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第一章:恋愛日和
第18話:闘技場
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「では、ヤミさんの装備の方から説明します。まず靴の方ですが……」
ヒスイさんは簡単にどんなステータスを付与したのか、追加効果が何故付いているのかなど、いくつか説明してくれた。
そして2人でお礼を言って工房を後にする。
「びっくりしましたよ。こんな防具β版の頃は見たことありませんもん」
「β版から変わっているところもあるんだな。……俺はAGI+3の付与がされていることの方が驚いたけど」
「それはLv30からできるって知ってましたし、スイちゃんならやってるかもなーくらいには思ってましたから、そっちはあまり気にしてませんでしたね」
実夜が驚いたのは靴装備に付いていた『追加効果』だ。β版には無かったらしい。
「でも軽く掲示板で検索かけてみた感じ検証中みたいなんですよね。まだ追加効果が付いた装備も数えるほどしか無いらしいです」
「だろうな……」
追加効果は生産系スキルがLv35になると確率で付くようになるとのことで、スキルレベルが30を越してる人がまだ数人しかいないそうだ。
「とりあえず実践で試してみたいですよね。……闘技場行っちゃいます?」
「おまえのは行動速度UPだから実践で試さずともわかるんじゃないのか?」
「アーツの発動にかかる時間が速くなるのか知りたいんですよ。どうせ闘技場は一回観に行こうと思ってたし丁度いいじゃないですか」
「行きましょう!」と言ってグッと右手を引かれた。昨日のデートを思い出して一瞬声が詰まったがなんとか「分かったよ」と返事をして付いていく。
「それで、ここが闘技場か」
しばらく行くと大きな建物があった。高さは3階建の建物程だが、横はその数倍の長さがある。片側しか見てないからなんとも言えないがたぶんドーナツ状の建物だろう。
「では戦う前に少し観戦に行きましょう! 観戦は自由なんですよ」
そう言って階段を上がる。選手として参加する人はロビーで受付を済ませて一階奥にある待合室で待機になり、観戦する場合はロビーにある階段で二階に上がり、観たいページに移動するらしい。
「丁度ナムさんが戦うっぽいですね。観に行きましょ! えーっと、27ページですね」
メニュー画面からページ移動を選び移動すると、中央に浮かんでいる画面に表示された対戦カードに『プラチナム』の名前があった。まだ試合は始まっていないようだ。
「へぇ、ここで見られるのか。……って観戦者多くね?」
「そう……ですね。相手が人気ある人なんですかね?」
「人気とかあるのか?」
「もちろんありますよ。ニマニマ動画とかアイツべで生放送してる人とかもいますし」
「ああ、たしかに実況者とか生主の人は観戦者多そうだな」
ちなみに、ニマニマ動画はコメントが画面を流れるのが特徴的な日本の人気動画サイトで、アイツべはItubeといって世界的に有名な動画サイトだ。
「そういえばナムさんも生主じゃありませんでしたか?」
「ああ、そういえばそうだったな。……でもそんな人気無かったし、この観戦者はお相手氏だろうな」
ナムもたまにニマニマ動画でRTAを中心に生放送をしているが、そんなにコミュニティ人数は多くなかったはずだ。
「相手は……『偽りの女豹』……って二つ名持ちじゃないですか!」
「……二つ名なんてあるのか」
「たしか100戦やって勝率が9割以上の場合二つ名が付けられるんですよ。観戦者から候補が上がって本人でその中から選ぶみたいな形式だったと思いますけど……」
「選び方はともかく、勝率9割ってガチ勢以外の何者でもないな……」
「しかも連勝するほど連勝中の人と当たりやすくなりますから、相当の難易度です」
そこまで厳しいと運が良いだけじゃ二つ名持ちにはなれないだろう。
「あっ、出てきましたよ」
西側からプラチナム、東側から『偽りの女豹』さんが出てきたようだが、少し気になることが。
