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第三章 初心者がやってきた!
「ここは僕に任せてくださいっ」
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今日という秋の入りに、前キャプテンの美々実さんが久しぶりに部活に遊びに来て、相変わらずの花を背負った眩しさで笑った。俺たちの永遠のアイドル、届かない高嶺の花、そして文バレ界の数少ない女子の内の一人だった、いつまでも憧れのままの人。
「ようお前ら、がんばってるか」
彼女には新古今高校の制服がとても似合う。緑のネクタイとグレーのスカートが、この上なくしっくりくるのだ。キャプテーン! と二年生全員が駆け寄った。今のキャプテンは俺なのだが、未来永劫の初代は彼女に他ならない。
美々実さんが引退した直後、女子のいない部活の無味乾燥っぷりには一同唖然としたものだ。真っ黒なオールバックのポニーテールがこんなにも映えるマニッシュな美少女を、俺は他に知らない。麗しい見た目なのに、性格は戦国時代の武将が入ってるんじゃないかと噂が立つほどに豪気で自信家な先輩である。
文芸バレーボール部の部員は決まって三年生に進級する少し前、春休みの終盤に開催される全国大会で引退する。だから受験の年には部活動に参加できない。美々実さんは去年、三回戦敗退に終わった大会のあと、アリーナの壁に拳を幾度もぶち当てて怒っていた。
「くそ、負けで終わりかよ。ちくしょう、三年生にも文バレやらせろよ」
そう言いきるや否や、彼女は泣いた。
副キャプテンだった欅平翼さんも相当悔しかったのだと思う。無念の引退が決定した瞬間のことだ。前髪に緑メッシュが入った茶色い頭を汗で湿らせ、膝に手をついて真下を睨み、額から雫を落としながら、彼は宣言した。
「俺は日生大に入って、文系の勝ち組に返り咲いてやる」
そのときの引き締まった横顔が、今も脳裏に焼きついて離れない。
日生大。日本再生大学。あの協会が設立した、日本文化の継承に特化している、誰もが知る超名門大学だ。華道・茶道・書道を始めとし、日本文学を深く学ぶ学科もある。
そんなプライドが高い欅平さんは、美々実さんと恋人同士だったりする。なお告白は欅平さんからだったらしい。余談だが。
前キャプテンと面識のないジョージと内田は、急に現れた美しすぎる女子高生に驚いて、こちらを落ち着かない様子で見ていた。彼女はそこらの駆け出しアイドルよりよっぽど愛想のいい顔をほころばせて、押し寄せた後輩たちを受け入れる。
「おーっ、まとちゃん相変わらず背伸びないな。キャプテンできてるか?」
小柄でかわいらしい容姿に反して、ずいぶんと男勝りな口調で可憐に笑う。
「はい、なんとかやってます」
「そうか。えらいな、まだ小学生なのに」
「いや高校生ですよ!」
言い返すと美々実さんは両手で口を抑え、ニケやるのをこらえる顔……?
「先輩いつもそうやって俺の身長いじりますけど、小学生の平均よりは遥かに上ですからね」
続けて文句をつけると、麗しの元キャプテンは唐突に身悶え始めた。
「かわいい。まとちゃん相変わらず怒った顔もかわいい~っ!」
出た。そういえば、こんな人だった。先輩は目尻をぐんにゃり下げて尚も指さしてくる。
「え、え、なんだよう、小学生の平均よりは高いのか? それはつまり、気にして小学生の平均身長を調べちゃったってやつか。まとちゃんもうかわいすぎか、もう!」
本当に、そういえばこんな人だった。久しぶりすぎて忘れかけていたが彼女は、ストライクゾーンは揺りかごから一歳下までと言い張ってしまうほどの、重度の年下好きなのだった。そのくせ彼氏は同期の欅平さんで、うまくいっているから不思議である。
……とりあえず話題を戻そう。
「先輩こそどうなんですか、受験のほうは」
すると彼女はフッとわざとらしく視線を流し、こう告げた。
「よくぞ尋ねてくれた。私がなぜ久々に顔を出したか、わかっていないようだな。よく聞け後輩たち。このミミさんはな、ついに志望大学を決めたから宣言しに参ったのだ。この度、この桐島美々実は、日生大を受ける決心をしたぞーっ!」
おおおおお、と四つ声が重なる。言いながら引っかかった。そういえば美々実さんの苗字は歌仙のあいつと同じだったか。こんな偶然もあるものだな。
ヒイロがほぼ無表情のまま、勢いよく身を乗り出した。
「え、ミミさん、あの日本再生大学に挑むんですか、欅平さんも受ける」
「近い近い近い。ひーろ急にどした」
「俺も日生大志望なんです」
やつは当たり前のように答える。美々実さんは嬉しそうに軽く背伸びをして、高い位置にあるヒイロの短い前髪をわしゃわしゃと撫でた。
「そうなのか。えらいな、二年生のうちから決めてるんだな。来年、絶対に受かって来いよ。私は今年受かってみせるから。大学でも先輩後輩になろうな、ひーろよしよーし!」
舌打ちをしそうなところだが、美々実さんが相手だとヒイロは随分と大人しい。
「ミミさんは、大学でも文バレ部に入るんですか」
見上げる前キャプテンから目をそらして、照れながら尋ねてやがる。彼女は気さくに笑う。
「おうよ。ひーろも日生大来たら入る?」
「そのつもりです」
「よーっしゃあ! 私は大学でもこのイケメンを率いれるというのだな、眼福」
本当に、口を開けば後輩を絶賛するばっかりだな。ちなみに今は居ないが、美々実さんの彼氏である欅平さんが居たとしても同じ調子なのだ。内心嫉妬してないのかな、欅平さん。
「でで、今年はどんな一年生が入りましたん」
美々実さんは楽しげに体育館中を見回し、内田に目を止め、形容しがたい歓喜の声を上げた。ホームに滑り込む野球選手のように床を横滑りして距離を詰めた。今の、絶対痛い。
「きゃあああああ、なんだこのショタは! 小動物じゃないの? かわいい。かわいすぎる。何この子うさぎみたい、うさちゃんって呼ぼう、うさちゃーん!」
さすがの内田もその勢いは怖かったようで、ジョージの後ろに隠れた。美々実さんは盾になったやつを見上げる。そして、でかっと声を上げて一歩後ずさった。赤毛の後輩は脱力した笑みを浮かべ、片手を適当な位置に上げピースした。
「どうも、一年生の遠道常侍っす。先輩すげえ美人っすな、付き合ってよ」
「軽っ。なんだお前、いい性格してやがんな。そのテンション好きだわ」
「あ、ほんとに? 好き? じゃあ」
いやいやちょっと待て、とソウルが割って入った。速見も慌てて告げる。
「あのな、ミミさんにはもう彼氏がいるんだぜ」
「まじすか」
「おうよ。元副キャプテンの、ケヤキダイラウィング大先輩さまなんだぜ。運動神経バッツグーンで、頭脳キレッキレで、性格はイケメンなんだぜ!」
こいつ無意識に顔だけは否定してしまったな、と思ったが言わないでおこう。
ジョージはへらっと、いつものふざけた調子で笑う。
「えーそうなんすか。んじゃミミさん、今すぐ俺に乗り換えよっか」
「おいこら遠道」
内田が声と表情は通常で、だが手の動きはすごく俊敏にやつの背を強く殴った。美々実さんは逆三角の口をして目を丸くしている。その小さな唇が、うろたえたように開く。
「ごめん。それはむり。ウィングと別れるつもりはないんだ。ごめんな」
出た。破天荒なくせに、この先輩は意外と冗談が通じない。
「あれ。本気にされちゃった」
というジョージの反応を受けて、途端に赤くなり彼女は手のひらで頬を覆った。
「う、うあ、からかわれただと! 許さん」
言葉は強気だ。欅平さんは、こんな、こんなかわいい方と付き合っているのか、くそっ。羨ましすぎて俺もう欅平さん嫌いだ! 嘘です尊敬してます。ああもう。
美々実さんは深呼吸をしてから、本当びっくりしたわ、とまだ赤い顔で笑い床に足を伸ばして座る。それから少し申し訳なさそうな表情をして、こう続けた。
「で、今日来た理由がもう一つあるんだよな。だいぶ前の話になるけど。歌仙との練習試合では、うちの書籍くんが大変ご迷惑をおかけしました」
えっ? と、新古今六人の声が揃う。
「うん。あれ私の弟」
黒いポニーテールを揺らし、俺の憧れの人は大きなツリ目を細めて笑った。体育館に、なんとなく不穏な空気が流れ静かになる。俺は息を大きく吸い言った。
「いやいやいや弟いるとか聞いたことないんですけど!」
「言ったことない!」
間のない返答だった。よもや、また家庭事情云々の、踏み込んではいけないところだっただろうか。美々実さんは困ったように苦笑してから、ポツリと言った。
「実は、かなりのブラコンなんだよなあ、私」
「え、じゃあ逆に言うものじゃないんですか」
聞くと彼女は真剣な顔で首を振る。やれやれ参ったぜ、と言う風な振り方だった。
「それが逆の逆なのだよ、まとちゃん。ブラコンすぎて語り出すと止まらないので今までずっと自粛していた。練習時間を全て弟語りで潰しかねん。だがバレてしまっては仕方ない」
嫌な予感がする。俺たちの元キャプテン、この残念な美少女は勢いよく続けた。
「ちょっと小一時間、いや小三時間、書籍くんについて語っていいかな!」
家庭事情云々なんて、一瞬でも心配しなければよかった!
