歪んだ運命の番様

ぺんたまごん

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第11話

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 飛翔の結婚式がとうとう明日になった。結婚式は土曜日にあるので、今日はいつものように仕事に行く。

「……なんか怠い……。」

 朝起きた時から、熱が出ているような火照りと怠さを感じた。一応体温計で熱を測ると三十七.二度。平熱よりちょっと高めだが、会社を休むほどの熱ではない。

(明日控えてるし、今日は定時で帰りたい……。)

 金曜日だし、先輩達も早く帰ってくれたら新人の俺も帰りやすいけれど。急ぎの案件もなさそうだったし、そうなればいいなと怠い体を動かしご飯を作っていく。

 夜が遅い分、俺が朝食と弁当担当になっている。手早く目玉焼きとソーセージを焼いて、カット済み野菜をガバッと適当に盛って、顆粒のコーンスープをお湯で溶く。食パンをトースターで焼いて朝ごはんの準備終了だ。弁当は卵焼きと昨日の夕食の残り、隙間は冷凍食品を使って埋めていく。

「雪雄おはよう。」
「ああ、おはよう。飯できてるぞ。」
「ありがとう。」

 そうこうしていたら弓弦が起きてくる。静かに近寄ってきて、背後から抱きしめられて首元にキスされた。

「さっさと食え。」
「あれ?なんか今日身体が熱いね?」

 少し触れただけで俺の体調にいち早く気づいてきた。逆に弓弦が三十八度の熱が出たときは、俺はsexする前にしか気づけなかったが、弓弦の手は温感センサーでも手に付いているのだろうか。

「ああ……微熱があるだけだ。」
「微熱?雪雄滅多に熱出ないのに大丈夫?仕事休んだら?」
「三十七.二度だぞ。これくらいじゃ休まない。」
「そう?無理しないでね?」
「ああ。今日は帰れたら定時で帰る。」
「うん。それがいいよ。夜は俺が身体に優しいメニュー作るから。」

 でもこうやって俺の些細な変化まで気づいてくれるのは、内心とても嬉しかった。気づいてくれるということは俺を気にしてくれているという事になるから。手作りの夕食も楽しみになる。

「じゃあ、いってらっしゃい。」
「おう。」

 準備をし終えて弓弦より先に外に出ると、湿り気を帯びたアスファルトの独特の匂いと共に雨が地面の色を変えていた。通勤時間に雨に当たるのを煩わしく感じながら傘を開く。

 入社してもうすぐ三ヶ月だ。徐々に仕事に慣れてきたが、連日続く雨で気分は五月病のようにどんよりしている。早く梅雨明けして欲しい。明日の結婚式は大丈夫だろうか。折角の門出なのだから、晴れて欲しいと願う。

 始業して先輩に教えてもらいながら、自分が出来るところを必死でこなしていると、あっという間に退社の時間になった。そこから一時間残業して帰り支度をする。

(………っ、きっつい。)

 仕事が終わり、気が緩むと身体の辛さがドッと押し寄せてきた。乱れそうになる息を深呼吸で整えて会社の外に出る。外はまだ雨が続いていた。朝よりも弱くはなっている。

(今日は明日に備えて早く寝よう……。)

 身体の熱さや怠さ、動悸の所為で歩くのが辛い。立ち止まりたい。座りたい……。
 家までは徒歩で十五分程の距離だが、十分程歩いて限界が来た。雨が凌げて、座れるところを虚ろな目で探すとコンビニが見える。小雨ならコンビニの狭い屋根でも凌げるだろうと思い、壁にもたれかかり、地面が濡れていたので尻をつけずにしゃがみこむ。

「……は、……はぁ。」

 顔を両腕で隠すように伏せて、肩で息をした。雨の湿気と身体の熱気でスーツの中が蒸れて不快な気分だ。

「ねえ、あの噂って本当なのかな?」
「噂?」

 近くで女の人の声がした。顔を上げて確認する余裕はないが、若く甲高い2種類の声がしている。

「私達βがΩになっちゃうって。」
「えー聞いたことない。ってか怖くない?どうやったらなるの?」

 ああ。駄目だ。頭がぐわんぐわんする。このまま倒れて寝てしまいたい。もう弓弦は会社終わってるよな……。弓弦ならタクシーよりも早く駆けつけてくれるはずだ。そう思って、うまく力の入らない手で電話をかける。携帯が滑り落ちそうになって一瞬ヒヤリとしたが、電話は無事繋がった。

「もしもし?雪雄どうしたの?」
「……っ、弓弦。……ごめんけど…、ちょっと身体キツくてさ……、迎えきて。」
「場所どこ?」
「家近くのコンビニ……。」
「すぐ行く。」

 プツリと切れた回線に、ホッとしてまた顔を伏せて待つ。
 よかった。やっと休める。あ、でも明日結婚式だ……。熱下がるかな。絶対参加したい。折角失恋を受け入れて、飛翔に心の底から祝言を言えるのだ。

「あははっ、何それ嘘っぽいー。だってαがβを相手する訳ないじゃん。」
「そうだよねー。あっ。雨上がったみたいだよ。濡れずに帰れるね。」

 雨が上がったのか。よかった。明日もそのまま晴れてくれたらいいな。絶対いい結婚式になる。楽しみだな……。

「きゃっ!」

 すると駐車場から凄い摩擦音が聞こえた。車の急ブレーキをかけたような嫌な音。騒つく女性の声に顔を上げると駐車枠を無視して停められた車から弓弦が降りてきた。ああ、そんな血相を変えてこなくてもいいのに。

