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第三話「俺達はいつも一緒!」

選択肢①『剛のプラン』後編

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 玲二と従汰が帰ってきたのは、夜遅くだった。二人は並んで歩き、楽しそうに談笑していた。
「玲二、従汰」
 二人の家の前で待っていた剛は彼らのもとへ駆け寄る。途端に二人の顔から笑みが消え、剛警戒するそぶりを見せた。
「何の用だ。家まで押しかけてきて……警察を呼ぶぞ」
「……二人とも、ごめん」
 剛は深々と頭を下げ、謝った。
「占い師から全部聞いたよ。俺が前世でお前達に酷いことをしたって。そのせいで命を落としたって……本当に、ごめん」
 もう親友になって欲しいなどとわがままを言うつもりはなかった。ただ許してくれればそれで良かった。
 しかし二人の剛に対する恨みは、剛の想像を遥かに超えていた。ふいに玲二が剛の頭を後ろからつかみ、顔面に向かって膝を打ちつけた。
「ぐッ?!」
「お前さ、自分がやったこと分かってる? 俺はお前のせいでまともに勉強する時間が取れなくて、小学校も、中学校も、高校も、大学も、志望校全部落ちたんだぞ? 就職だって、やっと内定もらった仕事だったのに、お前が無理矢理俺に酒を飲ませたせいで取り消しになってさ……。従汰だって、お前から受けた暴力がトラウマになって、肉体的にも精神的にも後遺症が残っていた。唯一の心の拠り所だったペットも、お前が隠れてチョコレートを食わせ続けていたせいで死んだんだ」
 玲二は剛の髪をつかみと、地面へ叩きつけた。剛は顔全体をぶつけ、痛みに悶える。
「い゛……ッ!」
 剛が顔を押さえ、苦しそうに呻いていても、玲二と従汰はただ剛を見下ろすばかりだった。
「……お前が頭を下げたところで、何の意味もない。何度生まれ変わったとしても、俺達はお前を絶対に許さない。お前が本当に俺達を思っているのなら、もう二度と目の前に現れるな。付き纏うな。俺達の人生に関わろうとするな。一人で生き、一人で死んでくれ」
 玲二はそう吐き捨てると、従汰を連れ立って去っていった。
 剛は顔の痛みで倒れ、そのまま意識を失った。

 目を覚ますと、剛は病院のベッドに横たわっていた。外は日の光で明るく、壁にかかった時計の針は七時を指し示していた。
「あ、起きた」
 そばで剛の傷の手当てをしていた看護師が、剛が目を覚めたのに気づき、顔を覗き込む。
 病室には看護師の他にも、剛と同じ制服を着た数人の男女が剛を取り囲むように座り、心配そうに様子を窺っていた。
「先生を呼んでくるわね。ちゃんと安静にしてるのよ」
 看護師が病室を出て行った後、取り囲んでいた一人が「大丈夫?」と剛に尋ねた。
「君、血だらけで倒れてたんだよ。僕達がたまたま通りかからなかったから、取り返しのつかないことになってたかもしれないってお医者さんが言ってた」
「そんな酷い怪我だったのか」
 酷く痛むとは思っていたが、そこまでだったとは思わず剛は驚いた。しかし前世で剛がしでかした所行を思えば、当然の報いだと納得した。
 一人が喋りかけたのを皮切りに、他の男女もせきを切ったように喋り出した。
「酷いなんてもんじゃねぇ! 顔が潰れてたんだぞ?!」
「私、びっくりして気絶しちゃった」
「一体誰にやられたんです? あのあたりは治安がいいはずですが」
「きっとチュパカブラの仕業だよ! もしくは、動物園から逃げ出したカンガルーとか!」
「だから、チュパカブラはいないって」
 男女は剛そっちのけで話し、病室は一気に騒々しくなる。
 案の定、医者を連れて戻ってきた看護師に「静かにしなさい!」と叱られた。
「貴方達、学校は? そろそろ登校時刻でしょ? 早く学校に行きなさい」
「ちぇー」
「サボっちゃダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ。学校に言いつけるわよ」
「ケチー」
 男女は文句を言いながらも席を立ち、病室の出口へ歩いていった。
「じゃあ、また来るから」
「今度はお土産たくさん持ってくるぜ!」
「ご飯いっぱい食べてねー」
「君の先生には僕達から事情を説明しておきますから、ご安心を」
「放課後にチュパカブラの話、聞かせてあげる!」
「傷に障るからやめとけ」
 帰り際、始めに声をかけてきた男子が「そういえば」と思い出したように剛に尋ねた。
「君、名前は?」
 他のメンバーも興味深そうに剛に視線を向け、静まり返る。
 剛は今までそんなふうに、大勢から視線を向けられたことがない。気恥ずかしそうに「あ、えっと」と言葉を詰まらせながらも、答えた。
「剛……悟藤ごとう剛だ」
 一同は剛の名前を聞いて少し驚いた表情を浮かべつつ、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「剛か……強そうな名前だね。僕は一ノ瀬いちのせはじめ。荒っぽいのが次郎丸じろうまるじん、君の血を見て気絶した子が三船みふねミミ、真面目そうな彼は四ツ谷よつや史郎しろう、チュパカブラが好きな子が六鹿むじかむつみ、彼女のブレーキ役を担っているのが七塚ななづかおさむだよ。君と同じ中学の生徒なんだ」
「よろしくな、剛!」
「よろしくね、剛君」
「困ったことがあれば、いつでも頼って下さいね」
「名字に"五"が入ってるなんて、すっごい偶然! これで一から七まで揃ったね!」
「たまたまだろ……と言いたいところだが、確かにすごい偶然だな。次は八とか九とか増えるんじゃないか?」
「おっ! 修君と意見が合うなんて、めっずらしー!」
 驚かれた理由を知り、剛も目をパチクリさせる。
 その間に六人は「じゃあまたね」と手を振り、病室を出ていった。しばらく彼らの話し声が聞こえていたが、やがて完全に聞こえなくなった。会ったばかりだというのに、彼らがいなくなると無性に心細くなった。
「体調はどうかな?」
「少し喋りにくいですけど、大丈夫です。ありがとうございました」
 ふと、剛はあの六人に礼を言うのを忘れていたことを思い出した。彼らのやり取りを聞いているのが楽しくて、つい忘れていた。
(次に会った時に、絶対お礼を言おう。それから……)
 剛は玲二と従汰のことが脳裏をよぎった。
 二人と仲直りしたい気持ちがなくなったわけではない。出来ることなら、親友になりたかった。今日出会った六人にしても、前世での剛を知れば、軽蔑されるに決まっている。
 それでも、剛は彼らともっと親しくなりたかった。
(……それから、言うんだ。"俺と友達になって欲しい"って)

 END1「幼馴染だって他人」
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