「二つ名持ち……小さくね?」
「ちっちゃくて可愛いですね。とても女豹には見えません。むしろ……ウサギ?」
白に近い銀髪のツインテールを揺らしながら出てきたのは身長140センチくらいに見える小さな女の子だ。
「武器は……あの黒いやつか……? 武器には見えないけどそれ以外には無さそうだよな?」
その女の子が両手に抱えているのは長方形の黒いケースのようなもの。
「あれは……楽器ケース?」
そう実夜が呟いたすぐ後、少女は黒いケースを開け、中から子供用に見える小さなヴァイオリンと弦を取り出した。
「あれ、ヴァイオリンだよな?」
「ですね……戦闘スキルとして【演奏】というのはありますがそんなに……っと、始まるみたいですね」
すでに機械音声によるカウントが始まっていて、残り3カウント。そこまで行くと観戦者達が待ち侘びたように、機械音声に合わせてカウントを始めた。
3……2……1……
「「「「「ファイトおおおおおおおおおおお」」」」」
実夜も一緒に「ふぁいとおおおおおお」と声を張り上げている。そしてそれと同時に、中央にいる二人が動き出した。
「えっ……?」
初め、ナムが勢いよく飛び出し、すれ違いざまダガーを少女の首に向けて放った。しかし、その刃は少女の首には届かなかった。
ダガーが少女の首を捉えようとする一瞬前、甲高い音色が聞こえ、それと同時にナムの首が飛んだ。
「……何が起こった?」
「……攻撃方法がわかりません。あんなアーツ見たことないし……新しく追加されたアーツ? それとも称号?」
中央付近の空中に浮かぶ画面には[偽りの女豹 WIN]の文字が並び、そのすぐ下に[戦闘時間 00:06]の表示があった。
その後、ロビーに戻り大画面に映ったランキングを見ながら話す。
「闘技場ってあーいう人が結構いる場所ですから。あの子の戦績を少し見てみたんですけど、さっきのみたく10秒以内に終わってる対戦も結構あるんですけど、それでも数分かかってる試合とか負け試合もいくつかありましたから、何かしらの条件が揃わないとあそこまで上手くはいかないんでしょうね」
「初見で対応できる気はしないけどな。……にしてもあの子でランキング2位なのか。……闘技場って魔境だな」
「そりゃあ上は化け物達の巣窟ですよ。特に二つ名持ちの上位7人とかは。まあ下の方はそこまで強く無い人もいますから、そこまでハードル高くないと思いますよ?」
そうだろうけど、初めに見た戦いの印象が強すぎて自分の中でかなりハードルが上がっている。
「俺はともかく、おまえは一回行ってくるんだろ?」
「はい! ……まあ弓って対人戦は弱いから自身無いんですけどね」
「では見ていてくださいね!」と言って受付へ向かった。
実夜が待合室に向かったことを確認してから二階に並ぶ端末で実夜の名前を検索するとすぐに、次の対戦ページがわかったため移動した。
「おっ、やっぱりルアも来てたのか。ヤミの名前があったから一旦戦うのやめて観戦に戻ったんだ」
ナムが俺を見つけて話しかけてきた。
「おうナムか。さっきの戦い見てたぜ」
「見られてたかぁ。いや、完全に二つ名持ちを舐めてかかってたな」
「相手が何したのかわかったか?」
「いや、全く……だけど」
ナムはニヤッと口角を上げ、「次に当たったら1分は持たせてやるさ」と言って息巻いた。
「っと、それより始まるみたいだな。相手は……イオ……!?」
「『イオ』か……ランキングでは見なかった名前だな」
「……あ、ああ。有名プレイヤーでも無さそうだな」
そう言ったナムの口許は引きつっていた。
「ん? この相手のこと知ってるのか?」
「……まだ知らん」
「まあいいけど」
『まだ』ってなんだよ……
そして、さっきのような観客による「ふぁいと」の掛け声は無いまま、機械音声の合図で、試合が始まる。
「相手は盾と剣を持った女戦士か。弓じゃきついよな?」
ナムに聞くと「ああ」と頷く。
「盾を持ったタンク系の相手はかなり弱いからな。距離詰められたら隙だらけになるし……いくらヤミが上手くても、勝てないかもな」
だろうな……と考えていたが、そんな予想は簡単に裏切られた。
