上 下
13 / 15

第13話 鬼来りて狐に会う

しおりを挟む
 お団子を堪能していた時、外から急に「鬼様が来たぞー!!」という大声が聞こえてきました。
 何やらみんなバタバタしながら外に出て跪いている様子。
 お店の人や中にいた鬼人族も急いで外に向かっています。
 そんな中、香菜(かな)さんだけは素知らぬ顔。

「香菜さんはいいんですか?」
 
 村のみんなとは違ってゆっくりお団子を頬張る香菜さんを見ながら一言。
 でも香菜さんは気にしていない様子で「お狐様がいるのですから問題ありません」とだけ返してきました。

「まぁいいですけどね。でも皆さん行ってしまったんですね」

 誰もいなくなった店内を見回しながら私がそう言うと簡単に理由を教えてもらうことができた。

「元々は鬼族が鬼人を生み、住まわせたのがこの村の始まりです。ですので少なくとも鬼人族は鬼族が来れば歓迎しますし崇拝もしますよ。まぁ物珍しさもあるでしょうけど」
「なるほど。それで狐人族は?」
「狐人は鬼族や鬼人族に恩義がありますので出来る範囲では手助けしますし、鬼族の歓待もします。でもやはりといいますか、ルーツは雛菊ちゃん妖狐族たちですから鬼人族ほど鬼族を優先したりはしません」
「ふむふむ」

 ちなみにこの世界には妖狐は存在していない。
 後天的に生まれることはあるけど、成り立ちが違うせいで鬼族とは違って自然に生まれることはなかったようです。
 もしかすると香菜さんが第一号の妖狐になる可能性はありますけどね。
 転生者ということもあるし、私のことも知っている友達でもありますので。

「おう、ここか!? でっけえ妖気を感じたから来てみたぜ!!」

 私たちがのんびり話していると、突然扉が大きな音を立てて開かれた。
 そして威勢の良い声を共に入ってきたのは角を生やした私より少し背の高そうな長い黒髪の美しく可愛らしい女の子でした。
 
「鬼姫様、いくらなんでも突然そういうことをされては……」
「あぁん? いいだろ? オレたちのルーツでもある妖狐を見に来たんだからよ。にしても思っていたよりちっちゃいな」
「誰だか知りませんけど、初対面でいきなりちっちゃいとか言わないでくれませんか?」
「あぁ、わりぃわりぃ。オレも小さいほうだけどさらに小さくてついな」
「ぬぅ~……」

 村人さんに苦言を呈されても気にせず、私の文句も目の前の鬼の少女は全く意に介していない様子。
 さすが鬼族、なかなか傲慢ですね。
 それにしてもこの鬼の少女、私の世界の鬼よりは若干劣るものの十分な強さを宿していますね。
 鬼はどうあれ鬼ということですか。

「お前、思っていたよりもずっとつええのな。オレよりも上の力を感じるぜ?」

 私の前に立った鬼の少女は私を見ながらたった一言それだけを口にしました。
 彼女が何を考えているかはわかりませんが、内包した妖力を見てそう感じた様子。

「私の知っている鬼ほどじゃないですが、それに近いくらいの力を感じていますよ。この世界の鬼族の中でも一番強いのではないでしょうか」
「お? わかるか? そうなんだよ!! いやぁ、分かってくれてマジでうれしいわ」

 鬼の少女は私の言葉が心底嬉しかった様子で、ただでさえ可愛らしい顔に笑顔の花を咲かせています。
 なるほど、属性に属性を追加できるのですか。
 それにしても、この世界で『マジ』という言葉を聞くとは思いませんでした。
 もしかして翻訳か何かの影響でしょうか?

「まぁそのせいで嫁の貰い手はないだろうって親父に言われちまってんだけどよ」
「は、はぁ……」

 気易く私の背中を軽く叩きながらそう話してきますが、毛ほども興味ない話題なんですけど……。
 伝わりませんよね。

「んだよ、オレの話がつまらねえってのか?」

 鬼の少女がそう口にした瞬間、しゅういでみていた人々の間にざわめきが走った。
 ついでに誰かが「ヒッ」という悲鳴を漏らしたので誰かしら妖気に当てられてしまったんだと思います。

「そうですよ。もっと面白い話をしてください。そもそも貴女が嫁に行く行かないは関係ありませんし」
「だよなぁ~……。オレもそう思うわ」
「その辺りがどの鬼族もそうですけど問題なんですよ」

