死神の砂時計

蒼依月

文字の大きさ
上 下
23 / 25

23話 ??

しおりを挟む
 死神の世界に、昼夜は無い。時間関係なくいつでも夕暮れ時だ。
 薄暗い空をぼうっと眺めるのは、死神レティ・アウトサイド。先日死神を統率する団体の尋問から解放され、家に戻ってきてから、ずっとベッドの上でうずくまっている。傍らに転がるのは、家に戻る前に密かに拝借してきた砂時計。深雪が持っていたものだ。今は横たわっていて時計としての機能を果たしていない。
 レティの家は殺風景だった。物なんて最低限の生活用品しかない。それも、つい最近深雪に感化されて揃えた物ばかりだ。ベッドもテーブルも椅子も、深雪が好きそうな色やデザインを見つけたから、買ってみた、それだけ。それももう、必要ない。目障りにすら思える。でも、捨てることも出来なかった。深雪のことを忘れてしまいそうだから。
 団体の尋問は、深雪に関することだった。深雪に関わってから、レティの行動がおかしくなっていったから当然だ。
 尋問者の死神は終始白いフードを目深にかぶってその顔は窺い知れなかったが、レティのことを異端だとか、異例だとか、失礼なことを思っていることは分かった。

「私は異端でもいい。先生を助けたかった。それだけよ」

 そう言うと、レティはしばらくの間監禁された。監禁中は死神とは何か、ということを説く者がレティの目の前で一日中居座ってこんこんと教えを説いていた。だがそれはレティにとってなんともない罰だった。ヘラであれば、全く身動きが取れないうえに監視までされているあの状況では、鬱憤が爆発してしまったかもしれない。
 教えを聞き流しながら、頭で考えていたのは深雪のことばかりだった。一度だけ考えることを止めようとしたことがあった。でも、それでも忘れられなかった。あんなに、日は無かった。きっと、これも死神にはあるまじき感情なのだろうと思って、尋問中は決して口にしなかった。
 レティは顔を上げる。人間界にいた時には、朝と昼と夜の様子の違いに面白みを感じたものだ。それも、今は無い。

「先生。どうしてくれるの。私、もうこの世界では生きていけないかもしれない。ここはつまらないわ」

 今まで、どうやってこの代わり映えしない世界で過ごしてきたのか、思い出せない。
 深雪に会いたい。話がしたい。笑顔が見たい。
 レティの頬に涙が伝った。

「ああもう。またこれ。先生、これはどうしたら治るの?教えてよ。こんなこと聞けるの、先生しかいないんだから」

 応える存在はいない。レティの声は冷たい空気に溶けて消えた。

(そういえば……)

 レティは傍らの砂時計を手に取った。
 
「先生は、よく本を読んで人間に何かを教えていたわ」
 
 もしかしたら。
 そんな一抹の予感が、レティを立ち上がらせた。

(先生に会える方法が何かわかるかもしれない)
 
 死神の世界に、図書館は無い。
 そもそも何かを学ぶという概念がないのだ。
 それを探すには、もう一度人間界に行く必要がある。
 レティは砂時計をコートのポケットにしまい、静かに家を出た。
 全ては深雪にもう一度会う為。
 レティは再び人間界に降り立つ決意をした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...