「雪雄大丈夫?!」

 弓弦が駆け寄ってきて、俺の両肩に触れた瞬間、形容し難い身体の変化を感じた。

「え……、」

 自分の身体が瞬間湯沸かし器のように、血管内がブワッと熱くなった。何が起こっているかよくわからない。なんだろう。さっきより熱くて、心臓が早くて、息も早くて、下腹部がじわじわと疼いている。

「え……?はっはっ……、ゆ、弓弦……?」

 訳がわからない。なんだこれ。疼く?急に?何で急に。
 弓弦の顔を見ると毎日の劣情が走馬灯のように頭を駆け巡り、アナルにペニスを入れて欲しいと口にしそうになる。

「ああ……、この匂い……」
「はっはっ……に、おい……っ?」

 何のことだろう。汗臭い?じゃあ家帰ったら浴びるから、弓弦がすぐに欲しい……。じゃない、違う。早く家に帰って、ゆっくり休まないと……。

「何か……甘い匂いしない?」

 ニ人いた女性のうち、片方が何か言っていたが、俺たちの耳には届いていなかった。俺は弓弦にお姫様のように抱きかかえられ、助手席に乗せられる。忙しなくシートベルトを装着すると弓弦はエンジンを吹かして出発した。

「ああ……、こんなに香しい匂いなのか……。はは……っ、やっとだ。やっと。やっと来てくれた。運命の……運命の番。」

 何か隣でブツブツ言っているが、俺は身体の疼きを我慢する為に自分自身で身体を抱きしめて気を紛らわせる。

「………っひぁ!」

 下着の中がじんわり濡れた感触がする。え?も、もしかして、さっき屈んだ時に意識しないままお尻を地面につけたか?やばい、シート汚してしまう。横を向こうと身動いで、窓側を向いた。

「はっはっ……、雪雄どうしたの……っ?」

 そう話しかける弓弦も何故か俺と同じように息を荒だてていた。窓側を見ていた俺には弓弦がどんな顔をしているかは分からない。

「ご、……ごめん、……尻が濡れてたみたいで……っ、体調良く、なったら……はっ、ふっ、綺麗に、掃除するから。」
「……ふははは……溢れ出てるんだ……。はぁ、はぁ…、俺の為に溢れてる……。」
「……っ?……っわあ!」

 更に加速したスピードに恐怖を感じ、シートベルトを握りしめた。恐怖で弓弦の顔を確認する余裕はなかったが、背中で怖いぐらい弓弦の息が上がっているのが聞こえている。

 家に着き、またもやお姫様抱っこで連れていかれ荒々しく玄関の鍵を弓弦が開けると、直行で寝室へ連れて行かれた。噛みつくようなキスと共に服を破り捨てられる。

「んんっ?!え……お、お前っ!んああっ!」

 安物のスーツだけど、決して安い物じゃない。俺が具合悪くても、そんな脱がせ方はあんまりだと抗議しようとしたが、アナルに指を突っ込まれて、欲しかった刺激に身体が歓喜して服のことなんかすぐにどうでも良くなってしまった。
 弓弦が指を動かすとグチュ、クチュと湿った音がする。

(いつの間にローション付けたんだ……?ってか今日やばい。指だけで、もうイキそう……っ)

「ああ……、本当だ。本当に濡れてる……っ!雪雄雪雄雪雄……っ!」

 弓弦が名前を連呼しながら顔を真っ赤にして泣いていた。どうしたんだと聞こうとしたけれど、身体を反転させられ、尻だけ高く上げた状態でうつ伏せになる。そして後ろから思いっきり熱棒を打ち付けられた。

「ひぁああああっ!」

 難なく侵入してきたペニスの刺激で俺はピュッピュッと呆気なくベッドシーツを汚していた。イッた後も構わず中を蹂躙する欲望に必死で息をして喘ぐことしか出来ない。

「は、はっ、んあっ、あ、ああっ、んやぁ!あああっ!」
「雪雄雪雄雪雄雪雄……っ!」

 壊れたラジオのように何度も俺の名前を呼びながら、抽挿は激しさを増していく。

「……はっ、あ……、イくよ……っ!」

 角度がグッと深くなり、マウントのように弓弦が俺の背中に乗りかかると、弓弦の歯が俺の首元を大きく含むように当たる。

 ブチっ。

「いたぁああああ……っ!」

 首根に激しい疼痛と同時に頭の天辺からつま先まで電気が走るように痺れた。頭がスパークし、キラキラと視界に星が舞う。俺は無意識に噛まれただけで絶頂し、下肢はデロデロになっていた。肩で息をしながら、意識を手放すぐらい身体はキツいのに、まだ奥の方が疼いてもっと刺激が欲しくなる。

 ……もっと。

 ……もっともっと。

「……もっと精子ちょうだい……。」

 俺は低下した思考の中、蕾に入っているペニスの根元を触り、腰をゆさゆさと動かす。

「ああ……っ!やっとだ!やっと!俺の番になった……!ああ……嬉しい……っ!雪雄が!雪雄が!俺の運命の番……!」

 歓喜で顔を紅潮させ、眼は獣のようにギラギラと輝いていた。口の周りについた血は獰猛な肉食獣を彷彿とさせ、あまりの愛おしさに俺は唇を塞いだ。
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