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第1章

15話

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「ここからどうしますか」

 一度は防いだものの、ずっとこの状態というわけにもいかない。シオンは自分はガーラ達が普段どういう戦い方をしているのか、聞いておけばよかったと後悔した。あまりにも準備不足過ぎる。何も考えずについてきてしまってからでは遅すぎる。

「どうする、とは」

 きょとんとするガーラに、嫌な予感が走る。

「は?いや、何か作戦とかあるのかなと思って」
「そんなものはない」
「……いつもどうしているのですか?」
「いつも?いつも、どうしていたかな」

 ガーラがウェストに訊ねた。ウェストは困ったように頭をかいている。

「いやぁ、私たちに作戦はない……んじゃないか。言ってしまえはそれが作戦みたいな」

 シオンは頭を抱えた。まさか作戦が無いなんて。騎士団たちと討伐に行っていた時にはあり得なかった事態だ。

「スイ、もう動いてもいい?」

 ガーラの服を引っ張り、スイが聞いた。

「気を付けろ。また何か飛んでくるかもしれない」
「大丈夫」

 そう言うと、スイが手を前に出した。シオンが首を傾げているとスイの手のひらに淡い光が灯る。シオンはその眩しさに思わず目を細めたその時、スイの手のひらの前に何か長細いものがゆっくりと現れ始める。
 それは青白い肌をしていた。
 三叉槍さんさそうだ。少し無骨な印象の、刃が3つに分かれた槍。地面に着く石突部分に、山を逆にしたような形のものが付いている。
 重そうな見た目のそれを、スイは難なく宙に浮かせた。手に触れずにスイの意思通りに動く三叉槍。シオンは目を瞠ることしか出来ない。

「むんっ!」

 スイが手を思い切り前に振りあげた。すると、三叉槍はミサイルが発射されるように、先程枝や石が飛んできた方角にまっすぐ飛んで行った。
 数秒三叉槍が飛んで行った方角を呆然と見ていると、ドス、という何かに刺さったような音が聞こえた。

「1匹。捕まえた」
「よし。……シオン。行くぞ」
「え、ちょっと」

 呆気に取られていると、ガーラに呼ばれた。シオンは慌てて3人の後を追う。理解が追い付かない。今何をしたのだろう。
 森の中を光が少ない方向に歩き進めていく。段々とユウムの気配が近づいているのが分かる。

「いた」

 スイが突然駆け出した。シオンも続く。
 その先には、1本の木と、そこに刺さったスイの三叉槍、そしてそれにつかまったユウムに取り憑かれた人間が1人いた。カタリ村にいた人たちと服装が似ている事から、恐らく取り憑かれた村人のうちの1人だろう。
 三叉槍は彼の服の肩部分を射抜いていた。
 シオンは村人に怪我がないことを確認し、安堵の息をもらす。
 
「ヴアアアアッ」

 村人が人間らしからぬ声で鳴いた。ユウムに取り憑かれるとこうなる。人間の言葉を話すことは出来なくなり、理性も失くし、やがて人間を襲う化け物となってしまう。
 シオンはゆっくりとその取り憑かれた村人に歩み寄った。
 村人の形をしたユウムが威嚇するように暴れだす。

「ヴアアアアッ、アアアアアッ」
「今助けて差し上げます」

 シオンはガーラを振り返る。

「ガーラさん。あなたの魔法で、彼を拘束できますか」
「出来る」

 ガーラは不愛想に頷いて、魔法でロープを出しそのまま指先一つでしゅるしゅると村人を木に縛り付けてしまった。スイがその後突き刺さっていた三叉槍を同じように指先一つで抜く。

「すごい」
「これでいいか?」
「ええ。ありがとうございます」

 シオンは村人に向き直る。彼は拘束から抜け出そうと足をばたつかせて暴れていた。ガーラはその様子に眉を顰め、彼の足元にもロープをくくった。

「ヴアアアアアアアアアッ」

 この声は苦手だ、とシオンは眉根を寄せる。この鳴き声と一緒に、ユウムに取り憑かれた人間の悲しい嘆きまで聞こえてくる気がするのだ。自分はもう助からないと諦めている、早く殺してくれと懇願するような、心を揺さぶられる声だ。
 
「大丈夫、私なら」

 シオンはそう呟いて、そっと彼の額に手をかざす。噛みつかれないよう、ぎりぎりの距離を取った。
 1人の聖女が使える力は1種類のみ。シオンの場合は保護魔法に特化している。結界を張ることはシオンの十八番だった。その応用で、魔物を倒したり、人に取り憑いた魔物を人から引きはがしたりすることが出来る。これが出来るようになるまで年単位の時間がかかった。しかしかなりの集中力を要するため、あまり長い時間は出来ない。
 まずは1人、確実に助ける。シオンは目を固く閉じた。イメージするのは、村人を結界の中に入れるということ。結界の中は浄化空間となっている。浄化され消えたくない魔物は、結果自分から姿を現すのだ。
 シオンは結界を張るための術式を頭の中で思い浮かべる。するとシオンのかざした手のひらに同じ術式が展開され、術式が描かれると並行して、村人の体が淡く光を放ち始めた。やがて術式が完成されると同時、ガクリと気を失った村人の頭の上に、黒い靄が立ちのぼる。輪郭ははっきりしなかったが、シオンの目線より高い位置で黒い火の玉のような形の魔物が現れた。ユウム本体だ。
 赤く丸い形をした目が不気味に開いて、シオンを見た。


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