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うろちょろする思惑達2
しおりを挟む「父上、迷宮にてドラゴンを討伐した者が現れたそうですね。早くお会いしたいです。」
爽やかにそして何処か愉快そうに喋る青年。その笑顔は何人もの女性を虜にしたであろう。
しかし、それを向けた相手は壮年を越えた王冠がこの国で最も似合う男性。
彼こそセフィーレ王国の頂点で国王を務める男である。
「うむ、オーエンから報告を貰った通りならな。だが、疑問に思うことが幾つかある。」
「疑問ですか?」
「あぁ、冒険者ギルドが現時点で攻略している階層まででドラゴンは出ていないらしい。ということは、そのドラゴンは更に下で討伐したという事だ。なのに、一種の検問代わりな拠点があるにも関わらず誰も討伐者を目撃していない。拠点には誰かしら居たはずだ、討伐者が戻って来たのを目撃していないのはおかしいと思わないか?」
50層へ続く階段近くに拠点を設けていた。
なのに、通った者も戻って来た者も見ていない気付かないなんてありえるのだろうか?
「父上、ではドラゴンは迷宮ではなく外で討伐されたと?売リ出したランパード商会が虚偽を申しているということですか?」
「それは分からん。少なくともここ最近王国内でドラゴンの目撃情報は無かった。だから、迷宮である可能性が高い。だが、どうやってあの人目を搔い潜ったのか気になる。そしてなにより、どうして討伐者は名乗りを上げないのか。」
「名声に興味無いとかですかね。でも、そんな不思議な存在ますますお会いしたくなりました。」
そんな青年の発言に少し考え込む王様。
「ならシェパードよ、シュトームの街に行ってみるか?」
この言葉で一気に目を輝かせる青年。
「良いのですか父上!」
「あぁ、ドラゴン討伐者をなんとしても探し出すのだ。上手く我らの力となってくれるようお前が説得するんだぞ。授爵や王家の騎士任命を説得材料に使っても良いからな。」
「私達を護る騎士になれるならすぐにでも取り込めるでしょう。ましてや、貴族の仲間入りも出来るなら尚更断る理由も無くなりますね。」
「そうだろう。私も早くこの目で見たいものだ。」
彼らの中では既にユウ一行は王家のモノという認識へ変化してしまっていた。
この時点でユウ達を手中に収めるなんて不可能と気付ける者は居ない。
でも、救いはほんの少しだけある。
父と兄の会話を盗み聞きしていた一人の少女だけが、ドラゴンを討伐した素性の知れない存在にしっかり警戒していた。
(誰にも気付かれずドラゴンを討伐して帰ってきた。そんなこと王国内で最強と誇っている王家の騎士ですら無理ですわ。鋼の檻ですら簡単にぶち破るような獣であれば手中に収めるなど不可能…。もしそんな存在から敵対されたら…。)
自分で想像して青ざめる。
でも、父達の思惑を止めるなんて私には無理なことだ。
けれど、何もしないで国が傾くのだけは避けたい。
「リン。」
少女が誰も居なさそうな場所に声を掛ければ、溶け込んでいた空気からあぶり出されるように姿を現す忍者みたいな黒を身に纏う少女。
頭には狼寄りのケモ耳がピコピコしている。
「姫様、お呼びでしょうか?」
「えぇ、至急を要するお願いがございます。急ぎシュトームに向かい、迷宮でドラゴンを討伐した者を探し出しなさい。そして、私の兄が探している事とこの国の全ての王族貴族が討伐者を手駒に収めたいと考えている訳ではない事を伝えて下さい。私の名前を出しても構いません。決して敵にならないよう努めて下さい。」
「はい、かしこまりました。すぐに向かいます。」
「えぇ、お願い。」
そして、ケモ耳少女はまた景色に馴染んで消えていく。
シュトームへ向かったのだろう。
「どうか敵対にはなりませんように…。」
少女は一人、与えられた部屋の中で祈るのでした。
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