上 下
76 / 94
所長代理編 第三話「暗殺騎士〈Lv999の騎士(ナイト)が、非合法職の暗殺者(アサシン)Lv1に強制ジョブチェンジ?!〉」

しおりを挟む
 平凡仙人はタブレットを使い、キシダの現在をみた。
 ところが、タブレットの画面は真っ白で、何も見えない。

「見えませんね」

「故障か?」

 その時、真っ白な空間から軽装の男が現れた。
 騎士フィリップとして転生した、キシダだ。必死の形相で、扉へ一直線に走っていく。

「あ、出てきた」

「白かったのは、白煙のせいだったのですね」

 キシダは扉を押し開け、建物から出ていく。
 白煙に巻き込まれた騎士達は、涙目で咳き込んでいる。キシダを追うどころではない。

『ゲホゲホッ! だ、誰か、彼を追いなさい!』

『ゴホッ! それどころじゃないですよ、団長!』

『ウェッウェッ! 何で、フィリップ隊長は平気なんだ?!』

「どうしてでしょうか?」

「暗殺者の特殊スキルだな。煙、毒、劇薬、腐った食べ物、その他もろもろの刺激物に強いんだ。反面、素早さ以外の基礎ステータスは低い」

「お詳しいのですね」

「騎士以外のジョブも、キシダの転生先の候補に入っていたからな。ついでに、目をとおしていた。もっとも、キシダは騎士一択だったが」

「逃げ延びられますかね?」

「さぁな。運だけは、固定値じゃないからな。ともあれ、アイツは人生トレーダーの被害者だろう。あんな顔して逃げるやつが、契約者なわけがない」

 平凡仙人はキシダのことを「専門家」に報告すると、彼のもとへとりっぷくんを向かわせた。


     ☆


 フィリップことキシダは、訳も分からないまま騎士団本部を飛び出した。

 どうやら、指先に収納されていた丸い物体は、煙玉だったらしい。
 煙玉とは、暗殺者が使う特殊アイテムだ。持っているだけで、取り締まりの対象になる、禁止アイテムでもある。

 なぜ、そんなものが指先に仕込まれていたのかは分からない。
 あるいは、ジョブが暗殺者に変わった瞬間、装備されたのかもしれない。ここはゲームの中の世界……普通じゃありえないことも、かんたんに起きてしまう。

 考えたいことは山のようにあったが、今は逃げることに集中した。

「ねぇ、君!」

 細い路地を通り抜けようとしたその時、路肩に停まっていた馬車から少女が声をかけてきた。
 道具屋か、荷台にはさまざまなアイテムが山となって積まれている。少女はくいっと親指で荷台を差した。

「乗って! 追われているんでしょ?」

「そうだが」

「だったら、早く! 私といっしょなら、この町から安全に出られるから!」

 警笛と、甲冑の音が近づく。
 キシダは覚悟を決め、荷台へ潜り込んだ。

 少女は猛スピードで馬を走らせ、町の関所へ急ぐ。
 キシダは放り出されないよう、荷台の端にしがみつく。不思議と、爆走する馬車を気に留める者はいなかった。

「おい! スピードを出しすぎじゃないか?!」

「大丈夫よ! 暗殺者特製の、気配遮断薬を使っているから!」

「それ、禁止薬じゃないか! 捕まるぞ!」

「あははっ! 何を、今さら! そこにある道具ぜぇーんぶ、禁止アイテムなんだけど?」

「なにッ?!」

 キシダは荷台に積まれた箱を開け、中身を確認する。
 少女の言ったとおり、箱の中身は全て禁止アイテムだった。危険な薬物や道具などが、これでもかと詰め込んである。

「いったい……君は何者なんだ?」

 少女は振り向き、ニッと笑った。

「闇商人よ。前は、普通の雑貨屋だったけど」


     ☆


 少女、トゥーラも転生者だった。
 「ファンタジー系雑貨のお店を開きたい」と願い、FFKの世界へ転生したが、ある日突然、闇商人に転職していたらしい。

「おかげで、雑貨屋は差し押さえ! 仕方なく、禁止アイテムの行商をしながら、元の職業に戻る方法を探しているの。まさか、君も被害者だったとはね」

 関所が近づいてくると、少女は馬を減速させた。関所を守っている衛兵に金をにぎらせ、町を出る。
 キシダは「騎士に戻ったら、覚えておけよ」と、荷台の中から衛兵たちを睨みつけた。

