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第1章
5話
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こんなに泣き腫らしたのは何時以来だろうか、と浮腫んだ目元を濡らしたタオルで冷やしながら思う。
(きっとずっと前からいっぱいいっぱいだったんだ、私)
シオンが起きたのはガーラと話をした翌日の昼すぎだった。
最後に時計を見た記憶で、昼前だったから、丸一日寝ていたことになる。泣いて泣いて、疲れて寝てしまったのだ。途中何度か起きたような気もするが、目を開くと数日前の王宮の記憶が蘇って、また涙が出てしまうので目を閉じて眠った。そうして起きて泣いて眠るを何度か繰り返した。
(これ、部屋を出てもいいのかな)
目元のタオルを少しずらして、部屋の扉を見る。
ガーラという男は、しばらくここに居るように言った。ありがたいことだ。何せ今後のことを考える時間なんて無かった。
シオンはゆっくり起き上がって洗面所に向かう。鏡の中の自分を見て、なんとか目の腫れが目立たなくなったことを確認する。
「よし」
□□□□□□□□
部屋を出ると、スイがいた。彼女は表情こそ乏しかったが、声色は僅かに弾んでいた。
「お姉ちゃん!元気になった?」
「あ、う、うん。大丈夫です。あの、ずっと待ってたの?」
「うん。ほんとはお部屋に入って一緒に寝ようと思ってたんだけど、ガーラが入っちゃ駄目って」
「そう」
(あのガーラっていう人にお礼言っておかなくちゃ)
シオンはスイと視線を合わせるため、屈んで話を続けた。
「スイ……さん?」
「スイでいいよ。そのちぐはぐな話し方も、やめていいよ。スイとおんなじでいいよ」
敬語は不要ということだろうか。シオンは笑った。
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうね」
「うん。あのね、お姉ちゃんのこと名前で呼んでもいい?」
「いいよ」
「えへへ」
スイはふんわりと嬉しそうに微笑んだ。
館を案内してくれるというスイに付いていく。
スイは今居るここは館の2階だという。
「ここはお客様用のお部屋なの。でもちゃんと綺麗だったでしょ?」
「そうね。ありがとう」
シオンの部屋は一番左端の部屋だった。隣の部屋は空き部屋で、その隣から順にガーラの部屋、応接室、ウェストの部屋、スイの部屋、空き部屋だ。
(ウェスト、あとの一人の名前かな)
キッチンなどは1階にあった。家具は落ち着いたブラウンで揃えられていて、落ち着いた印象のある館だ。
「こっち来て。2人とも多分いるから」
シオンは頷いてスイに付いていく。案内されたのは応接室だ。スイが扉を開けると部屋には2人の男がいた。倒れる前に見た影と一致する、大男もいた。
「シオンお姉ちゃん、連れてきたよ。ガーラ、ウェスト」
「スイ、案内ありがとう」
ガーラがシオンに近づく。シオンに向けられた視線は相変わらず愛想が無かった。
「昨日ぶりだな」
「はい。ありがとうございました、その、色々と」
「いや、とんでもない」
「ガーラ」
後ろに控えていた大男がガーラを呼ぶ。ガーラは、「ああ」と頷いてそこをどいた。
シオンの前に2mはあろうかという灰色の狼男が現れる。
「はじめまして。もう聞いてるかもしれないけど、私はウェスト。見ての通り、狼男さ」
「はじめましてウェストさん。シオンと申します。この度はご迷惑をおかけして……」
「そんなことはいい!事情があることはガーラから聞いた。苦労したんだってな」
「いえ……」
ウェストは悲しそうな笑みをシオンに向けた。この笑顔はなんだか苦手だと思ったシオンは、本当に大丈夫ですからと彼に伝えた。
(優しい人なんだな)
そう思うことにした。
(きっとずっと前からいっぱいいっぱいだったんだ、私)
シオンが起きたのはガーラと話をした翌日の昼すぎだった。
最後に時計を見た記憶で、昼前だったから、丸一日寝ていたことになる。泣いて泣いて、疲れて寝てしまったのだ。途中何度か起きたような気もするが、目を開くと数日前の王宮の記憶が蘇って、また涙が出てしまうので目を閉じて眠った。そうして起きて泣いて眠るを何度か繰り返した。
(これ、部屋を出てもいいのかな)
目元のタオルを少しずらして、部屋の扉を見る。
ガーラという男は、しばらくここに居るように言った。ありがたいことだ。何せ今後のことを考える時間なんて無かった。
シオンはゆっくり起き上がって洗面所に向かう。鏡の中の自分を見て、なんとか目の腫れが目立たなくなったことを確認する。
「よし」
□□□□□□□□
部屋を出ると、スイがいた。彼女は表情こそ乏しかったが、声色は僅かに弾んでいた。
「お姉ちゃん!元気になった?」
「あ、う、うん。大丈夫です。あの、ずっと待ってたの?」
「うん。ほんとはお部屋に入って一緒に寝ようと思ってたんだけど、ガーラが入っちゃ駄目って」
「そう」
(あのガーラっていう人にお礼言っておかなくちゃ)
シオンはスイと視線を合わせるため、屈んで話を続けた。
「スイ……さん?」
「スイでいいよ。そのちぐはぐな話し方も、やめていいよ。スイとおんなじでいいよ」
敬語は不要ということだろうか。シオンは笑った。
「ありがとう。じゃあそうさせてもらうね」
「うん。あのね、お姉ちゃんのこと名前で呼んでもいい?」
「いいよ」
「えへへ」
スイはふんわりと嬉しそうに微笑んだ。
館を案内してくれるというスイに付いていく。
スイは今居るここは館の2階だという。
「ここはお客様用のお部屋なの。でもちゃんと綺麗だったでしょ?」
「そうね。ありがとう」
シオンの部屋は一番左端の部屋だった。隣の部屋は空き部屋で、その隣から順にガーラの部屋、応接室、ウェストの部屋、スイの部屋、空き部屋だ。
(ウェスト、あとの一人の名前かな)
キッチンなどは1階にあった。家具は落ち着いたブラウンで揃えられていて、落ち着いた印象のある館だ。
「こっち来て。2人とも多分いるから」
シオンは頷いてスイに付いていく。案内されたのは応接室だ。スイが扉を開けると部屋には2人の男がいた。倒れる前に見た影と一致する、大男もいた。
「シオンお姉ちゃん、連れてきたよ。ガーラ、ウェスト」
「スイ、案内ありがとう」
ガーラがシオンに近づく。シオンに向けられた視線は相変わらず愛想が無かった。
「昨日ぶりだな」
「はい。ありがとうございました、その、色々と」
「いや、とんでもない」
「ガーラ」
後ろに控えていた大男がガーラを呼ぶ。ガーラは、「ああ」と頷いてそこをどいた。
シオンの前に2mはあろうかという灰色の狼男が現れる。
「はじめまして。もう聞いてるかもしれないけど、私はウェスト。見ての通り、狼男さ」
「はじめましてウェストさん。シオンと申します。この度はご迷惑をおかけして……」
「そんなことはいい!事情があることはガーラから聞いた。苦労したんだってな」
「いえ……」
ウェストは悲しそうな笑みをシオンに向けた。この笑顔はなんだか苦手だと思ったシオンは、本当に大丈夫ですからと彼に伝えた。
(優しい人なんだな)
そう思うことにした。
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