44 / 82
第2章
2-30
しおりを挟む
その日、ネイティア家の会議室にはイリス国の公爵家当主が集められていた。
年に3度、日にちを決められて行われるこの会議だが、今回は異例としてネイティア家が他の2家に緊急招集をかけた。
3大公爵家のひとつ、ラングレー家の現当主の名はハリスと言う男だった。
ハリスは火魔法を扱うことに長けていた。普段は沈黙を好み、どこか一歩引いた場所で話を聞くことが多い彼だったが、一度怒らせると手が付けられないことでも有名だった。
ハリスは黒髪に赤のメッシュが入った、短髪をかきあげ、ため息混じりにルーカスに訊ねた。
「突然の招集とは、余程の事情があるということかね?ネイティア家当主よ」
彼の横で、ふくふくと笑いをこらえるのは、リビオラ家の現当主、クラリス。彼女は氷魔法が得意な、食に目がなく、また情報通で名の通る女だった。クラリスは豊満な体を椅子にどっかり沈めながら、黄色いレースの扇を口元にあてハリスを冷やかした。
「あら知らないのハリス様。ルーカス様は今、大事な大事な一人娘が行方不明ですのよ」
「ほう?」
「今日あたくしたちが集められたのも、きっとその協力を申し出るためですわ。違うかしら、ルーカス様?」
クラリスの情報網は、国中に張り巡らされている、と社交界では噂されている。ルーカスはもしやと懸念していたことが現実になり、頭を抱えた。
「何故知っているのですか、クラリス様」
「あたくしが知らないと思っていたの?舐められたものね。社交界での噂を知らないのかしら」
ルーカスは押し黙る。
コンコン、と会議室がノックされメイドがお茶を持ってくる。
クラリスの前にはアフタヌーンティーセットも置かれ、一通りお茶の準備が済むと、メイドは音もさせずに出ていった。
クラリスは出されたお茶と一口嚥下し、伏し目がちに訊ねた。
「まだ見つからないそうね、ルネ様」
「ええ。こちらも最大限全力を尽くしているのですが、何分手がかりが少なく……。だが知っているのでしたら話が早い。どうか、娘の捜索に協力していただきたい」
2人は眉間の皺を深くするルーカスをその目で見定めた。
ルーカスのその双眸は、果たして娘を案じる父親のものであるのか、あるいは一家の当主としてのものなのか。
ハリスもクラリスも、彼が初代当主を崇拝していることを知っていた。その深い理由までは知らずとも、彼の言葉の節々にその癖が出ているのだ。ルーカスは良くも悪くも、自分が3大公爵家であることを誇りに思っている。自分は大魔法使いの弟子の末裔であると、誇示しているのだ。
それが侯爵家以下の貴族たちによく思われていないことも知っていた。
ハリスは厳しい表情を崩さないまま、静かに嘆息をこぼす。
「ルーカス様。私たちにも子供がおります。心中お察ししますよ」
「でしたら!」
「ええ。協力はしましょう。ただ、条件があります」
「条件?」
「こちらも最近頻発する魔物退治に騎士団を向かわせております故、手が足りないのです。その中で協力するのですから、それ相応の対価は必要かと」
クラリスもまた、ふくふくと笑いながら言った。
「そうね。私も条件次第では協力するわ」
年に3度、日にちを決められて行われるこの会議だが、今回は異例としてネイティア家が他の2家に緊急招集をかけた。
3大公爵家のひとつ、ラングレー家の現当主の名はハリスと言う男だった。
ハリスは火魔法を扱うことに長けていた。普段は沈黙を好み、どこか一歩引いた場所で話を聞くことが多い彼だったが、一度怒らせると手が付けられないことでも有名だった。
ハリスは黒髪に赤のメッシュが入った、短髪をかきあげ、ため息混じりにルーカスに訊ねた。
「突然の招集とは、余程の事情があるということかね?ネイティア家当主よ」
彼の横で、ふくふくと笑いをこらえるのは、リビオラ家の現当主、クラリス。彼女は氷魔法が得意な、食に目がなく、また情報通で名の通る女だった。クラリスは豊満な体を椅子にどっかり沈めながら、黄色いレースの扇を口元にあてハリスを冷やかした。
「あら知らないのハリス様。ルーカス様は今、大事な大事な一人娘が行方不明ですのよ」
「ほう?」
「今日あたくしたちが集められたのも、きっとその協力を申し出るためですわ。違うかしら、ルーカス様?」