それから一週間後のことだ。
「ルールブックを読みましたよ。もう一度戦ってくださいよ」
練習中にまた、六人のぴよぴよが体育館を覗いた。懲りずにひっつき虫を付けている。今日も今日とて迷子になってから来たらしい。ほんと、徒歩十分圏内なのにな。
「今から?」
やつらは真剣に大きく頷く。改めて見ると確かに、桐島書籍は美々実さんと目がそっくりだった。それにしてもあの人の弟でありながら、一分間で失格のルールを知らなかったとは凄まじい抜け具合だ。姉に色々聞けばいいのに。美々実さん曰く、
「書籍くん、人に頼るの嫌がるタイプなんだよな。去年の全国大会を見て、おおまかなルールは把握したみたいだけど、一分間の失格例は全国大会ではもちろん見られなかったし」
とのことだった。見られるわけがない。ルールブックさえ読んでいれば、あんな初歩的な失格をするチームなどありえないのだから。つまり桐島弟は前回、全国大会だけを見て得たド素人な知識のみで挑んできたらしい。ひどい心構えである。
「無茶言うな。スケジュールが乱れるだろうが。事前にアポを取れ」
「それでは、今取りますよ。五分後は空いてますか?」
「桐島お前、事前の意味をわかっ……」
期待に満ちた表情と目が合ってしまった。弟と遊んでやってよ、とでも言いそうな美々実さんの気さくな笑みも思い浮かぶ。ため息をつき、頷き返した。
「わかった。五分後な」
わあ、と七三分けの坊っちゃんは顔をほころばせる。
「本当ですか。感謝しますよ、まとさん!」
「え、まとさん?」
「あっ、はい。姉の話の中では、いつもあだ名で登場してらしたので、この呼び方に馴染みがあるんですよ。でもまとちゃんとお呼びするわけにはいかないので」
「前会った時にお前から、誰さんですかと言われた記憶が」
「うああ、ごめんなさい、フルネームは知らなかったから確認したんですよおお」
いちいち大袈裟な身振り手振りをする。見れば見るほど姉弟だと実感した。夏の練習試合で気づけなかったのが不思議なくらいだ。言ってくれたらよかったのに。姉弟そろって変なところで秘密主義だ。この少年が俺たちを呼ぶ響きは全て美々実さんと同じだった。まとさん、はやみんさん、ひーろさん、そーるさん、うさちゃん、えんどー。内田は美々実さん自体は苦手らしいが、付けられたあだ名は結構気に入っているらしい。
「わあい。うさちゃん」
やつは満面の笑みで両手を頭の上に持っていき、ぴょこんとした。さみしくても延々生きられそうなこいつが、うさちゃんとはどういうことだ桐島姉弟。うさぎなのは第一印象だけだぞ。あざといアトムだぞ。略してあざとむ。
コートの向こうにまたホビットたちが並ぶ。ルールブックを読んだくらいで劇的に成長することはないと思うが、油断は大敵だ。今回の先攻はあちらである。俺はバックセンターに立つ。右にソウル。左に内田。前列には左からジョージ、速見、ヒイロ。
敵陣のバックレフトにいる桐島書籍が、
「いきますよ」
意気込んでボールを上げた。そして彼は、こう打った。
「まーじーかーるーばーなーな!」
「待って」
飛んできたボールを、つい叩き落とす。新古今のみならず歌仙もどよめいている。
「ねえキリちゃん今の何」
敵の一人が、ひきつった笑顔を浮かべて棒読みで言った。うろたえて周囲を見回す桐島。そして尺八が高く鳴、え、古井先生いつからそこに。先生はううむと唸ってから頷いた。
「今のは、見なかったことにしよう。初めからやり直し」
投げた本人だけが目をしぱたたかせて首を傾げている。
「おい、キリとやら。どういうことだ。ルールブックを読んだんじゃないのか」
聞いてみると、坊っちゃんは大真面目にこう述べた。
「読みました。マジカルバナナのようなものだと書いてありました」
「それ序文だよ、どういうことだよ」
「はい。手始めに序文を読みました」
「ふざけんな。全文叩き込んでから来い」
それに対して桐島は肩を震わせ、怯えた声を張り上げた。
「全文を読むなんて、そんなことをしたら、二年以上かかってしまいますよ。だって、だって僕は活字が苦手で、読むのがすごく遅いんですよ!」
衝撃的な事実!
「なんでそんなやつが文バレ部立ち上げて、キャプテンやってるんだよ! 周りのほうがルール把握してるじゃねえかッ、あっ、ごめん」
つい言ってしまった。白いボールを拾い上げ、キリは姉によく似た顔で深くうつむき、泣き出しそうにとつとつと話し始める。
「だ、だって、う、うあ。実は僕、元々は、国語が苦手だったんですよ。姉がいつも楽しそうに部活の話をしてくれてたんですけど、何がそんなに楽しいのか、ずっとわからなかったんですよ。そしたら姉は、言ってわからないのなら見てみろって、今年の春、文バレの第一回全国大会に僕を連れて行ってくれたんですよ。そのときコートの中の姉が、」
そこでやつは、一息ついた。顔を上げて目を輝かせる。
「とてもかっこよかったんですよ! 皆とっても輝いていて、国語っていいなって、僕、初めて思えたんですよ。だからこれからは僕も本を読んで、文芸バレーボールをしようって、心に決めたんですよ。だから、あの、でも、活字はまだ苦手なんですよ」
言い切ったと思うと腕で目をこすった。本当に、この泣き虫ダメキャプテンは。歌仙の他のメンツは眉を下げて苦笑している。例のパッツン前髪のだからだから言う少年が、
「でもキリちゃん、一ヶ月かけて序文は読みきれましたから!」
俺たちへ必死に弁明しながら、キリの肩を励ますように叩いた。恵まれたやつだ。とうに見捨てられていそうなものを。いい仲間に囲まれているんだな。パッツン前髪が改めてボールを持つ。古井先生が、気を取り直して、と尺八を構えた。
「歌仙高等学校 対 新古今高等学校 練習試合 開始」
あの時の聖コトバのような卑怯な戦いが、この夏休み中の練習試合で全国各地に発生したという。そのせいで協会にクレームが行ったらしく、つい最近ルールが一つ変わった。出題範囲は、基本的に国語便覧からとする。歌仙が選んだ言葉はこれだった。
「宮沢賢治!」
それを聞いた途端に内田が嬉しい叫びをあげた。
「ふええ!」
落ち込むときと同じ音だが、声の調子で今回のこれは喜びとわかる。左を見ると普段のわざとらしさが微塵もない、心からの笑顔が目に入った。うさちゃん、を納得しそうになる。
「どうしたアトム」
ソウルがバックライトから聞く。
「大ファンなんです。あのね、大ファンなんです」
二度も言って、やつはボールを目で追った。そして、
「イーハトーヴ。エエーイッ」
弾んだ声と共に、排球は歌仙側へ戻る。イーハトーヴ。宮沢賢治が書く童話に現れる舞台であり、彼の思い描く理想郷を指す。作者の故郷である岩手県が大元のモチーフだ。内田は背筋を伸ばし、瞳を澄み切った薄茶に光らせ、小さな握りこぶしを二つ、顔の横に作った。
「ここは僕に任せてくださいっ」
こんなに自信満々な内田は今だかつて見たことがない。いきなり、やつの後ろに眩しいものが広がった。後光だ!
相手のフロントレフトがこう打ち返した。
「注文の多い料理店」
賢治が初めて世に出した、イーハトーヴ童話の原点となるタイトルである。仲間の迂闊な発言に対して、ホビット集団はざわめきだした。
「ちょっと、向こうには賢治ファンがいるんだよ。今の返しはまずいよ」
「でもイーハトーヴに対して、他に何が言えたの」
小声のやり取りが聞こえる。返ってきたボールを内田はレシーブで叩きだす。
「春と修羅」
注文の多い料理店と同時に刊行された、賢治の初詩集のタイトルだ。
さあ、歌仙はどう出る。このまま宮沢賢治の著作を、どちらかが諦めるまで延々と言い合う長期戦にするか。それだとこっちの勝ちは自明だぞ。バックライトにいる、身長高めのパッツン前髪がキッと目をつりあげて、その二冊が刊行された年を叫んだ。
「千九百二十四年」
甘っちょろいスパイクが飛んでくる。話題を変えようと必死なようだ。しかし歌仙、知らなかったようだな。具体的な年号を言うのは、負けフラグだ。内田はひるまず身軽に返した。
「賢治先生の作家デビュー」
よし、それだ。このように的を絞った発言は返しに困る。彼のデビューにまつわるエピソードを何か述べるしかないこの展開。どうだ、専門的だろう。歌仙高校は年で攻めてくるならせめて、明治時代などの幅広いものを選ぶべきであったのだ。まあ、そう言われようと内田が、宮沢賢治の著作を一つ返すだけだがな。残念だったな、歌仙の小さな後輩ども。ファンの前で年号を口にする恐ろしさを知れ。努力だけは評価するが、初心者の失敗だ!
