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クローズドアパート 第四話『Ideal family』
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(仕切り直しだわ。他に策を考えないと……)
追上は靴を履き、玄関のドアを開く。外はすっかり日が落ちていた。
すると家の前に、冷めた目で追上を見上げる夢花が立っていた。音楽か何か聞いているのか、耳にはイヤホンをつけていた。
「あ」
追上は思わず立ち止まる。
直後、追上の頭に大量の針が降り注いだ。
「痛っ!」
追上は頭を抱え、倒れる。針は脳にまで到達しており、頭が割れるように痛かった。
「痛い、痛い、痛い!」
夢花は苦しむ追上を見下ろし、耳からイヤホンを外した。
「先生、気づいてました? うちの家、そこらじゅうに盗聴器とか隠しカメラとか仕込んであるんですよ。お父さんとシキミさんが仲良く過ごしているか、見張るために」
「ぜ、全部聞いていたのね……なら、話は早いわ。私と協力しなさい。でなければ、推薦の件を取り消すわよ」
追上は痛みに耐えつつ、夢花を脅す。自分の頭に大量の針が刺さっていることも、その針が夢花の悪夢によるものだということにも気づいていなかった。
「いいえ、先生は私の推薦を取り消せやしないわ。それどころか、何をしてでも私を志望校に入学させようとするでしょうね。だって、今日からお前は私の操り人形になるんだから」
夢花が指を動かし、追上の頭に刺さっている針を操る。
針はひとりでに動き、追上の脳を弄った。
「あ゛ッ」
一際強い痛みに、追上は意識を失った。
それ以降、追上が追上として目覚めることはなかった。
「ギャハハ!」「おい、待てよー」
佐藤と田中が放課後の廊下を全力疾走していると、正面から追上が歩いてきた。
二人は先日、生徒指導室で追上に説教されたことを思い出し、慌てて立ち止まった。
「やべぇよ、おにがみだ!」
「どうする? 逃げる?」
二人が迷っている間に、追上はどんどん近づいてくる。
やがて追上は二人を素通りし、去っていった。
「……え?」「あれ?」
二人は呆気に取られた様子で、追上を振り返る。追上は後から気づいて引き返してくるでもなく、そのまま廊下を歩いていった。
「おにがみの奴、どうしたんだ? 絶対、生徒指導室行きだと思ってたのに」
「そういや、鈴木が言ってたぜ。最近、おにがみが静かすぎて気味悪いって。いつも薄ら笑い浮かべてて、不気味だって」
「確かに。あの顔は、別の意味で怖いな。整形でもして、糸で口角をつり上げてんじゃねぇか?」
二人は追上を心配しながらも「ラッキー」とばかり、駆けっこを再開した。
追上の口角は、常人には見えない糸でつり上げられていた。
口だけではない。目も笑っているように糸で細められ、手足は糸によって動かされている。
それらの糸は全て、追上の頭に刺さっている針達が操っていた。
「夢花サン、校長先生ガ、推薦ヲ受理シテ、クレマシタ、ヨ」
追上が教室へ戻ってくると、夢花は花が咲いたようにニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、追上先生。先生は私の理想的な先生ね」
かと思うと、夢花はニヤリと冷笑し、言った。
「……ほらね。先生は私の推薦を取り消すなんて無理なんだよ」
クローズドアパート第四話「Ideal family」終わり
追上は靴を履き、玄関のドアを開く。外はすっかり日が落ちていた。
すると家の前に、冷めた目で追上を見上げる夢花が立っていた。音楽か何か聞いているのか、耳にはイヤホンをつけていた。
「あ」
追上は思わず立ち止まる。
直後、追上の頭に大量の針が降り注いだ。
「痛っ!」
追上は頭を抱え、倒れる。針は脳にまで到達しており、頭が割れるように痛かった。
「痛い、痛い、痛い!」
夢花は苦しむ追上を見下ろし、耳からイヤホンを外した。
「先生、気づいてました? うちの家、そこらじゅうに盗聴器とか隠しカメラとか仕込んであるんですよ。お父さんとシキミさんが仲良く過ごしているか、見張るために」
「ぜ、全部聞いていたのね……なら、話は早いわ。私と協力しなさい。でなければ、推薦の件を取り消すわよ」
追上は痛みに耐えつつ、夢花を脅す。自分の頭に大量の針が刺さっていることも、その針が夢花の悪夢によるものだということにも気づいていなかった。
「いいえ、先生は私の推薦を取り消せやしないわ。それどころか、何をしてでも私を志望校に入学させようとするでしょうね。だって、今日からお前は私の操り人形になるんだから」
夢花が指を動かし、追上の頭に刺さっている針を操る。
針はひとりでに動き、追上の脳を弄った。
「あ゛ッ」
一際強い痛みに、追上は意識を失った。
それ以降、追上が追上として目覚めることはなかった。
「ギャハハ!」「おい、待てよー」
佐藤と田中が放課後の廊下を全力疾走していると、正面から追上が歩いてきた。
二人は先日、生徒指導室で追上に説教されたことを思い出し、慌てて立ち止まった。
「やべぇよ、おにがみだ!」
「どうする? 逃げる?」
二人が迷っている間に、追上はどんどん近づいてくる。
やがて追上は二人を素通りし、去っていった。
「……え?」「あれ?」
二人は呆気に取られた様子で、追上を振り返る。追上は後から気づいて引き返してくるでもなく、そのまま廊下を歩いていった。
「おにがみの奴、どうしたんだ? 絶対、生徒指導室行きだと思ってたのに」
「そういや、鈴木が言ってたぜ。最近、おにがみが静かすぎて気味悪いって。いつも薄ら笑い浮かべてて、不気味だって」
「確かに。あの顔は、別の意味で怖いな。整形でもして、糸で口角をつり上げてんじゃねぇか?」
二人は追上を心配しながらも「ラッキー」とばかり、駆けっこを再開した。
追上の口角は、常人には見えない糸でつり上げられていた。
口だけではない。目も笑っているように糸で細められ、手足は糸によって動かされている。
それらの糸は全て、追上の頭に刺さっている針達が操っていた。
「夢花サン、校長先生ガ、推薦ヲ受理シテ、クレマシタ、ヨ」
追上が教室へ戻ってくると、夢花は花が咲いたようにニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、追上先生。先生は私の理想的な先生ね」
かと思うと、夢花はニヤリと冷笑し、言った。
「……ほらね。先生は私の推薦を取り消すなんて無理なんだよ」
クローズドアパート第四話「Ideal family」終わり
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