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第107話 妖都と兎の妖種

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 フェアリーノームたちと会話をして少し視察をした後、ボクは一人で妖都に来ていた。
 お母さんのいる場所ではなく、今回転移した場所は街の門前だ。

「こんにちわ~。街に入っても大丈夫ですか?」
「はい。入場は順番待ちですので、そこの列の後ろに並んでお待ちください。時期にお呼びいたします」
 入口前にいた衛兵さんに声をかけると長い行列の後ろに並ぶように指示された。

「はい、わかりました」
 特に思うところもなかったので、のんびりワクワクしながら並ぶことにした。
 順番待ちって面倒なこともあるけど、楽しいんだよね。

「はい。荷車ですね。検品をしますので3番門に向かってください」
「犯罪歴はなしと、持ち込み品は?」
 次々と検査や検品が行われ、行列が進んでいく。
 でもあまりにも人が多いので、ボクの順番が来るのはまだ先になるだろう。
 ここに並んでいる人たちはどこから来たのだろうか?

「お姉さんお姉さん、こんなところで何してるんですか?」
「?」
 門前のやり取りを見ていると、不意に誰かに声をかけられた。
 あたりを見回してみると、ボクより小さい長い黒髪のうさ耳の可愛らしい女の子がそこにいた。
 5歳くらいだろうか?

「入場待ちしてるんです。貴女はどなたですか?」
「あたしはミユキというのです」
 小さなうさ耳の少女は笑顔でそう答えた。
 名前だよね? 苗字じゃないよね?

「えっと、ミユキさんは何でこんなところにいるんですか? お父さんかお母さんは?」
 小さい子がこんなところにいると危ないと思うんだけど。
 妖種ではあるようだし、すぐにどうこうされることはないだろう。

「お父さんとお母さんはあっちなのです~」
 ミユキさんが示した方向には大きく長い行列があった。
 先頭に旗を立てているのでどこかのお偉いさんの行列なのだろう。

「ミユキ様~! どちらに~!」
「あ、呼ばれちゃった。お姉さん、こっちこっち」
「あ、ちょ!?」
 なんでかわからないが、ボクはミユキさんに手を引かれて行列の方へと連れていかれてしまった。
 
「み、ミユキ様! 勝手にいなくなられては困ります。それで、こちらの方はどなたで?」
 じろじろ見てくる男性はミユキさんと同じようにうさ耳をつけていた。
 この人もウサギの妖種のようだ。

「あ、えっと……」
「天明(てんめい)さん、お姉さんをじろじろ見ないでください!」
「あ、これは失礼を」
 ミユキさんに叱られ、天明さん? という人が頭を下げた。
 どうやら侍従的な人のようだ。

「お姉さんは、あたしの友達なのです!」
「なんと……」
「え? そうなんですか?」
「もう、お姉さん!」
「あ、ごめんなさい」
 突然友達と言われたのでつい聞き返してしまった。
 面目ない。

「お父様とお母様にお姉さんを紹介したいのです」
「かしこまりました。ではこちらへ」
 天明さんはミユキさんに言われるがまま、ボクを連れて一際立派な馬車に案内する。
 黒塗りでところどころ金の装飾が施されている立派な馬車だ。

「通伸(みちのぶ)様、心優(みゆ)様、お嬢様をお連れいたしました」
「すまないな、天明」
「娘が迷惑かけました」
「いえ、お嬢様は快活かつ聡明な方であらせられますので。何やらお嬢様は妖都にてご友人をお作りになられた様子」
「まぁ」
「それは、本当かい?」
 何やら馬車の中がざわついている気がする。

「本当なのです。お父様、お母様」
 ミユキさんはそう言うと、天明さんに頼んで馬車の扉を開けてもらった。
 中にいたのはミユキさんと同じような黒髪の男性と女性だった。
 男性の方はきれいな顔をした、意志が強そうなイケメンで、女性の方は柔和な表情をしたハッとするような美人だった。

「お父様、お母様、お友達のお姉さんです」
「あ、遥と申します」
 お姉さんだけじゃ伝わらないだろうからボクから進んで自己紹介をした。

「ミユキより少しお姉さんなんだね」
「遥さんと言ったかしら、貴女、妖狐族ですのね?」
 女性の方はボクを見るなりそう言う。

「はい、その通りです。妖狐族です」
「なるほど。ミユキの目は確かか」
「これはまたとない縁ですわね」
「?」
 二人はボクを見ながらそんなことを言っていた。
 どういうことだろう?

「あぁ、すまない。妖都では種族階級に差があってね。私たちのような兎の妖種はそこまで地位が高くないのだよ」
「とはいえ、ほかの種族よりは上なのですけど」
「そうなんですね。すみません、ボクはそのあたりのことをよく知らないんです」
「お姉さん、この妖都では3つの種族が一番地位が高いのです。妖狐族、天狗族、鬼族です。次に高いのが猫又族なのです」
「お嬢様の言う通りです。私たち兎の妖種は猫又族の下に位置しています。ですので、本来は妖狐族と知り合うことなど到底できることではないのです」
 代わる代わるボクに事情を説明してくれた。
 そんな制度があったのか。

「お姉さんは変化が上手なのですぐに妖狐族と分からない人もいるのです」
「あはは、ありがとうございます」
 なんだか褒められると少し嬉しい。

「ともあれ立ち話もなんだ。これより妖都に入るので一緒に行かれてはどうかな?」
 ミユキさんのお父さんはボクにそう提案してくれた。

「お姉さん、一緒に行きましょう」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
 こうしてボクは偶然知り合った兎の妖種一家と共に妖都へと入るのだった。
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