なんて思った瞬間だった。パッツン前髪が、こう呟いた。
「ちゃんと知ってますから。デビューにまつわるエピソード」
なんだと。まさかさっきのは、ミスに見せかけた作戦だったとでも、言いだすつもりか。やつは落ちてくるボールを高く上げてスパイクを打った。
「自費出版」
あ、デビュー作二冊って、自費出版だったんだ。と豆知識に驚いている間に排球は到着していた。ぽすっと明らかに打っていない音がした。尺八が鳴る。
「一対零」
今、何が起こった。コート内を見ると、ボールは内田の腕の中にあった。やつは自分で自分に驚いているような、後悔だらけの真っ白な表情でこう述べた。
「初心者のくせによく知ってるなーって感心してたら、打ち忘れました」
どういうことだ。気持ちはわかるけど。かくいう俺も、歌仙の予想外の善戦に感心して手が止まったけど。だが内田、今お前のターンだっただろ!
「いや、びっくりしたんだぜ。アトムちゃん、球を打ちに行ったと思ったら、普通に受け止めたから何事かと思ったんだぜ。フォローのしようがなかったんだぜ」
速見が笑って言い、ヒイロも舌打ちをして頷いた。
「ごめんなさい。消えたい」
小さくこぼし内田はしゃがみこむ。意外だ。ふええすみませんと、またわざとらしい上目遣いをしてくるかと思った。心底落ち込んでいるようだ。
「念のために聞くが、今のミスはわざとじゃないよな」
聞くとやつは、べそ顔で俺を見上げて淡々と呟いた。
「キャプテン、ひどいです。素に決まってるじゃないですか。敵に点を渡してまでして、ドジっ子アピールをする必要性がわかりません。僕はわざとミスをしたことなんて、今までにも一度もないです。ええそうです、素で足手まといなんです。くたばれ内田ですよね。あ、踏んどきますか。ちょうどしゃがんでますし」
このままゼリー状になって床へ吸われていきそうな勢いだ。小さな手を思い切り引っ張って、現世に連れ戻すような気持ちで立ち上がらせた。
「面倒くせえ! いいから立て、しっかりしろ。わざとじゃないのはもう十分わかった。いつも通りふええとか言っとけ、今回はそれで許してやる」
「ふええ……」
「はい許した!」
全く。こいつの浮き沈みの激しさはいったいなんなんだ。歌仙のキリが、
「あっ、それでは、」
と会話の間を狙って打つ宣言をしようとした。それに気づかず、
「でも次は自費出版で再開か。そういう文献って、他に何かあったかな」
ソウルが首をかしげる。相手コート内でタイミングを逃したホビットたちが困っている。おい歌仙、ここで待ってしまうと負けるぞ。点を取れたときには作戦会議の暇も与えないくらいに、次々と打ち込むのが勝利の鍵だ。撃て。
「別に自費出版された本とは、限られてないと思うんだぜ」
速見が考え込む様子で斜め上を見た。ソウルがメガネを乱反射させる。
「つまり?」
「だからよ。自費出版について書かれた本とかがあれば、そのタイトルを言うってのも、ありなんだぜ。ちなみにオイラはそんな本、一冊も知らないんだぜ!」
堂々としたサムアップに、残る五人の感嘆がこぼれる。
「逆にすごいよな。ひらめきに知識が追いついてなさすぎて」
ソウルの天然地雷どーん。
「よせやい、照れるんだぜ山ノ内」
ほめてないんだぜ。全く、そのひらめきを生かしてほしいから、勉強しろと俺はいつも言っているのに。速見が元々持っている能力は、かなり高いのにな。
だが、なるほどそうか、自費出版について書かれた本か。例えば、なんだ。ここまで作戦が定まったところで、キリがついに声を張った。
「再開しても、いいですかーっ!」
ヒイロが眉をしかめて舌打ちをした。ジョージが笑って片手を上げる。
「もうちょい待って。もうちょいで、すごい返しが思いつきそうだから」
キリは困り顔で頷いてから、仲間たちを見た。歌仙の誰もが目を泳がせている。
「あーあ。ここで頷いちゃうから駄目なんだな。ま、作戦会議が終わってから注意しやすか。そうした方が、こっちの勝運が上がりますし。なんつって」
ジョージが俺たちに向かって善悪を試すように肩をすくめた。最後まで戦法を練れるのはありがたい話だが、我々は今すぐ、歌仙高校に正しい戦い方を伝えてやるべきではないだろうか。先輩として。それ以前に、人として。
「おい歌仙」
「バカですかあっ?」
内田と声がかぶった。左のサラサラショートを見る。敵陣に向けての言葉だった。やつは俺が言おうとした内容と、まるで同じことを続けた。
「何いつまでも待っちゃってるんですか。そんなんで僕らに勝つ気が本当にあるんですか。あ、もしかしてそれ、余裕アピールなんですか。うっわあ、なめんじゃねえよ初心者。遠慮して待ってるだけなら、さっさと投げろよ」
いや、まるで同じではなかったな。キリは大きなツリ目をいっぱいに見開き、はいと真剣に答えた。内田はこちらを向き、どんぐり眼で首をかしげる。
「今もしかして、キャプテンのセリフ取っちゃいましたか」
「まあ言い回しは違ったが、そうだな」
「ふええ! すみません」
気にするな、と低い位置の肩を叩く。すごいことだ。半年前は自分も初心者だった内田が、敵に向かって説教をした。ジョージがやつをこづいて笑う。
「先輩のセリフは取っちゃだめっしょ、うさちゃん」
「てめえはその名で呼ぶな」
「たはは、ひでえやアトム」
うちの一年生たちも、なんだかんだで少しずつ成長しているらしい。
「ではいきますよ。この勢いで、二点目を取ってしまったらすみません」
キリがまた生意気を言ってボールを構えた。しかし聞き流せない脅しだ。さっきの会話で行き着いたのは作戦まで。自費出版への具体的な返しは思いついていない。知識が足りない。
その時、ソウルが右から、俺にしか聞こえないくらいの小声で、大丈夫、と囁いた。
「小野、大丈夫だよ。池原が任せろって言ってる」
手話、と前を指差す。我らのヒーローは左手を背に回し、複雑に指を動かしていた。敵に悟られないための計らいなのだろうが、いやそれ真後ろにしか見えない上に、解読できるやつ限られてるから! 本当に、ヒイロとソウルを前後にしてよかった。
キリが二点目を確信した健やかな瞳でサーブを打った。
「自費出版」
ふと思い出す。美々実さんもよくしていた。点が取れることを確信したときに、自信に満ちたあの純真無垢な表情を。そして、
「浮かれ心中!」
確信を打ち砕かれた瞬間には、泣き出しそうに鳩羽色の目が揺らぐのだ。とても似ていた。フロントライトからヒイロが当たり前のように打ち返した排球は、きれいな孤を描き、オーバーハンドをやりそこねたキリの顔面に直撃した。ぽえ、と謎の悲鳴をあげてよろめく。名前を叫んで駆け寄る部員たちの声にかぶせて、尺八が情緒たっぷりに鳴る。
「一対一」
相手コート内は、大丈夫と尋ねる声の嵐である。キリはぶつけた鼻が少し赤いが大したことはなさそうだった。キャプテンの無事を確認してから小人たちは、
「で? 浮かれ? 浮かれ心中って何?」
と慌てだした。俺にもわからない。この場では恐らく、ヒイロと古井先生以外は今のハイスペックな返しを理解できていない。ふと、
「井上ひさしの戯曲だ」
我らのヒーローが、仲間である俺たちだけに聞こえるよう、こそっと補足した。なんだと。この冷徹なやつが、聞かれる前に親切に口を開いただと。
「その戯曲がなんで自費出版に繋がるんだぜ」
速見が聞く。珍しく舌打ちをせず、無口な副キャプテンは長々と話した。
「主人公である絵草紙作家の栄次郎が、売名のために自費出版で本を出す、というシーンが序盤にある。売名のためならなんでもするという人間で、終いには心中の芝居をして騒ぎを起こそうと試みるんだが、そのエゴの描き方が、面白くてな」
面白くてな、と言うとき微かに笑った。え? あのヒイロが笑った、だと。いつぶりだ。浮かれ心中、そんなに好きな作品なのだろうか。だが和んだのは一瞬で、
「ヒイロさん、相手は初心者なんすから、もうちょい手加減ってもんを」
と声をかけたジョージにはしっかり舌打ちを返していた。
「全国大会では誰もが本気だ。今からわからせておいたほうがいい」
「なるほど、スパルタっすな。そういうことなら俺、見習っていきやす!」
張り切る後輩に対しても、やつは無関心に、うん、と相槌だけを打った。なんて切り替えの速さだ。さっきの笑顔は幻覚か。
歌仙の六人は頭を抱えて延々と唸っているが、答えはいつまでも出てこない。ここで同情して待ってはいけない。キリの頭を叩いたボールは、向こうの身長高めのパッツン少年が胸にしっかり抱いたまま投げ返してこなかった。作戦会議を始めようとしている。
「おい竹谷。ボール返せ」
苗字の把握は、黄色い体操服の背中に印刷されているローマ字からだ。
「うっわあああーん! まとさんの鬼畜!」
彼はブンッと雑に投げ返してきた。まとさん呼びは歌仙の部員全体に広まっているらしい。
「先輩に鬼畜なんて言っちゃだめだよユグちゃん!」
キリが注意した。竹谷ユグがフルネームなんだろうか。パッツン前髪こと竹谷の投げたボールをヒイロが受け止める。そしてシルエットを体育の教科書の表紙に載せてもよさそうな、仕上がっているフォームでサーブを打った。
「浮かれ心中」
それに対して歌仙は、こう返してきた。
「心中物」
そう繋げたか。わからないなりに考えて、当たり障りのない返しを選びやがったな。わりと対応力が高い。フロントレフトのジョージが、
「そいじゃ、こいつは知ってやすかね」
と楽しげに前置きをしてからこう打った。
「世話物!」
キリが小首をかしげる。その眼前に一気に二人飛び出して、
「近松門左衛門つああーっ」
「世話狂言いったああああ」
派手に頭をぶつけ合った。ぴよぴよと目を回してから、
「おいっ、カイちゃん、なんで来たの、僕が先に走りだしてたのに」
「ひ、ひど、ひどいよまっちゃん、ほ、ほぼ同時だったと思うんだけどっ」
小さな二人は言い合いを始めた。フォローに複数人向かってしまうのは、各々の役割りがまだはっきりしていない初心者チームにすごく多いミスである。歌仙はあだ名で呼び合う風習があるようだ。どもりがあって気弱そうなのがカイちゃん、やたらプンスカしてて偉そうなやつがまっちゃん、らしい。「けんかしないでえ」と加わったのん気そうなチビは、まっちゃんから「のんちゃんは黙ってて!」と怒られていた。もうどれが誰やら。
「一対二」
古井先生は初々しい口げんかに微笑みつつ尺八を鳴らした。これで形勢逆転である。当たり前だ。文バレを始めてたった半年の集団に負けてたまるか!
