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しおりを挟む夜ご飯は何にしようかなとキッチンで食材を見ながら考えていると、キッチンの外で声が聞こえた。
「今日は結構魚とれたわね。食べきれないし、ドンドさんにおそそわけしましょうか」
「そうね」
「お、この声はネズさんとツネさんだな」
ヴィス君は声で誰かわかったみたいだ。ネズさんとツネさんって誰だろうと思っていると、扉がカチャと開く。
入ってきたのは僕の胸ぐらいの大きさの狐獣人さんと、膝ぐらいの大きさのネズミ獣人さんだった。
獣人さん達もキッチンに先客がいたことに気づく。
「あら、ヴィス坊やじゃないか」
「食事嫌いの坊やがキッチンにいるなんて珍しいね。ミルクがなくなったのかい?食材庫に置いてあるから持ってきてあげようか」
獣人さん達はヴィス君に孫のように声をかけている。声もしゃがれていてお爺ちゃんお婆ちゃんみたいな感じだ。
「ミルクはいらない。俺の嫁がご飯を作ってくれるからな」
「嫁?」
「嫁さんって……この布被ってる子かい?あんたいつの間に番見つけたんだい」
「ま、まだ嫁じゃないです!」
獣人さん達はしげしげと僕を見た。とりあえず嫁発言を撤回しようと声を上げる。だってこのまま否定しなかったら、話が大きくなりそうな気がしたんだもん。
ヴィス君のこと嫌いじゃないし、どちらかと言うと嫁発言も嬉しいけど、みんなに発表するのはちょっと違う。
「ルイ……」
「うっ」
ヴィス君、そんな悲しそうな目で見ないで。そんなヴィス君を見た狐とネズミの獣人さんはカカッと笑った。
「ヴィス坊フラれておるじゃないか」
「まだフラれてねぇ!」
ヴィス君はご機嫌斜めになってそっぽを向いちゃった。僕はごめんねの意味も込めてヴィス君の手をぎゅっと握るとヴィス君の機嫌は瞬く間に直った。「夜な?」なんて言ってくる。もう、やめて!人前は恥ずかしいんだってば!
僕はヴィス君に軽く体当たりをして照れを隠した。そして狐獣人さんの手に持たれた魚が気になったので、声をかける。
「あの、狐さん」
「私かい?なんだね?」
「あ、僕は瑠偉と言います。昨日からドンドさんのところでお世話になってます」
「ああ、昨日珍しい異界人が来たと言っていたが、坊やのことか。ドンドの娘と家族なんだってね。よろしく、わしはツネだよ。こちらはネズ、私の番だ」
「え……ネズミさんと狐さんが夫婦?」
ドンドさんとバイオレットさんが熊同士なので同種族の夫婦なのかと思ったが違ったようだ。よくよく考えれば、僕もヴィス君から求愛されているから、異種間恋愛になるのかな?
疑問が顔に出ていたようで、ネズさんが教えてくれる。
「私はネズミで体格が小さいでしょ?体格が熊獣人のように大きすぎるのは繁殖が難しいから番は避けるけれど、番を選ぶは自由なのよ」
「へぇ~」
なんだかすごい世界。
狐獣人さんとネズミ獣人さんの間にはどんな獣人が生まれるんだろう。……下世話だから初対面で聞けないな。
とりあえず今は魚だ。新鮮な魚を食べたい。
「あの、ツネさんが手に持っているのって魚ですよね?」
「そうだよ。パーチっていう魚でね、クセがない白身だから美味しいんだ。大きくて私たち家族の分は半分で足りるから、ドンドさんに分けようと思ってね」
僕が熊獣人さんの料理係だと知ると、坊やにあげるよと言ってパーチをくれることになった。
ツネさん達もお昼ご飯を作るとのことで、隣で一緒に料理をする。キッチンは小さな獣人用にもう一つあるらしく、そこでネズミさんとかリスさんが作っているんだそう。
ツネさんの背丈だったらどっちも使えるので、キッチンの混み具合で使い分けてるそうだ。
ツネさんは器用に魚を三枚おろしにしてくれた。半分を貰って、ネズさんが魚の頭と骨を捨てようとしていたので慌ててもらう。ダシを取りたいし、かまを酒蒸ししたら美味しいんだよね。
「骨は硬いよ?」
「骨自体は食べないんですけど、美味しいダシが出るんです」
「ダシ……?」
ダシ文化なかったね。お昼時が近づいてきたので効率よく料理をしていく。
まずはお米を洗って、魚も内蔵や血を綺麗に流す。魚は綺麗に洗わないと血臭くなっちゃうから入念に。
新鮮なら日本人は刺身で食べたくなると思う。だからヴィス君に生で食べるか聞いてみたら、採れたてなら生魚のまま食べることもあるって。
醤油やワサビがないのは寂しいけど、塩でも刺身は美味しく食べれるから半分は刺身にする。刺身を一口味見して、白身のおいしさを凝縮したような味がしたので、湯切りも塩抜きもなし。魚美味しい!
残り半分は厚めに切り、カマも一緒に塩を振って網で焼いていく。
シンプルに白身魚の塩焼きだ。採れたてだから絶対美味しいよ。焼いていくと、皮から脂が出てパチパチ、プシュ……と聞こえる。ああ、いい音。
カマは途中で取り上げて、白身魚が焼き終わったら別の鍋に日本酒と一緒に入れて、弱火で蒸し焼きにする。酒蒸し。身がふっくらして美味しいよね。
お米を炊いている間にもう一品。鍋に水を入れて、ほんの少しの日本酒と魚のアラを中火から強火でグツグツしていく。
他にも人参と大根を入れて、アクがいっぱい出てくるから丁寧に掬っていく。
三十分ほど茹でると生臭さはなくなっていくので、時々水を継ぎ足しながら煮ていき、最後に生姜と塩で味を整えたら完成。味噌なしあら汁の出来上がり。
お姉ちゃんもあら汁。食事を引き続き作ることになったときに、ラインさんにお姉ちゃんの食事について詳しく聞いたんだ。
具を食べなければ、スープに野菜以外に魚や肉、キノコ類を入れてもいいって。米も重湯ならOK。よかったね、お姉ちゃん。
僕の料理を見ていたツネさん達が美味しそうだねって言ってくれたので、みんなで食べませんかと提案する。
快諾したツネさん達も焼き魚を作っていたので、全部サービスワゴンに乗せてツネさんの家族も呼んで、ドンドさんの部屋に向かうことになった。
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