「……上手すぎないか?」
そうナムが呟いたのは実夜のエイムに関してだろう。動く相手の鎧の隙間を狙ってしっかりとダメージを与えている。
加えて牽制も混ぜることでそう簡単に近づく隙も見せない。
「これ、弓使いならできないと駄目な動きか?」
「いや、無理だろ。そりゃあ距離を詰められずに戦うってこと考えると、できたらかなりのアドバンテージにはなるだろうが……」
そして、相手がダメージ覚悟で突っ込んで来たところを放った矢が確実に捉え、実夜の勝利で終わった。
実夜やっぱり強いな……と思っていると、ナムがふと呟いた。
「最後に使ったアーツ……もう少し溜め長くなかったか?」
「えっ?」
聞くと、相手が最後に突っ込んできたのは実夜がアーツを使おうとしたからだそうだ。
「だから俺は、ヤミが負けたと思った。あのタイミングだとアーツが発動する前にイオの剣が届く、はずだった」
しかし先に放たれたのは実夜のアーツだったと。……これが実夜の言っていた『行動速度UP』の効果だとすると、弓には相性良さそうだな。
「……なんか知ってるのか?」
「んー、知ってるけど、ヤミのことだからな」
一応勝手に言わない方が良いと思う。実夜の情報だし。
「まあそうだよなぁ……じゃあ俺はもう少し潜ってくるわ。二つ名とは行かなくても、人数少ない今ならランキング100位くらいどうにか行けると思うし、粘るわ」
「おう頑張れよー」
アイツは『順位』とか人と比べる記録にかなりこだわるからな。ランキングに載るまではやめないだろう。
ナムが待合室へ向かったのと入れ替わるように実夜が戻ってきた。
「勝てましたよー!」
「おう、おめでとう。それで追加効果の使い心地はどうだった?」
「それもいい感じでしたね。感覚的には0.5秒近く変わってると思います。最後とか完全に釣れましたし……」
「へ、へぇ……」
……アーツの待機時間とか互いの距離とか移動速度とか。釣られる方も完全に把握してるから突っ込んで来たわけだろ? 俺からしたらどっちもレベルが違いすぎる。
「それで、先輩はやってこないんですか?」
「んー、これってレベルも反映されるんだろ? もう少しレベル上げてからにしようかと思ってる」
「まあそれもアリですね。あっ、でもここはLv40を超えてても戦うときはLv40に統一されるらしいですから、そこまで上げれば十分ですね」
受付でエントリーするときに説明を受けたらしいがレベル40を超えてると振ったステータスがどうなるのか、スキルのレベルには上限があるのかなどは分からないそうだ。
「それならレベル40まで上げてから戻ってくるか」
「あっ、それならその時は一緒に共闘しましょう!」
「共闘?」
「ここって二対二のマッチもできるんですよ。二人でエントリーするので共闘です。まあソロだとできないので一対一のマッチの方がいつも盛り上がってますけどね」
他にもバトルロワイヤル形式のものや身内だけでルールを決めてできるプライベートマッチなどもあるらしい。
色々あって楽しそうだけど、きっとガチ勢の遊び場になるんだと思う。
「あっ、午後は予定あるので私は落ちますね。お疲れ様です!」
「おう、おつかれー」
実夜がダイブアウトした後、俺も一旦昼飯のため落ちる。
昼飯を食べながら午後に何をするか考えた結果、料理をすることにした。
いや、料理ってリアルで、じゃない。ゲームの中で、だ。というのもレベリングするのにモブを倒しに行くのも面倒だし、依頼を受けるのは経験値効率が悪いということも聞いていた。それで他に経験値を手に入れる手段ってなかったかなーと思って調べたら、どうやらジョブ次第では生産系スキルでもレベルが上がるらしいことを知ったわけだ。
そして今まで手付かずになっていた生産系スキルを活用してみようという考えに至った。
……ちなみに何故【調合】じゃないのかというと、最低限必要な道具の数が料理に比べて調合の方が圧倒的に多かったからだ。
ということで昼の食器を片付けてから再度ダイブイン。
とりあえず料理に必要なものがいくつかあるため、それらをまず揃えようと思う。
