死神の砂時計

蒼依月

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1話 11月7日

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(今日もかっこいい!)

 ここは都内の田舎にある、春生大学経済学部のキャンパス。第2校舎の1階、端の教室内。
 時間は2 限がそろそろ終わる時刻。
 彼女は、いつものようににいた。
 全身黒でまとめたコーディネート。体のラインが出るような細身のシャツとパンツ、ローヒールのブーツ姿に、印象的な白銀の髪と瞳。

(白石先生、いつ見ても素敵)

 そして彼女が熱烈な視線を送っているのは、この講義の講師、准教授の白石深雪だ。深雪はここで、環境経済学を教えている。

「では教科書の次のページへ」

 深雪の声は冬の空のように澄んでいる、と彼女は思っている。薄い唇から紡がれる声一つ一つが、彼女の耳を惚れさせた。
 深雪は彼女のお気に入りだった。
 だが彼女は、この大学の生徒でも無ければ、人間でもなかった。
 彼女は、死神。死神のレティ・アウトサイド。たまたま見かけた深雪に一目惚れし、彼女を追いかける生活を既に1年は続けている。こうして深雪の授業に出るのも日課になっていた。
 深雪は登壇する時、いつも同じような格好をしていた。ダークグレーのスーツに黒いパンプス、黒い髪は顎下くらいまで伸び、前髪を左に流している。その為よく左目が髪で隠れてしまうのだが、そこがレティのお気に入りだった。
 かっこいいと思ってしまった。死神にはあるまじき、人間への執着をレティはずっと持ち続けていた。
 誰にも内緒だ。これはレティだけの秘密の感情。
 チャイムが鳴る。今日も深雪を眺めているだけの授業時間だった。
 レティは存在感を消しながら、教科書をしまう深雪を眺める、

「え」

 ふと、目が合ったような気がして、声が出た。

(そんなはずないわ。だって私は認識されてないはず、生徒の顔なんて覚えてないでしょ……)

 だが深雪は明らかにこちらを見ている。そして、彼女は目を合わせたまま、ふっと笑った。

(う、嘘。気付かれてたの!?)

 レティが急いで教室から出ようとした時、深雪がこちらに向かってくるのが見えた。

「待ちなさい」
 
 レティは体を硬直させた。動けない。まるでなにかに絡め取られるように、レティは振り向く。

「あなた、この大学の生徒じゃないでしょう」

 レティは混乱して何も言えなかった。
 認識されているどころか、潜りだったことまでばれていた。

「ご、ごめんなさい!違うの!騙そうとかそういう意図は全くなくて!」
「ああ、責めてるわけじゃないの。ただ理由を知りたくて。あなた、私の授業を聞きに来ているって感じでもなさそうだから。どうしていつも来てくれるのかなと思って」

 深雪が笑いかけている。レティはそれだけで飛び上がるほど嬉しかった。だから浮かれて、口走ってしまった。

「一目惚れなの!ねえ、これからもあなたのこと見ててもいい?」

 レティは深雪の手を取って、懇願するように言った。
 
 
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