上 下
4 / 11
部活動、いいですか?

運動場で部活動 野球部編

しおりを挟む

本日も写真部の部室に部員全員が揃う。
意外なことに出席率は高い。
毎回、今日の撮影場所が決まるまでは集まりが良い。
そう決まるまではね。

今日も俺と部長が出した案である更衣室で撮影は却下され、くるみ先輩が指を指して示した運動場に決まった。鈴先輩もそれを支持したため決定してしまった。

運動場に決まった瞬間、陽司は何の興味も失ったように自分の鞄を手に取り帰ろうとする。
そりゃあ、自分が一番撮りたい被写体がこの高校にいる訳ないもんなぁ。
陽司は少しでも被写体達に関係ある場所なら参加するけどそれ以外は参加しないと徹底している。
参加しない日はどうしてるかって?

ランニングしてるんだってさ、主に小学校周りを。
どうしてそこをなんて野暮な事は聞かないで欲しい。どうせ近いうちにテレビで理由が分かる日も来るさ。


という訳で、本日は陽司抜きの7名で活動します。
ちなみに今日のくるみ先輩は猫さんだ。鈴先輩によると鳴き声も出せるようにしたらしい。猫の耳がぴこぴこして可愛いが、ますます不思議な存在になっていく。


運動場に向かうと、あらゆる部活が入り乱れ、掛け声や汗が飛び交い直視出来ないくらい青春が広がっている。
俺達も部活を通して青春している筈なのに何かが違う気がする。今の俺には何故眩しく見えてしまうのか分からなかった。


順番に色んな部活風景を撮っていこうとなったのでまずは野球部。

駆け抜ける白球
舞い踊る土煙
掛け声を合わせ汗を流す坊主

俺と部長は顔を見合わせる。

なんや男ばかりでやる気が起きへん。
マネージャーもいない。ここは野球部か?


心を一つに二人仲良くため息を吐く。

写真部としてはシャッターチャンスの多い場所だろう。実際、猫くるみ先輩はバンバン撮りまくっている。何なら練習している野球部員に混ざって撮っている。上手く飛んでくる球を避けながら撮ったり、ホームベースにスライディングしながら自身の身体能力を遺憾なく発揮して撮っている。
迷惑この上ない。

鈴先輩は鈴先輩で監督相手に何か開発した商品をぐいぐいと勧めている。
部活動で何やっているんだ?
野球部の監督さんめっちゃ困ってますよ。ピッチングマシーンみたいなのを使え使え使えと連呼しながら監督のお腹に押し付けている。
目が正気の沙汰じゃない。
この人はどこまでも科学者。自分で開発した物を試してみたくて堪らないんだ。

部長に目配せし、鈴先輩を羽交い締めにして取り押さえる。もうやめなさい、監督がふえぇと涙目になっているじゃないですか。

40代のおじさんを泣かせるんじゃありません!

マッドサイエンティストモードから正気に戻ったようで渋々諦めてくれた。
我が部は毎回まともな人が変わるから大変だ。

さて、他の人達はどうしているだろう?


鳴瀬姉妹は素振りをしていた同級生を捕まえて、写真を撮らせている。公園の時と違い、機材も用意し易い。だから次々と素振り部員達に指示を出し、照明を当てさせたりレフ板を持たせたりしている。
自分達はボールやバットを撮影アイテムに用いてやりたい放題。
照明が時々素振り部員達を照らす。彼らからキラキラと粒子が輝いている。
あれは涙。

甲子園を目指して頑張ってるはずが照明を同級生の女の子に当てている。
その現状に泣いているんだ。

そんな彼らをこれ以上見てられない。
今助けるからね。

俺と部長は鳴瀬姉妹にこっそりと近づき、素振り部員が持っていた三脚を受け取る。

ゴッ

鈍い音と共に鳴瀬姉妹はウインクを決めたままゆっくりと顔から地面に倒れる。
俺達は泣いて喜ぶ素振り部員達に一礼して引きずっていく。


地面に二本の赤線が引かれていくけど、その内消えるだろう。


最後は一結。
こいつは毎回どこでも大人しい方。
ただ本命らしい俺が身の危険を感じるだけ。
しかし、今日は野球部。
一結はうっとりとした眼差しで汗を流し練習している野球部員を見ている。
たまにベースを踏んで立っている人に近づき、腰から下を前から後ろからと連写している。
立っている人はいつ食われるか分からない恐怖で体が震えている。可哀想に。


でも、俺としては矛先がそっちに向かってくれるなら嬉しい。いつもは俺がその位置にいるからね。

試しに一結に聞いてみた。

「どうだ、良い子いたか?いたなら、そいつに乗り換えたらどうだ?」

頼む、居てくれ!

「もう涼くんったらヤキモチ妬かないの。この子達はあくまで前菜。もちろんメインは君だよ。チュッ」

チュッと息を吹きかけ飛ばしてくる。



今度は俺の体が震えた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...