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第一話「みんなには話さないで」

第一話「みんなには話さないで」⑵

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 大友くんが井上くんのカバンから資料集を奪おうとした、そのとき。

「お困りのようだね」

「ニャア」

 教室の外から声がした。
 ボクも、井上くんも、大友くんも、井上くんの班の人たちも、いっせいに教室の入口を振り返る。
 細い目が特徴的な、お団子頭の女子だった。ニンマリと笑い、教室のドアにもたれて立っている。
 足元には、彼女そっくりの顔をした太っちょの三毛猫がいて、同じようにニンマリと笑い、ドアに背中をあずけて立っていた。

(ネコって二本足で立てるんだっけ?)

 頭の中が「?」でいっぱいになる。
 考えたらキリがなさそうだ。一旦、「?」を頭の外へ追い出した。

 というか、あの女子……見覚えがあるぞ?

「君は……しらなんとかさん? 今日うちのクラスに来た、転入生の」

 ボクの質問に、彼女はうなずいた。

白日しらひ野下のもと真実子まみこだ。顔だけでも覚えてもらえて、光栄だよ」

「ごめん。名前を覚えるのは得意なほうなんだけど……」

「長い名だからね、覚えにくいのは無理もない。マミーでもミコでもマーでも、好きに呼んでくれてかまわないよ」

 白日野下さんは、今日うちのクラスに入ったばかりの転入生だ。
 親の仕事の都合で、いろんな国の小学校を転々としているらしい。物知りな上に、何ヶ国語も話せるので、あっという間にクラスの人気者になってしまった。
 とっくにクラスの誰かと帰ったと思っていたけど……いったいボクたちに何の用だろう?

「ちなみに、このネコはポチャムズ。私を迎えに来たんだ」

 ポチャムズはヨッと、クリームパンのようにムチッとした手を挙げる。あいさつのつもりだろうか?
 他のみんなはあっけに取られて、言葉も出ない。あんなに怒っていた大友くんも、ポカンと口を開けていた。
 そりゃそうだ。知らない女子とおかしなネコが、突然目の前に現れたんだから。

「それで、何の用? 先生なら職員室にいるけど」

「おや、用があるのは君たちのほうじゃないのかい? 彼の資料集を探しているんだろう?」

 白日野下さんが大友くんを指差す。みんなはハッと正気に戻った。

「どうしてそのことを?!」

「彼の怒鳴り声が廊下まで聞こえていたからね。私なら、彼の資料集がどこにあるのか教えてやれるけど?」

「なんだって?!」

 ボクたちは息をのんだ。
 資料集の場所を知っている?
 あんなに探しても見つからなかったのに?
 しかも、今日転入してきたばかりで、探留小学校のことを何も知らない彼女が?

「どこだ?! どこにあるんだ?!」

 大友くんが白日野下さんに詰め寄る。
 白日野下さんは平然と答えた。

だ」

「部屋ぁ?」

 大友くんは顔をしかめた。

「そうだ。君は最初から資料集を学校に持ってきていない。家に忘れたんだ。そしてそのことに気づかないまま、井上くんの資料集を自分のものだと思い込み、持ち去った。だから、井上くんの資料集が大友くんの引き出しから見つかったのさ」

「俺はちゃんと持ってきたぞ!」

「それを証明できる人はいるかい? 具体的には、一時間目が始まる前までに大友くんの資料集をその目で見た人は?」

 白日野下さんは井上くんたちを見回す。
 みんなは互いに顔を見合わせたあと、首を振った。

「……見てない。今日は授業で資料集を使わなかったし」

「なんだと?!」

「ほらね?」

 教科書やノートは授業で必ず使うので、忘れたら目立つ。先生にも注意される。
 だけど、資料集は授業で使わないときもあるから、先生も教科書やノートを忘れてきたときほど怒らない。授業で使わない日にいたっては、注意すらしない。白日野下さんの言ったとおり、本当に大友くんが資料集を持っていなかった可能性は十分にある。

「そんなに疑うなら、君の部屋を探してごらんよ。すみずみまで、ね」

「……出てこなかったら、先生にチクってやるからな!」

 大友くんはボクたちと白日野下さんを強引に家へ連れて行った。

 ◯

 白日野下さんの言ったとおり、大友くんの資料集は彼の部屋で見つかった。
 大友くんの部屋はずいぶん散らかっていて、探すのに苦労した。こんな部屋じゃ、忘れ物があっても気づけない。
 大友くんは迷惑をかけた罰として、毎日自分の部屋の掃除をすることになった。疑った井上くんにも謝り、井上くんも大友くんを許した。

 これで一件落着……と安心した瞬間、ボクは気づいてしまった。
 。大友くんには、井上くんの資料集を

「ねぇ、みんな……」

 ボクはこの疑問をみんなに伝えようとした。
 だけどその前に、ボクの近くにいた班の一人……篠崎さんがボクのトレーナーのそでを引っぱった。

「お願い。みんなには話さないで」
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