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5 森良幸平 二十歳
37 俺がいる
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時川が整った目をこちらに向けるので、自然と背筋が伸びてしまう。
彼からの聴取が開始した。
「連絡が来ないのは一週間程度?」
「あ、うん」
「二ヶ月前までは溝口さんの家が多かったのか?」
「えっと……半々かな。いや、俺ん家が多かったかも」
「今まではどれくらいで会ってんだ?」
「一週間に一度くらい」
「なるほどね」時川はにこやかに微笑み、「案外今日来たりして」と冗談を言った。
一度は黙っていた谷田だが、やはり数秒程度の耐え性である。不満げな顔をして問いかけてきた。
「けど、溝口さん家に呼ばれないのはどういう現象なんだよ」
答えの分からない幸平はちょこっと首を傾げ、時川は幸平の様子を眺めていた。
谷田は幸平にグッと近付いて、
「つうか幸平はさ、溝口さんに告白したんだよな?」
「した。卒業式の日に」
「すげぇな幸平。全然気づかなかったわ。あんなに一緒にいたのに、お前が溝口さんのこと好きだったなんて」
「言ってないから」
「しかも告白できるなんて。漢だなぁ。溝口さんもびっくりしたんじゃね?」
「そうかも」
「溝口さんのタイプじゃないもんな、幸平って」
「そうだね」
「そうかなぁ」
時川は呟いた。幸平も谷田も思わず「え?」「あ?」と反応するが、どうやらいつも通りのテキトーな発言らしく、彼はサラッと会話を続ける。
「前提として知っておきたいんだけど、幸平くんは、溝口陽太さんの恋人になりたいんだろ?」
こうも率直に言葉にされると閉口してしまう。すぐに答えられないのが答えだ。図星を突かれて、幸平は言葉に窮する。
告白して、セフレになれて。それで満足していたはずなのに、過ごせば過ごすほど封じ込めていた欲が現れてしまった。
時川の言う通りだ。
幸平は陽太が好きで、彼の恋人になりたい。
「つまりこの恋愛相談は、セフレからどう恋人へ昇格するかって話だよな、幸平くん?」
しっかり確認してくる時川だが、彼が敢えて言葉にしてくれたのは有り難かった。
自分では素直に言えない願いであり、欲望だからだ。確定的に問いかけられたら、幸平がすることは一つ。
「うん」
頷くだけでいい。
時川がまた微笑みを深くして、頷いた。動揺した様子の谷田も「まぁそうだよな」と頷き始める。先ほどの動きと真逆だ。停止した状態から、次第に首を上下するスピードが速くなっていく。
「じゃあ、今日はそういう会で! 幸平が溝口さんの恋人に……なるために……溝口さんの恋人?」
自分で自分のセリフが信じられないと言った顔をする谷田の横で、時川は携帯を片手に涼しい顔をする。
「とはいえ、私たちセフレも恋人もいないしな。有識者の意見を伺いたい」
「セフレとかいるわけねぇよ。彼女欲しい」
「谷田くんはしっかり童貞だもんな」
「ウルセェ。俺はお前が元ヤンでヤリチンだったことが心底怖いよ」
「ははっ」
「つうか、お前こそセフレいたんじゃね?」
「いや、私は歴代彼女たちを愛してたから。……あれ?」
と、携帯を眺め始めた時川が、首を傾げる。
谷田は「どした?」と携帯を覗き込んだ。そのタイミングで、幸平の携帯に通知が入る。
時川からのメッセージだ。
「何これ?」
谷田も同じくメッセージを受けたらしい。開いてみると、URLが記載されている。
時川は言った。
「幸平くんがいるんだよ」
「え?」
「なんだと?」
「それ質問小袋なんだけどさ」
「出たっ! 小袋!」
「幼馴染、セフレ、で検索かけたら出てきたんだ。見てみろよ」
言われるがままにURLにアクセスする。
幸平はその質問文を読んで、思わず目を見開いた。
《【ID 非公開さん】
恋愛に関して質問があります。アドバイスをご教示いただければ幸いです。
ずっと昔から幼馴染に恋をしています。
その人は自分からすればとても輝かしくて、憧れの存在で、自分とは不釣り合いの、子供の頃から好きな相手でした。
幸いにもその人と体の関係を結ぶことができました。
しかしセックスが終わると、すぐに解散です。いわゆるセフレという関係らしいです。
どうしたら自然に、恋人になれるでしょうか?
