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サルサでのんびり
炎と鎮火
しおりを挟む空腹を一時的に忘れてカエデは立ち上がった。
どうして?
それは愚問だ。
目の前で見せつけるように精神を抉る存在がいる。そして、それはカエデだけでなく周りの同士達すらも巻き込んでいる。仲間が困っていたら助ける、それが仁義ってもんでしょう。
ただ残念なことにグラサンが無い。これでは凄みをつけられない。仕方がないから妬みとかじゃないけど溢れる苛々を原動力に頑張るっきゃない。
スカートの両ポケットに手を突っ込み、がに股でオラオラっとバカップルに近付いていく。
『ご主人様、お止めになられた方がよろしいかと…。』
なっちゃんここで引いたら女が廃るってものだよ。決して目の前でイチャコラしている事を怒っている訳ではないんだよ。公衆の面前でのマナーって奴を教えるんだよ。
また人前で独り言のように見えるのを恐れ、なっちゃんの制止を無視する形となった。
そして、あっという間に到着。あーんをし続けていたカップルもようやくやって来た私に気付いた。
「あら何?私達にご用かしら?」
バカップルとは思えないまともなトーンで女の方が声を掛けてくる。へっへっへ落ち着いていられるのも今のうちだぜぃ。
「おうおうおうおう、こんな往来の場で随分と舐めたことしてくれるじゃねぇか、あぁん?」
「「「そうだそうだ!!!」」」
「え?え?」
「そういう事はお家でやんな!孤独の人間に対する嫌がらせか、あぁん?」
「「「そうだそうだ!!!」」」
「え?え?」
困惑しかないカップル。
次第に私の後ろに集う同士達。
ガムが無いからとりあえずクチャクチャと噛んでいる風を装う。
「おうどうした?当てつけのようにあーんなんかしやがって……こちとらなぁ18年も生きて彼氏無しのキスすらしたことねーんだぞ!」
「「「そうだそう……あ。」」」
「え?あ…。」
あれ?
困惑に哀しみが混ざり始めてない?
き、気のせいだね。
「毎晩欠かさず枕を使ってキスの練習したり理想のデートや理想の告白を何百何千と想像したりしてんだぞ!!」
「「「………………。」」」
「…………。」
なんだよ。
なんだかおかしい。後ろで支援してくれてた野郎共も可哀想な子を見る目になってたカップルも泣いている。
なんで…なんで泣いてるんだよ。
『ご、ご主人様…。』
皆が私に注目いや同情を送ってくる。どうしてそんな目で見られなきゃいけない。
カエデは集まる視線を振り払うように因縁を付けようとした。
「おうおうおうお…………あれ、どうして私泣いているの?」
カエデは泣いていた。
どうしてかなんて自分では分からない。なのに、いつまでも止めどなく流れる。
「嘘…どうして?止まって、ねぇ止まってよ!」
『ご主人様…もう止めて下さい。』
どんなに自分へ訴えても止まることの無い涙。
そんなカエデへ労るようにバカップルの女性が抱き締めてくれた。
「も、もういいのよ。貴方はまだこれからよ。だから、泣いていいのよ大丈夫よ。」
貴方のモテ期はこれからよと優しく背中を撫でてくれる。私は更に堪えきれず大声を上げて泣いた。
「う、うわあぁぁぁぁぁん!!」
「やかましい、出ていけ!!!」
茶番を繰り返したカエデに怒りが屋根を突き破ってしまったマールさん。ギャン泣きで涙と鼻水だらけの美少女の首根っこを掴んでそのまま出口へと放り出された。
ご丁寧に渡した宿代を詰めた袋も一緒に。
「次は容赦しないって言ったろう。他所へ行きな。」
その一言と同時にピシャリと扉が閉じられた。
もうマールさんから垣間見えた優しさは一欠片も残っていなかった。
どうしてこうなった?
『自業自得です。』
しばらくの間、カエデは宿屋の前で両手をつき打ちひしがれていた。
その間、同士だった者達も少女に一礼だけして去って行った。
そしてカエデも動き出す。
幾ら落ち込んでても誰もが放置するんだもん。あの時の友情めいた物は本当に一時の物だったね。
立ち上がるカエデ。
土下座の準備は出来ている、さぁ行くんだカエデ!
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