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クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』
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一ヶ月前の夕方。優一が見知らぬ女を家に連れ帰って来た。
若作りしてはいるが、四十を超えていそうな風貌だった。美人ではあるが、ところどころでシワが目立っていた。
「お父さん……その人、誰? 会社の人?」
夢花が警戒を露わにする中、優一は嬉しそうに女を紹介した。
「紹介するよ。今日から夢花の新しいお母さんになる、シキミさんだ。と言っても、夢花はよく知ってるよね? シキミさんをうちへ連れて来たのは、夢花なんだから」
「……何言ってるの、お父さん。その人、シキミさんじゃないよ。本当は誰なの?」
「だからシキミさんだってば。そんなに信じられないのかー?」
優一は女がシキミだと全く疑ってはいなかった。明らかに何らかの力で洗脳されていた。
そんなことをして得するのは、目の前にいる知らない女しかいない。
「おばさん、お父さんに何をしたの? そこまでしてシキミさんになって、楽しい?」
夢花は女を睨み、問い詰めた。
女は蛇を思わせる鋭い目つきで夢花を見下ろし、答えた。
「楽しいに決まってるじゃない。こんなイケメン、逃すものですか。あと、本物のシキミさんは始末しておいたから、心配しなくていいわ。思う存分、私に甘えて頂戴」
「シキミさんに何をしたのッ?!」
「ふふ、内緒。それより……」
女は夢花に近づき、囁いた。
「貴方は私の娘でしょう? ちゃんと、シキミお母さんと呼びなさい」
その瞬間、夢花の視界がグニャリと歪んだ。
やがて元に戻る頃には、女の姿はシキミに置き換えられ、優一とシキミは今年の夏に結婚したと思い込んでいた。
「さぁ、夢花ちゃん。一緒に夕飯を作りましょうね」
「うん!」
夢花は女にとって都合の悪い記憶を全て忘れ、嬉々として台所へ向かった。
「そうだ……お前は能力で私とお父さんを洗脳していた。シキミさんに成り代わって、奥さんになるために」
全ての記憶を取り戻し、夢花の瞳に殺意が宿る。思い出すだけで虫唾の走る光景だった。
もう少し早く日が沈んでいれば対処出来たかもしれないという後悔が、夢花をさらに苦しませた。
「そうよ! だから、貴方は私の娘なの! 私の娘なんだから、私の娘らしくしなさい!」
一方、シキミの偽物は躍起になり、夢花に「私の娘」と連呼していた。
これまでのことと言い、女も夢花と同じ悪夢使いなのだろう。過去にも同じことを言って夢花に洗脳を施していた点から、夢花は彼女の力が発動する条件に気づいてしまった。
「なるほど。貴方の力は、相手に与えたい役割を言うことで発動するのね。しかも一度受けたら、よほどのことがないと解除されない……私はもう貴方を母親だとは思えないから効かないけど、警察の人達が来たら大変なことになりそう。もしかしたら、逃げられちゃうかも」
夢花は言葉とは裏腹に、不気味に薄ら笑いを浮かべ、告げた。
「でも、絶対に逃がさないから。貴方にだけ力が与えられていたなんて、思わないでね?」
そして、今まで彼女に対して溜め込んでいた殺意を一気にぶつけた。
若作りしてはいるが、四十を超えていそうな風貌だった。美人ではあるが、ところどころでシワが目立っていた。
「お父さん……その人、誰? 会社の人?」
夢花が警戒を露わにする中、優一は嬉しそうに女を紹介した。
「紹介するよ。今日から夢花の新しいお母さんになる、シキミさんだ。と言っても、夢花はよく知ってるよね? シキミさんをうちへ連れて来たのは、夢花なんだから」
「……何言ってるの、お父さん。その人、シキミさんじゃないよ。本当は誰なの?」
「だからシキミさんだってば。そんなに信じられないのかー?」
優一は女がシキミだと全く疑ってはいなかった。明らかに何らかの力で洗脳されていた。
そんなことをして得するのは、目の前にいる知らない女しかいない。
「おばさん、お父さんに何をしたの? そこまでしてシキミさんになって、楽しい?」
夢花は女を睨み、問い詰めた。
女は蛇を思わせる鋭い目つきで夢花を見下ろし、答えた。
「楽しいに決まってるじゃない。こんなイケメン、逃すものですか。あと、本物のシキミさんは始末しておいたから、心配しなくていいわ。思う存分、私に甘えて頂戴」
「シキミさんに何をしたのッ?!」
「ふふ、内緒。それより……」
女は夢花に近づき、囁いた。
「貴方は私の娘でしょう? ちゃんと、シキミお母さんと呼びなさい」
その瞬間、夢花の視界がグニャリと歪んだ。
やがて元に戻る頃には、女の姿はシキミに置き換えられ、優一とシキミは今年の夏に結婚したと思い込んでいた。
「さぁ、夢花ちゃん。一緒に夕飯を作りましょうね」
「うん!」
夢花は女にとって都合の悪い記憶を全て忘れ、嬉々として台所へ向かった。
「そうだ……お前は能力で私とお父さんを洗脳していた。シキミさんに成り代わって、奥さんになるために」
全ての記憶を取り戻し、夢花の瞳に殺意が宿る。思い出すだけで虫唾の走る光景だった。
もう少し早く日が沈んでいれば対処出来たかもしれないという後悔が、夢花をさらに苦しませた。
「そうよ! だから、貴方は私の娘なの! 私の娘なんだから、私の娘らしくしなさい!」
一方、シキミの偽物は躍起になり、夢花に「私の娘」と連呼していた。
これまでのことと言い、女も夢花と同じ悪夢使いなのだろう。過去にも同じことを言って夢花に洗脳を施していた点から、夢花は彼女の力が発動する条件に気づいてしまった。
「なるほど。貴方の力は、相手に与えたい役割を言うことで発動するのね。しかも一度受けたら、よほどのことがないと解除されない……私はもう貴方を母親だとは思えないから効かないけど、警察の人達が来たら大変なことになりそう。もしかしたら、逃げられちゃうかも」
夢花は言葉とは裏腹に、不気味に薄ら笑いを浮かべ、告げた。
「でも、絶対に逃がさないから。貴方にだけ力が与えられていたなんて、思わないでね?」
そして、今まで彼女に対して溜め込んでいた殺意を一気にぶつけた。
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