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第弐章 孤心反魂 弐之怪
第42話 真夏は水風呂の方が気持ちいい
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死とはいったい何かと、ずっと考えている賢者がいました。
賢者は小声で独り言を呟きました。
「なぜ人は死について恐れるのか」
すると、賢者の目の前に死神が現れました。
死神は賢者に言いました。
「我は死神である。お前の命を奪いに来た」
すると、賢者は死神に言いました。
「貴方が死神ですか。分かりました。しかし、私が死ぬ前に貴方に問いたい事があります」
死神は賢者の問いに対して、答えてあげようと言いました。
賢者は死神に問いました。
「なぜ人は死について恐れるのですか?」
その問いに死神は答えました。
「それは、今まで生きていた生活が消えるからだ」
賢者は死神に問いました。
「では人が死ぬとは、いったいどんな事なんですか?」
その問いに死神は答えました。
「人が死ぬとは人が生きていないと言う事だ」
賢者は死神に問いました。
「生きていないと言う事は、いったいなんですか?」
その問いに死神は答えました。
「生きていないと言うのは、死んでいると言うことだ」
賢者は死神に問いました。
「では、死んだ人は生きてない。つまり、生きてないと言う事は、生きていた時に動いていた人が動かなくなったと言うことですか?」
その問いに死神は答えました。
「そうだ、死ねば人は動かない死体となるのだ」
賢者は死神に問いました。
「では、その動かない死体の中に死を見る事は出来ますか?」
その問いに死神は答えました。
「死を見る事は出来る。死体の体は動かない。その動かない死体そのものを見て人はそれを死と呼ぶのだ」
賢者は死神に問いました。
「それは、ただ死体と言われている物が動かなくなっただけで、死そのものでは無いと思います。ならば、本当の死とはいったいなんですか?」
その問いに死神は答えました。
「お前の言う死とは死体では無いと言うのなら、本当の死とは無である」
賢者は死神に問いました。
「今、貴方は本当の死は無だと言いましたが、死が無なら生とは有ると言う事ですか?」
その問いに死神は答えました。
「そうだ、死が無なら生とは有ると言う事だ。今のお前は生きている、つまり有ると言う事だ」
賢者は死神に問いました。
「ならば、その死の無とはいったいなんですか?」
その問いに死神は答えました。
「無とは何も無い事、それが無であり死ぬと言う事だ」
すると、賢者は死神に言いました。
「無が無であるなら、そこには無いと言う事。つまり、無いと言うなら、死そのものも無いと思います」
賢者の言葉を聞き死神は言いました。
「しかし、お前は今生きている。有ると言う事だ。つまり、無も存在するのだ」
死神の言葉を聞き、賢者は問いを続けました。
「無も存在すると貴方は言いましたが、その無が存在していると考えている自分は、何処にいるのですか?」
その問いに死神は答えました。
「無論、死んで無になったお前の考えの中にいる」
賢者は死神に問いました。
「死が無であるなら、無いと言う事。しかし、その無を考える自分が有るなら、貴方が言った、生きてる事は有ると言う事と同じではないのですか? ならば、無について考えている自分が有るなら、それは死では無いと言う事になります。では、本当の死とはいったいなんですか?」
死神は賢者の問いに答えられず、困ってしまいました。
そして、死神は賢者の前から消え去り、二度と賢者の前に現れる事はありませんでした。
第弐章・孤心反魂
♢ ♢ ♢ ♢
*1
────ッ!?
僕は寝ていたベッドから飛び起きた。
エアコンが壊れて動かない部屋で寝ていたから、暑さで飛び起きた訳では無い。
暑いのでは無く、熱いのだ。
とにかく脚が筋肉痛のレベルを越えて、燃え滾っているような熱さで飛び起きた訳である。
昨夜は、家に着いたのが深夜の一時過ぎで、すぐにシャワーを浴びて泥のようにベッドに倒れ込み、そこから記憶が無い。
僕が携帯電話で時間を見ると、まだ朝の六時になったばかりだった。
と言う事は、爆睡はしていたが、長時間眠っていた訳では無いということか。
ていうか、そんな事よりも、僕の瞳はまだ半分程しか開かないし、体もまだまだ休息を欲している。
決して健康的に目覚めたのでは無い。
脚が熱くて熱くて、我慢できずに起きてしまったのだ。
これはきっと、昨夜、心絵の奴が、『波動脚煌』とか言う訳の分からない技を僕に教え──廃工場の中を爆弾の爆発の中で猛ダッシュした所為に決まっている。
その猛ダッシュした反動が強烈な熱さを感じる程の筋肉痛になって、僕に返ってきたのだ……。
やれやれ、とにかく冷やすしか無いな。
と言っても、保冷剤も湿布も無いので、シャワーの水で脚を冷やす事にした。
────十五分ぐらい冷やしただろうか。
さっきよりかは、幾分か増しだ。
これなら、筋肉痛ではあるが、我慢できない程では無い。