「で、ここに売ってるはずなんだけど……」
やってきたのは始まりの街の大通りにある道具屋。ここで買うのは料理道具と食器もそうなのだが、本命は『魔力コンロ付き簡易キッチン』というものだ。値段は少し張るが、それだけで火が使えて、料理をするスペースもできる優れものらしい。
しかし表に並んでいる品を見たところそれらしいものは見当たらなかったため、店のレジにいた恰幅の良いおばさんに聞いてみる。
「……コンロ付きキッチンかい? それなら奥にあるからすぐ持ってきてやるよ。少し待ってな」
そう言って持ってきたものは平たく細長い板だった。両手で抱えるようにして持っていて、割と大きい。
しかし、どう見ても簡易キッチンには見えなかった。
「これですか?」
「ああそうか、使い方を説明しないとわかんないね」
そう言うと横の少し空いているスペースにその板を置いた。
「ここに魔石があるだろう? これに触れて魔力を注ぐと……」
そう言いながら横に付いていた紫色の石に手を触れると、その石が一瞬光、直後に平たい板が立体になった。
そのおばさんによると、高さは魔力を注いだ人にあった高さに調節されるらしい。また注ぐ魔力……MPの量は一定で、それもそこまで多くはないため、誰でも使えるそうだ。
お礼を言ってそれを購入し、ついでに包丁や菜箸、フライパンや鍋などの調理器具とナイフやフォーク、紙皿などの食器類もいくつか買っておく。
店を出てから次へ向かう。
「次は……食材か。売ってなかった熊の肉はあるけど……野菜が欲しいな。あとニンニクと生姜と……あと調味料もいるな」
ということで、今度は以前見つけていた料理について書かれていた掲示板だ。栞システムによって暇な時に目印を付けていたため、すぐに手に入る場所はわかった。
「野菜類は始まりの街から少し南に行ったところにある畑の側の無人販売所……っと、ここか」
たしかに無人販売所があり、様々な野菜が売られていた。
……高いけど、仕方ないか。ドロップ品でも手に入るらしいが、俺が魔物を倒してもドロップしないから仕方ない。その分解体すれば買取価格はドロップ品より高いみたいだしな。
ということでニンニクと生姜、あといくつか葉物の野菜を購入。あとは調味料か。
また掲示板から探す。
掲示板内で『塩胡椒』で検索……っと、おお、色々出てくるな。
そんな調子で第二の街に調味料や加工品などを売っているお店があるという情報を見つけ、すぐに向かった。
少し路地の奥まったところに佇んだ小さいお店だ。中に入るとよぼよぼのお爺さんが「ほお、いらっしゃい。よく来たね」と言ってくれた。
そこにはガラスケースに種類ごとに分けられた大量の香辛料があった。重量当たりの値段は野菜より高いが、まあ問題無い。
お金にもまだ余裕があったため、そのうち必ず使うことになる塩と胡椒、それに砂糖をそれぞれ1キロずつ購入。
ついでに料理酒、オリーブオイル、小麦粉などなど……まあ色々と売っていたため購入。お金のあるときの買い物って楽しいな。
そして「また来ますね」と言って香辛料屋さんを後にする。
さてと、これで料理に必要なものは揃った。
「あと必要なのは……場所だな」
ということで、ささっとインターネットで調べたところ、始まりの街に場所だけ貸してくれるお店があることがわかったため、早速向かう。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? ……一名様ですね。御利用時間は……三時間。かしこまりました。部屋は13番のお部屋になります。こちらの廊下の突き当たりを右に行ったところです。お時間の10分前になりましたら電話でお知らせいたします」
……カラオケに来た気分だな。時間の10分前の電話までまるっきりそれだ。ちなみに『フリータイム』もあったため、今度からは一日中篭ったりすると思う。
まあそれはともかくとして。
「早速始めるか」
まずは簡単な焼き料理からな。そう思い、先程買った簡易キッチンと食材を取り出し作業に取り掛かった。
ヒスイさんは簡単にどんなステータスを付与したのか、追加効果が何故付いているのかなど、いくつか説明してくれた。