「いいか。次は僕が近松門左衛門って返すんだからね。割り込まないでよ」
フロントレフトのまっちゃんこと、気が強そうなチビが釘を刺した。言われたフロントセンターの気が弱そうなほう、カイちゃんとやらは不満そうに頷いた。あいつ、幸薄そう。
世話物とは。江戸時代における町人社会が題材の、義理人情が描かれた歌舞伎や浄瑠璃のことを総じて呼ぶ名称だ。その中に心中物も含まれている。そして近松門左衛門は、多くの世話物を残した江戸中期の脚本家であり、世話狂言は、世話物の別称であるのだ。
試合が再開し、近松門左衛門と返ったボールをソウルがこう打った。
「杉森信盛」
すると予想外にも相手コートから、誰っ、と六つの悲鳴が響いた。
「あれ。マイナーか」
幼なじみはメガネを光らせて、きょとんと俺の方を見る。
「いや有名だろ。たしか授業でも習った」
「だよな。あ、でも一年生だからまだやってない範囲か」
「バカ言え。文バレ部員ならそのくらい予習しておくもんだろ」
「そうだな。ちょっと意識が低いよな」
飛んできたボールをさっきの幸薄少年が、かなり自信なさげに打った。
「近松さんの、友達?」
違う。それは弱々しく飛んで、ネットを越さなかった。歌仙の連中が、揃ってしゅんとした。すぐに「やだー!」と一人が駄々をこね「まなちゃん現実を受け止めてえ」と、のんちゃんと呼ばれていた気がせんでもないやつが言った。ここらへんで俺は、歌仙の連中のあだ名を覚えるのを半ばあきらめた。二文字ちゃんばっかりかよ。
「一対三。勝者、新古今高等学校」
尺八が高く響く。俺たちは達観した静かな気持ちで頷いた。ちなみに杉森重盛は、近松門左衛門の本名である。歌舞伎や狂言を少しかじっていれば答えられたはずの出題だ。
「あっ。ユグちゃんユグちゃん、今のがネットを越してたら、一分間の猶予ができてたよ」
「わ、本当だキリちゃん天才! 会話に持っていって、一分以内に立て直せば勝てたから」
キリと竹谷が博打的な作戦を、明るい表情で言い始める。
「おい、その考えはやめとけッ」
慌てて警告した。不思議そうに、ぴよぴよした瞳のやつらは見つめてくる。こいつら、全国大会でとんでもない失敗をしかねない。自分たちが不利になった時に、あえて会話に持っていき、一分のうちに軌道修正をして形成を立て直すという、ずるい上級テクニックがあるのは確かだ。だがこれを実戦すると、たいていは口論に発展して、軌道修正までに一分を越し両者失格になってしまう。もしこれを全国大会でやってしまった暁には、その恨みは末代まで続くだろう。失格になったチームは、その時点でどちらもランク外行きだからだ。第一回全国大会では全チームがこれを百も承知だったので、そんな悲劇は起こらなかった。起こらなかったから、キリたちは一分間で失格のルールを知らなかったのだ。
「だから不利になっても絶対に、会話に持っていくことだけは考えるな」
伝えると、歌仙のホビットたちは青ざめて、ただ、はいと言った。
コートの下から、ぴょこっとキリの小さい手が伸びる。
「試合終了のご挨拶ですよ。ありがとうございました」
自分の手より低い位置にあるそれを握った。こいつの背、たぶん文バレ界最小。
「なあキリ、お前はせっかく美々実さんの弟なんだから、あの人からルールとかコツとか教えてもらったらどうなんだ。ルールブックを読むより断然早いだろ」
言ってみると彼は驚いて、それから逆三角の口をきつく引き締めた。
「だめですよ。姉には頼らないって僕、決めてるんですよ。最初から最後まで自力でがんばりたいんですよ。そもそも姉は受験生なので、じゃまをしたらだめなんですよ。だって迷惑になってしまいますよ。しかも最近はもっと切羽詰ってて、彼氏と同じ大学に行くんだって死ぬ気で勉強し始めたので、一言たりとも話しかけるわけにはいかないんですよ」
美々実さんが言っていた通り、本当に頼るのを嫌がるやつみたいだ。あのお姉さんなら、受験勉強中だろうと大喜びで切り上げて、書籍くん書籍くんと構い倒しそうなものだがな。
「じゃあ他の部員に聞くとか」
提案してみると、キリはさらに眉をつりあげた。
「それこそだめですよ! だって僕、誰にも迷惑をかけたくないんですよ。あのですね、まとさん。僕は自力でルールブックを全部読んで、皆に一切迷惑をかけないまま、スキルアップするんですよ。誰にも頼らずに、迷惑をかけずに」
突然、内田がコートを出て向こう側に歩み、
「ふざけんな」
自分より数センチだけ背が低い少年に、思いっきりチョップを入れた。
「いったあ!」
え、アトムちゃん? と呟いて速見が引いている。今のキリの発言が、どうやら内田の逆鱗に触れたらしい。高い声は地声なので変わることなくそのままなのだが、どこか凄みのある笑顔になり、口調は突然キツくなった。なんと、胸ぐらをつかんで説教を始めた。
「なあ、ちょっと聞けよ桐島。なんでもかんでも自分だけで完結しようとする、その行動こそが迷惑なんだよ。知っといてね。てめえが仲間に頼らなかったせいで、前回も今回も、こっちは多大な迷惑をこうむってるんだよ。部活やめませんってなんだよ。マジカルバナナってなんだよ。活字が苦手ってなんだよ。一ヶ月かけて序文を読んだってなんだよ。言い訳ばっかりしてんじゃねえよ。仲間に一言頼んで読み上げてもらえば、序文くらい一時間で終わるからね。頼ることの大切さを、本当に知っといてね。あのね、迷惑だから。迷惑かけたくなくてやってるお前の行動が全部、現在進行形でものすごく迷惑だから。理解した?」
キリは涙目で、同じ年なのに敬語になって小刻みに頷いた。
「はい。すみません」
「わかればいいよ。で、おいこらそこの竹谷ユグ」
身長高めとは言ってもやつらの平均の中では上のほうにいるだけで、俺よりほんの少し低い竹谷は一歩後ずさった。内田はやつを覗き込み、声のトーンを落とす。
「このダメキャプテン頼むよ」
竹谷は恐れ戦いた表情で、大きく一つ頷いた。ふう、と息をついて内田は踵を返し、こちらに小走りで、はしゃいだ笑顔をして戻ってきた。
「言ってやりました。桐島のバカがね、くっそつまんねえ理屈ばっかり並べ立ててやがったので、つい黙らせたくなっちゃいました。すみません、えへへっ」
これは、あざといじゃなくて、成長じゃなくて、なんて言うんだ!