普通に歩けるレベルだ。
僕が風呂場から出て、脚を拭き、よく目を凝らして自分の脚を視たが、全く青白く光っていない。
やはり心絵が言っていた通り、一時的な力だったのだろうか。
僕はそんな、どうでもいい事を考えながら、ジーパンを穿き、寝汗まみれのTシャツを洗濯籠に放り込み、箪笥から新しいTシャツを出して着替えた。
そして、臥龍の店に行くには、まだ時間が早過ぎるし、家電量販店も営業時間になっていないので、時間潰しにテレビでも観る事にした。
テレビのリモコンを取り、電源を入れると、ちょうど昨日、臥龍が騒いでいたパンデミックなんちゃらについてのニュースがやっている。
そして、テレビの中の専門家達が一様に首を傾げて議論していた。
専門用語が飛び交う中で思う。
僕はお偉いさんの考える事には興味なんて無いが、このニュースの原因はタルマが作った『パープル・カプセル』とか言うモノで、人間をゾンビにする恐ろしい薬を、ローザが世界中に散蒔いたからだ。
昨夜の廃工場の中で、あいつらが話していたから間違いない。
そして、テレビの中の議論の内容はと言うと──まだ抗体も発見されていないのに、突然この謎の奇病を発症する人がいなくなったと言う内容である。
当たり前だ。
この世界中で同時に確認された、謎の奇病の正体は、病気などのウイルス性のものでは無く、人を狂人に変えてしまう悪魔の薬が原因なのだから。
つまり、もうカプセルが無いので、被害者はこれ以上増えないと言うことである。
だが、今思い返しても、あの光景は惨いの一言に尽きる。
なんの罪も無い人達に『パープル・カプセル』を飲ませ、挙げ句、ゾンビにさえなれずに苦しみ、死を待つ人々を巨大プレス機で押し潰していた光景……。
きっと僕は、昨夜見た残忍極まる出来事を一生忘れ無いだろう。
灰玄も僕を殺そうとした人物だが──ローザやジェイトやタルマやホラキは、それ以上である。
奴らがした行為は、全世界無差別大量殺人なのだから……。
本当に酷い連中だ。
ていうか、これ完全にテロだぞテロ!
あいつらに人間の感情なんて無いと、僕は断言できる。
少なくとも灰玄には、まだ人間の血が流れているはずだ。
苦しみ、踠き、死を懇願するゾンビの成れの果てになった人達を、一瞬にして灰の山にし、その苦しみから解放させたのだから。
それにしても──まさか、僕が昨夜死ぬとは思わなかった。
こうして今、息をして、脚の痛みを感じているのは生きている証拠である。
改めて自分が生きている奇跡を感じ、昨夜の奇妙な体験を思い出す。
黒いビー玉のような石が、僕の掌の中に入り、僕は異能力者になったのだ。
その異能力とは、自分が死んだ結果を取り消す力だ。
やれやれ、なんとも解りにくい異能力である。
そして、この異能力は『ピース能力』と言うらしい。
この『ピース能力者』は『もう一人』の自分なる存在が頭の中からダイレクトに語りかけてくる。
【リザルト・キャンセラー】と名乗る、僕の中の『もう一人』の自分が昨夜、色々と自分の異能力について語っていたが、その殆どを忘れてしまった。
覚えているのは一番重要な部分。
死んだ結果を取り消せる条件は、僕と同じ異能力の攻撃で死んだ時だけ。
さらに、一度その異能力で死ぬと、耐性が付き同じ攻撃は二度と僕には効かないと言うこと。
そして、死んだ結果を取り消した後は、相手の異能力により受けたダメージは消えて、全回復することだ。
流石に、昨夜タルマに殺されて、この能力が発動した後に、山登りをさせられたりした疲労も全回復すると思ったが……甘かった。
どうやら、異能力限定の全回復らしい。
そして最後に最も重要なことがある。
この異能力は、あくまで対異能力限定の力なのだ。
つまり、普通に刃物などで斬られて死んだ場合は発動しない。
しかし、【リザルト・キャンセラー】の奴が言っていた『ゲイン』の意味がいまいち解らない。
確かあいつは、『ゲイン』は生命エネルギーみたいなモノと言っていたが──灰玄や心絵が言っていた、しねんきの様なモノなのだろうか。
うーん…………、ッ!?
僕が考えていると、また脚が燃え滾るように熱くなってきた。
すぐさま、またシャワーの水で脚を冷やす。
やれやれ……【リザルト・キャンセラー】の異能力で、この脚の熱と筋肉痛も、取り消せないものかねー。
そんな事を思いながら脚にシャワーの水を当てていると、ふと大事なことに気がついた。
臥龍の店の開店時間である。
閉店時間は午後の六時だと知っているが、肝心の開店時間を知らないのだ。
灰玄と沖縄に行った時は、店の前に朝の七時に来いと言われたが、流石に朝の七時から臥龍の店が開店しているとは思えない。
早くて朝の九時──もしくは個人経営だから十時かもしれない。
ここは、暑い外で待つのも嫌だし、十時になったら臥龍の店に行ってみよう。
十時なら多分、開店しているだろう。
それまで、少しでも早く脚の熱さと筋肉痛が和らぐように、ずっと脚にシャワーの水を当てながら、朝の十時になるのを待つとするか。
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