 一瞬試すような妖気が向けられたもののやり過ごした私は正直な気持ちを口にしました。
 鬼の少女の方も、一瞬面くらったような顔をしていましたが納得した様子。
 鬼の娶り問題って結構面倒くさいんですよね。
 だからできれば関わりたくないです。

「たしかにな~。うちの姉ちゃんの件もあるし。あれにはうんざりしたっけなぁ」
「なんでどの世界も同じようなやり方するんですかね」
「そうだよなぁ」
「「嫁入り前の腕試し試練」」

 どうやら私と鬼の少女の考えていること一致していたようです。

「え? 鬼族って腕試しするんですか?」

 と、何も知らない香菜さんが疑問を口にします。

「私より弱いやつには嫁がないっていって千人斬りとかやるんです。だから婚期が遅れに遅れるんですよ」
「そのくせ年下が早めに結婚するとやっかむんだから手に負えないぜ?」
「そ、そうなんですね……」

 私たちが口にする鬼族の事情を聞いた香菜さんはドン引きしていますが仕方ないでしょうね。

「だったらこの世界の西方世界はどうなんですか? 転生者とか勇者? みたいな強い人いるのでは?」

 東方世界でダメならば西方世界を狙うのはいかがでしょう。
 そう思って口にしましたが、たぶん駄目でしょうね。

「あー。そう思って昔行ったらしいんだけどどいつもこいつも弱いというか脆いらしくてなぁ。ちょっと捻っただけでぼろ雑巾のようになったって聞いた」
「鬼と言えば物理も魔法防御もつよつよなのでほとんど通りませんもんね。さらに攻撃を受けると相手の生命力と魔力を奪っていくっていうおまけつき」
「よく知ってんなぁ」
「知り合いと戦ったことありますしね」

 すでに私たちの世界の鬼とは戦ったことあるのでよくわかります。

「ふむふむ。やっぱいいな。顔もオレ好みだし」
「ん?」

 今、この鬼なんて言いました? 聞き間違えかな?

「いやなんでもねぇ」
「?」

 まぁそんな些細な話は置いておきましょう。
 私に会うのが目的ならもうこの鬼の少女の目標は達成できたのではないでしょうか。
 いつまでいるんでしょうね?

「そろそろ帰らないんですか?」
「あ? んでだよ? お前らの住処までついていくぞ?」
「は?」
「ご、ご主人様。落ち着いてください」

 私たちの住んでる場所までついてくるですと?

「理由」
「んなの決まってんだろ? お前が気に入ったからだ。あとその隣のちっこいの」
「あ、私ですか?」
 
 鬼の少女に指名されたラティスは小首を傾げながら問い返す。
 すると鬼の少女はじっとラティスを見てからこう言ったのだ。

「お前、なにもんだ? なんでなんもわかんねえんだ?」
 
 ラティスを見るその顔は心底不思議そうでした。
 
「ラティスは何と言えばいいかわかりませんね」
「ご主人様。それはひどいですよ」
「だって本当じゃないですか」

 ラティスは泣き顔ですが本当のことだから仕方ありません。

「そういえばラティス様って見た目普通の少女ですよね。神様でかつお狐様の従者だとは伺っていますが……」
「あ、え~っと……」

 そう問われたラティスは困ったように私の顔をちらちらと見てきます。
 なのでこくんと頷き許可を出しました。

「私たちはこの空の遠い向こう、宇宙と呼ばれるさらに先にあるエネルギーと光子、ダークマターを合わせて生み出された神造生命体なんです。なのでどの生命体とも一致しません」
「むむ?」

 それを聞いた鬼の少女はよくわからなそうに唸り、香菜さんに至ってはこんな言葉を口にするのでした。

「やっぱりSFじゃん!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉
ファンタジー
確かに転生したい転生したいとは常日頃から思っていましたよ。 なんていうかこの世界って僕には向いてないっていうか。 できれば剣とか魔法とかある世界に転生して、金髪碧眼巨乳美人のお母さんから母乳を与えられてみたいと思うのが成人男子の当然の願望だと思うのですがね。 周りを見回してみても巨乳のお母さんもいないですし、そもそも人がいないですしお寿司。 右には巨木。お父さんかな。 左には大木。お母さんっぽいな。 そして僕も木です。トレントです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...