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第一章:恋愛日和

第10話:初めてのクエスト(後編)

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「やっと……倒せたか……?」

 俺の前には俺のナイフによって肉が剥ぎ取られ、動かなくなったゾンビイーターが横たわっている。

 それにしても……だいぶ苦戦したな。

 初めこそ余裕があったが、奴の動きは時間と共に良くなって行った。おまけに痛覚も無かったようでいくら切り裂いても怯んだり痛がったりする様子を全く見せない。
 さすがに頭を胴体から切り離しても動いて来たのはキツかった。主に精神的に。ちなみに頭という重いものを取っ払って動きが速くなるというおまけ付きだ。

 とまあそんな難易度の上がっていく系の避けゲーをやっと制したわけだ。……後半は頭もなくなり、腕も取れそうでプラプラとしているのに、しっかりとこちらに掴みや蹴りで攻撃してくるとかいう半分ホラーゲームとなっていたわけだが。


 とりあえずモンスターを倒したことをモルドさんに報告しないとな。

「モルドさん、なんとか討伐終わりましたけど、他の方角からは来てませんか?」

「ええ。他には全く気配を感じませんから。下位ゾンビが数体はいると踏んでいたのですが、出てきたのが中位ゾンビ一体だけとは。私たちはだいぶ運が良かったのでしょう」

「あの。それなんですけど……」

 倒したアンデッドが中位ゾンビではなくゾンビイーターだったことを報告した。すると……。

「なんと……まさかゾンビイーターとは。今まで魔法陣の浄化時にゾンビイーターが発生した記録が無かったので、迂闊でした。次からは依頼の指定ランクを上げなければなりませんね……」

 モルドさんによるとゾンビイーターはゾンビを食べる欲求を持ったゾンビであり、食べた魔力を身体に蓄積、循環させることで強化されていく。
 その『魔力を貯める』というのが変異種の特徴であるらしく、放っておくと元の強さに関わらず、際限なく強くなってしまうのだとか。

 いやそれ、この世界すぐ滅ぶんじゃないか?とも思ったが。

「そうは言っても同族の魔力は毒になりますから、大体は一週間持たずに死にますけどね」

 どうやら魔物にとって同族の持つ魔力は麻薬のようなものみたいだ。

 一通りの説明を聞けたところで、ヒスイさんが浄化している魔法陣が一瞬、白く光りを放った。

「おっと、どうやら浄化が終わったようですね」

「お待たせしました。ちゃんと浄化できたと思いますので、モルドさん確認お願いします!」

「ええ。それでは確認させて頂きます。【浄化】」

 モルドさんは【浄化】のスキルを魔法陣に対して使用したようだ。確認に【浄化】のスキルを使うのか……と考えていると、ヒスイさんが、

「【浄化】のスキルを使うと魔法陣の浄化度合いが数値化されるので、確認できるんです」

 と説明してくれた。なんでも浄化度と瘴気度という数値があり、浄化度の数値を100、瘴気度を0にすると浄化完了らしく、俺が護衛(避けゲー)をしている間、ひたすら浄化度を上げていたらしい。

「問題ありませんね。それでは街に帰りましょうか」

 モルドさんが浄化の確認を終えたらしい。これでクエストは終了だな……っと、そういや聞き忘れてたことがあったな。

「あっ、その前に一ついいですか?」

「ええ。なんでしょうか?」

「ゾンビイーターの素材って何かに使われますか?」

「アンデッドモンスターの部位でしたら教会で買い取ることができますが……もしや、何か部位を『ドロップした』ということですか?」

「ええまぁ。売れるなら売ってしまいたいので、相談に乗ってもらえればと」

「もちろんいいですよ。して、ドロップしたのはどのような物でしょうか」

「それに関しては見てもらった方が早いかと。ですが、状態が少しアレなので、教会に戻ってからお見せしますね」

「ええ、構いませんよ。それでは戻りましょうか」


 教会に戻る道中、ヒスイさんに先ほどの話について尋ねられたため、ゾンビイーターのことを軽く説明する。

「へぇ……そんなモンスターが……ってそれゾンビ系のモンスターからドロップ品が出たってことですか!?」

 かなり驚いた様子で聞き返された。

「そんなに驚くことなんですか?」

「当たり前ですよ!  アンデッドの中で特にゾンビ系のモンスターは普通、ドロップ品が無いんです。通常ドロップはもちろんですが、【解体】スキルによる部位ドロップすらも無いんですよ?」