「アトムさーん、正論だったけど言葉は選びましょ」
ジョージがタレ眉になって笑い、やつの後ろに立って髪を乱すように撫でた。
「ふれるな遠道」
「ごふっ」
突然の肘打ち。通常の一年生コンビである。
「キリちゃん泣いちゃったじゃない。うさちゃんがひどいこと言うから」
歌仙の全員が小さな坊っちゃんを取り囲んでいた。かわいそうだが、人に頼れという内田の意見には賛成だ。言葉を選べというジョージの意見にも賛成だがな。
「ずびばぜん、僕、ごれがらば、周りに、ぢゃんど頼りまずよ」
止まらない涙をぐしぐし腕で払っている。まあ大切なことはちゃんと伝わったらしくて何よりだ。やつは懲りずに強気に顔を上げ、必死に涙を堪えた顔で前回同様また言った。
「まとさん。僕たち、全国大会では、本当に勝ってみせますよ」
この根拠のないハッタリは姉にそっくりだ。現役だった頃、練習試合に負ける度に美々実さんも、全国大会では倒してやると敵に向かって豪語していた。自分自身にプレッシャーをかけてるんだよ、と彼女はいつも笑っていた。
こうやって相手に宣言しちゃえば、もう立ち向かうしかないだろ。
「バカ言え。勝つのはこっちだ」
俺は強気に笑ってみせる。全国大会までは、あと半年。体育館のたくさんの出入り口から見える、暮れだした運動場には赤とんぼが舞い始めた。
「ようお前ら、がんばってるか」
彼女には新古今高校の制服がとても似合う。緑のネクタイとグレーのスカートが、この上なくしっくりくるのだ。キャプテーン! と二年生全員が駆け寄った。今のキャプテンは俺なのだが、未来永劫の初代は彼女に他ならない。
美々実さんが引退した直後、女子のいない部活の無味乾燥っぷりには一同唖然としたものだ。真っ黒なオールバックのポニーテールがこんなにも映えるマニッシュな美少女を、俺は他に知らない。麗しい見た目なのに、性格は戦国時代の武将が入ってるんじゃないかと噂が立つほどに豪気で自信家な先輩である。
文芸バレーボール部の部員は決まって三年生に進級する少し前、春休みの終盤に開催される全国大会で引退する。だから受験の年には部活動に参加できない。美々実さんは去年、三回戦敗退に終わった大会のあと、アリーナの壁に拳を幾度もぶち当てて怒っていた。
「くそ、負けで終わりかよ。ちくしょう、三年生にも文バレやらせろよ」
そう言いきるや否や、彼女は泣いた。
副キャプテンだった欅平翼さんも相当悔しかったのだと思う。無念の引退が決定した瞬間のことだ。前髪に緑メッシュが入った茶色い頭を汗で湿らせ、膝に手をついて真下を睨み、額から雫を落としながら、彼は宣言した。
「俺は日生大に入って、文系の勝ち組に返り咲いてやる」
そのときの引き締まった横顔が、今も脳裏に焼きついて離れない。
日生大。日本再生大学。あの協会が設立した、日本文化の継承に特化している、誰もが知る超名門大学だ。華道・茶道・書道を始めとし、日本文学を深く学ぶ学科もある。
そんなプライドが高い欅平さんは、美々実さんと恋人同士だったりする。なお告白は欅平さんからだったらしい。余談だが。
前キャプテンと面識のないジョージと内田は、急に現れた美しすぎる女子高生に驚いて、こちらを落ち着かない様子で見ていた。彼女はそこらの駆け出しアイドルよりよっぽど愛想のいい顔をほころばせて、押し寄せた後輩たちを受け入れる。
「おーっ、まとちゃん相変わらず背伸びないな。キャプテンできてるか?」
小柄でかわいらしい容姿に反して、ずいぶんと男勝りな口調で可憐に笑う。
「はい、なんとかやってます」
「そうか。えらいな、まだ小学生なのに」
「いや高校生ですよ!」
言い返すと美々実さんは両手で口を抑え、ニケやるのをこらえる顔……?
「先輩いつもそうやって俺の身長いじりますけど、小学生の平均よりは遥かに上ですからね」
続けて文句をつけると、麗しの元キャプテンは唐突に身悶え始めた。
「かわいい。まとちゃん相変わらず怒った顔もかわいい~っ!」
出た。そういえば、こんな人だった。先輩は目尻をぐんにゃり下げて尚も指さしてくる。
「え、え、なんだよう、小学生の平均よりは高いのか? それはつまり、気にして小学生の平均身長を調べちゃったってやつか。まとちゃんもうかわいすぎか、もう!」
本当に、そういえばこんな人だった。久しぶりすぎて忘れかけていたが彼女は、ストライクゾーンは揺りかごから一歳下までと言い張ってしまうほどの、重度の年下好きなのだった。そのくせ彼氏は同期の欅平さんで、うまくいっているから不思議である。
……とりあえず話題を戻そう。
「先輩こそどうなんですか、受験のほうは」
すると彼女はフッとわざとらしく視線を流し、こう告げた。
「よくぞ尋ねてくれた。私がなぜ久々に顔を出したか、わかっていないようだな。よく聞け後輩たち。このミミさんはな、ついに志望大学を決めたから宣言しに参ったのだ。この度、この桐島美々実は、日生大を受ける決心をしたぞーっ!」
おおおおお、と四つ声が重なる。言いながら引っかかった。そういえば美々実さんの苗字は歌仙のあいつと同じだったか。こんな偶然もあるものだな。
ヒイロがほぼ無表情のまま、勢いよく身を乗り出した。
「え、ミミさん、あの日本再生大学に挑むんですか、欅平さんも受ける」
「近い近い近い。ひーろ急にどした」
「俺も日生大志望なんです」
やつは当たり前のように答える。美々実さんは嬉しそうに軽く背伸びをして、高い位置にあるヒイロの短い前髪をわしゃわしゃと撫でた。
「そうなのか。えらいな、二年生のうちから決めてるんだな。来年、絶対に受かって来いよ。私は今年受かってみせるから。大学でも先輩後輩になろうな、ひーろよしよーし!」
舌打ちをしそうなところだが、美々実さんが相手だとヒイロは随分と大人しい。
「ミミさんは、大学でも文バレ部に入るんですか」
見上げる前キャプテンから目をそらして、照れながら尋ねてやがる。彼女は気さくに笑う。
「おうよ。ひーろも日生大来たら入る?」
「そのつもりです」
「よーっしゃあ! 私は大学でもこのイケメンを率いれるというのだな、眼福」
本当に、口を開けば後輩を絶賛するばっかりだな。ちなみに今は居ないが、美々実さんの彼氏である欅平さんが居たとしても同じ調子なのだ。内心嫉妬してないのかな、欅平さん。
「でで、今年はどんな一年生が入りましたん」
美々実さんは楽しげに体育館中を見回し、内田に目を止め、形容しがたい歓喜の声を上げた。ホームに滑り込む野球選手のように床を横滑りして距離を詰めた。今の、絶対痛い。
「きゃあああああ、なんだこのショタは! 小動物じゃないの? かわいい。かわいすぎる。何この子うさぎみたい、うさちゃんって呼ぼう、うさちゃーん!」
さすがの内田もその勢いは怖かったようで、ジョージの後ろに隠れた。美々実さんは盾になったやつを見上げる。そして、でかっと声を上げて一歩後ずさった。赤毛の後輩は脱力した笑みを浮かべ、片手を適当な位置に上げピースした。
「どうも、一年生の遠道常侍っす。先輩すげえ美人っすな、付き合ってよ」
「軽っ。なんだお前、いい性格してやがんな。そのテンション好きだわ」
「あ、ほんとに? 好き? じゃあ」
いやいやちょっと待て、とソウルが割って入った。速見も慌てて告げる。
「あのな、ミミさんにはもう彼氏がいるんだぜ」
「まじすか」
「おうよ。元副キャプテンの、ケヤキダイラウィング大先輩さまなんだぜ。運動神経バッツグーンで、頭脳キレッキレで、性格はイケメンなんだぜ!」
こいつ無意識に顔だけは否定してしまったな、と思ったが言わないでおこう。
ジョージはへらっと、いつものふざけた調子で笑う。
「えーそうなんすか。んじゃミミさん、今すぐ俺に乗り換えよっか」
「おいこら遠道」
内田が声と表情は通常で、だが手の動きはすごく俊敏にやつの背を強く殴った。美々実さんは逆三角の口をして目を丸くしている。その小さな唇が、うろたえたように開く。
「ごめん。それはむり。ウィングと別れるつもりはないんだ。ごめんな」
出た。破天荒なくせに、この先輩は意外と冗談が通じない。
「あれ。本気にされちゃった」
というジョージの反応を受けて、途端に赤くなり彼女は手のひらで頬を覆った。
「う、うあ、からかわれただと! 許さん」
言葉は強気だ。欅平さんは、こんな、こんなかわいい方と付き合っているのか、くそっ。羨ましすぎて俺もう欅平さん嫌いだ! 嘘です尊敬してます。ああもう。
美々実さんは深呼吸をしてから、本当びっくりしたわ、とまだ赤い顔で笑い床に足を伸ばして座る。それから少し申し訳なさそうな表情をして、こう続けた。
「で、今日来た理由がもう一つあるんだよな。だいぶ前の話になるけど。歌仙との練習試合では、うちの書籍くんが大変ご迷惑をおかけしました」
えっ? と、新古今六人の声が揃う。
「うん。あれ私の弟」
黒いポニーテールを揺らし、俺の憧れの人は大きなツリ目を細めて笑った。体育館に、なんとなく不穏な空気が流れ静かになる。俺は息を大きく吸い言った。
「いやいやいや弟いるとか聞いたことないんですけど!」
「言ったことない!」
間のない返答だった。よもや、また家庭事情云々の、踏み込んではいけないところだっただろうか。美々実さんは困ったように苦笑してから、ポツリと言った。
「実は、かなりのブラコンなんだよなあ、私」
「え、じゃあ逆に言うものじゃないんですか」
聞くと彼女は真剣な顔で首を振る。やれやれ参ったぜ、と言う風な振り方だった。
「それが逆の逆なのだよ、まとちゃん。ブラコンすぎて語り出すと止まらないので今までずっと自粛していた。練習時間を全て弟語りで潰しかねん。だがバレてしまっては仕方ない」
嫌な予感がする。俺たちの元キャプテン、この残念な美少女は勢いよく続けた。
「ちょっと小一時間、いや小三時間、書籍くんについて語っていいかな!」
家庭事情云々なんて、一瞬でも心配しなければよかった!