そして2人でお礼を言って工房を後にする。
「びっくりしましたよ。こんな防具β版の頃は見たことありませんもん」
「β版から変わっているところもあるんだな。……俺はAGI+3の付与がされていることの方が驚いたけど」
「それはLv30からできるって知ってましたし、スイちゃんならやってるかもなーくらいには思ってましたから、そっちはあまり気にしてませんでしたね」
実夜が驚いたのは靴装備に付いていた『追加効果』だ。β版には無かったらしい。
「でも軽く掲示板で検索かけてみた感じ検証中みたいなんですよね。まだ追加効果が付いた装備も数えるほどしか無いらしいです」
「だろうな……」
追加効果は生産系スキルがLv35になると確率で付くようになるとのことで、スキルレベルが30を越してる人がまだ数人しかいないそうだ。
「とりあえず実践で試してみたいですよね。……闘技場行っちゃいます?」
「おまえのは行動速度UPだから実践で試さずともわかるんじゃないのか?」
「アーツの発動にかかる時間が速くなるのか知りたいんですよ。どうせ闘技場は一回観に行こうと思ってたし丁度いいじゃないですか」
「行きましょう!」と言ってグッと右手を引かれた。昨日のデートを思い出して一瞬声が詰まったがなんとか「分かったよ」と返事をして付いていく。
「それで、ここが闘技場か」
しばらく行くと大きな建物があった。高さは3階建の建物程だが、横はその数倍の長さがある。片側しか見てないからなんとも言えないがたぶんドーナツ状の建物だろう。
「では戦う前に少し観戦に行きましょう! 観戦は自由なんですよ」
そう言って階段を上がる。選手として参加する人はロビーで受付を済ませて一階奥にある待合室で待機になり、観戦する場合はロビーにある階段で二階に上がり、観たいページに移動するらしい。
「丁度ナムさんが戦うっぽいですね。観に行きましょ! えーっと、27ページですね」
メニュー画面からページ移動を選び移動すると、中央に浮かんでいる画面に表示された対戦カードに『プラチナム』の名前があった。まだ試合は始まっていないようだ。
「へぇ、ここで見られるのか。……って観戦者多くね?」
「そう……ですね。相手が人気ある人なんですかね?」
「人気とかあるのか?」
「もちろんありますよ。ニマニマ動画とかアイツべで生放送してる人とかもいますし」
「ああ、たしかに実況者とか生主の人は観戦者多そうだな」
ちなみに、ニマニマ動画はコメントが画面を流れるのが特徴的な日本の人気動画サイトで、アイツべはItubeといって世界的に有名な動画サイトだ。
「そういえばナムさんも生主じゃありませんでしたか?」
「ああ、そういえばそうだったな。……でもそんな人気無かったし、この観戦者はお相手氏だろうな」
ナムもたまにニマニマ動画でRTAを中心に生放送をしているが、そんなにコミュニティ人数は多くなかったはずだ。
「相手は……『偽りの女豹』……って二つ名持ちじゃないですか!」
「……二つ名なんてあるのか」
「たしか100戦やって勝率が9割以上の場合二つ名が付けられるんですよ。観戦者から候補が上がって本人でその中から選ぶみたいな形式だったと思いますけど……」
「選び方はともかく、勝率9割ってガチ勢以外の何者でもないな……」
「しかも連勝するほど連勝中の人と当たりやすくなりますから、相当の難易度です」
そこまで厳しいと運が良いだけじゃ二つ名持ちにはなれないだろう。
「あっ、出てきましたよ」
西側からプラチナム、東側から『偽りの女豹』さんが出てきたようだが、少し気になることが。
「二つ名持ち……小さくね?」
「ちっちゃくて可愛いですね。とても女豹には見えません。むしろ……ウサギ?」
白に近い銀髪のツインテールを揺らしながら出てきたのは身長140センチくらいに見える小さな女の子だ。
「武器は……あの黒いやつか……? 武器には見えないけどそれ以外には無さそうだよな?」
その女の子が両手に抱えているのは長方形の黒いケースのようなもの。
「あれは……楽器ケース?」
