 悪趣味なものばっかりみせやがって 早く目覚めてよぉ こんな夢もう見たくないよぉ どうか、お願いだから早く目覚めてよ、僕」悲痛な叫びをしながら、また僕は嘔吐をし、気絶をした。

心配そうな顔で少女が僕を抱きしめている。 先ほどまで僕の目の前でプンすか怒っていた少女だ。 怒っていた時とは違い、優しさに満ち溢れ、まるで母親のような包容力を持ち合わせている。 そんな少女の胸を借り僕は泣いていた。 二つ目の光景を見た瞬間、僕はこれが夢でないことを察してしまっていた。 先ほどまで戦っていたミノタウロスの腹の中なのだろうと分かっていたからだ。 いくら夢でもここまで、整合性があるのなんてほとんどない。それに、僕が想像していることすべてことごとく外れているし。そんな現実から耐えられずに僕は叫んだり、吐いたり気絶したりしていたようだ。 要はこれが現実と言うことだ。
僕は少女の胸を借り今までの後悔を述べる。
「僕、本当は学校で楽しく暮らしたかった 友達とか作って、時々けんかして、カラオケに行って買い物して、時々は友達と恋バナとかして 最高の学生生活したかった 僕を好きと言ってくれる人と一緒に楽しいこともしたかったし、男友達を作って、時々からかったり一緒に笑いあったりしたかった お母さんやお父さんとももっと話をして、将来の相談とかしたり、就職の相談とかしたりしたかった 結婚とかして、充実した人生を送りたかった」僕は泣きながらとにかく思いつく限りのやりたいことを言っていた。
それに対して、少女は「そうだよね、そうだよね いろいろしたかったよね もっと生きたかったよね」と僕を慰めてくれる。 なんていい子なのだろう。 天使がいるのならばこんな少女なのではないかと思った。

一通り泣き終わると少女は僕を抱きしめながら、あることを述べ出した。
「もしも、もしもですよ この状況から生き返れるとしたら 生き返りたいですか?」まさかの言葉に僕は驚愕していた。
「へ? それはどういうこと」僕は再度説明を要求する。
「混乱してしまいますよね まあ、蘇れるんですよ あなたが望めば どうしますか」少女が言っていることを理解した僕は、当然「蘇りたい 絶対に蘇りたい 後悔はもうしたくない」と強く言う。
少女は、僕を抱きしめたまま、悲しそうに「蘇りたいですか そうですよね」と述べる。
なぜ少女が悲しそうな顔をしたのか僕は理解できなかった。 この状況で蘇りたくないという人の方が珍しい。 何せ、人生をやり直せるなら当然望むはずだから。 まあ、そんなことどうでもいい 僕は今蘇られると聞いただけでとてもハッピーだ。 とにかく早く蘇りたい、早くいろいろしたい。後悔全部をやりきって最高の人生にしたい。
少女は相変わらず悲しそうな顔で蘇りに必要な話を聞かせてくれると言う。
「蘇りですが、実は何個か制約のようなものが付きます まず一つ目、あなたは原則として死んだ世界でしか蘇りはできません 今回で言うと異世界ルザードのみです」少女が事務的に説明する内容を聞き、僕は後悔半分以上実行できないことを知った。
「それじゃあ、もう前の世界でやりたいことはできないってことなの?」当然の質問をする。
それに対して、少女は「そうとは限りません ルザードとあなたの世界は定期的につながります その時を狙えば帰れます」と希望を与える一言をくれる。
「では、説明に戻りますね 二つ目の制約です 蘇る場所は絶命した場所、死体がある場所限定です 今回はミノタウロスのおなかの中ですね」平然と説明をする少女に再度質問を投げかける。
「それってまずくない? だっておなかのなかでしょ また溶けちゃうじゃん」僕の疑問に対し、
「それは大丈夫です その状況を打開できる能力をあなたに付与します それで乗り切ってください そして、四つ目ですが、これが特に重要です この制約をすべて同意すると、あなたは人間ではなくなります いいですか?」最後の制約が気になるが僕の考えはもう決まっていた。

「すべての制約を飲むよ僕は」
「わかりました では儀式を行います」少女は僕の周りに円のようなものを指で描き出した。 複数の円からなる特徴的な模様、よく読むことができない文字の羅列その他、いろいろなシンボル。 すべて書き終わるのに大体30分ほどかかったが、僕はワクワクとしながら蘇るのを待った。 そして……。
「準備できました この言葉を詠唱してください ……」ここの部分だけ僕の記憶からすっぽり抜けていた。そして、儀式が終わり目の前には門のようなものがある。 装飾が凝っている門だ。 蛇や草が絡まったよくわからない模様で少し不気味。 今はそんなことより蘇りが楽しみだ。 どのようになるかワクワクしている。 だが、その前にやらなければならないことがある。それは……。
「あのさ、ありがとう 蘇らせてくれて この命大切にするから」僕は少女に向かって感謝の言葉を述べる。
「大切にしてくださいね どうせまた来ることになるとは思いますが、それまであなたの活躍を楽しみにしてます」僕に対しこの言葉はブラックジョークに聞こえるが、彼女なりのあいさつなのだろう。
「じゃあ、また、いつか会おうね」最後の別れをし、僕は門へと入っていた。
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