それから一週間後のことだ。
「ルールブックを読みましたよ。もう一度戦ってくださいよ」
練習中にまた、六人のぴよぴよが体育館を覗いた。懲りずにひっつき虫を付けている。今日も今日とて迷子になってから来たらしい。ほんと、徒歩十分圏内なのにな。
「今から?」
やつらは真剣に大きく頷く。改めて見ると確かに、桐島書籍は美々実さんと目がそっくりだった。それにしてもあの人の弟でありながら、一分間で失格のルールを知らなかったとは凄まじい抜け具合だ。姉に色々聞けばいいのに。美々実さん曰く、
「書籍くん、人に頼るの嫌がるタイプなんだよな。去年の全国大会を見て、おおまかなルールは把握したみたいだけど、一分間の失格例は全国大会ではもちろん見られなかったし」
とのことだった。見られるわけがない。ルールブックさえ読んでいれば、あんな初歩的な失格をするチームなどありえないのだから。つまり桐島弟は前回、全国大会だけを見て得たド素人な知識のみで挑んできたらしい。ひどい心構えである。
「無茶言うな。スケジュールが乱れるだろうが。事前にアポを取れ」
「それでは、今取りますよ。五分後は空いてますか?」
「桐島お前、事前の意味をわかっ……」
期待に満ちた表情と目が合ってしまった。弟と遊んでやってよ、とでも言いそうな美々実さんの気さくな笑みも思い浮かぶ。ため息をつき、頷き返した。
「わかった。五分後な」
わあ、と七三分けの坊っちゃんは顔をほころばせる。
「本当ですか。感謝しますよ、まとさん!」
「え、まとさん?」
「あっ、はい。姉の話の中では、いつもあだ名で登場してらしたので、この呼び方に馴染みがあるんですよ。でもまとちゃんとお呼びするわけにはいかないので」
「前会った時にお前から、誰さんですかと言われた記憶が」
「うああ、ごめんなさい、フルネームは知らなかったから確認したんですよおお」
いちいち大袈裟な身振り手振りをする。見れば見るほど姉弟だと実感した。夏の練習試合で気づけなかったのが不思議なくらいだ。言ってくれたらよかったのに。姉弟そろって変なところで秘密主義だ。この少年が俺たちを呼ぶ響きは全て美々実さんと同じだった。まとさん、はやみんさん、ひーろさん、そーるさん、うさちゃん、えんどー。内田は美々実さん自体は苦手らしいが、付けられたあだ名は結構気に入っているらしい。
「わあい。うさちゃん」
やつは満面の笑みで両手を頭の上に持っていき、ぴょこんとした。さみしくても延々生きられそうなこいつが、うさちゃんとはどういうことだ桐島姉弟。うさぎなのは第一印象だけだぞ。あざといアトムだぞ。略してあざとむ。
コートの向こうにまたホビットたちが並ぶ。ルールブックを読んだくらいで劇的に成長することはないと思うが、油断は大敵だ。今回の先攻はあちらである。俺はバックセンターに立つ。右にソウル。左に内田。前列には左からジョージ、速見、ヒイロ。
敵陣のバックレフトにいる桐島書籍が、
「いきますよ」
意気込んでボールを上げた。そして彼は、こう打った。
「まーじーかーるーばーなーな!」
「待って」
飛んできたボールを、つい叩き落とす。新古今のみならず歌仙もどよめいている。
「ねえキリちゃん今の何」
敵の一人が、ひきつった笑顔を浮かべて棒読みで言った。うろたえて周囲を見回す桐島。そして尺八が高く鳴、え、古井先生いつからそこに。先生はううむと唸ってから頷いた。
「今のは、見なかったことにしよう。初めからやり直し」
投げた本人だけが目をしぱたたかせて首を傾げている。
「おい、キリとやら。どういうことだ。ルールブックを読んだんじゃないのか」
聞いてみると、坊っちゃんは大真面目にこう述べた。
「読みました。マジカルバナナのようなものだと書いてありました」
「それ序文だよ、どういうことだよ」
「はい。手始めに序文を読みました」
「ふざけんな。全文叩き込んでから来い」
それに対して桐島は肩を震わせ、怯えた声を張り上げた。
「全文を読むなんて、そんなことをしたら、二年以上かかってしまいますよ。だって、だって僕は活字が苦手で、読むのがすごく遅いんですよ!」
衝撃的な事実!
「なんでそんなやつが文バレ部立ち上げて、キャプテンやってるんだよ! 周りのほうがルール把握してるじゃねえかッ、あっ、ごめん」
つい言ってしまった。白いボールを拾い上げ、キリは姉によく似た顔で深くうつむき、泣き出しそうにとつとつと話し始める。
「だ、だって、う、うあ。実は僕、元々は、国語が苦手だったんですよ。姉がいつも楽しそうに部活の話をしてくれてたんですけど、何がそんなに楽しいのか、ずっとわからなかったんですよ。そしたら姉は、言ってわからないのなら見てみろって、今年の春、文バレの第一回全国大会に僕を連れて行ってくれたんですよ。そのときコートの中の姉が、」
そこでやつは、一息ついた。顔を上げて目を輝かせる。
「とてもかっこよかったんですよ! 皆とっても輝いていて、国語っていいなって、僕、初めて思えたんですよ。だからこれからは僕も本を読んで、文芸バレーボールをしようって、心に決めたんですよ。だから、あの、でも、活字はまだ苦手なんですよ」
言い切ったと思うと腕で目をこすった。本当に、この泣き虫ダメキャプテンは。歌仙の他のメンツは眉を下げて苦笑している。例のパッツン前髪のだからだから言う少年が、
「でもキリちゃん、一ヶ月かけて序文は読みきれましたから!」
俺たちへ必死に弁明しながら、キリの肩を励ますように叩いた。恵まれたやつだ。とうに見捨てられていそうなものを。いい仲間に囲まれているんだな。パッツン前髪が改めてボールを持つ。古井先生が、気を取り直して、と尺八を構えた。
「歌仙高等学校 対 新古今高等学校 練習試合 開始」
あの時の聖コトバのような卑怯な戦いが、この夏休み中の練習試合で全国各地に発生したという。そのせいで協会にクレームが行ったらしく、つい最近ルールが一つ変わった。出題範囲は、基本的に国語便覧からとする。歌仙が選んだ言葉はこれだった。
「宮沢賢治!」
それを聞いた途端に内田が嬉しい叫びをあげた。
「ふええ!」
落ち込むときと同じ音だが、声の調子で今回のこれは喜びとわかる。左を見ると普段のわざとらしさが微塵もない、心からの笑顔が目に入った。うさちゃん、を納得しそうになる。
「どうしたアトム」
ソウルがバックライトから聞く。
「大ファンなんです。あのね、大ファンなんです」
二度も言って、やつはボールを目で追った。そして、
「イーハトーヴ。エエーイッ」
弾んだ声と共に、排球は歌仙側へ戻る。イーハトーヴ。宮沢賢治が書く童話に現れる舞台であり、彼の思い描く理想郷を指す。作者の故郷である岩手県が大元のモチーフだ。内田は背筋を伸ばし、瞳を澄み切った薄茶に光らせ、小さな握りこぶしを二つ、顔の横に作った。
「ここは僕に任せてくださいっ」
こんなに自信満々な内田は今だかつて見たことがない。いきなり、やつの後ろに眩しいものが広がった。後光だ!
相手のフロントレフトがこう打ち返した。
「注文の多い料理店」
賢治が初めて世に出した、イーハトーヴ童話の原点となるタイトルである。仲間の迂闊な発言に対して、ホビット集団はざわめきだした。
「ちょっと、向こうには賢治ファンがいるんだよ。今の返しはまずいよ」
「でもイーハトーヴに対して、他に何が言えたの」
小声のやり取りが聞こえる。返ってきたボールを内田はレシーブで叩きだす。
「春と修羅」
注文の多い料理店と同時に刊行された、賢治の初詩集のタイトルだ。
さあ、歌仙はどう出る。このまま宮沢賢治の著作を、どちらかが諦めるまで延々と言い合う長期戦にするか。それだとこっちの勝ちは自明だぞ。バックライトにいる、身長高めのパッツン前髪がキッと目をつりあげて、その二冊が刊行された年を叫んだ。
「千九百二十四年」
甘っちょろいスパイクが飛んでくる。話題を変えようと必死なようだ。しかし歌仙、知らなかったようだな。具体的な年号を言うのは、負けフラグだ。内田はひるまず身軽に返した。
「賢治先生の作家デビュー」
よし、それだ。このように的を絞った発言は返しに困る。彼のデビューにまつわるエピソードを何か述べるしかないこの展開。どうだ、専門的だろう。歌仙高校は年で攻めてくるならせめて、明治時代などの幅広いものを選ぶべきであったのだ。まあ、そう言われようと内田が、宮沢賢治の著作を一つ返すだけだがな。残念だったな、歌仙の小さな後輩ども。ファンの前で年号を口にする恐ろしさを知れ。努力だけは評価するが、初心者の失敗だ!
