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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」

〈来世編〉④『エピローグ』

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 道中、ローゼリアはもう一人の復讐相手が気になっていた。
「そういえば、ハンドリューはカーネシアと会ってるんだったわよね? あの女、今どこにいるの?」
 ハンドリューは靴の中の湿りを気にしながら、サラッと答えた。
「俺の家だが?」
「え、同棲? もう一回、川に突き落としていい?」
 ローゼリアは嫉妬と怒りをむき出しに、ジリジリとハンドリューへ近づいた。
「違う、同棲じゃない」
「じゃあ、何よ! 同じ家に住んでるんでしょ?! だったら、同棲じゃないの!」
「見れば分かる」

 二人はハンドリューの実家でシャワーと着替えを済ませた後、家の近くにある馬小屋へ向かった。なお、ローゼリアの着替えはハンドリューの母親から借りた。
 馬小屋には十頭近くの馬がおり、思い思いに夜を過ごしていた。
「こいつがカーネシアだ」
「……」
 ハンドリューが紹介したのは、黒い毛の雌馬だった。
 雌馬はハンドリューを見つけると立ち上がり、柵越しに甘え始めた。反対に、ローゼリアには歯茎をむき出しにして威嚇した。
「……さすがに冗談よね?」
「自分の目で確かめればいい。持ってるんだろ、前世見通し眼」
「……」
 ローゼリアは半信半疑で右目の前でピースし、カーネシアを見た。
 すると、歴代のカーネシアの生まれ変わりが半透明に浮かび上がった。
「……私と同じように、前世カモフラージュを使ってるんじゃないの?」
「自分を馬に見せかける必要がどこにある?」
「……ないわねぇ」
 二人は知らない。カーネシアがハンドリューと結ばれたい一心で、転生を急いだことを。その結果、出産を間近に控えていた子馬に転生してしまったことを。
 ローゼリアはカーネシアがなぜ馬に転生したのか分からず、ただただ戸惑った。これでは復讐のしようがない。
「どんな転生を望んだら、馬になるのよ?」
「分からん。俺の知る限り、カーネシアが今までの人生で馬になりたがっていた気配はなかった。強いて挙げるなら、箱入り娘のわりに身体能力が異常に高かったことくらいか? 特に、脚力と身のこなしが競走馬並みだったな」
「平凡仙人が来たら、聞いてみようかしら。死んだら馬刺しにして食べるの?」
 カーネシアは「ブモッ?!」とショックを受けた様子で、驚く。
 今は馬だが、これまで通り人間の言葉を理解できているらしい。恐怖でプルプルと震え、助けを乞うようにハンドリューを見つめた。
 ハンドリューは「残念だが、」とカーネシアを撫でた。
「こいつは食用じゃないから食えないぞ」
「なーんだ」
「ブモッ……」
 ローゼリアは馬刺しが食べられないのを残念がり、カーネシアはホッと安堵した。

 次の休日。
 ローゼリアはカーネシアへの復讐として、彼女に跨り、森を散歩した。
「こいつ、俺以外の人間は一人で乗せないから」
 とハンドリューがローゼリアの後ろに乗り、手綱を握る。後ろからハンドリューに支えられる体勢になり、ローゼリアは密かにドキッとした。
 カーネシアはローゼリアが同伴すると分かり、歯茎を出して不服そうだったが、歩き出すと散歩が楽しいのか、ステップを踏むように軽やかに進んだ。
 森は紅葉し、絶えず落ち葉がヒラヒラと舞う。地面に積もった大量の葉が、舗装されていない土の道を鮮やかに彩った。
「キレイね……」
「あぁ……そうだな」
 ローゼリアは紅葉した森を、ハンドリューは森を眺めているローゼリアを見て、言う。
 ふと、ローゼリアはハンドリューの視線に気づき、振り返った。この世界で再会した時と同じように、顔をしかめる。
「何?」
「いや、森を見ているお前も美しいと思ってな」
「……ちゃんと前見て、操縦してくれます?」
「カーネシアが見ているから問題ない」
「そうだった。この馬、元人間なんだったわ」
「そうそう」
 ハンドリューは穏やかに微笑んだ。今までの彼のような、見ていると不安になる笑顔ではなく、安心できる笑顔だった。
 ローゼリアは思わずドキッとし、ハンドリューに気づかれないよう前へ向き直った。
「ところで、これでカーネシアへの復讐も済んだわけだが、今後はどうするんだ?」
「どうって?」
「俺と交際してくれるのか? と聞いている」
「えっ、今?」
「ブモォォォッ?!」
 瞬間、カーネシアは「はぁぁぁっ?!」と言わんばかりにいななき、全速力で駆け出した。
「ちょ?! まッ、てぇッ!」
「カーネシア、落ち着け!」
 そのまま、森を直進する。
 カーネシアは森の入口まで戻ってくると、急に立ち止まった。反動で、ローゼリアとハンドリューはかき集められた落ち葉の山へと投げ出された。
「うぁッ?!」
「あンの、じゃじゃ馬……!」
「ブモッ! ブモーッ!」
 どうやら、好みの雄馬が馬小屋から出てきたらしい。カーネシアは二人を置き去りにして走り去った。
「……」
「……」
 二人はカーネシアを追いかける気力もなく、落ち葉の山の上で倒れたまま動かない。
 やがて、どちらからともなく吹き出した。
「あははッ! カーネシアったら、相変わらずハンドリューが大好きなのね!」
「ふははッ! まったく、困ったやつだ! 馬になっても、俺の邪魔するとはな!」
 しばらく笑い合ったのち、ローゼリアは「いいわよ」と、先程のハンドリューの質問に答えた。
「貴方がクズに戻らないか、そばで見張っていてあげる。今まで私を傷つけた分、存分に奉仕しなさい?」
「……ありがとう。大切にする」
 ハンドリューはそっと優しくローゼリアを抱きしめると、夜景が見える川辺でし損なったキスをした。

 END②「いい加減、俺を好きになれよ〈改心したクズデレ婚約破棄王子に愛され過ぎて困っているんですが?!〉完結」

(幕間へ続く)
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