そう実夜が呟いたすぐ後、少女は黒いケースを開け、中から子供用に見える小さなヴァイオリンと弦を取り出した。
「あれ、ヴァイオリンだよな?」
「ですね……戦闘スキルとして【演奏】というのはありますがそんなに……っと、始まるみたいですね」
すでに機械音声によるカウントが始まっていて、残り3カウント。そこまで行くと観戦者達が待ち侘びたように、機械音声に合わせてカウントを始めた。
3……2……1……
「「「「「ファイトおおおおおおおおおおお」」」」」
実夜も一緒に「ふぁいとおおおおおお」と声を張り上げている。そしてそれと同時に、中央にいる二人が動き出した。
「えっ……?」
初め、ナムが勢いよく飛び出し、すれ違いざまダガーを少女の首に向けて放った。しかし、その刃は少女の首には届かなかった。
ダガーが少女の首を捉えようとする一瞬前、甲高い音色が聞こえ、それと同時にナムの首が飛んだ。
「……何が起こった?」
「……攻撃方法がわかりません。あんなアーツ見たことないし……新しく追加されたアーツ? それとも称号?」
中央付近の空中に浮かぶ画面には[偽りの女豹 WIN]の文字が並び、そのすぐ下に[戦闘時間 00:06]の表示があった。
その後、ロビーに戻り大画面に映ったランキングを見ながら話す。
「闘技場ってあーいう人が結構いる場所ですから。あの子の戦績を少し見てみたんですけど、さっきのみたく10秒以内に終わってる対戦も結構あるんですけど、それでも数分かかってる試合とか負け試合もいくつかありましたから、何かしらの条件が揃わないとあそこまで上手くはいかないんでしょうね」
「初見で対応できる気はしないけどな。……にしてもあの子でランキング2位なのか。……闘技場って魔境だな」
「そりゃあ上は化け物達の巣窟ですよ。特に二つ名持ちの上位7人とかは。まあ下の方はそこまで強く無い人もいますから、そこまでハードル高くないと思いますよ?」
そうだろうけど、初めに見た戦いの印象が強すぎて自分の中でかなりハードルが上がっている。
「俺はともかく、おまえは一回行ってくるんだろ?」
「はい! ……まあ弓って対人戦は弱いから自身無いんですけどね」
「では見ていてくださいね!」と言って受付へ向かった。
実夜が待合室に向かったことを確認してから二階に並ぶ端末で実夜の名前を検索するとすぐに、次の対戦ページがわかったため移動した。
「おっ、やっぱりルアも来てたのか。ヤミの名前があったから一旦戦うのやめて観戦に戻ったんだ」
ナムが俺を見つけて話しかけてきた。
「おうナムか。さっきの戦い見てたぜ」
「見られてたかぁ。いや、完全に二つ名持ちを舐めてかかってたな」
「相手が何したのかわかったか?」
「いや、全く……だけど」
ナムはニヤッと口角を上げ、「次に当たったら1分は持たせてやるさ」と言って息巻いた。
「っと、それより始まるみたいだな。相手は……イオ……!?」
「『イオ』か……ランキングでは見なかった名前だな」
「……あ、ああ。有名プレイヤーでも無さそうだな」
そう言ったナムの口許は引きつっていた。
「ん? この相手のこと知ってるのか?」
「……まだ知らん」
「まあいいけど」
『まだ』ってなんだよ……
そして、さっきのような観客による「ふぁいと」の掛け声は無いまま、機械音声の合図で、試合が始まる。
「相手は盾と剣を持った女戦士か。弓じゃきついよな?」
ナムに聞くと「ああ」と頷く。
「盾を持ったタンク系の相手はかなり弱いからな。距離詰められたら隙だらけになるし……いくらヤミが上手くても、勝てないかもな」
だろうな……と考えていたが、そんな予想は簡単に裏切られた。
「……上手すぎないか?」
そうナムが呟いたのは実夜のエイムに関してだろう。動く相手の鎧の隙間を狙ってしっかりとダメージを与えている。
加えて牽制も混ぜることでそう簡単に近づく隙も見せない。
「これ、弓使いならできないと駄目な動きか?」
「いや、無理だろ。そりゃあ距離を詰められずに戦うってこと考えると、できたらかなりのアドバンテージにはなるだろうが……」
