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帝国の城、捕われのクロウ

クロウ救出作戦4

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地下牢獄にしては生活水準高めの家具で固められた部屋。
そこにいたのは、囚人系旦那のクロウさんとエルザさん率いる嫁集団。その中には道中旅をした優しいロアナさんの姿もあった。
現実はどこだろうと僕に非情を突きつける。


それでも僕は立ち向かう。

ギョロリとした5人分の瞳が膝を震わせてくれる。

「あら不躾な来客ね。ここは私達専用愛の巣よ、迷子の子供はお家に帰りなさい。」

闘技大会で見かけたエルザさんがちらりと興味なさげに注意してくる。でも、普通こんな所に迷い込むような人はいない。
全員が関係ない奴は帰れと目で伝えている。
怖い、けれど今は目を逸らしてはいられない。

「ぼ僕は迷子ではありません。ク…クロウさんを助けに来たんです。」

「へぇ…。」

眼光の鋭さが増す。
僕の帰りたいゲージがどんどん上がっていく。
ロアナさんはおっとりとした口調であらあらとしていた。

「コータくん助けるって何を?私達はクロウと結婚して夫婦仲睦まじく日々を生活しているのよ。」

未だに四肢を動かせず涙目のクロウさんを見て仲の良い夫婦には見えないよ。
納得しない僕に呆れたようにため息を吐く褐色肌の短髪お姉さんと金髪くるくるロールなキツめお姉さん。

「なぁ坊主、クロの知り合いか知らねーけど他人が俺達の関係に割って入ってくんなよ。」

「そうでしてよ、おーほっほっほ。邪魔をするならお子様でも容赦しなくってよおーほっほっほ。」

クロウさんはどえらいキャラの人達と交流を深めていたんだね。
残り一人は長い白髪が前に掛かってて顔は分からないけど、ずっとクロウさんの頬をすりすりしている。
一般家庭の枠を大幅に振り切っていた。
そんなクロウさんはようやく僕に気づいたようで驚いたように声を上げる。

「こ、コータどうしてここに?」

「クロウさん…僕は助けに来たんだよ。あの闘技大会で見たクロウさんの表情が忘れられなかったんだ。」

「ば、馬鹿野郎!俺のことは構わずここを去れ。こいつ…ぐ俺のハニー達はお前を物理的にも社会的にも殺せる奴らばかりなんだ。だから、早くここを出ていけ!」

そんな…呼び方の自由すら与えられていないのか。
拘束された自分よりも友達を優先する優しい彼に僕ははっきりと告げた。 


「い、嫌だよ。これがクロウさんの望む幸せとは思えない。だから絶対助ける、絶交されたって助けてやるんだから!」

「コータ…ばか…。」

苦しげに顔を歪め吐き出すように僕へと悪態をつく。
馬鹿で結構。
お節介な僕は自分勝手に救うんだ。


「ふん、子供一人で何が出来るのかしらね。」

お姫さんは嘲笑を。

「餓鬼が勇気と無謀を履き違えるんじゃねえよ。」

褐色さんは指を鳴らす。

「おーほっほっほっほっ、のほ!」

ロールさんは高笑いを。

「コータくん、新たな縁がこのような形で断ち切ることになるなんて非情に残念です。」

ロアナさんは光の消えた瞳で呟く。

「ふへへへへ、クロウクロウクロウクロウ…。」

白髪さんはまだすりすり。



クロウさんを賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。




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