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所長代理編 第三話「暗殺騎士〈Lv999の騎士(ナイト)が、非合法職の暗殺者(アサシン)Lv1に強制ジョブチェンジ?!〉」
⑵
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平凡仙人はタブレットを使い、キシダの現在をみた。
ところが、タブレットの画面は真っ白で、何も見えない。
「見えませんね」
「故障か?」
その時、真っ白な空間から軽装の男が現れた。
騎士フィリップとして転生した、キシダだ。必死の形相で、扉へ一直線に走っていく。
「あ、出てきた」
「白かったのは、白煙のせいだったのですね」
キシダは扉を押し開け、建物から出ていく。
白煙に巻き込まれた騎士達は、涙目で咳き込んでいる。キシダを追うどころではない。
『ゲホゲホッ! だ、誰か、彼を追いなさい!』
『ゴホッ! それどころじゃないですよ、団長!』
『ウェッウェッ! 何で、フィリップ隊長は平気なんだ?!』
「どうしてでしょうか?」
「暗殺者の特殊スキルだな。煙、毒、劇薬、腐った食べ物、その他もろもろの刺激物に強いんだ。反面、素早さ以外の基礎ステータスは低い」
「お詳しいのですね」
「騎士以外のジョブも、キシダの転生先の候補に入っていたからな。ついでに、目をとおしていた。もっとも、キシダは騎士一択だったが」
「逃げ延びられますかね?」
「さぁな。運だけは、固定値じゃないからな。ともあれ、アイツは人生トレーダーの被害者だろう。あんな顔して逃げるやつが、契約者なわけがない」
平凡仙人はキシダのことを「専門家」に報告すると、彼のもとへとりっぷくんを向かわせた。
☆
フィリップことキシダは、訳も分からないまま騎士団本部を飛び出した。
どうやら、指先に収納されていた丸い物体は、煙玉だったらしい。
煙玉とは、暗殺者が使う特殊アイテムだ。持っているだけで、取り締まりの対象になる、禁止アイテムでもある。
なぜ、そんなものが指先に仕込まれていたのかは分からない。
あるいは、ジョブが暗殺者に変わった瞬間、装備されたのかもしれない。ここはゲームの中の世界……普通じゃありえないことも、かんたんに起きてしまう。
考えたいことは山のようにあったが、今は逃げることに集中した。
「ねぇ、君!」
細い路地を通り抜けようとしたその時、路肩に停まっていた馬車から少女が声をかけてきた。
道具屋か、荷台にはさまざまなアイテムが山となって積まれている。少女はくいっと親指で荷台を差した。
「乗って! 追われているんでしょ?」
「そうだが」
「だったら、早く! 私といっしょなら、この町から安全に出られるから!」
警笛と、甲冑の音が近づく。
キシダは覚悟を決め、荷台へ潜り込んだ。
少女は猛スピードで馬を走らせ、町の関所へ急ぐ。
キシダは放り出されないよう、荷台の端にしがみつく。不思議と、爆走する馬車を気に留める者はいなかった。
「おい! スピードを出しすぎじゃないか?!」
「大丈夫よ! 暗殺者特製の、気配遮断薬を使っているから!」
「それ、禁止薬じゃないか! 捕まるぞ!」
「あははっ! 何を、今さら! そこにある道具ぜぇーんぶ、禁止アイテムなんだけど?」
「なにッ?!」
キシダは荷台に積まれた箱を開け、中身を確認する。
少女の言ったとおり、箱の中身は全て禁止アイテムだった。危険な薬物や道具などが、これでもかと詰め込んである。
「いったい……君は何者なんだ?」
少女は振り向き、ニッと笑った。
「闇商人よ。前は、普通の雑貨屋だったけど」
☆
少女、トゥーラも転生者だった。
「ファンタジー系雑貨のお店を開きたい」と願い、FFKの世界へ転生したが、ある日突然、闇商人に転職していたらしい。
「おかげで、雑貨屋は差し押さえ! 仕方なく、禁止アイテムの行商をしながら、元の職業に戻る方法を探しているの。まさか、君も被害者だったとはね」
