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豚司教に教育を
訳ありと約束
しおりを挟む横たわらせた男性。
金髪の間から見える額から大粒の汗を流している。
せっかく整った顔立ちも血の気を失って不気味な雰囲気を醸し出している。
呼吸も荒く苦しそうだ。
外から見える怪我は無いから、病気かな。
「ノ、ノートン‥」
お、喋った。意識を保っているなんて胆力あるね。
「アルフ様!気をしっかりお持ちください!」
「お、おそらく毒を盛られたんだろう‥。犯人を必ず見つけ出してくれぐっ‥」
「アルフ様!」
うん、まあ治そう。
「はい、ちょっとそこどいてね。」
「なっ!?」
「あ、アリス様、力を使っては‥!」
聖女の力を使おうとノートンって人を退かす。
ずっと慌てるロコルお姉ちゃんが俺を止めようとする。
そんなお姉ちゃんを笑顔で流す。
「お姉ちゃん、アリスかアリスちゃんでお願いしますね。」
様付けは駄目って言ったのに。
ロコルお姉ちゃんも約束破ったから俺も破っていいよね。
息も絶え絶えのアルフって人に両手を翳し、治るよう祈る。
そして、額が輝き彼にも光が移る。
時間にして十数秒。
輝きはおさまった。
幸いまだ明るい時間帯だし、あまり目立たないだろう。
血の気も戻り、苦しそうだった呼吸も普通にしている。
「よく頑張ったね。もう大丈夫。」
顔に滴っていた汗を布で拭いてあげる。
自分の体調の変化に驚いて硬直する彼はされるがままだ。
「お、俺は生きているのか‥。」
「うん、生きてるよ。良かったね。」
やっと実感が湧いてきたかな。
両手を震わせ絞り出すように呟いている。
「あ、アルフさまぁ‥!!」
「うおっ、ノートン!?」
ノートンさんが先程の剣呑な雰囲気から変わって涙ボロボロになってアルフさんに抱きついていた。
ふふ、よほど心配してたんだね。
ここはそっとしておきましょう。下手に残って色々聞かれるのも面倒くさいしね。
ロコルお姉ちゃんの手を掴んで喜び合っている2人の邪魔をしないよう気配を消して離れていく。
後ろからなんか声が聴こえたけど無視無視。
さて、ロコルお姉ちゃん怒ってるかな。
「ごめんなさい。トーラスさんとの約束を破ってしまって。」
「…………」
約束を破ったのは紛れも無い事実なので、ちゃんと謝る。
でも、俺は変えられない信念も伝える。
「でも、私は今後も同じように苦しんでる人がいたら必ずまた使います。私は自分の保身の為に誰かを犠牲になど決して出来ませんから。」
「………」
しばらく黙って聞いていたロコルお姉ちゃんが口を開く。
「……アリス様はお強いですね。もし司教様の耳に入れば、御自身の身が危ないですのに。私にはそのようなこと出来ないです。」
「違うよ。私は自分の出来ることをしてるだけ。ロコルさんはロコルさんの出来ることをすればいいんだよ。」
「………」
俺の言葉を受け、しばし考えこむロコルお姉ちゃん。
「……分かりました。私も自分の出来ることをします。私は、私はいつまでもアリス様の味方になります。」
今までの怯えた目からとても強い意志を感じる目で決意表明をする。
どうやら協力してくれるみたい。
「ありがとう、ロコルお姉ちゃん!」
「くひぃん!?」
ついつい嬉しくて抱きついてしまった。
急な抱きつきに顔を発火させ硬直する。
ごめんね、硬直しないで。
こうして、初日から聖女の力を使ってしまった散策は終了。
教会までロコルお姉ちゃんと仲良く手を繋いで帰りました。
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