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第2章
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「私はきっとお母様のお腹の中に、才能だけ置いてきてしまったのです。だから、容姿しか似てない、出来損ないになってしまった」
「ルネ…。だが分からない。そこまで力に固執する人間が、今までルネを手放さなかった理由が」
「初代当主の遺言です」
「遺言?そんなものが残っているのか」
「ええ。他の公爵家ではどうか分かりませんが、その遺言はネイティア家では絶対的なルールなんです。内容はこうです」
『私の魔力をほぼそのまま受け継ぐ者がこの先必ず産まれる。その子はこの家の真の継承者になるだろう。他に跡継ぎがいたとしても関係ない。先代が亡くなったら、その子を必ず当主に君臨させろ。そうして、この家とこの国に繁栄と栄光をもたらすのだ』
「ネイティア家の初代当主は、3人の弟子の中で最も魔力量が多く、王の一番弟子だったそうです。それ故か力に酷く執着する人柄だったと、家庭教師が教えてくれました。だから…」
「自分の生まれ変わりとも言えるその子に、必ず後を継がせろと、そう遺したのだな」
はい、とルネは頷く。
「そして私が、その魔力をそのまま受け継いだ真の後継者というわけです。父は当主の遺言に忠実でした。私が使える魔法が弱いものばかりであることを知っても、お義母様とお義兄様が家族になってもそれは変わらなかった。そうして私は、お飾りの継承者、つまり正当な後継者になったのです」
「ルネ、あまり自分を卑下するものではない」
ミカエルは持っていたカップをテーブルに置いて、顔を上げる。その表情は今まで見た事がないくらい真剣そのもので、ルネは一瞬身を引いた。けれどどうしても自分の気持ちが先走って、口からこぼれてしまう。
「ではどうしろと言うのです?私が使えるのは、平民たちが日々使っているような生活魔法以下のものなのですよ!」
突然ルネはガタンと身を乗り出した。瞳は相変わらず揺れている。段々と濡れて、充血し始めていた。今にも泣きそうなのを必死にこらえているような様子だ。
「お義兄様のような鎌鼬も、お義母様のような突風も吹かせられない。それどころか、花の種1つ飛ばすことが出来ないのです。私の価値なんて、体の中に溜まる膨大な魔力量だけなのに、それだけなのにそれすら何にも活かせなくては、私は……私は一体何のために産まれてきたのですか?」
「ルネ」
ミカエルの制止も、最早意味をなさないくらいルネは興奮しきっていた。
「だからあの時、こんな後継者の証なんて要らないって、捨てようとしたんです。終わらせようとしたんです。私が居なくなれば、全部上手くいくって。目の上のたんこぶがなくなって、お義兄様は後継者に、お義母様は後継者と血の繋がった母親になれるのですから。私も、痛いのはもう嫌だったんです……」
とうとう溢れ出した涙を見て、ミカエルはそっとハンカチをルネに渡した。
「ありがとうございます」
ズッと鼻をすするルネ。ミカエルはルネが落ち着くまで、視線だけ彼女から逸らして待った。今は、何を言ってもルネには届かない気がして、あえて何も言わなかった。
「ごめんなさい。取り乱してしまって。でも、これが真実です。私には、生きている価値なんて無いんです。ミカエル様は、きっと凄くお強いんでしょう?色々な魔法が使えますものね?だから、私のこの気持ちもきっと理解出来ないのでしょう?」
「私のことは今は関係ない話だ」
そう伝えると、ルネはいいえと頭を振る。
「関係ありますわ。ミカエル様、この話を聞いても、私を守ると言えますか?」
ミカエルの睫毛が、ピクっと反応する。
「私は家には帰りたくありません。でも、この先を自由に生きようとも思えないのです。私は私が信じられない。だから、申し訳ないのですけれど、ミカエル様の事も、私は真っ直ぐに信じられないのです」