そして、相手がダメージ覚悟で突っ込んで来たところを放った矢が確実に捉え、実夜の勝利で終わった。
実夜やっぱり強いな……と思っていると、ナムがふと呟いた。
「最後に使ったアーツ……もう少し溜め長くなかったか?」
「えっ?」
聞くと、相手が最後に突っ込んできたのは実夜がアーツを使おうとしたからだそうだ。
「だから俺は、ヤミが負けたと思った。あのタイミングだとアーツが発動する前にイオの剣が届く、はずだった」
しかし先に放たれたのは実夜のアーツだったと。……これが実夜の言っていた『行動速度UP』の効果だとすると、弓には相性良さそうだな。
「……なんか知ってるのか?」
「んー、知ってるけど、ヤミのことだからな」
一応勝手に言わない方が良いと思う。実夜の情報だし。
「まあそうだよなぁ……じゃあ俺はもう少し潜ってくるわ。二つ名とは行かなくても、人数少ない今ならランキング100位くらいどうにか行けると思うし、粘るわ」
「おう頑張れよー」
アイツは『順位』とか人と比べる記録にかなりこだわるからな。ランキングに載るまではやめないだろう。
ナムが待合室へ向かったのと入れ替わるように実夜が戻ってきた。
「勝てましたよー!」
「おう、おめでとう。それで追加効果の使い心地はどうだった?」
「それもいい感じでしたね。感覚的には0.5秒近く変わってると思います。最後とか完全に釣れましたし……」
「へ、へぇ……」
……アーツの待機時間とか互いの距離とか移動速度とか。釣られる方も完全に把握してるから突っ込んで来たわけだろ? 俺からしたらどっちもレベルが違いすぎる。
「それで、先輩はやってこないんですか?」
「んー、これってレベルも反映されるんだろ? もう少しレベル上げてからにしようかと思ってる」
「まあそれもアリですね。あっ、でもここはLv40を超えてても戦うときはLv40に統一されるらしいですから、そこまで上げれば十分ですね」
受付でエントリーするときに説明を受けたらしいがレベル40を超えてると振ったステータスがどうなるのか、スキルのレベルには上限があるのかなどは分からないそうだ。
「それならレベル40まで上げてから戻ってくるか」
「あっ、それならその時は一緒に共闘しましょう!」
「共闘?」
「ここって二対二のマッチもできるんですよ。二人でエントリーするので共闘です。まあソロだとできないので一対一のマッチの方がいつも盛り上がってますけどね」
他にもバトルロワイヤル形式のものや身内だけでルールを決めてできるプライベートマッチなどもあるらしい。
色々あって楽しそうだけど、きっとガチ勢の遊び場になるんだと思う。
「あっ、午後は予定あるので私は落ちますね。お疲れ様です!」
「おう、おつかれー」
実夜がダイブアウトした後、俺も一旦昼飯のため落ちる。
昼飯を食べながら午後に何をするか考えた結果、料理をすることにした。
いや、料理ってリアルで、じゃない。ゲームの中で、だ。というのもレベリングするのにモブを倒しに行くのも面倒だし、依頼を受けるのは経験値効率が悪いということも聞いていた。それで他に経験値を手に入れる手段ってなかったかなーと思って調べたら、どうやらジョブ次第では生産系スキルでもレベルが上がるらしいことを知ったわけだ。
そして今まで手付かずになっていた生産系スキルを活用してみようという考えに至った。
……ちなみに何故【調合】じゃないのかというと、最低限必要な道具の数が料理に比べて調合の方が圧倒的に多かったからだ。
ということで昼の食器を片付けてから再度ダイブイン。
とりあえず料理に必要なものがいくつかあるため、それらをまず揃えようと思う。
「で、ここに売ってるはずなんだけど……」
やってきたのは始まりの街の大通りにある道具屋。ここで買うのは料理道具と食器もそうなのだが、本命は『魔力コンロ付き簡易キッチン』というものだ。値段は少し張るが、それだけで火が使えて、料理をするスペースもできる優れものらしい。
しかし表に並んでいる品を見たところそれらしいものは見当たらなかったため、店のレジにいた恰幅の良いおばさんに聞いてみる。
