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第2章 おそらく天下無類の探偵。
第13話 「何でもします」は魔法の言葉
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今度ばかりは悲しいことに、瑞帆はなゆたの気持ちが完全に理解できた。
自分の外見で良いところはあるかと訊かれたら、どうにか絞り出しても思いつくのは平均よりはいくらか高い身長くらいだ。
髪は気づけば伸びているせいで、大抵モサッとしている。性格に似合わないつり目は、普通にしているだけでも不機嫌に見えるらしい。だから自分もあまり好きじゃない。長い前髪で目元をごまかしている方が、まだマシに見える気がする。
けれどそうすると、一歩間違えれば清潔感のない奴になりかねない。
そうして「とりあえずあまりにも変じゃなければいいや」という境地に達してからは、どこに出しても恥ずかしくない“なんかパッとしない奴”が出来上がり…今に至る。
ゆえに瑞帆からしてみれば、紅亜の発言に2人が呆気にとられているのは当然だった。
…のだが。
「わからない?彼、すごく理想的なビジュアルなのに…。付き合っている2人の間に割り込む当て馬として完璧だし、意中の相手がいる女の子の心を乱すいけ好かない男のポジションとしても最高じゃない?」
「えぇ…。オレ、師匠の言うことはどんなに信じがたいことでも結局は全て正しいんだって思ってますけど…それはさすがに無理がありますよ。萌咲さんだってそう思いますよね」
「わ、私ですか?えと、そんなことは…人は見た目だけじゃないですし…あ、違うんです見た目が悪いとかそういうことじゃなくて、もののたとえで。えっと…」
……一体これはなんの苦行なのだろうか。
「なんか、すみません……」
瑞帆にはそれしか言えなかった。軽く俯いて、2人から視線を逸らす。
すると紅亜が、つま先で瑞帆の足を踏んだ。
鈍い痛みで生理的に顔を上げてしまうと、正面で紅亜が目を細めていた。
「どうして謝るの?私の言ったことが間違っているみたいじゃない。今すぐ撤回して」
「で、でも僕も2人の言ってることは正しいというか、その通りだと思いますし…」
耐え切れず、瑞帆は紅亜から目を逸らす。
だが紅亜はさらに瑞帆に顔を近づけると、ごく小さな声で話し始めた。
「そうやって、自信なさそうにブツブツ喋るのもやめて。背筋は伸ばして、ちゃんと相手の目を見て話して。そんなんじゃ、仕事に支障をきたすでしょ」
「まさか、全部本気なんですか?僕が適任だなんていうのも」
「当たり前でしょう。何か問題でも?」
「だって僕には到底できるようなことじゃ…」
2人だけの、小声の会話。
紅亜が悲し気なため息をついた。
「ねえ。あなたさっき駅で、『僕にできることなら何でもします』って言ってたじゃない」
そして彼女の華奢な指先が、瑞帆の胸に触れる。
「あれは…嘘だったの?」
「嘘じゃないです。何でもします」
反射的にそう答えていた。
瞬間、紅亜がしてやったりの顔でにっと笑う。
「やっぱり、あなたならそうだろうと思った。2人を驚かせる自信があるなら、もっと早くそう言ってくれても良かったのに」
よく通るはつらつとした声は、わざとなゆたと萌咲に聞かせるためだろう。
瑞帆が今さら焦ったところで、もう遅い。
「え!?そんな弥刀代さん、ちょっと待…」
「なぁに?少し時間をもらえればすぐにわかるって?仕方ないわね…萌咲さん、遅くなってしまって申し訳ないのだけど、よろしければあと20分ほどお時間をいただいても?」
「だ、大丈夫です」
紅亜のペースに巻き込まれ、即座に頷く萌咲。
「じゃあ、彼はちょっと準備があるそうなので、少々ここでお待ちください」