「へぇ……でもドロップしたってわけじゃないんですよ。使えるところがあるかも分かりませんし」

「ドロップ以外に素材を手に入れる手段があるってことですか……?」

「ある称号の効果なんですけど、ドロップ品が落ちない代わりに死体が残るっていうのがあるんですよ」

「ドロップが落ちない代わりに……というと【解体】スキルが称号になった感じですか? 初めて聞く称号ですね」

「発生条件がだいぶ特殊ですからね」

 死体が残る原因である『私の友達が惨殺者!?』の称号はたぶんリリィの気分次第で名前が変わり効果も変わるだろう。そうなると同じ称号を持つ人が出てくるとは思えない。
 ……改めて考えるとずいぶんとユニークな称号だな。

「へぇ……その、死体が残るっていうのは、無機物系のモンスターでも同じなんですか?」

「まだ無機物系のモンスターは倒してないので分かりませんが、たぶん同じだと思いますよ。ドロップは落ちないでしょうし」

「…………もしそうなら、頼みたいことがあるんです」

「なんですか?」

「あのですね………………」

 ◇

「ルアさん、改めて護衛依頼の方ありがとうございました。依頼達成についてはこちらでギルドの方に知らせておきますね。報酬に関してはギルドに預けてありますので、依頼を受注したギルドで受け取ってください」

 ウルディアにつくとヒスイさんはすぐにログアウトした。その後、俺は教会でモルドさんからクエスト達成を認可してもらっていた。それと同時に通知音が鳴る。

 《クエストを達成しました》
 《レベルが10に上がりました》
 《SPを10手に入れました》
 《スキル【不意打ち】を取得しました》
 《スキル【受け流し】を取得しました》
 《【称号:私の友達は縛りプレイヤー】が追加されました。》
 《スキル【アーツ縛り】を取得しました》

 視界内に出てきては流れていくログにかなり気になる単語があった気がするが、モルドさんへの相談が終わっていない。

「それで、帰り際に言っていたゾンビイーターのドロップ素材というのは?」

「いえ。ドロップ品ではなくて死体なんです」

「死体……そうでしたか。それでしたらアンデッドの買取専用の個室がありますのでご案内します」

 そう言って一つの個室に案内された。そこで俺は言われた場所にゾンビイーターの死体を出す。

「それではお願いします」

「ほぉ……これは。ずいぶんと細かく解体されているようで。これなら魔石が簡単に取り出せるのでこちらとしてはありがたいことです。買い取れない部位もこちらで処分しましょうか?」

「はい。お願いします」

 そうして無事ゾンビイーターを買い取ってもらえた。ちなみにゾンビ系で買い取ってもらえるのは魔石という魂が入る器の代わりとなった石だけで、強さによって大きさと透明度が変化するらしい。

 うーん、あとはギルドに戻って報酬をもらってこないとだけど……その前にさっきの通知は確認しとかないとな。

 とりあえず新しく手に入れたスキルからな。……3つとも『その他』スキルか。

【不意打ち】
 相手に認識される前に攻撃した時の与ダメージ増加
 種別:常時発動技能

【受け流し】
 相手の攻撃を受け流した時の被ダメージ軽減
 種別:常時発動技能

【アーツ縛り】
 戦闘時アーツ使用不可
 アーツ不使用時の与ダメージ増加

 さて、問題は最後の【アーツ縛り】というやつか……戦闘時アーツ使用不可ってやばいよな?  いや、今日は一度も使わなかったが。
  ……まぁスキルだからアクティブにしなければ問題ないか。それで、このスキル発生源と思われる称号がこれか。

【称号:私の友達は縛りプレイヤー】
 Lily-100の友達が縛りプレイに挑んだ証
 効果:アーツが一切使えなくなるみたいですよ? あと新しいスキルが取得できるらしいです。

 Lily-100のコメント
『さすがルアさんです!』

 ……効果に嘘が書いてあるのか、それともガチなのか。
 まず、新しいスキルってのは十中八九【アーツ縛り】のことだろう。問題はその前に書いてある『アーツが一切使えなくなるみたいですよ?』というやつだ。

 まぁこればっかりは試さないと分かんないが、とりあえず今日はもう寝るか……。既に視界内の時計は短い針が1に掛かろうというところだ。明日は実夜は学校があるはずだし、起こすのが俺ということを考えると、さっさと寝たほうがいいだろう。
 そう考えて、教会から始まりの街に戻ってからダイブアウト。

 既に実夜は自分の布団で寝ており、こちらに転がってくる様子も無かったため、俺はそのままフツロを枕元に置き実夜と反対側を向いて寝ることにした。

 昨日しっかりと寝れていなかったためか、瞼を閉じるとすぐに意識が遠のいていった。
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