上 下
14 / 36

14

しおりを挟む

 夜ご飯は何にしようかなとキッチンで食材を見ながら考えていると、キッチンの外で声が聞こえた。

「今日は結構魚とれたわね。食べきれないし、ドンドさんにおそそわけしましょうか」
「そうね」
「お、この声はネズさんとツネさんだな」

 ヴィス君は声で誰かわかったみたいだ。ネズさんとツネさんって誰だろうと思っていると、扉がカチャと開く。
 入ってきたのは僕の胸ぐらいの大きさの狐獣人さんと、膝ぐらいの大きさのネズミ獣人さんだった。
 獣人さん達もキッチンに先客がいたことに気づく。

「あら、ヴィス坊やじゃないか」
「食事嫌いの坊やがキッチンにいるなんて珍しいね。ミルクがなくなったのかい?食材庫に置いてあるから持ってきてあげようか」

 獣人さん達はヴィス君に孫のように声をかけている。声もしゃがれていてお爺ちゃんお婆ちゃんみたいな感じだ。

「ミルクはいらない。俺の嫁がご飯を作ってくれるからな」
「嫁?」
「嫁さんって……この布被ってる子かい?あんたいつの間に番見つけたんだい」
「ま、まだ嫁じゃないです!」

 獣人さん達はしげしげと僕を見た。とりあえず嫁発言を撤回しようと声を上げる。だってこのまま否定しなかったら、話が大きくなりそうな気がしたんだもん。

 ヴィス君のこと嫌いじゃないし、どちらかと言うと嫁発言も嬉しいけど、みんなに発表するのはちょっと違う。

「ルイ……」
「うっ」

 ヴィス君、そんな悲しそうな目で見ないで。そんなヴィス君を見た狐とネズミの獣人さんはカカッと笑った。

「ヴィス坊フラれておるじゃないか」
「まだフラれてねぇ!」

 ヴィス君はご機嫌斜めになってそっぽを向いちゃった。僕はごめんねの意味も込めてヴィス君の手をぎゅっと握るとヴィス君の機嫌は瞬く間に直った。「夜な?」なんて言ってくる。もう、やめて!人前は恥ずかしいんだってば!

 僕はヴィス君に軽く体当たりをして照れを隠した。そして狐獣人さんの手に持たれた魚が気になったので、声をかける。

「あの、狐さん」
「私かい?なんだね?」
「あ、僕は瑠偉と言います。昨日からドンドさんのところでお世話になってます」
「ああ、昨日珍しい異界人が来たと言っていたが、坊やのことか。ドンドの娘と家族なんだってね。よろしく、わしはツネだよ。こちらはネズ、私の番だ」
「え……ネズミさんと狐さんが夫婦?」

 ドンドさんとバイオレットさんが熊同士なので同種族の夫婦なのかと思ったが違ったようだ。よくよく考えれば、僕もヴィス君から求愛されているから、異種間恋愛になるのかな?
 疑問が顔に出ていたようで、ネズさんが教えてくれる。

「私はネズミで体格が小さいでしょ?体格が熊獣人のように大きすぎるのは繁殖が難しいから番は避けるけれど、番を選ぶは自由なのよ」
「へぇ~」

 なんだかすごい世界。
 狐獣人さんとネズミ獣人さんの間にはどんな獣人が生まれるんだろう。……下世話だから初対面で聞けないな。
 とりあえず今は魚だ。新鮮な魚を食べたい。

「あの、ツネさんが手に持っているのって魚ですよね?」
「そうだよ。パーチっていう魚でね、クセがない白身だから美味しいんだ。大きくて私たち家族の分は半分で足りるから、ドンドさんに分けようと思ってね」

 僕が熊獣人さんの料理係だと知ると、坊やにあげるよと言ってパーチをくれることになった。

 ツネさん達もお昼ご飯を作るとのことで、隣で一緒に料理をする。キッチンは小さな獣人用にもう一つあるらしく、そこでネズミさんとかリスさんが作っているんだそう。

 ツネさんの背丈だったらどっちも使えるので、キッチンの混み具合で使い分けてるそうだ。
 ツネさんは器用に魚を三枚おろしにしてくれた。半分を貰って、ネズさんが魚の頭と骨を捨てようとしていたので慌ててもらう。ダシを取りたいし、かまを酒蒸ししたら美味しいんだよね。

「骨は硬いよ?」
「骨自体は食べないんですけど、美味しいダシが出るんです」
「ダシ……?」

 ダシ文化なかったね。お昼時が近づいてきたので効率よく料理をしていく。
 まずはお米を洗って、魚も内蔵や血を綺麗に流す。魚は綺麗に洗わないと血臭くなっちゃうから入念に。

 新鮮なら日本人は刺身で食べたくなると思う。だからヴィス君に生で食べるか聞いてみたら、採れたてなら生魚のまま食べることもあるって。

 醤油やワサビがないのは寂しいけど、塩でも刺身は美味しく食べれるから半分は刺身にする。刺身を一口味見して、白身のおいしさを凝縮したような味がしたので、湯切りも塩抜きもなし。魚美味しい!

 残り半分は厚めに切り、カマも一緒に塩を振って網で焼いていく。
 シンプルに白身魚の塩焼きだ。採れたてだから絶対美味しいよ。焼いていくと、皮から脂が出てパチパチ、プシュ……と聞こえる。ああ、いい音。
 カマは途中で取り上げて、白身魚が焼き終わったら別の鍋に日本酒と一緒に入れて、弱火で蒸し焼きにする。酒蒸し。身がふっくらして美味しいよね。

 お米を炊いている間にもう一品。鍋に水を入れて、ほんの少しの日本酒と魚のアラを中火から強火でグツグツしていく。
 他にも人参と大根を入れて、アクがいっぱい出てくるから丁寧に掬っていく。

 三十分ほど茹でると生臭さはなくなっていくので、時々水を継ぎ足しながら煮ていき、最後に生姜と塩で味を整えたら完成。味噌なしあら汁の出来上がり。

 お姉ちゃんもあら汁。食事を引き続き作ることになったときに、ラインさんにお姉ちゃんの食事について詳しく聞いたんだ。

 具を食べなければ、スープに野菜以外に魚や肉、キノコ類を入れてもいいって。米も重湯ならOK。よかったね、お姉ちゃん。

 僕の料理を見ていたツネさん達が美味しそうだねって言ってくれたので、みんなで食べませんかと提案する。

 快諾したツネさん達も焼き魚を作っていたので、全部サービスワゴンに乗せてツネさんの家族も呼んで、ドンドさんの部屋に向かうことになった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

癒し系男子はヤンデレを癒しながら甘えたい

翠雲花
BL
"癒し子"とされる獣人のユユは、かすり傷程度の癒ししかできなかったが、癒し子が貴重だったため、ユユは王太子の婚約者として、人々を癒やし続ける日々を送っていた。 そんなある日、異世界から新たな癒し子がやって来た事で、獣人としても不遇な扱いを受けていたユユは、偽物の癒し子とされてしまい、婚約破棄とともに闇ノ国に追放された。 そんな、不幸にも思えるユユだが、ユユ自身は幸運だと思っており、闇ノ国で癒し子としても、ユユ個人としても愛される、ユユの新たな生活が始まる。 (重複投稿しています)

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...