(0人が共感しています)》
谷田はかなりの大声で「幸平じゃん!」と叫んだ。
いつも谷田が突然大声を出すとき、時川は嫌な顔を隠さないが、今回ばかりは真剣な表情のまま頷いた。
「そうなんだよ。幸平くんだな?」
「お前、いつの間に……」
「お、俺じゃない」
幸平の文ではない。けれど心の底から驚いた。幸平はまたその文章を読み直し、ごくりと唾を飲み込む。
俺と同じだ……。
あまりにビックリして、そして質問者の切実な思いに心を動かされ、思わず『共感』ボタンを押す。目敏く拾った谷田が、「お前今共感押したな?」と険しい目つきで指摘してきた。
「え、した」
「そうやってすぐ反応するのはさぁ……お前……」
「……俺、怒られてる?」
「良いことだぜ。反応するのは大事だ。あっちも、共感してくれてる! と励まされてるよ。その一人の共感が糧になるんだ」
「褒められた……」
「共感するのはいいが、しかし回答がよくないな」
時川がぼやくので、画面をスライドする。
その文章を目にして、幸平は思わず唇を噛み締めた。
《回答》
【kkk*************さん】
残念ながら脈なしです(笑)
男はセックス脳なので、まず第一にヤることがゴールで、最終目的です。
その過程で告白やデートや恋人になるなど段階があるのに、
あなたは最終目的を先に与えてしまったのです。
もうすでにゴールに達してるのに、ここからわざわざ面倒な過程を経てデートなど恋人らしいことなんてしてくれません。
金も時間もかかるし、男にとっては面倒でしょう。
厳しい意見でしたらすみません(笑)このまま都合の良い存在のセフレとしてやっていくのも良いですが、諦めるなり離れるなりした方が吉かと思われますw》
彼からの聴取が開始した。
「連絡が来ないのは一週間程度?」
「あ、うん」
「二ヶ月前までは溝口さんの家が多かったのか?」
「えっと……半々かな。いや、俺ん家が多かったかも」
「今まではどれくらいで会ってんだ?」
「一週間に一度くらい」
「なるほどね」時川はにこやかに微笑み、「案外今日来たりして」と冗談を言った。
一度は黙っていた谷田だが、やはり数秒程度の耐え性である。不満げな顔をして問いかけてきた。
「けど、溝口さん家に呼ばれないのはどういう現象なんだよ」
答えの分からない幸平はちょこっと首を傾げ、時川は幸平の様子を眺めていた。
谷田は幸平にグッと近付いて、
「つうか幸平はさ、溝口さんに告白したんだよな?」
「した。卒業式の日に」
「すげぇな幸平。全然気づかなかったわ。あんなに一緒にいたのに、お前が溝口さんのこと好きだったなんて」
「言ってないから」
「しかも告白できるなんて。漢だなぁ。溝口さんもびっくりしたんじゃね?」
「そうかも」
「溝口さんのタイプじゃないもんな、幸平って」
「そうだね」
「そうかなぁ」
時川は呟いた。幸平も谷田も思わず「え?」「あ?」と反応するが、どうやらいつも通りのテキトーな発言らしく、彼はサラッと会話を続ける。
「前提として知っておきたいんだけど、幸平くんは、溝口陽太さんの恋人になりたいんだろ?」
こうも率直に言葉にされると閉口してしまう。すぐに答えられないのが答えだ。図星を突かれて、幸平は言葉に窮する。
告白して、セフレになれて。それで満足していたはずなのに、過ごせば過ごすほど封じ込めていた欲が現れてしまった。
時川の言う通りだ。
幸平は陽太が好きで、彼の恋人になりたい。
「つまりこの恋愛相談は、セフレからどう恋人へ昇格するかって話だよな、幸平くん?」
しっかり確認してくる時川だが、彼が敢えて言葉にしてくれたのは有り難かった。
自分では素直に言えない願いであり、欲望だからだ。確定的に問いかけられたら、幸平がすることは一つ。
