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第五話「いい加減、私を好きになりなさいよ!」
〈悪役令嬢ローゼリア編〉斡旋所(後編)
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普通のアニメなら、ここで話は終わる。
だが、映像には続きがあった。死んだはずのローゼリアが、女神と事務所で向かい合っている絵が映し出されたのだ。
「ローゼリア様は死後、この事務所へ来ました。私はハンドリューと同じ世界に転生するか、別の世界へ転生するか尋ねましたが、ローゼリア様は"ハンドリュー様と同じ世界に転生したい"と望みました。彼女は無実の罪を着せられてなお、ハンドリューを愛していたのです」
『次はもっと努力して、必ずハンドリュー様と結ばれてみせます!』
アニメのローゼリアは希望に満ちた表情で微笑み、コウノトリタクシーに乗って転生していった。
次のシーンでも、ローゼリアと女神は事務所で向かい合っていた。だが、明らかに様子が違った。
構図こそ同じだが、ローゼリアの表情は荒んでいた。まるで世紀末を駆け抜けたような、あるいは戦乱の世を生き抜いてきたような、険しい表情をしていた。険しすぎて、もはや別人だった。
絵のタッチも、少女漫画から劇画に変わっている。音楽も、血が煮えたぎるようなメタルロック調の曲に変わっていた。
「その後、ローゼリア様はアンドリューと結ばれようと転生を繰り返しました。しかし何度転生しても、どれほどいい女になっても、アンドリューはカーネシアを選んでしまいます。あれほどまでにアンドリューへの愛に溢れていたローゼリアも、遂には愛想が尽きてしまいました。それどころか裏切り者のアンドリューを憎むようになり、彼への復讐のためだけに生きるようになってしまったのです」
『我は"あの世から舞い戻りし復讐者"。ヤツに復讐を遂げるまで、この人生……いくらでもくれてやるわァッ!』
「中の人変わってないか?」
セリフどころか、声まで渋くなったローゼリアに、平凡仙人は困惑した。
「カッコいいでしょう? 私の声を加工して作りました。えっへん!」
「本人には見せるなよ。絶対に怒られるから」
「はい! 怒られました!」
「手遅れだったか」
要約すると、ローゼリアは一向に振り向いてくれないアンドリューへの復讐のため、記憶を保持したまま転生を繰り返しているとのことだった。
ローゼリアは自分を殺しているのはアンドリューだと考えているらしく、それもあって恨みを募らせていた。
「にしても、ずいぶん凝った漫画だったな。お前が一人で作ったのか?」
「いえいえ、ハデス様と分担して作りました。私が企画発案と声優、原作がローゼリア様、ハデス様が脚本と作画と動画編集とその他諸々を担当してくださいました」
「ほぼハデスが作ってんじゃねぇか」
「息抜きがしたいとおっしゃっていたので頼んでみました。今も百作ほど同時進行してらっしゃるはずですよ」
「すっげぇ嫌がらせだな……」
「うふふっ。ざまぁみろです」
女神は満足気に笑った。
そのうちの何作かはどこかの世界のどこかの漫画サイトに流出し、「異世界転生ものの漫画作品」として親しまれていたのだが……女神も平凡仙人もハデスでさえ、そのことに気づいていなかった。
「かなりポイントを使っているのに、毎回殺されるってひどくないか?」
「それがあの方の運命ですからねぇ。私にはどうすることも出来ません。ローゼリア様がしている行為は、バッドエンドにしか行かないルートでトゥルーエンドに行こうとしているようなもの……本当に幸せになりたいのなら、復讐なんて諦めればいいんですよ」
「……私には、か」
平凡仙人はお抹茶と和菓子を平らげると「ちょっと行ってくる」と立ち上がった。
「ローゼリア様のもとへですか?」
「そうだ」
「生者への過干渉は禁じられているはずですよ」
「別に手助けするつもりはないさ。ただ、知らず知らずのうちにデカいひとりごとをつぶやいて、それをあいつが聞いていた……ってパターンはあるかもしれないけどな」
そう言い残し、平凡仙人は斡旋所を出て行った。
「……変な人。赤の他人のために、どうして協力するのかしら? ローゼリア様が幸せになったところで、平凡仙人さんは人並みの幸せを得られないのに。人間って、ほんと意味不明だわ」
女神は平凡仙人に呆れ、お抹茶を啜った。