「他の転生者も同じ目に遭っているんだろうか?」

「あり得るねー。私の知り合いにも転生者が一人いるんだけど、そいつもいつのまにか非合法職に転職させられてたらしいよ」

 馬の体力にも限界はある。
 トゥーラは追っ手に見つからないよう、あえて深い森へ馬車を進めた。

 しばらく走っていると、ズンッと何かが荷台の屋根に落ちた。

「猿か鳥でも落ちたか?」

 キシダが顔を上げると、屋根の上から顔を出した、褐色肌の女性と目が合った。

「うわっ! 誰だ、お前は?!」

 褐色肌の女性も驚く。

「そっちこそ! トゥーラ、変な男が乗っているぞ!」

「知ってるー」

「誰が、変な男だ! お前こそ、騎士団の追っ手じゃないのか?!」

「騎士団だって?」

 褐色肌の女性は吹き出した。

「あははッ! オレは盗賊だぞ? 騎士団なんかに協力するわけねーって!」

 褐色肌の女性は屋根の上を転げ回り、ケラケラと笑う。
 かわりに、トゥーラが彼女を紹介した。

「その人がさっき言っていた転生者よ。名前は、ロビン。鑑定士から盗賊に転職させられちゃったの。雑貨屋の頃からの付き合いで、非合法職にさせられたときも、いっしょに街を出てきたのよ」

「そうだったのか。苦労したんだな」

 キシダが同情したのもつかの間、トゥーラはロビンのとんでもない秘密を暴露した。

「ちなみにその人、前世は男だから。今も、心は男のままだし。せいぜい、たかられないよう注意してね」

「……なんだと?」

 ロビンは怒りと羞恥で、顔を真っ赤にした。

「だぁーッ! 余計なこと教えんなって! 女神のやつが『どんな希望でも叶えられますよ』って言うから、ノリで『美女になってみたい』って口走っちまっただけなんだよ!」

「そのわりには、なじんでいるみたいだけどね?」

「うるせぇ!」

 ふと、ロビンは思い出したように、ポケットから何かを取り出し、トゥーラに見せた。

「そうだ、これ見てくれよ。森でひろったんだ」

「ん? どれどれ」

 キシダも荷台から顔を出し、それを見る。

 ロビンが見せていたのは、機械じかけの小鳥だった。コバルトブルーのボディで、足に「平凡」と書かれたタグをつけていた。

 トゥーラは小鳥を見て、眉をひそめた。

「タグの文字、漢字じゃない? 小鳥そのものは、よくあるオートマタっぽいけど……」

「本当は盗んできたんじゃないのか?」

「あのなぁ、この世界に漢字なんてないの! プレイヤーの名前もNPCも、全部カタカタかアルファベット! 漢字が存在していること自体が、おかしいんだって!」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界

緋色刹那
ファンタジー
・2022年9月30日に完結しました。 ・第一回次世代ファンタジーカップ参加作(お題「進化系ざまぁ」) (あらすじ) これは、相手を「ざまぁ」して〈ザマァ〉する物語……。 ごく普通の会社員、狭間(はざま)ヨシタケは、紆余曲折あって死亡し、勇者として異世界に転生する。 ただし彼が転生した世界は、相手をざまぁすることで攻撃魔法「ザマァ」が発動されるという特殊な世界だった。 さっそく伝説の勇者として、王様に紹介されたメンバーと共に旅立ったヨシタケだったが、早々にパーティメンバーの騎士、ザマスロットからザマァ闇討ちされ、戦闘不能に。これによりヨシタケは一方的に戦力外の烙印を押され、パーティから追放されてしまう。 教会で目覚めたヨシタケは治療費を稼ぐため、森へモンスター狩りに出かけるが、スライムの「ざまぁ」要素を見つけられず、苦戦する。 その後、流れ者の魔女、ザマァーリンに救出されたヨシタケは、彼女からこの世界での戦い方を学ぶことに。そして、新たな仲間と共に冒険の旅を再開する。 全ては、憎きザマスロットをざまぁして、〈ザマァ〉するために……。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...