「うん」
頷くだけでいい。
時川がまた微笑みを深くして、頷いた。動揺した様子の谷田も「まぁそうだよな」と頷き始める。先ほどの動きと真逆だ。停止した状態から、次第に首を上下するスピードが速くなっていく。
「じゃあ、今日はそういう会で! 幸平が溝口さんの恋人に……なるために……溝口さんの恋人?」
自分で自分のセリフが信じられないと言った顔をする谷田の横で、時川は携帯を片手に涼しい顔をする。
「とはいえ、私たちセフレも恋人もいないしな。有識者の意見を伺いたい」
「セフレとかいるわけねぇよ。彼女欲しい」
「谷田くんはしっかり童貞だもんな」
「ウルセェ。俺はお前が元ヤンでヤリチンだったことが心底怖いよ」
「ははっ」
「つうか、お前こそセフレいたんじゃね?」
「いや、私は歴代彼女たちを愛してたから。……あれ?」
と、携帯を眺め始めた時川が、首を傾げる。
谷田は「どした?」と携帯を覗き込んだ。そのタイミングで、幸平の携帯に通知が入る。
時川からのメッセージだ。
「何これ?」
谷田も同じくメッセージを受けたらしい。開いてみると、URLが記載されている。
時川は言った。
「幸平くんがいるんだよ」
「え?」
「なんだと?」
「それ質問小袋なんだけどさ」
「出たっ! 小袋!」
「幼馴染、セフレ、で検索かけたら出てきたんだ。見てみろよ」
言われるがままにURLにアクセスする。
幸平はその質問文を読んで、思わず目を見開いた。
《【ID 非公開さん】
恋愛に関して質問があります。アドバイスをご教示いただければ幸いです。
ずっと昔から幼馴染に恋をしています。
その人は自分からすればとても輝かしくて、憧れの存在で、自分とは不釣り合いの、子供の頃から好きな相手でした。
幸いにもその人と体の関係を結ぶことができました。
しかしセックスが終わると、すぐに解散です。いわゆるセフレという関係らしいです。
どうしたら自然に、恋人になれるでしょうか?
(0人が共感しています)》
谷田はかなりの大声で「幸平じゃん!」と叫んだ。
いつも谷田が突然大声を出すとき、時川は嫌な顔を隠さないが、今回ばかりは真剣な表情のまま頷いた。
「そうなんだよ。幸平くんだな?」
「お前、いつの間に……」
「お、俺じゃない」
幸平の文ではない。けれど心の底から驚いた。幸平はまたその文章を読み直し、ごくりと唾を飲み込む。
俺と同じだ……。
あまりにビックリして、そして質問者の切実な思いに心を動かされ、思わず『共感』ボタンを押す。目敏く拾った谷田が、「お前今共感押したな?」と険しい目つきで指摘してきた。
「え、した」
「そうやってすぐ反応するのはさぁ……お前……」
「……俺、怒られてる?」
「良いことだぜ。反応するのは大事だ。あっちも、共感してくれてる! と励まされてるよ。その一人の共感が糧になるんだ」
「褒められた……」
「共感するのはいいが、しかし回答がよくないな」
時川がぼやくので、画面をスライドする。
その文章を目にして、幸平は思わず唇を噛み締めた。
《回答》
【kkk*************さん】
残念ながら脈なしです(笑)
男はセックス脳なので、まず第一にヤることがゴールで、最終目的です。
その過程で告白やデートや恋人になるなど段階があるのに、
あなたは最終目的を先に与えてしまったのです。
もうすでにゴールに達してるのに、ここからわざわざ面倒な過程を経てデートなど恋人らしいことなんてしてくれません。
金も時間もかかるし、男にとっては面倒でしょう。
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