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第128話 帰還へ

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 よし、帰ろう。
 やることは終わったのでとりあえず帰ろう、そう決めた。
 しかしここで問題が起きた。

「遥お姉様、瑞歌お姉様、お帰りになられてしまうのですか!?」
「私たちも連れて行ってはくださらないのですか!?」
 お茶会ですっかり仲良くなってしまったハンターの少女たちが口々にそう言う。
 どうやらケーキに魅了されてしまったらしい。

「といいましても、すぐにアルテに戻ってこれるとは限りませんよ?」
「貴女たちは違う場所で生きていく覚悟があるのですか?」
 ボクの言葉に続くように瑞歌さんが少女たちにそう言葉を投げかけた。

「それは、その……」
 強く問われて言葉を続けることができない少女たち。
 その目は悩むようにしばらくキョロキョロとし続け、やがてボクたちをもう一度、その視界に捉えた。

「か、覚悟はできました!」
「アルテも滞在しているだけで住んでいるというわけじゃないです」
「元々どこにでも行く覚悟」
「戻ってもどこかの老貴族の後妻になることを考えたら、新天地へ行くほうがずっといいです」
 一瞬の間は何だったのかと思うほど問題ないと続ける少女たち。
 きっと複雑な事情があるんだろうなと想像してしまう。

「え~っと、瑞歌さん、どうしましょう?」
 判断がつかず、ボクは思わず瑞歌さんに尋ねてしまった。

「そうですわねぇ。人間を勝手に移住させるのは少々まずいかもしれませんわね。まぁ盗賊とかは別でしょうけど」
「でしたら、私にお任せください」
「あれ? ヒンメスさん?」
 ボクたちの会話に割って入ってきたのは、破損した鎧を受け取ってにこにこしているヒンメスさんだった。

「彼女たちは現在、当ギルドに所属していますので手の打ちようはいくらでもあります。そして幸いにも私は大神殿の第二級司祭です。大神官様のお力をお借りすればなおよろしいかと」
「まぁ。政治的駆け引きもできますのね?」
「多少は、ですが」
 瑞歌さんは何かを察したようで、怪しい微笑を浮かべながらヒンメスさんと会話をしている。

「ぎ、ギルドマスター」
「こんにちは。君たちの話は聞かせてもらいましたよ。この件はこちらで預かりますので、まずは行ってきたらどうでしょうか」
 少女たちの声に応えるように優しく微笑みながらそう話すヒンメスさん。
 彼の一言で場が収まったような気がした。

「遥お姉様たちはギルドマスターとお知り合いなのですか?」
 一人の少女がボクに問いかけてくる。

「少しだけ、ですけどね」
 仲が良いわけでも悪いわけでもないのでこんな感想になるのは仕方ないだろう。

「そ、そうですね」
 何やらがっかりしたように沈んだ声で応えるヒンメスさん。

「とにかく、わかりましたわ。希望者がいれば遙お姉様の許可が出次第連れて行って差し上げますわ。それでいいですわね? お姉様」
「あ、はい。大丈夫ですよ。守秘義務とかについては向こうに行ってから誓約してもらうつもりですから」
 
 こうして、8人ほどの人間の少女がボクたちの場所に移住することになった。
 問題は、こちらに造る予定の都市に留まってもらうか、それとも新世界も含めて行動してもらうかだが……。
 
「問題はまだ山積みですけど、とりあえず戻りましょうか」
 こうしてボクたちはギルドを引き上げ馬車へと戻っていった。

 馬車の周囲では神殿の僧兵さんが警備を続けていたようで、周囲から大変注目されていた。
 中にはサインを求める人もいるようで、何かを書いている様子も見受けられた。

「僧兵さんって人気なんですか?」
 馬車を出すために僧兵さんに話しかける。
 すると僧兵さんは困ったような顔をしながら説明してくれた。

「大神殿の僧兵は合格難易度が非常に高いんです。そのためエリートとか呼ばれたりしていますね。王城の近衛兵よりも厳しい選抜があると聞いています。私の場合はがむしゃらにがんばったら合格した感じだったので……」
「なるほど。だから人気が高いんですね」
 サインを求められるほど人気が高いっていうところがすごい。

