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17話 12月23日
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結局、深雪は大事を取って3日間休みをもらった。その間、出来ていなかった部屋の片付けや書類の整理をしながら、事あるごとに脳裏をよぎるのは学長の言葉。
(私はどうしたいんだろう)
明日には日常に戻る。
そうしたら考える時間も少なくなって、答えを先延ばしにしてしまいそうだ、と深雪は悩んだ。
ふと、レティの顔が浮かんだ。無性に会いたくなって、彼女の連絡先すら知らないことに気付く。それだけじゃない。彼女はどうしていつも深雪の授業だけに出席するのか。本当に自分を気に入ったという理由だけなのか。
(それに、最近私の周りで起こる奇妙な事件。レティがそばにいて守ってくれることが多くなってきたような気がする。この前の爆発事件の時も)
3日前の騒ぎは、小さな爆発事件として処理された。警察が抉れた地面を中心に色々と調べていたが、今のところ特に進展もなく捜査は難航しているらしい。
(レティ。今何してるのかな。というか、あの人何歳なんだろう。仕事とかしてるのかな。学生には見えないし)
だとしたら、かなり時間に自由が利く仕事ということになる。深雪の授業にはほとんど出ているから、会社勤めは考えにくい。
「本当に私、レティのこと何も知らないんだ」
何だか悲しくなって、深雪はレティのことを考えないようにした。
「今はそれよりも、私のことよね」
本当は結論は出ていた。だが、気がかりなことがあった。それが深雪の決断をどうしようもなく鈍らせるのだ。
深雪は考えを振り払うようにかぶりを振る。
書類を整理する手が止まった。
深雪は嘆息をひとつこぼして、窓の外を見た。
(また考えてる。もう重症だな、私)
深雪の口から、またひとつ憂いの溜息が漏れた。
□□□□□□□□
翌週。レティはいつもの席で深雪の授業を聞いていた。彼女と目が合うたびに、深雪は笑みを返す。だが今日はその笑みもどこかぎこちない。
「では、今日はここまで」
深雪は自分の腕時計を見て、終業時間より少し早めに授業を切り上げた。教科書やノートを鞄にしまっていると、レティがやってきた。
「先生。お昼ご飯食べましょ」
「……ええ」
教室を出ると、レティも後をついてくる。もう何度も繰り返した行動も、今となっては寂しい。
(言わないと、あの事)
エレベーターで深雪の研究室がある階まで上がり、2人はいつもの部屋の扉を開けて入る。
レティは慣れたように、入って右側のソファに座った。鞄を置いて弁当を取り出す深雪の様子をにこにこしながら見つめている。
「レティ。なんだかご機嫌ね」
「今日は邪魔者がいないから」
「邪魔者?ああ、もしかしてあの人のこと?金髪の」
「そう。私と先生の時間を邪魔してきていたの」
「そう、かな。私はあんまり記憶にないけど」
「いいの。先生はそれでいいの」
レティの言いたいことがいまいち掴めずに、深雪は首を傾げる。レティは鼻歌でも歌いだしそうな笑顔だ。この笑顔を今から崩すのかと思うと、心が痛む。
だが言わなければ、彼女はきっと深雪の見ていないところで悲しむだろう。
(それは嫌だ、なあ)
深雪はハッと顔を上げて、挑むような姿勢でじっとレティを見つめた。
「レティ、私ね、レティに言わなければいけないことがあるの」
「なあに?」
「私ね、隣の県の、鹿宴大学に行こうと思うの。だから、レティとこうしてご飯を食べることも、年明けの授業までってことになるわ」
(私はどうしたいんだろう)
明日には日常に戻る。
そうしたら考える時間も少なくなって、答えを先延ばしにしてしまいそうだ、と深雪は悩んだ。
ふと、レティの顔が浮かんだ。無性に会いたくなって、彼女の連絡先すら知らないことに気付く。それだけじゃない。彼女はどうしていつも深雪の授業だけに出席するのか。本当に自分を気に入ったという理由だけなのか。
(それに、最近私の周りで起こる奇妙な事件。レティがそばにいて守ってくれることが多くなってきたような気がする。この前の爆発事件の時も)
3日前の騒ぎは、小さな爆発事件として処理された。警察が抉れた地面を中心に色々と調べていたが、今のところ特に進展もなく捜査は難航しているらしい。
(レティ。今何してるのかな。というか、あの人何歳なんだろう。仕事とかしてるのかな。学生には見えないし)
だとしたら、かなり時間に自由が利く仕事ということになる。深雪の授業にはほとんど出ているから、会社勤めは考えにくい。
「本当に私、レティのこと何も知らないんだ」
何だか悲しくなって、深雪はレティのことを考えないようにした。
「今はそれよりも、私のことよね」
本当は結論は出ていた。だが、気がかりなことがあった。それが深雪の決断をどうしようもなく鈍らせるのだ。
深雪は考えを振り払うようにかぶりを振る。
書類を整理する手が止まった。
深雪は嘆息をひとつこぼして、窓の外を見た。
(また考えてる。もう重症だな、私)
深雪の口から、またひとつ憂いの溜息が漏れた。
□□□□□□□□
翌週。レティはいつもの席で深雪の授業を聞いていた。彼女と目が合うたびに、深雪は笑みを返す。だが今日はその笑みもどこかぎこちない。
「では、今日はここまで」
深雪は自分の腕時計を見て、終業時間より少し早めに授業を切り上げた。教科書やノートを鞄にしまっていると、レティがやってきた。
「先生。お昼ご飯食べましょ」
「……ええ」
教室を出ると、レティも後をついてくる。もう何度も繰り返した行動も、今となっては寂しい。
(言わないと、あの事)
エレベーターで深雪の研究室がある階まで上がり、2人はいつもの部屋の扉を開けて入る。
レティは慣れたように、入って右側のソファに座った。鞄を置いて弁当を取り出す深雪の様子をにこにこしながら見つめている。
「レティ。なんだかご機嫌ね」
「今日は邪魔者がいないから」
「邪魔者?ああ、もしかしてあの人のこと?金髪の」
「そう。私と先生の時間を邪魔してきていたの」
「そう、かな。私はあんまり記憶にないけど」
「いいの。先生はそれでいいの」
レティの言いたいことがいまいち掴めずに、深雪は首を傾げる。レティは鼻歌でも歌いだしそうな笑顔だ。この笑顔を今から崩すのかと思うと、心が痛む。
だが言わなければ、彼女はきっと深雪の見ていないところで悲しむだろう。
(それは嫌だ、なあ)
深雪はハッと顔を上げて、挑むような姿勢でじっとレティを見つめた。
「レティ、私ね、レティに言わなければいけないことがあるの」
「なあに?」
「私ね、隣の県の、鹿宴大学に行こうと思うの。だから、レティとこうしてご飯を食べることも、年明けの授業までってことになるわ」
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