三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第3章

3-6

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 ルネは目を逸らさないまま、頭の中でコアを破壊するイメージを作り出し魔力を手のひらに集中させる。熱を帯びた手のひらから再び魔方陣が顕現。
 警戒した魔物がルネに向かって飛び出した。

「!」

 魔物の攻撃を飛んでかわす。抉れた地面にルネがいないことに気付き辺りを見回す魔物の背後にすぐさま周りこんで蹴りを入れた。咄嗟に風を操った旋風交じりの蹴りだ。
 魔物の背中に無数の切り傷が刻まれた。痛みに耐えるように、魔物が呻く。

「グギ……」

 魔物が振り向く。その先に冷たい視線を落とすルネが立っていた。

「フギ!?」

(コアの破壊は、躊躇わずに、一瞬で)

 魔物の表情が恐怖に変わった。ルネと魔物の間に青白い光を帯びた魔方陣が現れる。魔方陣の光は周りの空気を巻き込むように渦を巻き、次第に刃のように鋭く光る。ルネは目の前のコアに向けて手を思い切り突き出した。ルネの風の刃が魔物のコアにめり込む。鉱石が割れるような音がして、コアが真っ二つに割れた。

「フギャアアアアッ」

 魔物は霧が消えるように姿を消した。

「はあ、はあ」

 今日は少し手こずった。本当はコアの場所を見つけた直後に攻撃しようと思ったところで魔物が飛び出してきたのだ。咄嗟によけたが、思ったより時間がかかってしまったことが悔やまれる。

(今日はミカエル様も見ているのに)

 ルネは若干肩を落として振り向いた。そこには顎に指を添えてこちらを見るミカエルがいる。何を考えているのだろう。ルネは試験結果を待つ学生のような面持ちで彼に歩み寄った。

「あの、ミカエル様……」
「ん?」
「その、どうでしたか?」

 見てもらうと知った時はあんなに嬉しかったのに、今では緊張で心臓が飛び出しそうだ。この一瞬でミカエルの中のルネの評価が変わるようなことは無いだろうが、本当は、自分にも出来る、一番の瞬間を見せたい、と思わずにはいられなかった。もっとも、ミカエルはこんなことで人を判断したりしない。それはルネも十分分かっている。でも、いいところを見せたかった。こんな感情を持ったのも、ミカエルが初めてだ。
 ミカエルがルネを見上げた。

「正直、驚いた」
 
 何にだろう。ルネは目を瞬く。

「ルネ、君は魔力を自分のものに出来ている。素晴らしいよ。本当に」

 ミカエルは興奮したように目を輝かせてルネを見た。その勢いに驚いて声を詰まらせる。

「そ、そうでしょうか」
「ああ、そうだとも。それに戦闘中も臨機応変に対応できている。実は魔物が飛び出してきた時、君が避けられるとは思わなかったんだ。うまくやっても攻撃を受け止めることが精一杯だと。だが君は咄嗟によけるだけでなく、魔法を使って相手に一撃を喰らわせた。魔法以外にも機転が利くようになったね。思った以上の成長だ。私は嬉しいよ」

 口を挟む隙も無いほど並べられた褒め言葉に、ルネは言葉を失くす。
 ミカエルはルネのことをよく褒めてくれた。その度にどう反応していいのか、分からなくなる。
 そういう時はいつもミカエルの言葉を思い出すのだ。「言葉を素直に受け取る」。これはルネの心の片隅にいつもあった。
 それにしてもいつも冷静なミカエルが興奮気味だ。自分ももっとうまく感情を表現出来たらいいのに、とルネは思う。

「あ、ありがとうございます。でもミカエル様に教えていただいた通りにやってみただけです。私の中には、いつもミカエル様の言葉があります。ミカエル様の言葉を思い出すと、勇気が出るんです」
「勇気?」
「はい。私も成長できるって。何もできないことなんてないって思えるんです。だから、余計な力が抜けちゃうのかもしれません」

 ルネが笑いかけると、ミカエルもつられるようにして頬を緩ませた。

「ルネ、いいものを見せてもらったお礼と、君の成長のお祝いをしよう。そうだな、魔法道具なんてどうだろう?」
「魔法道具?ミカエル様、話の意図が見えないのですが」
「君にプレゼントをあげよう」
「プレゼント……?」

 まるでこちらと会話をしてくれない。ミカエルはさっと踵を返して家に向かっている。ルネは呆然としながらその背中を追いかけた。
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