ミカエルにその言い分は十分理解出来た。自分自身が自分自身を信じてないから、相手のことも信じられないし、信用もできない。結局一人で生きていくしかないのだと、ルネは暗にそう伝えてきているのだ。
「ルネ…。だが分からない。そこまで力に固執する人間が、今までルネを手放さなかった理由が」
「初代当主の遺言です」
「遺言?そんなものが残っているのか」
「ええ。他の公爵家ではどうか分かりませんが、その遺言はネイティア家では絶対的なルールなんです。内容はこうです」
『私の魔力をほぼそのまま受け継ぐ者がこの先必ず産まれる。その子はこの家の真の継承者になるだろう。他に跡継ぎがいたとしても関係ない。先代が亡くなったら、その子を必ず当主に君臨させろ。そうして、この家とこの国に繁栄と栄光をもたらすのだ』
「ネイティア家の初代当主は、3人の弟子の中で最も魔力量が多く、王の一番弟子だったそうです。それ故か力に酷く執着する人柄だったと、家庭教師が教えてくれました。だから…」
「自分の生まれ変わりとも言えるその子に、必ず後を継がせろと、そう遺したのだな」
はい、とルネは頷く。
「そして私が、その魔力をそのまま受け継いだ真の後継者というわけです。父は当主の遺言に忠実でした。私が使える魔法が弱いものばかりであることを知っても、お義母様とお義兄様が家族になってもそれは変わらなかった。そうして私は、お飾りの継承者、つまり正当な後継者になったのです」
「ルネ、あまり自分を卑下するものではない」
ミカエルは持っていたカップをテーブルに置いて、顔を上げる。その表情は今まで見た事がないくらい真剣そのもので、ルネは一瞬身を引いた。けれどどうしても自分の気持ちが先走って、口からこぼれてしまう。
「ではどうしろと言うのです?私が使えるのは、平民たちが日々使っているような生活魔法以下のものなのですよ!」
突然ルネはガタンと身を乗り出した。瞳は相変わらず揺れている。段々と濡れて、充血し始めていた。今にも泣きそうなのを必死にこらえているような様子だ。
「お義兄様のような鎌鼬も、お義母様のような突風も吹かせられない。それどころか、花の種1つ飛ばすことが出来ないのです。私の価値なんて、体の中に溜まる膨大な魔力量だけなのに、それだけなのにそれすら何にも活かせなくては、私は……私は一体何のために産まれてきたのですか?」
「ルネ」
ミカエルの制止も、最早意味をなさないくらいルネは興奮しきっていた。
「だからあの時、こんな後継者の証なんて要らないって、捨てようとしたんです。終わらせようとしたんです。私が居なくなれば、全部上手くいくって。目の上のたんこぶがなくなって、お義兄様は後継者に、お義母様は後継者と血の繋がった母親になれるのですから。私も、痛いのはもう嫌だったんです……」
とうとう溢れ出した涙を見て、ミカエルはそっとハンカチをルネに渡した。
「ありがとうございます」
ズッと鼻をすするルネ。ミカエルはルネが落ち着くまで、視線だけ彼女から逸らして待った。今は、何を言ってもルネには届かない気がして、あえて何も言わなかった。
「ごめんなさい。取り乱してしまって。でも、これが真実です。私には、生きている価値なんて無いんです。ミカエル様は、きっと凄くお強いんでしょう?色々な魔法が使えますものね?だから、私のこの気持ちもきっと理解出来ないのでしょう?」
「私のことは今は関係ない話だ」
そう伝えると、ルネはいいえと頭を振る。
「関係ありますわ。ミカエル様、この話を聞いても、私を守ると言えますか?」
ミカエルの睫毛が、ピクっと反応する。
「私は家には帰りたくありません。でも、この先を自由に生きようとも思えないのです。私は私が信じられない。だから、申し訳ないのですけれど、ミカエル様の事も、私は真っ直ぐに信じられないのです」
ミカエルにその言い分は十分理解出来た。自分自身が自分自身を信じてないから、相手のことも信じられないし、信用もできない。結局一人で生きていくしかないのだと、ルネは暗にそう伝えてきているのだ。
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