三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第2章

2-30

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 その日、ネイティア家の会議室にはイリス国の公爵家当主が集められていた。
 年に3度、日にちを決められて行われるこの会議だが、今回は異例としてネイティア家が他の2家に緊急招集をかけた。
 3大公爵家のひとつ、ラングレー家の現当主の名はハリスと言う男だった。
 ハリスは火魔法を扱うことに長けていた。普段は沈黙を好み、どこか一歩引いた場所で話を聞くことが多い彼だったが、一度怒らせると手が付けられないことでも有名だった。
 ハリスは黒髪に赤のメッシュが入った、短髪をかきあげ、ため息混じりにルーカスに訊ねた。

「突然の招集とは、余程の事情があるということかね?ネイティア家当主よ」

 彼の横で、ふくふくと笑いをこらえるのは、リビオラ家の現当主、クラリス。彼女は氷魔法が得意な、食に目がなく、また情報通で名の通る女だった。クラリスは豊満な体を椅子にどっかり沈めながら、黄色いレースの扇を口元にあてハリスを冷やかした。

「あら知らないのハリス様。ルーカス様は今、大事な大事な一人娘が行方不明ですのよ」
「ほう?」
「今日あたくしたちが集められたのも、きっとその協力を申し出るためですわ。違うかしら、ルーカス様?」

 クラリスの情報網は、国中に張り巡らされている、と社交界では噂されている。ルーカスはもしやと懸念していたことが現実になり、頭を抱えた。

「何故知っているのですか、クラリス様」
「あたくしが知らないと思っていたの?舐められたものね。社交界での噂を知らないのかしら」

 ルーカスは押し黙る。
 コンコン、と会議室がノックされメイドがお茶を持ってくる。
 クラリスの前にはアフタヌーンティーセットも置かれ、一通りお茶の準備が済むと、メイドは音もさせずに出ていった。
 クラリスは出されたお茶と一口嚥下し、伏し目がちに訊ねた。

「まだ見つからないそうね、ルネ様」
「ええ。こちらも最大限全力を尽くしているのですが、何分手がかりが少なく……。だが知っているのでしたら話が早い。どうか、娘の捜索に協力していただきたい」

 2人は眉間の皺を深くするルーカスをその目で見定めた。
 ルーカスのその双眸は、果たして娘を案じる父親のものであるのか、あるいは一家の当主としてのものなのか。
 ハリスもクラリスも、彼が初代当主を崇拝していることを知っていた。その深い理由までは知らずとも、彼の言葉の節々にそのが出ているのだ。ルーカスは良くも悪くも、自分が3大公爵家であることを誇りに思っている。自分は大魔法使いの弟子の末裔であると、誇示しているのだ。
 それが侯爵家以下の貴族たちによく思われていないことも知っていた。
 ハリスは厳しい表情を崩さないまま、静かに嘆息をこぼす。

「ルーカス様。私たちにも子供がおります。心中お察ししますよ」
「でしたら!」
「ええ。協力はしましょう。ただ、条件があります」
「条件?」
「こちらも最近頻発する魔物退治に騎士団を向かわせております故、手が足りないのです。その中で協力するのですから、それ相応の対価は必要かと」

 クラリスもまた、ふくふくと笑いながら言った。

「そうね。私も条件次第では協力するわ」





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