関所が近づいてくると、少女は馬を減速させた。関所を守っている衛兵に金をにぎらせ、町を出る。
キシダは「騎士に戻ったら、覚えておけよ」と、荷台の中から衛兵たちを睨みつけた。
「他の転生者も同じ目に遭っているんだろうか?」
「あり得るねー。私の知り合いにも転生者が一人いるんだけど、そいつもいつのまにか非合法職に転職させられてたらしいよ」
馬の体力にも限界はある。
トゥーラは追っ手に見つからないよう、あえて深い森へ馬車を進めた。
しばらく走っていると、ズンッと何かが荷台の屋根に落ちた。
「猿か鳥でも落ちたか?」
キシダが顔を上げると、屋根の上から顔を出した、褐色肌の女性と目が合った。
「うわっ! 誰だ、お前は?!」
褐色肌の女性も驚く。
「そっちこそ! トゥーラ、変な男が乗っているぞ!」
「知ってるー」
「誰が、変な男だ! お前こそ、騎士団の追っ手じゃないのか?!」
「騎士団だって?」
褐色肌の女性は吹き出した。
「あははッ! オレは盗賊だぞ? 騎士団なんかに協力するわけねーって!」
褐色肌の女性は屋根の上を転げ回り、ケラケラと笑う。
かわりに、トゥーラが彼女を紹介した。
「その人がさっき言っていた転生者よ。名前は、ロビン。鑑定士から盗賊に転職させられちゃったの。雑貨屋の頃からの付き合いで、非合法職にさせられたときも、いっしょに街を出てきたのよ」
「そうだったのか。苦労したんだな」
キシダが同情したのもつかの間、トゥーラはロビンのとんでもない秘密を暴露した。
「ちなみにその人、前世は男だから。今も、心は男のままだし。せいぜい、たかられないよう注意してね」
「……なんだと?」
ロビンは怒りと羞恥で、顔を真っ赤にした。
「だぁーッ! 余計なこと教えんなって! 女神のやつが『どんな希望でも叶えられますよ』って言うから、ノリで『美女になってみたい』って口走っちまっただけなんだよ!」
「そのわりには、なじんでいるみたいだけどね?」
「うるせぇ!」
ふと、ロビンは思い出したように、ポケットから何かを取り出し、トゥーラに見せた。
「そうだ、これ見てくれよ。森でひろったんだ」
「ん? どれどれ」
キシダも荷台から顔を出し、それを見る。
ロビンが見せていたのは、機械じかけの小鳥だった。コバルトブルーのボディで、足に「平凡」と書かれたタグをつけていた。
トゥーラは小鳥を見て、眉をひそめた。
「タグの文字、漢字じゃない? 小鳥そのものは、よくあるオートマタっぽいけど……」
「本当は盗んできたんじゃないのか?」
「あのなぁ、この世界に漢字なんてないの! プレイヤーの名前もNPCも、全部カタカタかアルファベット! 漢字が存在していること自体が、おかしいんだって!」
ところが、タブレットの画面は真っ白で、何も見えない。
「見えませんね」
「故障か?」
その時、真っ白な空間から軽装の男が現れた。
騎士フィリップとして転生した、キシダだ。必死の形相で、扉へ一直線に走っていく。
「あ、出てきた」
「白かったのは、白煙のせいだったのですね」
キシダは扉を押し開け、建物から出ていく。
白煙に巻き込まれた騎士達は、涙目で咳き込んでいる。キシダを追うどころではない。
『ゲホゲホッ! だ、誰か、彼を追いなさい!』
『ゴホッ! それどころじゃないですよ、団長!』
『ウェッウェッ! 何で、フィリップ隊長は平気なんだ?!』
「どうしてでしょうか?」
「暗殺者の特殊スキルだな。煙、毒、劇薬、腐った食べ物、その他もろもろの刺激物に強いんだ。反面、素早さ以外の基礎ステータスは低い」
「お詳しいのですね」
「騎士以外のジョブも、キシダの転生先の候補に入っていたからな。ついでに、目をとおしていた。もっとも、キシダは騎士一択だったが」
「逃げ延びられますかね?」
「さぁな。運だけは、固定値じゃないからな。ともあれ、アイツは人生トレーダーの被害者だろう。あんな顔して逃げるやつが、契約者なわけがない」
平凡仙人はキシダのことを「専門家」に報告すると、彼のもとへとりっぷくんを向かわせた。
☆
