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19話 12月27日~12月28日
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翌日。深雪はいつもの時間に家を出た。その様子を見守る1人の死神、レティ。
レティの表情は僅かな影を帯びていた。
(先生の砂時計が見えてから、ちょうど明日で1ヶ月。今日まで何とかやってきたけど、やっぱり心配だわ)
そう。深雪の砂時計は確実にその終わりを告げようとしていた。もう残っている砂も僅かだ。それがレティをどうしようもなく焦燥させる。体がそわそわして落ち着かない。
(駄目。こんな調子じゃいざという時、先生を守れないじゃない。集中しなきゃ)
レティは自分の頬に手のひらをあてた。目を閉じて、深呼吸を一回、目を開く。深雪はもう車を動かしていた。レティは深雪の車の上を飛び、じっとシルバーの屋根を見つめる。たまに警戒するように辺りを見回すが、今日は特に何もなく、学校に着いた。
レティが束の間の安堵感に、ほっと息をついた時だった。
ふと誰かの視線を背後に感じ、咄嗟に振り向く。
(何、今の)
そこには誰も見当たらなかった。
だが、確かに誰かの視線を感じた。
レティの背に冷たい汗が流れていく。怖気立つような感覚に、レティは全身で警戒した。感覚を研ぎ澄ませる。
(どこから?どこから見ているの?)
だが次の瞬間には、その冷たい視線は感じられなくなった。突然に消え去った、と言った方が正しいかもしれない。
確実に人間ではない。ヘラのものでもない。
もしかしたら、とレティは爪を噛む。
(ヘラが気を付けろって言ってた。まさか彼らの――)
視られている。
だがレティの決意は固かった。たとえ、何に邪魔をされても、必ず彼女だけは守ると。
(危険因子でも異端でもなんでもいいわ。私は私のやりたいようにやるだけよ)
深雪はとっくに車から出て、校舎に向かっている。今日は深雪の授業は無い。いつもだったら、研究室の外で見守っているのだが、今日はずっと一緒にいよう。怪しまれようが関係ない。昨日の話を聞いて寂しくなったとでもいえば、深雪はきっと中に入れてくれる。
レティはデスロードを仕舞い、深雪の後を追った。
結局、その日は深雪を守り通した。深雪はまだ生きている。
だが、砂時計の砂はとどまることなく落ち続けている。
□□□□□□□□
深雪はこの日、いつもより早い時間に車を出したところだった。今日は水曜日。授業は4限にある。通常だったらお昼ごろに車を出す日だが今は11時。
昨日突然やってきたレティが「明日もお昼ご飯を一緒に食べたい、なるべく一緒にいたい」と言うので、気持ち早く大学へ向かっている。
深雪は車を運転しながら、目を瞬いた。
「いつもと時間が違うだけで、景色も変わって見えるものね」
車の中でひとりごちる。
今日のお昼ご飯は昨日の残り物を詰めた何の変哲もないものだったが、今日のことをとても楽しみにしている自分がいることに、深雪は気付いていた。レティはきっと今日も、お弁当を食べる自分を見て微笑むのだろう。
「ふふ、楽しみね」
目の前の信号が赤に変わる。
深雪はブレーキを踏んだ。
「ん?」
何かがおかしい。
ブレーキを踏んだ時の重みが感じられない。車が止まる気配もない。
「うそ、まって、そんな、待って待って待って待って!」
深雪の手は次第にじっとりと湿り始めた。
「嘘よね、ね、冗談でしょう?嫌……待ってっ」
何度も何度もブレーキを踏んだ。だが、車は大きな交差点にまっしぐらに進んでいく。
恐怖が全身を駆け巡って、次第に体の自由を奪っていった。
「嫌よ!嫌、嫌嫌嫌!お願いだから止まって!止まって止まって!止まってって!!」
深雪の頬に、涙が伝っていく。額には汗をかいていた。
車は止まらない。言うことを聞かない子供のように、真っ直ぐに赤信号の交差点へ突っ込んでいく。
車の頭が交差点に差し掛かった時、深雪は視界の端に、巨大なトラックを捉えた――。
深雪の口から、誰かに助けを求める声が零れ落ちた。
「助けて」
強い衝撃が深雪の体を襲う直前、バックミラーにレティの顔が、見えたような気がした。
その瞬間深雪は、大学での爆破事件の時のようにヒーローみたいに救ってはくれないかと、夢みたいなことを考えた。
レティの表情は僅かな影を帯びていた。
(先生の砂時計が見えてから、ちょうど明日で1ヶ月。今日まで何とかやってきたけど、やっぱり心配だわ)
そう。深雪の砂時計は確実にその終わりを告げようとしていた。もう残っている砂も僅かだ。それがレティをどうしようもなく焦燥させる。体がそわそわして落ち着かない。
(駄目。こんな調子じゃいざという時、先生を守れないじゃない。集中しなきゃ)
レティは自分の頬に手のひらをあてた。目を閉じて、深呼吸を一回、目を開く。深雪はもう車を動かしていた。レティは深雪の車の上を飛び、じっとシルバーの屋根を見つめる。たまに警戒するように辺りを見回すが、今日は特に何もなく、学校に着いた。
レティが束の間の安堵感に、ほっと息をついた時だった。
ふと誰かの視線を背後に感じ、咄嗟に振り向く。
(何、今の)
そこには誰も見当たらなかった。
だが、確かに誰かの視線を感じた。
レティの背に冷たい汗が流れていく。怖気立つような感覚に、レティは全身で警戒した。感覚を研ぎ澄ませる。
(どこから?どこから見ているの?)
