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第94話 拠点案内その1 ホールと医療区画

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 案内された拠点内は、あっちの世界の拠点とはだいぶ変わっていた。
 まず1階だが、入ってすぐ目に入るのは少し広めのホールだった。
 椅子やテーブルなども設置されているためちょっとした集まりにも使えるようになっているようだ。
 何気にカウンターも用意されている。
 何に使うのだろうか?
 入り口入ってすぐのホールからは東西南北に扉が設置されていて、そこから扉を通ることで各施設に行けるようになっているようだ。
 
「このホールにあるカウンターは喫茶スペースになっています。お酒やお茶、おつまみや簡単な軽食が誰でも食べられます。料金はかかりますけどね。他には依頼書の発行なども代行しています。それと、お客様が来ることがあったら場合、このホールで待機してもらうことになります」
 どうやらあのカウンターでは飲食物の提供も行っているようだ。
 シーラが案内する中、ほかのメンバーはみんな思い思いの場所を見たり触ったりしていた。
 特にミレイさんは、テーブルや椅子の手触りや座り心地を確認していた。

「フェアリーノーム様の作り出す生地は繊細と聞いています。手触りも滑らかで素晴らしいと思います。家具も一流というほかありませんね……」
 どうやら椅子やテーブルにこだわりがあるようだ。

「私たちは人々よりはるかに長い年月を生きてきました。そのため音楽や工芸、建築、鍛冶など、ありとあらゆることに精通してしまったんです。元々神格があったので技術も向上しやすかったのですが、管理していた世界が崩壊した後は、自分たちですべてを用意しなければいけなかったのでさらに磨かれたように思います」
 シーラは淡々と過去のこと、現在のことを話してくれた。
 フェアリーノームにも色々な過去があるものだ。

「シーラの言う通りです。私たちは創造神ではなかったので、生み出す力である創造の力は限定的な物しか使えません。ですので、どうにかこうにかして世界を用意して世界を育て、資源を集めて来たという過去があります」
 ミレはさらに情報を補足する。
 世界を育てるということは、おそらく地球数十億年の歴史と同じくらいの年月を共にしたということなのだろう。
 
 今いる新世界は、それらを省いて時間を大幅に加速させることで、人々が暮らせる状態にまで安定させることができている。
 宇宙は太陽系と同じものだし、月と地球の関係も同じものを使っている。
 まぁこの辺りはだいぶデフォルト設定みたいなものでやったので、ゲーム感覚だったのは言うまでもないことだが……。

「シーラちゃん、次いこう」
 何やらワクワクした様子でミカがシーラをせっついている。

「あ、は、はい。では次は医療区画をご案内します」
 ミカの要望に従い、シーラは西側の扉に向かって歩いて行った。

「ええっと、こちらは医療区画です。いずれは色々な機器が導入される予定ですが、現在はポーション治療や調薬による治療が主になっています」
 シーラの案内を聞きながら周囲を見ると、様々な部屋があることが分かった。
 壁は清潔感のある白で統一され、ところどころ水色のカーテンなどが配置されていたりして、落ち着いた空間が演出されている。
 そんな中、それぞれの部屋に貼ってある張り紙が気になった。

『注意! ここにはご主人の世界からの機械を導入する予定です! 高度医療については後程案内します。byミカ』

 ミカさん、めちゃめちゃやる気満々でした。
 いくらするんだろう、怖いなぁ……。
 あ、そうなると発電設備も考えないといけないのか……。
 なんだかまだまだ課題山積みのような気がしてきたぞ……。
 
「お待ちしております、ご主人!!」
「私もお願いします~。ご主人様~」
 なんと、ミカだけでなくミナにもそう言われてしまった。
 あとでお母さんに相談します……。

「あ、は、はい……。ところで、発電設備も欲しかったり……?」
「当然です!!」
「で、ですよね~……」
 ちょっとまって? 発電設備なんてどうしたらいいのさ?
 ま、まぁそこはおいおい考えておこう……。

「なんだか落ち着く空間ですね。白い治療院といえば、神殿の治療院を思い出します。広さも扱っているものも全然違いますが」
 ミレイさんは何か感じ入るものがあるようだ。

「精霊系列の素材は私にお任せください。医療区画の補助もできますので」
 ミリアムさんが率先して立候補してくれた。
 そういえばミリアムさんは精霊の肉体を作る仕事もしているんだっけ。
 それもあってか、この手のことにはすごい情熱を見せている気がする。

「実は研究所と連動してホムンクルスの整備なども行う予定だったんです」
 なるほど、まるでどこかの実験施設みたいな感じだけど、各研究所と医療区画は色々と関わっているようだ。
 研究所が運営している病院か、はたまた病院に付属している研究所か。
 これはどっちになるのだろうか。

「遥お姉様」
「どうしました?」
 不意に瑞歌さんが話しかけて来た。

「発電関連は研究所に尋ねてみてはどうでしょう」
「あ」
 ちょっと前のことだったのに、少し忘れていた。
 そういえば教授率いる研究所がやってくるんだっけか。
 なら後で相談してみよう。

「きょ、教授……」
 今まであっちこっち見て楽しそうにしていた瑞葉が急に大人しくなってしまった。

「もしかして怖い目に遭いました?」
「は、はい……。まだ丸い玉の時に、無理矢理力を引き出されて……」
 恐る恐るボクにそう話してくれた。
 まだ人体実験じゃないだけましと思うべきなのだろうか……。

「大丈夫です。みんなボクの眷属なので、ちゃんと守りますよ」
 ボクはそう言うと、瑞葉の頭をそっと撫でた。

「えへへ。お母様。お母様」
 猫のようにじゃれついてくる瑞葉。
 うん、かわいい。
 ボクはそう思うのだった。
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