悪夢症候群

クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』

５

　家に戻ると、美味しそうな匂いが家中に立ち込めていた。夢花がいない間に、夕食が出来上がっていたらしい。
　食卓では優一とシキミが二人で楽しそうに配膳していた。
「あら夢花、おかえり。ちょうどご飯が出来たところよ。席に座って頂戴」
「……その前に、お母さんに聞きたいことがあるの」
　夢花は感情を抑え、両親に一度も見せたことのない無表情で尋ねた。
「貴方は誰？　何故シキミさんのフリをしているの？」
「っ！」
「なんてことを言うんだ、夢花！　お母さんに謝りなさい！」
　シキミは夢花の言葉にショックを受けた様子で青ざめる。
　優一も驚きつつも、夢花を叱った。
　しかし夢花は見逃さなかった……シキミの目が一瞬、泳いだのを。判断するには、それだけで十分だった。
「さっき、シキミさんが住んでいた家に行って来たの。そうしたら、居間で首を吊っているシキミさんを見つけたわ。今、警察に調べてもらってる。いずれ、貴方が犯人だという証拠が出るはずよ。貴方のことは警察にも話してあるから、もうすぐここへ来るでしょうね」
「……」
　あまりに急な状況に優一はついて行けず、絶句する。夢花がそのような冗談を言う子供ではないことは、優一が一番よく知っていた。
　シキミも言葉を失っていたが、その表情は優一とは違い、憤怒の形相だった。今まで見たこともない顔で夢花を睨みつけたかと思うと、夢花につかみかかり、声を荒げた。
「何を言ってるの？！　私は夜宵シキミ！　貴方のお母さんよ！　そして、貴方は私の娘！　分かる？　むーッ！　すーッ！　めッ！　何で力が通じないのよ！」
「だって、私が好きだったシキミさんは、貴方のような人じゃないから。貴方はシキミさんでもなければ、私の新しいお母さんでもない……赤の他人よ」
　夢花がシキミを否定した瞬間、頭の中にかかっていたモヤが一気に晴れた。
　と同時に、シキミのフリをしていた女の姿が一瞬でパッと変わり、全く知らない謎の女へと変貌した。
　その顔を見た瞬間、夢花は本当の記憶を思い出した。