紅亜が瑞帆の手首を掴む。
そのまま紅亜に手をひかれた瑞帆は、あっという間に事務室の奥に見えた扉の中に押し込まれたのだった。
自分の外見で良いところはあるかと訊かれたら、どうにか絞り出しても思いつくのは平均よりはいくらか高い身長くらいだ。
髪は気づけば伸びているせいで、大抵モサッとしている。性格に似合わないつり目は、普通にしているだけでも不機嫌に見えるらしい。だから自分もあまり好きじゃない。長い前髪で目元をごまかしている方が、まだマシに見える気がする。
けれどそうすると、一歩間違えれば清潔感のない奴になりかねない。
そうして「とりあえずあまりにも変じゃなければいいや」という境地に達してからは、どこに出しても恥ずかしくない“なんかパッとしない奴”が出来上がり…今に至る。
ゆえに瑞帆からしてみれば、紅亜の発言に2人が呆気にとられているのは当然だった。
…のだが。
「わからない?彼、すごく理想的なビジュアルなのに…。付き合っている2人の間に割り込む当て馬として完璧だし、意中の相手がいる女の子の心を乱すいけ好かない男のポジションとしても最高じゃない?」
「えぇ…。オレ、師匠の言うことはどんなに信じがたいことでも結局は全て正しいんだって思ってますけど…それはさすがに無理がありますよ。萌咲さんだってそう思いますよね」
「わ、私ですか?えと、そんなことは…人は見た目だけじゃないですし…あ、違うんです見た目が悪いとかそういうことじゃなくて、もののたとえで。えっと…」
……一体これはなんの苦行なのだろうか。
「なんか、すみません……」
瑞帆にはそれしか言えなかった。軽く俯いて、2人から視線を逸らす。
すると紅亜が、つま先で瑞帆の足を踏んだ。
鈍い痛みで生理的に顔を上げてしまうと、正面で紅亜が目を細めていた。
「どうして謝るの?私の言ったことが間違っているみたいじゃない。今すぐ撤回して」
「で、でも僕も2人の言ってることは正しいというか、その通りだと思いますし…」
耐え切れず、瑞帆は紅亜から目を逸らす。
だが紅亜はさらに瑞帆に顔を近づけると、ごく小さな声で話し始めた。
「そうやって、自信なさそうにブツブツ喋るのもやめて。背筋は伸ばして、ちゃんと相手の目を見て話して。そんなんじゃ、仕事に支障をきたすでしょ」
「まさか、全部本気なんですか?僕が適任だなんていうのも」
「当たり前でしょう。何か問題でも?」
「だって僕には到底できるようなことじゃ…」
2人だけの、小声の会話。
紅亜が悲し気なため息をついた。
「ねえ。あなたさっき駅で、『僕にできることなら何でもします』って言ってたじゃない」
そして彼女の華奢な指先が、瑞帆の胸に触れる。
「あれは…嘘だったの?」
「嘘じゃないです。何でもします」
反射的にそう答えていた。
瞬間、紅亜がしてやったりの顔でにっと笑う。
「やっぱり、あなたならそうだろうと思った。2人を驚かせる自信があるなら、もっと早くそう言ってくれても良かったのに」
よく通るはつらつとした声は、わざとなゆたと萌咲に聞かせるためだろう。
瑞帆が今さら焦ったところで、もう遅い。
「え!?そんな弥刀代さん、ちょっと待…」
「なぁに?少し時間をもらえればすぐにわかるって?仕方ないわね…萌咲さん、遅くなってしまって申し訳ないのだけど、よろしければあと20分ほどお時間をいただいても?」
「だ、大丈夫です」
紅亜のペースに巻き込まれ、即座に頷く萌咲。
「じゃあ、彼はちょっと準備があるそうなので、少々ここでお待ちください」
紅亜が瑞帆の手首を掴む。
そのまま紅亜に手をひかれた瑞帆は、あっという間に事務室の奥に見えた扉の中に押し込まれたのだった。
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