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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」
〈婚約破棄王子ハンドリュー編〉プロローグ
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「ハンドリュー王子! ローゼリア様が何者かの手によって、暗殺されました!」
「……なに?」
その日、王宮で公務をこなしていたハンドリューのもとへ、ローゼリア暗殺の報がもたらされた。速達の伝令で、ローゼリアが死亡してから二時間ほど経った頃のことだった。
ハンドリューは書類とペンを放り投げ、頭の中で犯人探しを始めた。ローゼリアが死んだのでは、もはやこの世界に用はない。
「死因は?」
「ナイフによる刺殺です。大きな声では言えませんが、王家の紋章が彫られたナイフが凶器に使われたそうです」
「ほう?」
ハンドリューは興味深そうに目を細めた。
ローゼリアが追放された国は遠く、どんなに急いでも、馬で片道二、三日はかかる。王家の紋章が彫られたナイフが凶器であることから、現在城にいない者が怪しいとハンドリューは予想した。
「ナイフを所持している人間で、現在不在の者は?」
「数名おります。隣国へ遠征中のハンドラー叔父様と弟君のレフィ様、一ヶ月前から諸国を外遊されていらっしゃるネルトシア叔母様、先日嫁がれた妹君のライティ様、そしてご病気で療養中の先代国王ハンデオン様です。いずれの方々も犯行が行なわれた時刻のアリバイがございます」
「カーネシアはどうだ?」
「カーネシア様、ですか?」
臣下は目を丸くした。
当然だろう。婚約者だったローゼリアを追放してまで「結ばれたい」と望んだ相手を、名指しで疑っているのだから。
臣下は戸惑いながらも答えた。
「カーネシア様はずっと王宮におられましたよ。庭を散策されたり、お部屋で本を読まれたり」
「それを証明する者は?」
「王宮中の人間です。誰かは必ず、カーネシア様のお姿を目撃しているはずです。私も何度かお見かけしました」
「部屋で読書していた時もか?」
「四六時中ではありませんが、女中が何度かお茶を運びに行ったそうです。その際は必ずドアをお開けになっていましたよ。まさか、カーネシア様を疑っていらっしゃるのですか?」
「……さて、どうだろうな?」
ハンドリューは答えを濁した。
アリバイは完璧。しかし完璧過ぎるがゆえに、疑わしかった。
どの世界に転生しても、カーネシアが現れた途端にローゼリアは死ぬ。いずれも暗殺で、犯人は分からないままだった。
(まさか、あいつが? いったい何のために?)
考えても仕方がない。
ハンドリューは今回も犯人探しを諦めることにした。
「新たに分かったことがあったら報告しろ。下がれ」
「はッ」
臣下が部屋を出て行く。
入れ替わりに、カーネシアが息を切らして駆け込んできた。
「ハンドリュー様! 良かった、ご無事で!」
「カーネシア、何をそんなに慌てているんだ?」
ハンドリューは紅茶に砂糖をたっぷり注ぎ、飲み干す。
カーネシアは安堵した様子で、ハンドリューに抱きついた。
「私、心配だったんです! ローゼリアさんが殺されたって聞いて、ハンドリュー様も命を狙われているんじゃないかって、不安で……」
「そうか」
ハンドリューはガフッと血を吐いた。今しがた紅茶に入れた砂糖に、毒を混ぜておいたのだ。
カーネシアはハンドリューが吐血したのを見て、悲鳴を上げた。
「キャーッ! 誰かぁーッ!」
カーネシアの悲鳴を聞きつけ、無数の足音が近づいてくる。
ハンドリューは彼らの到着を待たずして、息絶えた。
(ローゼリアめ……また勝手に死にやがって。次こそは、俺の試練に耐えてくれよ?)
「……なに?」
その日、王宮で公務をこなしていたハンドリューのもとへ、ローゼリア暗殺の報がもたらされた。速達の伝令で、ローゼリアが死亡してから二時間ほど経った頃のことだった。
ハンドリューは書類とペンを放り投げ、頭の中で犯人探しを始めた。ローゼリアが死んだのでは、もはやこの世界に用はない。
「死因は?」
「ナイフによる刺殺です。大きな声では言えませんが、王家の紋章が彫られたナイフが凶器に使われたそうです」
「ほう?」
ハンドリューは興味深そうに目を細めた。
ローゼリアが追放された国は遠く、どんなに急いでも、馬で片道二、三日はかかる。王家の紋章が彫られたナイフが凶器であることから、現在城にいない者が怪しいとハンドリューは予想した。
「ナイフを所持している人間で、現在不在の者は?」
「数名おります。隣国へ遠征中のハンドラー叔父様と弟君のレフィ様、一ヶ月前から諸国を外遊されていらっしゃるネルトシア叔母様、先日嫁がれた妹君のライティ様、そしてご病気で療養中の先代国王ハンデオン様です。いずれの方々も犯行が行なわれた時刻のアリバイがございます」
「カーネシアはどうだ?」
「カーネシア様、ですか?」
臣下は目を丸くした。
当然だろう。婚約者だったローゼリアを追放してまで「結ばれたい」と望んだ相手を、名指しで疑っているのだから。
臣下は戸惑いながらも答えた。
「カーネシア様はずっと王宮におられましたよ。庭を散策されたり、お部屋で本を読まれたり」
「それを証明する者は?」
「王宮中の人間です。誰かは必ず、カーネシア様のお姿を目撃しているはずです。私も何度かお見かけしました」
「部屋で読書していた時もか?」
「四六時中ではありませんが、女中が何度かお茶を運びに行ったそうです。その際は必ずドアをお開けになっていましたよ。まさか、カーネシア様を疑っていらっしゃるのですか?」
「……さて、どうだろうな?」
ハンドリューは答えを濁した。
アリバイは完璧。しかし完璧過ぎるがゆえに、疑わしかった。
どの世界に転生しても、カーネシアが現れた途端にローゼリアは死ぬ。いずれも暗殺で、犯人は分からないままだった。
(まさか、あいつが? いったい何のために?)
考えても仕方がない。
ハンドリューは今回も犯人探しを諦めることにした。
「新たに分かったことがあったら報告しろ。下がれ」
「はッ」
臣下が部屋を出て行く。
入れ替わりに、カーネシアが息を切らして駆け込んできた。
「ハンドリュー様! 良かった、ご無事で!」
「カーネシア、何をそんなに慌てているんだ?」
ハンドリューは紅茶に砂糖をたっぷり注ぎ、飲み干す。
カーネシアは安堵した様子で、ハンドリューに抱きついた。
「私、心配だったんです! ローゼリアさんが殺されたって聞いて、ハンドリュー様も命を狙われているんじゃないかって、不安で……」
「そうか」
ハンドリューはガフッと血を吐いた。今しがた紅茶に入れた砂糖に、毒を混ぜておいたのだ。
カーネシアはハンドリューが吐血したのを見て、悲鳴を上げた。
「キャーッ! 誰かぁーッ!」
カーネシアの悲鳴を聞きつけ、無数の足音が近づいてくる。
ハンドリューは彼らの到着を待たずして、息絶えた。
(ローゼリアめ……また勝手に死にやがって。次こそは、俺の試練に耐えてくれよ?)
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