だが次の瞬間には、その冷たい視線は感じられなくなった。突然に消え去った、と言った方が正しいかもしれない。
確実に人間ではない。ヘラのものでもない。
もしかしたら、とレティは爪を噛む。
(ヘラが気を付けろって言ってた。まさか彼らの――)
視られている。
だがレティの決意は固かった。たとえ、何に邪魔をされても、必ず彼女だけは守ると。
(危険因子でも異端でもなんでもいいわ。私は私のやりたいようにやるだけよ)
深雪はとっくに車から出て、校舎に向かっている。今日は深雪の授業は無い。いつもだったら、研究室の外で見守っているのだが、今日はずっと一緒にいよう。怪しまれようが関係ない。昨日の話を聞いて寂しくなったとでもいえば、深雪はきっと中に入れてくれる。
レティはデスロードを仕舞い、深雪の後を追った。
結局、その日は深雪を守り通した。深雪はまだ生きている。
だが、砂時計の砂はとどまることなく落ち続けている。
□□□□□□□□
深雪はこの日、いつもより早い時間に車を出したところだった。今日は水曜日。授業は4限にある。通常だったらお昼ごろに車を出す日だが今は11時。
昨日突然やってきたレティが「明日もお昼ご飯を一緒に食べたい、なるべく一緒にいたい」と言うので、気持ち早く大学へ向かっている。
深雪は車を運転しながら、目を瞬いた。
「いつもと時間が違うだけで、景色も変わって見えるものね」
車の中でひとりごちる。
今日のお昼ご飯は昨日の残り物を詰めた何の変哲もないものだったが、今日のことをとても楽しみにしている自分がいることに、深雪は気付いていた。レティはきっと今日も、お弁当を食べる自分を見て微笑むのだろう。
「ふふ、楽しみね」
目の前の信号が赤に変わる。
深雪はブレーキを踏んだ。
「ん?」
何かがおかしい。
ブレーキを踏んだ時の重みが感じられない。車が止まる気配もない。
「うそ、まって、そんな、待って待って待って待って!」
深雪の手は次第にじっとりと湿り始めた。
「嘘よね、ね、冗談でしょう?嫌……待ってっ」
何度も何度もブレーキを踏んだ。だが、車は大きな交差点にまっしぐらに進んでいく。
恐怖が全身を駆け巡って、次第に体の自由を奪っていった。
「嫌よ!嫌、嫌嫌嫌!お願いだから止まって!止まって止まって!止まってって!!」
深雪の頬に、涙が伝っていく。額には汗をかいていた。
車は止まらない。言うことを聞かない子供のように、真っ直ぐに赤信号の交差点へ突っ込んでいく。
車の頭が交差点に差し掛かった時、深雪は視界の端に、巨大なトラックを捉えた――。
深雪の口から、誰かに助けを求める声が零れ落ちた。
「助けて」
強い衝撃が深雪の体を襲う直前、バックミラーにレティの顔が、見えたような気がした。
その瞬間深雪は、大学での爆破事件の時のようにヒーローみたいに救ってはくれないかと、夢みたいなことを考えた。
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