苦くて口に合わなかったのか、邪道にも牛乳と砂糖をこれでもかと投入し、飲み干した。
「うん、美味しい!」
だが、映像には続きがあった。死んだはずのローゼリアが、女神と事務所で向かい合っている絵が映し出されたのだ。
「ローゼリア様は死後、この事務所へ来ました。私はハンドリューと同じ世界に転生するか、別の世界へ転生するか尋ねましたが、ローゼリア様は"ハンドリュー様と同じ世界に転生したい"と望みました。彼女は無実の罪を着せられてなお、ハンドリューを愛していたのです」
『次はもっと努力して、必ずハンドリュー様と結ばれてみせます!』
アニメのローゼリアは希望に満ちた表情で微笑み、コウノトリタクシーに乗って転生していった。
次のシーンでも、ローゼリアと女神は事務所で向かい合っていた。だが、明らかに様子が違った。
構図こそ同じだが、ローゼリアの表情は荒んでいた。まるで世紀末を駆け抜けたような、あるいは戦乱の世を生き抜いてきたような、険しい表情をしていた。険しすぎて、もはや別人だった。
絵のタッチも、少女漫画から劇画に変わっている。音楽も、血が煮えたぎるようなメタルロック調の曲に変わっていた。
「その後、ローゼリア様はアンドリューと結ばれようと転生を繰り返しました。しかし何度転生しても、どれほどいい女になっても、アンドリューはカーネシアを選んでしまいます。あれほどまでにアンドリューへの愛に溢れていたローゼリアも、遂には愛想が尽きてしまいました。それどころか裏切り者のアンドリューを憎むようになり、彼への復讐のためだけに生きるようになってしまったのです」
『我は"あの世から舞い戻りし復讐者"。ヤツに復讐を遂げるまで、この人生……いくらでもくれてやるわァッ!』
「中の人変わってないか?」
セリフどころか、声まで渋くなったローゼリアに、平凡仙人は困惑した。
「カッコいいでしょう? 私の声を加工して作りました。えっへん!」
「本人には見せるなよ。絶対に怒られるから」
「はい! 怒られました!」
「手遅れだったか」
要約すると、ローゼリアは一向に振り向いてくれないアンドリューへの復讐のため、記憶を保持したまま転生を繰り返しているとのことだった。
ローゼリアは自分を殺しているのはアンドリューだと考えているらしく、それもあって恨みを募らせていた。
「にしても、ずいぶん凝った漫画だったな。お前が一人で作ったのか?」
「いえいえ、ハデス様と分担して作りました。私が企画発案と声優、原作がローゼリア様、ハデス様が脚本と作画と動画編集とその他諸々を担当してくださいました」
「ほぼハデスが作ってんじゃねぇか」
「息抜きがしたいとおっしゃっていたので頼んでみました。今も百作ほど同時進行してらっしゃるはずですよ」
「すっげぇ嫌がらせだな……」
「うふふっ。ざまぁみろです」
女神は満足気に笑った。
そのうちの何作かはどこかの世界のどこかの漫画サイトに流出し、「異世界転生ものの漫画作品」として親しまれていたのだが……女神も平凡仙人もハデスでさえ、そのことに気づいていなかった。
「かなりポイントを使っているのに、毎回殺されるってひどくないか?」
「それがあの方の運命ですからねぇ。私にはどうすることも出来ません。ローゼリア様がしている行為は、バッドエンドにしか行かないルートでトゥルーエンドに行こうとしているようなもの……本当に幸せになりたいのなら、復讐なんて諦めればいいんですよ」
「……私には、か」
平凡仙人はお抹茶と和菓子を平らげると「ちょっと行ってくる」と立ち上がった。
「ローゼリア様のもとへですか?」
「そうだ」
「生者への過干渉は禁じられているはずですよ」
「別に手助けするつもりはないさ。ただ、知らず知らずのうちにデカいひとりごとをつぶやいて、それをあいつが聞いていた……ってパターンはあるかもしれないけどな」
そう言い残し、平凡仙人は斡旋所を出て行った。
「……変な人。赤の他人のために、どうして協力するのかしら? ローゼリア様が幸せになったところで、平凡仙人さんは人並みの幸せを得られないのに。人間って、ほんと意味不明だわ」
女神は平凡仙人に呆れ、お抹茶を啜った。
苦くて口に合わなかったのか、邪道にも牛乳と砂糖をこれでもかと投入し、飲み干した。
「うん、美味しい!」
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