悪夢症候群

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
109 / 227
クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』

しおりを挟む
「お父さん、お母さん、早く早く!」
 夢花はお菓子をいっぱい詰め込んだリュックを揺らし、優一とシキミを急かした。
「おいおい、そんなに急ぐと転けるぞ」
「うふふ、よほど遊園地が楽しみだったのね」
 子供のようにはしゃぐ夢花を、優一とシキミは微笑ましそうに見ていた。
 今日は夢花の中学校卒業祝いに、三人で遊園地へ行く日。夢花はこの日が来るのを、ずっと待ち焦がれていた。
「だって今日は、シキミお母さんが家族になってから初めてのお出かけなんだよ? せっかくの記念日なんだから、思いっきり楽しまないとね!」
 夢花が中学三年生の夏、シキミは優一と結婚し、晴れて夜宵家の一員となった。夢花の見込んだ通り、シキミは理想的な母親で、結婚した後も今までと変わらず優しかった。
 優一が再婚したことで、他の女性達が彼に色目を使うこともほとんど無くなり、驚くほど穏やかで幸せな日々が続いていた。

 夢花はエントランスに着いたところで、ハンカチを持ってくるのを忘れていたことに気がついた。
「鍵持ってるし、一人で取って来るね」
「分かった。ここで待ってるよ」
 両親をエントランスで待たせ、エレベーターに乗り込む。
 やがて四階に着くと、廊下を駆け抜けた。自宅のドアの前で鞄の中をまさぐり、鍵を探す。
「鍵……鍵……」
「夢花ちゃん」
 その時、404号室の前に立っていた歩夢に声をかけられた。
「あっ! 歩夢お兄さん、おはよう! お兄さんもこれからお出かけ?」
 夢花は鍵を探す手を止めずに顔を上げ、歩夢に挨拶した。ゴミを捨てに行くわけではないようで、手ぶらだった。
 歩夢は暫し黙って、夢花をジッと観察すると、「ねぇ」と訝しげに尋ねた。
「さっき、君と君のお義父さんが一緒にいた女は誰だい?」
「誰って、シキミさんだよ? お兄さんも何度か会ったことあるでしょ?」
「あの人はシキミさんじゃない」
 瞬間、鍵を探していた夢花の手が止まる。今回ばかりは歩夢の神経を疑った。
「……それ、本気で言ってる?」
「もちろん。少なくとも、僕にはあの人が
「はぁッ?! シキミさんが別人な訳ないでしょ?!」
 夢花はシキミを馬鹿にされたように感じ、歩夢に食ってかかろうとした。
 直後、夢花の頭の中で大量の記憶がフラッシュバックした。ほとんどは優一とシキミとの記憶だったが、一部の記憶だけ、シキミの顔にモヤが掛かっているように見えた。
「ッ……!」
 夢花は頭を抱え、フラつく。
 暫くドアにもたれかかっていると、歩夢が目の前からいなくなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

実話の体験談につきオチなど無いのでご了承下さい

七地潮
ホラー
心霊体験…と言うか、よくある話ですけど、実際に体験した怖かった話しと、不思議な体験を幾つかアップします。 霊感なんて無いんだから、気のせいや見間違いだと思うんですけどね。 突き当たりの教室なのに、授業中行き止まりに向かって人影が何度も通るとか、誰もいないのに耳元で名前を呼ばれたとか、視界の端に人影が映り、あれ?誰か居るのかな?としっかり見ると、誰も居なかったとか。 よく聞く話だし、よくある事ですよね? まあ、そんなよく聞く話でしょうけど、暇つぶしにでもなればと。 最後の一話は、ホラーでは無いけど、私にとっては恐怖体験なので、番外編みたいな感じで、ついでに載せてみました。 全8話、毎日2時半にアップしていきます。 よろしければご覧ください。 2話目でホラーHOTランキング9位になってました。 読んでいただきありがとうございます。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

感染

saijya
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

禁忌

habatake
ホラー
神社で掃除をしていた神主が、学校帰りの少年に不思議な出来事を語る

10秒でゾクッとするホラーショート・ショート

奏音 美都
ホラー
10秒でサクッと読めるホラーのショート・ショートです。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

処理中です...