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街までの道のり

悪くないのにドキドキ

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盗賊の討伐が終わり、その日はこのまま洞穴で一晩を過ごしました。
その間でなっちゃんに盗賊達から頂戴したお金の総額を確認してもらう。


合計金額は金貨12枚に銀貨87枚。あと、銅貨60枚。

この世界での通貨価値は、銅貨100枚で銀貨一枚。銀貨100枚で金貨一枚。その更に上の白金貨があるけど、私にはおそらくご縁は無いでしょう。
細々とのんびり過ごすそれが私のモットー。

でも、この大金を目にしたらニヤニヤが止まらない。
なっちゃん情報では銀貨一枚で一晩飯付きの宿に泊まれるらしい。ということは、少しランクを上げた宿屋でもしばらくはのんびりと過ごせる計算だ。

正義の鉄槌を下せて笑いがいくらでも湧いて出てくる。

「ふへ、ふへへ。ふへへへへ。」

『ご主人様…。』

なっちゃんから視線は無いけど、呆れているのは分かる。
軽く咳を吐いて笑って誤魔化す。いつか失望されそうで不安だよ。

ちょっと気まずい現状況はさて置かせてもらって、本日はいよいよサルサの町に乗り込む日。


乗り込むにあたってこの気絶したままの盗賊達をどうしよう。幸い洞穴を漁っている最中に縄を沢山を頂いたので裸のまま縛っておきました。サービスで二人ずつ向かい合うようにもしてあげた。
感謝はいらない、やってあげたいと思っただけだから。


「この人達どうしようか?」

『ご主人様が捕縛したのです、ご主人様の思うままに出来ます。衛兵に引き渡せばそれでまたお金は手に入れます。またこのまま放置していくのも自由です。手間を取って金を得るか、楽を取って気軽を得るかです。』

「そっかぁ、ぶっちゃけこの人達を持っていくの面倒くさいよね。うーん………よし、放置して行こう!あ、でももし縛られたこいつらを発見した人が居た時の為に書き置きをしていこう。」


発見した人達へ。
この人達は仲間想いの盗賊団です。そこの洞穴は彼等の根城です。酔っ払って仲良く寝ているところを捕まえました。
後は宜しくお願いします。

地面に置き手紙として書き遺しておく。雨が降って消えない事を祈っておきます。

「そういえばなっちゃん、普通に日本語で書いたけど相手読めるかな?」

『はい、エスティア共通言語に変換されていますので問題ありません。町に行ってもご主人様の目には日本語として映ります。』

なら問題無し。
書き置きもしたし今度こそ本当に出発だ。

これから出れば昼前には着くかな。



2時間の道程を経てサルサの町へ戻って来ました。
町へ入るには衛兵さんのチェックが必要。念の為身なりの確認。外套で制服は隠れてる。手ぶらなのが怪しまれるかもだけどそれくらいなら特に追求されることもないかな。

よし。


町へと近付く。比較的平和な町なのか呑気に衛兵のおじさんが大欠伸をしていた。肩には槍を立て掛けている。
私が視界に入ったからといって顔つきをキリッと変えることもなく、やる気無さげな表情を携えたまま声を掛けてきた。

「はいはいお嬢ちゃん、止まってね。」

「はーい!」

「おっ元気だね。それじゃあ、身分証の確認をさせてもらうよ。」

「衛兵さん、私遠いところのど田舎育ちでして身分証?っていうの持っていないです。」

ここに来るまでに考えた嘘設定。なっちゃん指導による上目遣いでキョトン顔。これでこんな純粋無垢そうな女の子が怪しいわけがないって寸法。

へっへっへ、あとは金を払って終いだね。

「そっかそっか、ちょっとこっちに付いて来てもらえるかな。」

「え?」

「一応、犯罪履歴とか確認したいからさ。大丈夫、すぐに済むから。」

「あ、う、ひぇい!」

な、なんで?
あとは銀貨一枚払って仮身分証を貰って通れるはずじゃないの?

「ど、どうしてだろう…なっちゃん。」

『分かりません。もしかしたら、ご主人様から溢れ出る不審者感を感じ取ったのかもしれません。ここの衛兵は優秀ですね。』

「なっちゃんが酷いことをいうー。私ほど純粋でキラキラしている子はいないよ。」

なっちゃんの心無い言葉に傷付いているうちに個室へと案内された。まるで刑事ドラマとかでよく見かけた犯人を尋問する場所と似ている。

「さて、お嬢ちゃん。ちょっと水でも飲んで待っててくれ。」

「は、はい。」

水をこくこくと飲んで不安と動揺を懸命に抑える。
何処が何が間違っていたのか自問自答を繰り返していると、衛兵おじさんが野球の硬球程の大きさをした水晶玉を片手に戻って来た。

私の正面に座るとその水晶玉を差し出してきた。

「待たせて悪かったね。ちょっと色々質問させてもらってもいいかい?」

「は、はい。」

「ありがとう。では、質問するにあたってこの水晶玉を持ってもらえるかな。これは、お嬢ちゃんが嘘をついていないか確認する為の物なんだ。赤く光ったら嘘だと分かるから正直に答えてくれな。」

「へ、へい!」

「そう固くなる必要はないさ。それではまずお嬢ちゃんのお名前を聞かせてくれるかい?」

「カエデです。」

水晶玉に反応は無い。

「お嬢ちゃんは何処からやって来ましたか?」

「日本っていう遠いところから旅をしています。」

水晶玉に反応は無い。

「ニホンって聞いたことがないなぁ。かなり遠くからやって来たんだね。さて最後に、お嬢ちゃんは今までなにか犯罪を犯していませんか?」

犯罪?
盗賊の件はセーフだよね。素っ裸でひん剥いたり抱き締め合わせて縛ったけど犯罪じゃないよね。
冷や汗が止まらない。

「ん、どうしたんだい?何か犯罪を犯したのか?」

大丈夫。
あれは犯罪じゃない犯罪じゃない。
正義の鉄槌正義の鉄槌。

「いいえ、私は罪となるようなことはしたことがありません。」

……………水晶玉に反応は無い。
よ、良かったぁ。

「…………特に反応も無かったようだね。長々と留めてしまって悪かったねご協力ありがとう。あとは、銀貨一枚払ってもらったら仮身分証渡して終わり。ちゃんとした身分証が出来たら仮身分証は返しておくれ。」

「は、はい!」

どうして疑われていたのか謎だけれど、無事晴れたみたい。
ホッと息を吐いて安堵する。

この後は、滞りなくお金を払って仮身分証をもらったら通ることが出来た。


カエデはようやくサルサの町に入れました。

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