なんて思った瞬間だった。パッツン前髪が、こう呟いた。
「ちゃんと知ってますから。デビューにまつわるエピソード」
なんだと。まさかさっきのは、ミスに見せかけた作戦だったとでも、言いだすつもりか。やつは落ちてくるボールを高く上げてスパイクを打った。
「自費出版」
あ、デビュー作二冊って、自費出版だったんだ。と豆知識に驚いている間に排球は到着していた。ぽすっと明らかに打っていない音がした。尺八が鳴る。
「一対零」
今、何が起こった。コート内を見ると、ボールは内田の腕の中にあった。やつは自分で自分に驚いているような、後悔だらけの真っ白な表情でこう述べた。
「初心者のくせによく知ってるなーって感心してたら、打ち忘れました」
どういうことだ。気持ちはわかるけど。かくいう俺も、歌仙の予想外の善戦に感心して手が止まったけど。だが内田、今お前のターンだっただろ!
「いや、びっくりしたんだぜ。アトムちゃん、球を打ちに行ったと思ったら、普通に受け止めたから何事かと思ったんだぜ。フォローのしようがなかったんだぜ」
速見が笑って言い、ヒイロも舌打ちをして頷いた。
「ごめんなさい。消えたい」
小さくこぼし内田はしゃがみこむ。意外だ。ふええすみませんと、またわざとらしい上目遣いをしてくるかと思った。心底落ち込んでいるようだ。
「念のために聞くが、今のミスはわざとじゃないよな」
聞くとやつは、べそ顔で俺を見上げて淡々と呟いた。
「キャプテン、ひどいです。素に決まってるじゃないですか。敵に点を渡してまでして、ドジっ子アピールをする必要性がわかりません。僕はわざとミスをしたことなんて、今までにも一度もないです。ええそうです、素で足手まといなんです。くたばれ内田ですよね。あ、踏んどきますか。ちょうどしゃがんでますし」
このままゼリー状になって床へ吸われていきそうな勢いだ。小さな手を思い切り引っ張って、現世に連れ戻すような気持ちで立ち上がらせた。
「面倒くせえ! いいから立て、しっかりしろ。わざとじゃないのはもう十分わかった。いつも通りふええとか言っとけ、今回はそれで許してやる」
「ふええ……」
「はい許した!」
全く。こいつの浮き沈みの激しさはいったいなんなんだ。歌仙のキリが、
「あっ、それでは、」
と会話の間を狙って打つ宣言をしようとした。それに気づかず、
「でも次は自費出版で再開か。そういう文献って、他に何かあったかな」
ソウルが首をかしげる。相手コート内でタイミングを逃したホビットたちが困っている。おい歌仙、ここで待ってしまうと負けるぞ。点を取れたときには作戦会議の暇も与えないくらいに、次々と打ち込むのが勝利の鍵だ。撃て。
「別に自費出版された本とは、限られてないと思うんだぜ」
速見が考え込む様子で斜め上を見た。ソウルがメガネを乱反射させる。
「つまり?」
「だからよ。自費出版について書かれた本とかがあれば、そのタイトルを言うってのも、ありなんだぜ。ちなみにオイラはそんな本、一冊も知らないんだぜ!」
堂々としたサムアップに、残る五人の感嘆がこぼれる。
「逆にすごいよな。ひらめきに知識が追いついてなさすぎて」
ソウルの天然地雷どーん。
「よせやい、照れるんだぜ山ノ内」
ほめてないんだぜ。全く、そのひらめきを生かしてほしいから、勉強しろと俺はいつも言っているのに。速見が元々持っている能力は、かなり高いのにな。
だが、なるほどそうか、自費出版について書かれた本か。例えば、なんだ。ここまで作戦が定まったところで、キリがついに声を張った。
「再開しても、いいですかーっ!」
ヒイロが眉をしかめて舌打ちをした。ジョージが笑って片手を上げる。
「もうちょい待って。もうちょいで、すごい返しが思いつきそうだから」
キリは困り顔で頷いてから、仲間たちを見た。歌仙の誰もが目を泳がせている。
「あーあ。ここで頷いちゃうから駄目なんだな。ま、作戦会議が終わってから注意しやすか。そうした方が、こっちの勝運が上がりますし。なんつって」
ジョージが俺たちに向かって善悪を試すように肩をすくめた。最後まで戦法を練れるのはありがたい話だが、我々は今すぐ、歌仙高校に正しい戦い方を伝えてやるべきではないだろうか。先輩として。それ以前に、人として。
「おい歌仙」
「バカですかあっ?」
内田と声がかぶった。左のサラサラショートを見る。敵陣に向けての言葉だった。やつは俺が言おうとした内容と、まるで同じことを続けた。
「何いつまでも待っちゃってるんですか。そんなんで僕らに勝つ気が本当にあるんですか。あ、もしかしてそれ、余裕アピールなんですか。うっわあ、なめんじゃねえよ初心者。遠慮して待ってるだけなら、さっさと投げろよ」
いや、まるで同じではなかったな。キリは大きなツリ目をいっぱいに見開き、はいと真剣に答えた。内田はこちらを向き、どんぐり眼で首をかしげる。
「今もしかして、キャプテンのセリフ取っちゃいましたか」
「まあ言い回しは違ったが、そうだな」
「ふええ! すみません」
気にするな、と低い位置の肩を叩く。すごいことだ。半年前は自分も初心者だった内田が、敵に向かって説教をした。ジョージがやつをこづいて笑う。
「先輩のセリフは取っちゃだめっしょ、うさちゃん」
「てめえはその名で呼ぶな」
「たはは、ひでえやアトム」
うちの一年生たちも、なんだかんだで少しずつ成長しているらしい。
「ではいきますよ。この勢いで、二点目を取ってしまったらすみません」
キリがまた生意気を言ってボールを構えた。しかし聞き流せない脅しだ。さっきの会話で行き着いたのは作戦まで。自費出版への具体的な返しは思いついていない。知識が足りない。
その時、ソウルが右から、俺にしか聞こえないくらいの小声で、大丈夫、と囁いた。
「小野、大丈夫だよ。池原が任せろって言ってる」
手話、と前を指差す。我らのヒーローは左手を背に回し、複雑に指を動かしていた。敵に悟られないための計らいなのだろうが、いやそれ真後ろにしか見えない上に、解読できるやつ限られてるから! 本当に、ヒイロとソウルを前後にしてよかった。
キリが二点目を確信した健やかな瞳でサーブを打った。
「自費出版」
ふと思い出す。美々実さんもよくしていた。点が取れることを確信したときに、自信に満ちたあの純真無垢な表情を。そして、
「浮かれ心中!」
確信を打ち砕かれた瞬間には、泣き出しそうに鳩羽色の目が揺らぐのだ。とても似ていた。フロントライトからヒイロが当たり前のように打ち返した排球は、きれいな孤を描き、オーバーハンドをやりそこねたキリの顔面に直撃した。ぽえ、と謎の悲鳴をあげてよろめく。名前を叫んで駆け寄る部員たちの声にかぶせて、尺八が情緒たっぷりに鳴る。
「一対一」
相手コート内は、大丈夫と尋ねる声の嵐である。キリはぶつけた鼻が少し赤いが大したことはなさそうだった。キャプテンの無事を確認してから小人たちは、
「で? 浮かれ? 浮かれ心中って何?」
と慌てだした。俺にもわからない。この場では恐らく、ヒイロと古井先生以外は今のハイスペックな返しを理解できていない。ふと、
「井上ひさしの戯曲だ」
我らのヒーローが、仲間である俺たちだけに聞こえるよう、こそっと補足した。なんだと。この冷徹なやつが、聞かれる前に親切に口を開いただと。
「その戯曲がなんで自費出版に繋がるんだぜ」
速見が聞く。珍しく舌打ちをせず、無口な副キャプテンは長々と話した。
「主人公である絵草紙作家の栄次郎が、売名のために自費出版で本を出す、というシーンが序盤にある。売名のためならなんでもするという人間で、終いには心中の芝居をして騒ぎを起こそうと試みるんだが、そのエゴの描き方が、面白くてな」
面白くてな、と言うとき微かに笑った。え? あのヒイロが笑った、だと。いつぶりだ。浮かれ心中、そんなに好きな作品なのだろうか。だが和んだのは一瞬で、
「ヒイロさん、相手は初心者なんすから、もうちょい手加減ってもんを」
と声をかけたジョージにはしっかり舌打ちを返していた。
「全国大会では誰もが本気だ。今からわからせておいたほうがいい」
「なるほど、スパルタっすな。そういうことなら俺、見習っていきやす!」
張り切る後輩に対しても、やつは無関心に、うん、と相槌だけを打った。なんて切り替えの速さだ。さっきの笑顔は幻覚か。
歌仙の六人は頭を抱えて延々と唸っているが、答えはいつまでも出てこない。ここで同情して待ってはいけない。キリの頭を叩いたボールは、向こうの身長高めのパッツン少年が胸にしっかり抱いたまま投げ返してこなかった。作戦会議を始めようとしている。
「おい竹谷。ボール返せ」
苗字の把握は、黄色い体操服の背中に印刷されているローマ字からだ。
「うっわあああーん! まとさんの鬼畜!」
彼はブンッと雑に投げ返してきた。まとさん呼びは歌仙の部員全体に広まっているらしい。
「先輩に鬼畜なんて言っちゃだめだよユグちゃん!」
キリが注意した。竹谷ユグがフルネームなんだろうか。パッツン前髪こと竹谷の投げたボールをヒイロが受け止める。そしてシルエットを体育の教科書の表紙に載せてもよさそうな、仕上がっているフォームでサーブを打った。
「浮かれ心中」
それに対して歌仙は、こう返してきた。
「心中物」
そう繋げたか。わからないなりに考えて、当たり障りのない返しを選びやがったな。わりと対応力が高い。フロントレフトのジョージが、
「そいじゃ、こいつは知ってやすかね」
と楽しげに前置きをしてからこう打った。
「世話物!」
キリが小首をかしげる。その眼前に一気に二人飛び出して、
「近松門左衛門つああーっ」
「世話狂言いったああああ」
派手に頭をぶつけ合った。ぴよぴよと目を回してから、
「おいっ、カイちゃん、なんで来たの、僕が先に走りだしてたのに」
「ひ、ひど、ひどいよまっちゃん、ほ、ほぼ同時だったと思うんだけどっ」
小さな二人は言い合いを始めた。フォローに複数人向かってしまうのは、各々の役割りがまだはっきりしていない初心者チームにすごく多いミスである。歌仙はあだ名で呼び合う風習があるようだ。どもりがあって気弱そうなのがカイちゃん、やたらプンスカしてて偉そうなやつがまっちゃん、らしい。「けんかしないでえ」と加わったのん気そうなチビは、まっちゃんから「のんちゃんは黙ってて!」と怒られていた。もうどれが誰やら。
「一対二」
古井先生は初々しい口げんかに微笑みつつ尺八を鳴らした。これで形勢逆転である。当たり前だ。文バレを始めてたった半年の集団に負けてたまるか!