フィリップことキシダは、訳も分からないまま騎士団本部を飛び出した。
どうやら、指先に収納されていた丸い物体は、煙玉だったらしい。
煙玉とは、暗殺者が使う特殊アイテムだ。持っているだけで、取り締まりの対象になる、禁止アイテムでもある。
なぜ、そんなものが指先に仕込まれていたのかは分からない。
あるいは、ジョブが暗殺者に変わった瞬間、装備されたのかもしれない。ここはゲームの中の世界……普通じゃありえないことも、かんたんに起きてしまう。
考えたいことは山のようにあったが、今は逃げることに集中した。
「ねぇ、君!」
細い路地を通り抜けようとしたその時、路肩に停まっていた馬車から少女が声をかけてきた。
道具屋か、荷台にはさまざまなアイテムが山となって積まれている。少女はくいっと親指で荷台を差した。
「乗って! 追われているんでしょ?」
「そうだが」
「だったら、早く! 私といっしょなら、この町から安全に出られるから!」
警笛と、甲冑の音が近づく。
キシダは覚悟を決め、荷台へ潜り込んだ。
少女は猛スピードで馬を走らせ、町の関所へ急ぐ。
キシダは放り出されないよう、荷台の端にしがみつく。不思議と、爆走する馬車を気に留める者はいなかった。
「おい! スピードを出しすぎじゃないか?!」
「大丈夫よ! 暗殺者特製の、気配遮断薬を使っているから!」
「それ、禁止薬じゃないか! 捕まるぞ!」
「あははっ! 何を、今さら! そこにある道具ぜぇーんぶ、禁止アイテムなんだけど?」
「なにッ?!」
キシダは荷台に積まれた箱を開け、中身を確認する。
少女の言ったとおり、箱の中身は全て禁止アイテムだった。危険な薬物や道具などが、これでもかと詰め込んである。
「いったい……君は何者なんだ?」
少女は振り向き、ニッと笑った。
「闇商人よ。前は、普通の雑貨屋だったけど」
☆
少女、トゥーラも転生者だった。
「ファンタジー系雑貨のお店を開きたい」と願い、FFKの世界へ転生したが、ある日突然、闇商人に転職していたらしい。
「おかげで、雑貨屋は差し押さえ! 仕方なく、禁止アイテムの行商をしながら、元の職業に戻る方法を探しているの。まさか、君も被害者だったとはね」
関所が近づいてくると、少女は馬を減速させた。関所を守っている衛兵に金をにぎらせ、町を出る。
キシダは「騎士に戻ったら、覚えておけよ」と、荷台の中から衛兵たちを睨みつけた。
「他の転生者も同じ目に遭っているんだろうか?」
「あり得るねー。私の知り合いにも転生者が一人いるんだけど、そいつもいつのまにか非合法職に転職させられてたらしいよ」
馬の体力にも限界はある。
トゥーラは追っ手に見つからないよう、あえて深い森へ馬車を進めた。
しばらく走っていると、ズンッと何かが荷台の屋根に落ちた。
「猿か鳥でも落ちたか?」
キシダが顔を上げると、屋根の上から顔を出した、褐色肌の女性と目が合った。
「うわっ! 誰だ、お前は?!」
褐色肌の女性も驚く。
「そっちこそ! トゥーラ、変な男が乗っているぞ!」
「知ってるー」
「誰が、変な男だ! お前こそ、騎士団の追っ手じゃないのか?!」
「騎士団だって?」
褐色肌の女性は吹き出した。
「あははッ! オレは盗賊だぞ? 騎士団なんかに協力するわけねーって!」
褐色肌の女性は屋根の上を転げ回り、ケラケラと笑う。
かわりに、トゥーラが彼女を紹介した。
「その人がさっき言っていた転生者よ。名前は、ロビン。鑑定士から盗賊に転職させられちゃったの。雑貨屋の頃からの付き合いで、非合法職にさせられたときも、いっしょに街を出てきたのよ」
「そうだったのか。苦労したんだな」
キシダが同情したのもつかの間、トゥーラはロビンのとんでもない秘密を暴露した。
「ちなみにその人、前世は男だから。今も、心は男のままだし。せいぜい、たかられないよう注意してね」
「……なんだと?」
ロビンは怒りと羞恥で、顔を真っ赤にした。
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