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クローズドアパート 第五話『閉鎖悪夢〈人形館〉』
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「お父さん、お母さん、早く早く!」
夢花はお菓子をいっぱい詰め込んだリュックを揺らし、優一とシキミを急かした。
「おいおい、そんなに急ぐと転けるぞ」
「うふふ、よほど遊園地が楽しみだったのね」
子供のようにはしゃぐ夢花を、優一とシキミは微笑ましそうに見ていた。
今日は夢花の中学校卒業祝いに、三人で遊園地へ行く日。夢花はこの日が来るのを、ずっと待ち焦がれていた。
「だって今日は、シキミお母さんが家族になってから初めてのお出かけなんだよ? せっかくの記念日なんだから、思いっきり楽しまないとね!」
夢花が中学三年生の夏、シキミは優一と結婚し、晴れて夜宵家の一員となった。夢花の見込んだ通り、シキミは理想的な母親で、結婚した後も今までと変わらず優しかった。
優一が再婚したことで、他の女性達が彼に色目を使うこともほとんど無くなり、驚くほど穏やかで幸せな日々が続いていた。
夢花はエントランスに着いたところで、ハンカチを持ってくるのを忘れていたことに気がついた。
「鍵持ってるし、一人で取って来るね」
「分かった。ここで待ってるよ」
両親をエントランスで待たせ、エレベーターに乗り込む。
やがて四階に着くと、廊下を駆け抜けた。自宅のドアの前で鞄の中をまさぐり、鍵を探す。
「鍵……鍵……」
「夢花ちゃん」
その時、404号室の前に立っていた歩夢に声をかけられた。
「あっ! 歩夢お兄さん、おはよう! お兄さんもこれからお出かけ?」
夢花は鍵を探す手を止めずに顔を上げ、歩夢に挨拶した。ゴミを捨てに行くわけではないようで、手ぶらだった。
歩夢は暫し黙って、夢花をジッと観察すると、「ねぇ」と訝しげに尋ねた。
「さっき、君と君のお義父さんが一緒にいた女は誰だい?」
「誰って、シキミさんだよ? お兄さんも何度か会ったことあるでしょ?」
「あの人はシキミさんじゃない」
瞬間、鍵を探していた夢花の手が止まる。今回ばかりは歩夢の神経を疑った。
「……それ、本気で言ってる?」
「もちろん。少なくとも、僕にはあの人が知らない女に見える」
「はぁッ?! シキミさんが別人な訳ないでしょ?!」
夢花はシキミを馬鹿にされたように感じ、歩夢に食ってかかろうとした。
直後、夢花の頭の中で大量の記憶がフラッシュバックした。ほとんどは優一とシキミとの記憶だったが、一部の記憶だけ、シキミの顔にモヤが掛かっているように見えた。
「ッ……!」
夢花は頭を抱え、フラつく。
暫くドアにもたれかかっていると、歩夢が目の前からいなくなっていた。
夢花はお菓子をいっぱい詰め込んだリュックを揺らし、優一とシキミを急かした。
「おいおい、そんなに急ぐと転けるぞ」
「うふふ、よほど遊園地が楽しみだったのね」
子供のようにはしゃぐ夢花を、優一とシキミは微笑ましそうに見ていた。
今日は夢花の中学校卒業祝いに、三人で遊園地へ行く日。夢花はこの日が来るのを、ずっと待ち焦がれていた。
「だって今日は、シキミお母さんが家族になってから初めてのお出かけなんだよ? せっかくの記念日なんだから、思いっきり楽しまないとね!」
夢花が中学三年生の夏、シキミは優一と結婚し、晴れて夜宵家の一員となった。夢花の見込んだ通り、シキミは理想的な母親で、結婚した後も今までと変わらず優しかった。
優一が再婚したことで、他の女性達が彼に色目を使うこともほとんど無くなり、驚くほど穏やかで幸せな日々が続いていた。
夢花はエントランスに着いたところで、ハンカチを持ってくるのを忘れていたことに気がついた。
「鍵持ってるし、一人で取って来るね」
「分かった。ここで待ってるよ」
両親をエントランスで待たせ、エレベーターに乗り込む。
やがて四階に着くと、廊下を駆け抜けた。自宅のドアの前で鞄の中をまさぐり、鍵を探す。
「鍵……鍵……」
「夢花ちゃん」
その時、404号室の前に立っていた歩夢に声をかけられた。
「あっ! 歩夢お兄さん、おはよう! お兄さんもこれからお出かけ?」
夢花は鍵を探す手を止めずに顔を上げ、歩夢に挨拶した。ゴミを捨てに行くわけではないようで、手ぶらだった。
歩夢は暫し黙って、夢花をジッと観察すると、「ねぇ」と訝しげに尋ねた。
「さっき、君と君のお義父さんが一緒にいた女は誰だい?」
「誰って、シキミさんだよ? お兄さんも何度か会ったことあるでしょ?」
「あの人はシキミさんじゃない」
瞬間、鍵を探していた夢花の手が止まる。今回ばかりは歩夢の神経を疑った。
「……それ、本気で言ってる?」
「もちろん。少なくとも、僕にはあの人が知らない女に見える」
「はぁッ?! シキミさんが別人な訳ないでしょ?!」
夢花はシキミを馬鹿にされたように感じ、歩夢に食ってかかろうとした。
直後、夢花の頭の中で大量の記憶がフラッシュバックした。ほとんどは優一とシキミとの記憶だったが、一部の記憶だけ、シキミの顔にモヤが掛かっているように見えた。
「ッ……!」
夢花は頭を抱え、フラつく。
暫くドアにもたれかかっていると、歩夢が目の前からいなくなっていた。
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