「いいか。次は僕が近松門左衛門って返すんだからね。割り込まないでよ」
フロントレフトのまっちゃんこと、気が強そうなチビが釘を刺した。言われたフロントセンターの気が弱そうなほう、カイちゃんとやらは不満そうに頷いた。あいつ、幸薄そう。
世話物とは。江戸時代における町人社会が題材の、義理人情が描かれた歌舞伎や浄瑠璃のことを総じて呼ぶ名称だ。その中に心中物も含まれている。そして近松門左衛門は、多くの世話物を残した江戸中期の脚本家であり、世話狂言は、世話物の別称であるのだ。
試合が再開し、近松門左衛門と返ったボールをソウルがこう打った。
「杉森信盛」
すると予想外にも相手コートから、誰っ、と六つの悲鳴が響いた。
「あれ。マイナーか」
幼なじみはメガネを光らせて、きょとんと俺の方を見る。
「いや有名だろ。たしか授業でも習った」
「だよな。あ、でも一年生だからまだやってない範囲か」
「バカ言え。文バレ部員ならそのくらい予習しておくもんだろ」
「そうだな。ちょっと意識が低いよな」
飛んできたボールをさっきの幸薄少年が、かなり自信なさげに打った。
「近松さんの、友達?」
違う。それは弱々しく飛んで、ネットを越さなかった。歌仙の連中が、揃ってしゅんとした。すぐに「やだー!」と一人が駄々をこね「まなちゃん現実を受け止めてえ」と、のんちゃんと呼ばれていた気がせんでもないやつが言った。ここらへんで俺は、歌仙の連中のあだ名を覚えるのを半ばあきらめた。二文字ちゃんばっかりかよ。
「一対三。勝者、新古今高等学校」
尺八が高く響く。俺たちは達観した静かな気持ちで頷いた。ちなみに杉森重盛は、近松門左衛門の本名である。歌舞伎や狂言を少しかじっていれば答えられたはずの出題だ。
「あっ。ユグちゃんユグちゃん、今のがネットを越してたら、一分間の猶予ができてたよ」
「わ、本当だキリちゃん天才! 会話に持っていって、一分以内に立て直せば勝てたから」
キリと竹谷が博打的な作戦を、明るい表情で言い始める。
「おい、その考えはやめとけッ」
慌てて警告した。不思議そうに、ぴよぴよした瞳のやつらは見つめてくる。こいつら、全国大会でとんでもない失敗をしかねない。自分たちが不利になった時に、あえて会話に持っていき、一分のうちに軌道修正をして形成を立て直すという、ずるい上級テクニックがあるのは確かだ。だがこれを実戦すると、たいていは口論に発展して、軌道修正までに一分を越し両者失格になってしまう。もしこれを全国大会でやってしまった暁には、その恨みは末代まで続くだろう。失格になったチームは、その時点でどちらもランク外行きだからだ。第一回全国大会では全チームがこれを百も承知だったので、そんな悲劇は起こらなかった。起こらなかったから、キリたちは一分間で失格のルールを知らなかったのだ。
「だから不利になっても絶対に、会話に持っていくことだけは考えるな」
伝えると、歌仙のホビットたちは青ざめて、ただ、はいと言った。
コートの下から、ぴょこっとキリの小さい手が伸びる。
「試合終了のご挨拶ですよ。ありがとうございました」
自分の手より低い位置にあるそれを握った。こいつの背、たぶん文バレ界最小。
「なあキリ、お前はせっかく美々実さんの弟なんだから、あの人からルールとかコツとか教えてもらったらどうなんだ。ルールブックを読むより断然早いだろ」
言ってみると彼は驚いて、それから逆三角の口をきつく引き締めた。
「だめですよ。姉には頼らないって僕、決めてるんですよ。最初から最後まで自力でがんばりたいんですよ。そもそも姉は受験生なので、じゃまをしたらだめなんですよ。だって迷惑になってしまいますよ。しかも最近はもっと切羽詰ってて、彼氏と同じ大学に行くんだって死ぬ気で勉強し始めたので、一言たりとも話しかけるわけにはいかないんですよ」
美々実さんが言っていた通り、本当に頼るのを嫌がるやつみたいだ。あのお姉さんなら、受験勉強中だろうと大喜びで切り上げて、書籍くん書籍くんと構い倒しそうなものだがな。
「じゃあ他の部員に聞くとか」
提案してみると、キリはさらに眉をつりあげた。
「それこそだめですよ! だって僕、誰にも迷惑をかけたくないんですよ。あのですね、まとさん。僕は自力でルールブックを全部読んで、皆に一切迷惑をかけないまま、スキルアップするんですよ。誰にも頼らずに、迷惑をかけずに」
突然、内田がコートを出て向こう側に歩み、
「ふざけんな」
自分より数センチだけ背が低い少年に、思いっきりチョップを入れた。
「いったあ!」
え、アトムちゃん? と呟いて速見が引いている。今のキリの発言が、どうやら内田の逆鱗に触れたらしい。高い声は地声なので変わることなくそのままなのだが、どこか凄みのある笑顔になり、口調は突然キツくなった。なんと、胸ぐらをつかんで説教を始めた。
「なあ、ちょっと聞けよ桐島。なんでもかんでも自分だけで完結しようとする、その行動こそが迷惑なんだよ。知っといてね。てめえが仲間に頼らなかったせいで、前回も今回も、こっちは多大な迷惑をこうむってるんだよ。部活やめませんってなんだよ。マジカルバナナってなんだよ。活字が苦手ってなんだよ。一ヶ月かけて序文を読んだってなんだよ。言い訳ばっかりしてんじゃねえよ。仲間に一言頼んで読み上げてもらえば、序文くらい一時間で終わるからね。頼ることの大切さを、本当に知っといてね。あのね、迷惑だから。迷惑かけたくなくてやってるお前の行動が全部、現在進行形でものすごく迷惑だから。理解した?」
キリは涙目で、同じ年なのに敬語になって小刻みに頷いた。
「はい。すみません」
「わかればいいよ。で、おいこらそこの竹谷ユグ」
身長高めとは言ってもやつらの平均の中では上のほうにいるだけで、俺よりほんの少し低い竹谷は一歩後ずさった。内田はやつを覗き込み、声のトーンを落とす。
「このダメキャプテン頼むよ」
竹谷は恐れ戦いた表情で、大きく一つ頷いた。ふう、と息をついて内田は踵を返し、こちらに小走りで、はしゃいだ笑顔をして戻ってきた。
「言ってやりました。桐島のバカがね、くっそつまんねえ理屈ばっかり並べ立ててやがったので、つい黙らせたくなっちゃいました。すみません、えへへっ」
これは、あざといじゃなくて、成長じゃなくて、なんて言うんだ!
「アトムさーん、正論だったけど言葉は選びましょ」
ジョージがタレ眉になって笑い、やつの後ろに立って髪を乱すように撫でた。
「ふれるな遠道」
「ごふっ」
突然の肘打ち。通常の一年生コンビである。
「キリちゃん泣いちゃったじゃない。うさちゃんがひどいこと言うから」
歌仙の全員が小さな坊っちゃんを取り囲んでいた。かわいそうだが、人に頼れという内田の意見には賛成だ。言葉を選べというジョージの意見にも賛成だがな。
「ずびばぜん、僕、ごれがらば、周りに、ぢゃんど頼りまずよ」
止まらない涙をぐしぐし腕で払っている。まあ大切なことはちゃんと伝わったらしくて何よりだ。やつは懲りずに強気に顔を上げ、必死に涙を堪えた顔で前回同様また言った。
「まとさん。僕たち、全国大会では、本当に勝ってみせますよ」
この根拠のないハッタリは姉にそっくりだ。現役だった頃、練習試合に負ける度に美々実さんも、全国大会では倒してやると敵に向かって豪語していた。自分自身にプレッシャーをかけてるんだよ、と彼女はいつも笑っていた。
こうやって相手に宣言しちゃえば、もう立ち向かうしかないだろ。
「バカ言え。勝つのはこっちだ」
俺は強気に笑ってみせる。全国大会までは、あと半年。体育館のたくさんの出入り口から見える、暮れだした運動場には赤とんぼが舞い始めた。
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