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街までの道のり

閑話 怪しいお嬢ちゃん

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俺はジェイド、ここしばらく彼女彼氏の居ない独り身。この町の女性は皆見る目が無いんだろうな。あと、このサルサの町で勤続15年の衛兵として暮らしている。
衛兵とはいってもここ最近は平和なもんで、喧嘩の仲裁や酔っ払いの相手が殆どの仕事だ。この町を収める領主様がしっかりしている証拠だな、息子はあれだけど。


さて、今日も普段通り異常無し。夕方交代したら同僚共と酒を呑みに行くか。
俺より先に結婚してしまった後輩を意地でも家に帰してやるもんか。
仕事終わりの楽しみが待ち遠しい。


そんな退屈に苛まれる中で怪しい少女が俺の目の前に現れた。どうして怪しいと思ったか、それは彼女の挙動にあった。
遠目から眺めていたが、隣には誰も居ないのにブツブツと話し掛けていた。とても気さくな独り言だ。

俺の側までやって来た時には、独り言は終わっていた。しかし、改めてその少女を見ると旅という割には荷物が全くない。護身用であろう短剣はあっても旅の必需品である鞄が無い。
怪しい要素がどんどん増えていく。

おまけとばかりに俺を見上げたかと思えば急にへらへらと笑い始めた。
俺は一つの仮説に至る。

この子はもしかしたら何か危ない薬をキメているかもしれない。

誰も居ない所に話す、これは幻覚とか幻聴。
突然笑い始めたこと、これは薬の効果で快楽に溺れていた。

仮説の信憑性はかなり高いはず。しかし、受け答えが一応しっかりしているのも事実。
これはもう真偽を測る魔道具で確認するしかない。

一衛兵として明らかに危ない人を素通りさせれない。
俺の警戒心とは裏腹に薬物中毒(仮)の少女は大人しく付き従ってくれた。若干の緊張と動揺が見られたがそれ以外は年相応の女の子。薬をキメているかと思ったが、もしかしたら俺の勘違いか?


それはすぐに訂正した。
詰問所まで案内する間でまた誰かと喋るように独り言を話していた。

さっきの緊張で震えて見えたのはただの薬の影響で震えていただけか。こんな10代半ばの少女がどうして薬なんかに手を出したんだ。周りの大人はどうしてこの少女の過ちを止めれなかったのか。

子を持たない俺でもつい憤ってしまう。


詰問所に到着して水を飲ませて一息つかせ、魔道具による真偽を開始した。
この魔道具の説明をした時、また動揺していた。やはりこの子は薬を…。

最初は答えやすい質問から。これは魔道具が本物で言い逃れ出来ないという牽制でもある。
そして、質問は続いていき最後に核心へと迫る。


何か犯罪を起こしていないかと。
薬物による中毒は法に触れる。薬で狂った者は周りを巻き込む危険性があるからだ。

少女の冷や汗が止まらない。

罪を認めることに躊躇いがあるのだろう。でも、もう止しなさい。まだやり直せる、君はまだ若いのだから。


少女はいいえと否定した。


魔道具は赤く光らなかった。どういう事だ?
挙動がこんなに怪しくても犯罪者で無ければ銀貨を払えば通すしかない。こんなに怪しいのに。

俺の質疑応答が終わってホッと安心して町の中へと入っていく少女。その背中を黙って見送るしか出来ない。

あ、また独り言を。


やっぱり怪しい。
どう見てもまともな少女とは思えない。
俺は今回の出来事を衛兵長であるモーガンさんに報告しておくことに決めた。


さっさと報告して後輩を引き止めないとそう思った矢先にまた新たな変な出来事が。

冒険者パーティーが荷車に盗賊団を積んで戻って来た。

これだけなら優秀な冒険者達がよく頑張ったなで終わる。でも、連れ帰った冒険者達に聞き取りをしてみれば不思議なことだらけ。

盗賊共が裸で意識がない。死んでいないようだが目を覚ます気配がない。冒険者達がやったのかと思えば縛られている状態で見つけたらしい。
しかも、倒した者が現場に書き置きを残してあったとのこと。

どうして自ら報告せず放置したのか、引き渡せば報奨金も出るだろうに謎は深まるばかりだ。


結局、俺が夕方からの奴らと交代するまで盗賊を倒したのは自分だと名乗り出る者は居なかった。


モーガンさんに報告する件がまた一つ増えたな。
今日は後輩を捕まえることが出来そうもない。


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