「……コンロ付きキッチンかい? それなら奥にあるからすぐ持ってきてやるよ。少し待ってな」
そう言って持ってきたものは平たく細長い板だった。両手で抱えるようにして持っていて、割と大きい。
しかし、どう見ても簡易キッチンには見えなかった。
「これですか?」
「ああそうか、使い方を説明しないとわかんないね」
そう言うと横の少し空いているスペースにその板を置いた。
「ここに魔石があるだろう? これに触れて魔力を注ぐと……」
そう言いながら横に付いていた紫色の石に手を触れると、その石が一瞬光、直後に平たい板が立体になった。
そのおばさんによると、高さは魔力を注いだ人にあった高さに調節されるらしい。また注ぐ魔力……MPの量は一定で、それもそこまで多くはないため、誰でも使えるそうだ。
お礼を言ってそれを購入し、ついでに包丁や菜箸、フライパンや鍋などの調理器具とナイフやフォーク、紙皿などの食器類もいくつか買っておく。
店を出てから次へ向かう。
「次は……食材か。売ってなかった熊の肉はあるけど……野菜が欲しいな。あとニンニクと生姜と……あと調味料もいるな」
ということで、今度は以前見つけていた料理について書かれていた掲示板だ。栞システムによって暇な時に目印を付けていたため、すぐに手に入る場所はわかった。
「野菜類は始まりの街から少し南に行ったところにある畑の側の無人販売所……っと、ここか」
たしかに無人販売所があり、様々な野菜が売られていた。
……高いけど、仕方ないか。ドロップ品でも手に入るらしいが、俺が魔物を倒してもドロップしないから仕方ない。その分解体すれば買取価格はドロップ品より高いみたいだしな。
ということでニンニクと生姜、あといくつか葉物の野菜を購入。あとは調味料か。
また掲示板から探す。
掲示板内で『塩胡椒』で検索……っと、おお、色々出てくるな。
そんな調子で第二の街に調味料や加工品などを売っているお店があるという情報を見つけ、すぐに向かった。
少し路地の奥まったところに佇んだ小さいお店だ。中に入るとよぼよぼのお爺さんが「ほお、いらっしゃい。よく来たね」と言ってくれた。
そこにはガラスケースに種類ごとに分けられた大量の香辛料があった。重量当たりの値段は野菜より高いが、まあ問題無い。
お金にもまだ余裕があったため、そのうち必ず使うことになる塩と胡椒、それに砂糖をそれぞれ1キロずつ購入。
ついでに料理酒、オリーブオイル、小麦粉などなど……まあ色々と売っていたため購入。お金のあるときの買い物って楽しいな。
そして「また来ますね」と言って香辛料屋さんを後にする。
さてと、これで料理に必要なものは揃った。
「あと必要なのは……場所だな」
ということで、ささっとインターネットで調べたところ、始まりの街に場所だけ貸してくれるお店があることがわかったため、早速向かう。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか? ……一名様ですね。御利用時間は……三時間。かしこまりました。部屋は13番のお部屋になります。こちらの廊下の突き当たりを右に行ったところです。お時間の10分前になりましたら電話でお知らせいたします」
……カラオケに来た気分だな。時間の10分前の電話までまるっきりそれだ。ちなみに『フリータイム』もあったため、今度からは一日中篭ったりすると思う。
まあそれはともかくとして。
「早速始めるか」
まずは簡単な焼き料理からな。そう思い、先程買った簡易キッチンと食材を取り出し作業に取り掛かった。
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なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?
水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
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