「それに普段は神殿区域からでることはありませんからね」
 そう考えると滅多に見ない生き物に遭遇した人の気分になりそうだと思った。

「こちらに来られたということはお戻りになられるのですか?」
「あ、はい。ちょっと同行者が増えてしまいましたけど……」
「では後ほど軽く資格検査だけ行っておきましょう。神殿区画の門を通るには資格の発行が必要ですので」
「わかりました」
 別にこのまま街側の門から出てもいいのだが、僧兵さんとしては神殿関係者の門から出てほしいようだ。

「それじゃあ行きますよ」
 そう声をかけると、みんな揃って動き出した。

「ところで遙お姉様。神殿の僧兵様と親しいようですが、どのようなご関係で?」
 一緒にいた少女の一人がそう尋ねてきた。

「聖女様のお友達ってところですかね」
 実際その通りだから間違ってはいないだろう。

「せ、聖女様!? あの滅多にお目に掛ることのできない才女のミレイ様ですよね!?」
「あ、えっと、そ、そうです」
 この世界でのミレイさんについては、最初に会ったころのことしか知らない。
 大神殿で顔を見せないまま継承を行ったあの時だけなのだ。

「すごいです。聖女ミレイ様を直接見られるなんて」
「この間、聖女様がこの街の近くに来ているという噂があったんです。実際には騎士団しかいなかったわけなんですけど」
「ミレイ様って王子との婚約破棄したそうですよね」
「聞いた話によると王子のほうはミレイ様に未練があるらしく、なんとしても妻にすると宣言しているそうですわ」
「えぇ……」
 何やらミレイさんはミレイさんで厄介な事情を抱えているようだ。
 今度、迷惑じゃなかったら聞いてみようかな?

 馬車は僧兵さんの誘導で神殿地区へと入っていく。
 神殿地区入ってすぐの詰め所で馬車を一旦止め、そこで8人の登録を行った。
 登録自体は問題なく、犯罪歴などもないのでスムーズに進んだが、今度は天使であるアズラエルさんが僧兵さんたちの目に留まってしまったのだ。
 
「天使様とは……」
「初めて見た……」
「か、可憐だ……」
 アズラエルさんは、僧兵さんたちが言うように可憐な黒髪の美少女の姿をしている。
 そのせいか、幾人もの僧兵さんたちの目を惹きつけてしまったのだ。

「ははは。あとでしっかりするように言っておきます。こら、お前たち。この天使様は遥様の眷属となられたのだ。下手な手出しをすれば罰が下るぞ」
「ひぃ!?」
「お、お許しを……」
 別に罰するつもりはないのでそんなに怯えないでほしい。

「まぁもしアズラエルさんとお近づきになりたいなら、そうですね。うちの取りまとめはミレイさんがしているのでミレイさんに問い合わせてみてください」
 適任かと思って提案したのに、今度は別の意味でざわつき始めてしまった。
 ミレイさんを出したのはまずかったかな?

「遥お姉様、それでは逆に手を出せなくなってしまいますわよ? ミレイさんに話しかけられるほどの度胸があるとは思えませんわ」
「あー……」
 どうやらボクは別の意味でやらかしていたようだ。
 まぁ、アズラエルさんのことについてはあとでいいだろう。

「さて、それではそろそろ出発します」
「はい、わかりました。あ、ところで」
「はい?」
 馬車を出す時になって案内してくれていた僧兵さんが質問を投げかけてきた。

「ヒンメス様が森に何かができるとおっしゃっていたのですが」
「あー……。そうですね。まぁ教えられる段階になったら教えます。この話は大神殿の方にもミレイさん経由で伝わっていますので、いずれ」
「かしこまりました。それでは、お気をつけて」
 
 こうしてボクたちは僧兵さんに見送られながら馬車を出した。
 馬車の内部は8人が追加で乗っても大丈夫な広さがあるので、移住希望者を連れて森へと向かう。
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