クラリスの情報網は、国中に張り巡らされている、と社交界では噂されている。ルーカスはもしやと懸念していたことが現実になり、頭を抱えた。
「何故知っているのですか、クラリス様」
「あたくしが知らないと思っていたの?舐められたものね。社交界での噂を知らないのかしら」
ルーカスは押し黙る。
コンコン、と会議室がノックされメイドがお茶を持ってくる。
クラリスの前にはアフタヌーンティーセットも置かれ、一通りお茶の準備が済むと、メイドは音もさせずに出ていった。
クラリスは出されたお茶と一口嚥下し、伏し目がちに訊ねた。
「まだ見つからないそうね、ルネ様」
「ええ。こちらも最大限全力を尽くしているのですが、何分手がかりが少なく……。だが知っているのでしたら話が早い。どうか、娘の捜索に協力していただきたい」
2人は眉間の皺を深くするルーカスをその目で見定めた。
ルーカスのその双眸は、果たして娘を案じる父親のものであるのか、あるいは一家の当主としてのものなのか。
ハリスもクラリスも、彼が初代当主を崇拝していることを知っていた。その深い理由までは知らずとも、彼の言葉の節々にその癖が出ているのだ。ルーカスは良くも悪くも、自分が3大公爵家であることを誇りに思っている。自分は大魔法使いの弟子の末裔であると、誇示しているのだ。
それが侯爵家以下の貴族たちによく思われていないことも知っていた。
ハリスは厳しい表情を崩さないまま、静かに嘆息をこぼす。
「ルーカス様。私たちにも子供がおります。心中お察ししますよ」
「でしたら!」
「ええ。協力はしましょう。ただ、条件があります」
「条件?」
「こちらも最近頻発する魔物退治に騎士団を向かわせております故、手が足りないのです。その中で協力するのですから、それ相応の対価は必要かと」
クラリスもまた、ふくふくと笑いながら言った。
「そうね。私も条件次第では協力するわ」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
絵描き令嬢は北の老公と結婚生活という名のスローライフを送ることにしました。
(旧32)光延ミトジ
恋愛
ローズハート男爵家の長女アメリアは幼い頃に母を亡くし、それ以来、父や義母、異母妹と馴染めず疎外されて生きてきた。
そのため彼女は家族が暮らす王都の屋敷を早々に去り、小さな自領に引っ込んで、趣味の絵を描いて暮らしている。幸いアメリアには才能があったようで、画商によって絵はそこそこ売れていた。
王国には長子相続の慣例があるため、いずれは自分が婿を取って家督を継ぐことになると思っていたのだが、どうやら慣例は無視して異母妹が男爵家の後継者になるらしい。アメリアは今後の進退を考えなければいけなくなった。
そんな時、彼女の元に北の辺境伯領から婚姻の申し込みがくる。申し込んできた相手は、国の英雄と呼ばれる、御年六十を越える人物だ。
(なんでわたしに?)
疑問は晴れないが、身分差もあり断ることはできない。とはいえ特に悲観することもなく、アメリアは北の辺境伯領へ発つのだった。
おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません
一条弥生
恋愛
神凪楓は、おじ様が恋愛対象のオジ専の28歳。
ある日、推しのデキ婚に失意の中、暴漢に襲われる。
必死に逃げた先で、謎の人物に、「元の世界に帰ろう」と言われ、現代に魔法が存在する異世界に転移してしまう。
何が何だか分からない楓を保護したのは、バリトンボイスのイケおじ、イケてるオジ様だった!
「君がいなければ魔法が消え去り世界が崩壊する。」
その日から、帯刀したスーツのオジ様、コミュ障な白衣のオジ様、プレイボーイなちょいワルオジ様...趣味に突き刺さりまくるオジ様達との、心臓に悪いドタバタ生活が始まる!
オジ専が主人公の現代魔法ファンタジー!
※オジ様を守り守られ戦います
※途中それぞれのオジ様との分岐ルート制作予定です
※この小説は「小説家になろう」様にも連載しています
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる