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所長代理編 第一話「黒猫タクシーと亡霊少年」
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「その未練とやらを絶ってやればいいんじゃないか? ああなった経緯を、あの子本人からきけばいい」
「うにゃあ……きいたけど、よく分からんにゃ」
「お前は幽霊になった瞬間を見てなかったのか?」
「うにゃにゃあ……オイラが着いた時にゃあ、もうああなってたにゃ」
黒猫タクシーの運転手、クロイは顔をしかめる。難しい話は苦手なのかもしれない。
ハデスがパソコンを壊したせいで、こちらからゴーシェのプロフィールを調べることはできない。
平凡仙人はクロイから情報をきき出すのはあきらめ、少年本人を呼び寄せた。
「おい、お前」
「わぁ! 鳥がしゃべった! 君、クロイのお友達?」
少年は目を輝かせ、とりっぷくんを抱きしめる。カメラがふさがれ、何も見えなくなる。
「落ち着け! 俺は話をききたいだけだ!」
「話?」
画面が元に戻る。
「あぁ。お前がどうして幽霊になったか、教えてくれないか?」
「って言われても、僕も気づいたらここにいたんだよね。あっ、僕ゴーシェっていうんだ。君は?」
「へい……とりっぷくんだ。覚えなくていい。それより、死ぬ前は何をしていた? この病院とどんな関係があるんだ?」
「入院してたんだよ。物心ついた時から、ずっと」
少年、ゴーシェは生まれつき重い病にかかっていた。
つい数日前までこの病室で入院していたが、遠方からはるばるやって来た名医と出会い、完治したのだという。
「初めて病院の外に出た瞬間は嬉しかったなぁ。今ならなんでもできるって思ってた。だけど少し歩いたところで、お馬さんに蹴られて死んじゃった。近くの馬小屋からだっそーしてたんだって」
一瞬、ゴーシェの姿が血だらけになる。体のあちこちが折れ、潰れ、凹んでいた。あれがゴーシェの最期の姿なのだろう。
幸い、すぐに元の姿に戻った。
「僕、死んじゃうくらいなら、いっそ病室から出なきゃ良かったって後悔した。そうしたら、いつにまにかここに戻ってたんだ」
「だからって、いつまでもここにいてもしょうがないぞ。成仏して転生すれば、また一から生きられる」
「でもさ……生まれ変わっても、また病気になるかもしれないじゃん。僕はクロイととりっぷくんがいる今が幸せだよ。それに、新しく来たあの子とも仲良くなりたい」
ゴーシェは逃げるように、少女のもとへ戻る。
風もないのにカーテンがひとりでに揺れたので、少女と看護師達は驚いていた。
「……アイツ、ずっとああにゃんだ。オイラが『ちょっと出かけよう』って誘っても、ついて来にゃい。よっぽど、すぐ死んだことがショックだったにゃんね」
クロイは冷めた目で見つめる。ゴーシェに対し、仕事以上の特別な感情を持っているのは明らかだった。
「お前、ゴーシェとどんな関係なんだ?」
「ただの猫と亡霊だにゃ」
「いや、どう見ても猫っぽい人間にしか見えんが。そうじゃなくてな、お前は個人的にアイツのことを知っているんじゃないか? アイツが死ぬ前……それどころか、この異世界へ来る前から」
「そんにゃこと、オイラには知らんにゃ。所長代理様の方が詳しいんじゃにゃいのかにゃ?」
「あいにく、どっかのバカ神にパソコンを壊されて、調べられねーんだよ」
「ニャッニャッニャッ! そりゃ、お気の毒にぃ!」
クロイはひとしきりニャッニャッと笑うと、黒猫タクシーの運転手になる前の話を語った。
「オイラは生きていた頃、本当に猫だったにゃん。親に捨てられ、瀕死だったオイラを、人間のゴシュジンが拾い、育ててくれたにゃん。だから、オイラはゴシュジンの魂を守るために、運転手になったんだにゃ。死んだ直後ほど、無防備な人間はいにゃいからにゃ」
クロイははっきりとは言わなかったが、ゴーシェが彼女のゴシュジンの生まれ変わりなのかもしれない。
だとすれば、彼女がここに留まり続けている理由にも納得がいく。見た目が人間に変わっているので、ゴーシェは気づいていないようだが、かつての恩人を幽霊のまま放置するなどできるはずもない。
「黒猫タクシー本部から、貴方に出動要請が入りました。隣の病室だそうです」
隣で、黒猫タクシーの本部と連絡を取り合っていたヘカテーが、とりっぷくんを通じてクロイに言った。
「俺が見張っててやる。行ってこいよ」
「断るにゃ。あと一回だし、いつアイツが運べるか運ばれるか分からにゃいからにゃ」
「あと一回? なんの数字だ、そりゃ」
クロイは黙り、ゴーシェを見つめたまま動こうとしない。
仕方なく、別の運転手に要請してもらい、とりっぷくんに様子を見に行かせた。
「うにゃあ……きいたけど、よく分からんにゃ」
「お前は幽霊になった瞬間を見てなかったのか?」
「うにゃにゃあ……オイラが着いた時にゃあ、もうああなってたにゃ」
黒猫タクシーの運転手、クロイは顔をしかめる。難しい話は苦手なのかもしれない。
ハデスがパソコンを壊したせいで、こちらからゴーシェのプロフィールを調べることはできない。
平凡仙人はクロイから情報をきき出すのはあきらめ、少年本人を呼び寄せた。
「おい、お前」
「わぁ! 鳥がしゃべった! 君、クロイのお友達?」
少年は目を輝かせ、とりっぷくんを抱きしめる。カメラがふさがれ、何も見えなくなる。
「落ち着け! 俺は話をききたいだけだ!」
「話?」
画面が元に戻る。
「あぁ。お前がどうして幽霊になったか、教えてくれないか?」
「って言われても、僕も気づいたらここにいたんだよね。あっ、僕ゴーシェっていうんだ。君は?」
「へい……とりっぷくんだ。覚えなくていい。それより、死ぬ前は何をしていた? この病院とどんな関係があるんだ?」
「入院してたんだよ。物心ついた時から、ずっと」
少年、ゴーシェは生まれつき重い病にかかっていた。
つい数日前までこの病室で入院していたが、遠方からはるばるやって来た名医と出会い、完治したのだという。
「初めて病院の外に出た瞬間は嬉しかったなぁ。今ならなんでもできるって思ってた。だけど少し歩いたところで、お馬さんに蹴られて死んじゃった。近くの馬小屋からだっそーしてたんだって」
一瞬、ゴーシェの姿が血だらけになる。体のあちこちが折れ、潰れ、凹んでいた。あれがゴーシェの最期の姿なのだろう。
幸い、すぐに元の姿に戻った。
「僕、死んじゃうくらいなら、いっそ病室から出なきゃ良かったって後悔した。そうしたら、いつにまにかここに戻ってたんだ」
「だからって、いつまでもここにいてもしょうがないぞ。成仏して転生すれば、また一から生きられる」
「でもさ……生まれ変わっても、また病気になるかもしれないじゃん。僕はクロイととりっぷくんがいる今が幸せだよ。それに、新しく来たあの子とも仲良くなりたい」
ゴーシェは逃げるように、少女のもとへ戻る。
風もないのにカーテンがひとりでに揺れたので、少女と看護師達は驚いていた。
「……アイツ、ずっとああにゃんだ。オイラが『ちょっと出かけよう』って誘っても、ついて来にゃい。よっぽど、すぐ死んだことがショックだったにゃんね」
クロイは冷めた目で見つめる。ゴーシェに対し、仕事以上の特別な感情を持っているのは明らかだった。
「お前、ゴーシェとどんな関係なんだ?」
「ただの猫と亡霊だにゃ」
「いや、どう見ても猫っぽい人間にしか見えんが。そうじゃなくてな、お前は個人的にアイツのことを知っているんじゃないか? アイツが死ぬ前……それどころか、この異世界へ来る前から」
「そんにゃこと、オイラには知らんにゃ。所長代理様の方が詳しいんじゃにゃいのかにゃ?」
「あいにく、どっかのバカ神にパソコンを壊されて、調べられねーんだよ」
「ニャッニャッニャッ! そりゃ、お気の毒にぃ!」
クロイはひとしきりニャッニャッと笑うと、黒猫タクシーの運転手になる前の話を語った。
「オイラは生きていた頃、本当に猫だったにゃん。親に捨てられ、瀕死だったオイラを、人間のゴシュジンが拾い、育ててくれたにゃん。だから、オイラはゴシュジンの魂を守るために、運転手になったんだにゃ。死んだ直後ほど、無防備な人間はいにゃいからにゃ」
クロイははっきりとは言わなかったが、ゴーシェが彼女のゴシュジンの生まれ変わりなのかもしれない。
だとすれば、彼女がここに留まり続けている理由にも納得がいく。見た目が人間に変わっているので、ゴーシェは気づいていないようだが、かつての恩人を幽霊のまま放置するなどできるはずもない。
「黒猫タクシー本部から、貴方に出動要請が入りました。隣の病室だそうです」
隣で、黒猫タクシーの本部と連絡を取り合っていたヘカテーが、とりっぷくんを通じてクロイに言った。
「俺が見張っててやる。行ってこいよ」
「断るにゃ。あと一回だし、いつアイツが運べるか運ばれるか分からにゃいからにゃ」
「あと一回? なんの数字だ、そりゃ」
クロイは黙り、ゴーシェを見つめたまま動こうとしない。
仕方なく、別の運転手に要請してもらい、とりっぷくんに様子を見に行かせた。
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